第124話 自然に厳しい人
僕達は旅人二人を近くの村に送り届けるために、
進路を変えて馬車で進んでいた。
馬車の中で五人はかなり手狭だが仕方ない。
その道中で、エミリアが声をあげた。
「いいこと思いつきました」
エミリアは何か閃いたようで、
ポンと手を叩くと全員に向かって提案した。
「皆さん、私達が護衛をして差し上げましょう」
「えっ!?」「うーん?」「ふむ……」
エミリアの提案に僕を含めた三人が驚く。
「エミリア、それってゼロタウンまで送り届けるってこと?」
流石に一週間以上掛かる道を逆走するのは……。
「いえ、違います。
お二人がお金が無いなら働いて稼げばよいのですよ。
私たちは依頼の護衛ということで」
「働くって言ってもなぁ、
俺たちは戦闘向きの職業じゃないからな」
「わ、私も……」
二人とも非戦闘職のようだ。
それに冒険者ギルドの依頼は冒険者登録の必要がある。
しかし、この辺りの村や町では登録が出来ない。
「私たちが依頼を受ける形にして彼らにも仕事をしてもらいましょう。
その後の報酬は後で私たちが彼に報酬を払えばいい」
「なるほど、確かにそれなら良いかも知れませんね」
レベッカも納得したように言う。
二人の方も特に問題は無いらしく、すぐに承諾した。
僕らの旅路に一時的に旅人二人が同行することになった。
「俺はゴードン、こっちの女はティアだ。よろしく頼むぜ!」
ゴードンさんは大柄な戦士のような風貌の男だった。
身長二メートルはある巨体で筋肉質、スキンヘッドで顔には大きな傷跡がある。
服装は革鎧を着ており、腰には長剣を差している。
「あの、ゴードンさんは非戦闘職なんですよね……?」
どうみても歴戦の戦士にしか見えないんだけど……
隣のティアさんもナイフらしい装備をしている。
僕の問い掛けにティアさんが答える。
「私は<シーフ>よ。と言ってもほとんど見習いみたいなもの」
「それでも十分凄いと思いますけど……」
<シーフ>は盗賊では無い。
ダンジョン探索に必須な技能を持っている職業だ。
僕達も使える<探索魔法>や敵を避けて進む技能や鍵開けなど、
他にも<索敵>や<能力透視>なども使えるシーフも多いようだ。
「いや、そんな事無いわよ……」
ティアさんは恥ずかしそうに頬を掻く。
僕はゴードンさんの方をチラリと見る。
「まぁ確かに俺はこんなガタイだが……
これは鍛冶仕事でこうなっちまっただけでな」
「そ、そうなんですか」
「<鍛冶師>の技能をいくつか習得してるから多少役に立つと思うぜ」
「へぇー」
「<鍛冶師>ってどんな事が出来るの?」
姉さんの質問にゴードンさんが得意気に答える。
「武器や防具の制作は当たり前だが、
他にも武具の修繕や改良とかも出来るな」
「へぇ、それってかなり便利なのでは?」
<鍛冶師>と<シーフ>はどちらも需要は十分ありそうだ。
確かにどちら前線でやり合うような職業ではないが、
希少な分欲しがる人もいるだろう。
「まあ、確かに便利だが、
本格的なものを作るなら工房を構えないとな。
俺はまだ工房を持っていない半端モノの<鍛冶師>だからよ」
「私も<シーフ>は必要に迫られて習得したものだから……」
「そ、そうなのですか……」
色々あったんだろうな……。
僕が考え事をしていると、横からエミリアが話に加わってきた。
「お二人はゼロタウンに向かうんでしたよね? どうしてですか?」
「ああ、俺の姉が居てな。
結婚したことを報告するために、会いに行こうとしてたんだ」
「まぁそういうことね。こんなことになっちゃったけど」
「そうなんですね」
二人の話からすると、二人とも故郷に帰る途中だったようだ。
話しながら、数時間後、僕達は付近の村まで馬車で着いた。
「さて、それならこの村のギルドに行きましょうか」
僕達は一時間ほど休憩を入れてから、
ゴードンさんとティアさんを連れて冒険者支部に訪れる。
大きな村ではないがギルド職員が在住しており運営しているようだ。
「すみませーん!」
「はい、何でしょうか?」
受付嬢が対応してくれる。
「この村で残っている依頼を見たいのですが……」
「はい、分かりました。少々お待ちください」
受付嬢は奥の方へ行くと、しばらくして数枚の依頼書を持って戻ってきた。
「こちらが現在出ている依頼になります」
「ありがとうございます」
僕達は六人で依頼の内容を確認する。
『急募:ゴブリン退治。
近くの街道に現れる上位種を含めたゴブリンの集団を撃退。
報酬は金貨二枚』
『薬草採取依頼。
<緑薬草>と<赤薬草>をそれぞれ十枚以上。
報酬は金貨一枚』
『調査依頼。
近くに見つかった古代の遺跡を調査してほしい。
報酬は結果次第で金貨八枚まで』
『討伐依頼。
ここ最近目撃された新種の<ドラゴン>の討伐。
報酬は金貨五十枚』
「あまり数は多くないですね……」
最後の<ドラゴン>は僕達が目撃した<雷龍>の事だろう。
「とりあえず採取依頼は受けるとして……」
ゴードンさん、ゴブリン退治とか行けそうですか?」
筋肉隆々の巨体で剣まで背負ってるのだ。
非戦闘職と言われても戦えないとは思えない。
「おう!任せろ!」
ゴードンさんはドンッと胸を叩く。
「よし、じゃあそれで行きましょうか」
僕達はゴードンさんとティアさんのパーティーを加えて、
依頼をこなすことにした。
「ゴードンさん、本当に大丈夫なんですか?」
「おう、問題ねぇよ」
僕達の心配を余所に、ゴードンさんは自信満々とばかりに答える。
「まぁ、見てな」
そう言って彼は外に出ると、近くにあった木を両手で掴み………。
「ぬうううううううううううん!!!」
そのまま地面から引き抜いた。
これには流石に唖然とした。
「えっ!?」
「す、凄い力です!」
姉さんやレベッカが驚く。え、人間なの?
しかもそのまま担いで何処かに持っていこうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください!!
そんなの持ち運べませんよ!?何処に行くんですか?」
「ん、久しぶりにこれで魔物とやり合おうかと」
「そ、そうですか……」
その背負った剣は使わないんだ。
「これは自作の剣だから宣伝用なんだよ」
剣士ですら無かった。
◆
その後、ゴブリン退治はゴードンさんが無双した。
「まさか引っこ抜いた木でゴブリン達を殴り倒すとは……」
「<ゴブリンメイジ>もまさか<炎球>を木でホームランして、
弾き飛ばされるとは思わなかったでしょうね……」
「ティア様が背後に回って
<ゴブリンアーチャー>を三体仕留めてたのをわたくしは目撃しました」
「あの人、見た目と違って強いですね……」
僕達はゴードンさんの戦いぶりを見て、呆然としていた。
というか本当に剣使わなかったぞ、ゴードンさん。
「ふぅ、終わったぞ」
結局ゴードン達の活躍で、全てのゴブリンが倒され、
討伐証明部位である耳を切り取られていた。
「いやぁ、お前らやるなぁ!」
ゴードンさんが笑顔で話しかけてくる。
「いや、僕らほぼ何もしてないですから
……というかゴートンさん達凄いですね」
「これくらい朝飯前だ。
有名な鍛冶師となれば素手でもゴブリンを倒せるぜ」
木を背負って戦うのとどっちが凄いかと言われると判断に困る。
◆
次は薬草採取だ。
<緑薬草>と中級ポーションに使う<赤薬草>を十個ずつ集めて納品する。
ここでは<シーフ>のティアさんが大活躍だった。
「この辺りは<薬草>の群生地のようですね」
彼女は<薬草>を見つけると手際よく採取していく。
「おおー、すごいティアさん!」
「いえいえ、それほどでもありませんよ」
何でシーフが薬草採取得意なんだという突っ込みは止めておこう。
ティアさんは色々闇が深そうだ。
というか、これ僕達護衛の必要なくない?
◆
その後、依頼を終えた僕達は村に戻った。
「皆さんのお陰で助かりました。ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ楽しかったですよ」
<ゴブリン退治>と<薬草採取>で得た報酬をゴードンさんに手渡した。
「しかし、良いのか?
俺たちが全部報酬受け取ってしまって……」
「いえ、今回は僕達も村で休むついでなので……」
上手い言葉が思い付かなかった。
人助けのためだと面と向かっては言い難い。
「でもよぅ、何かお礼がしたいな……」
「あ、それなら―――」
ティアさんに耳打ちされて、僕はそれを了承した。
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