第122話 結局、衣装は無理やり着せられました

 十日目――

 僕達は村を出てまた旅を再開した。

 手綱を握って馬車を走らせる。

 昨日貰った手袋のお陰で手の痛みは無かった。

 僕がプレゼントしたアクセサリは三人とも気に入ってくれたようだ。


「それじゃは次の街に向かうよ」

「「「はーい」」」


 僕達が次に向かうのは、

 ジャミルさんに教えてもらった『イース』という街だ。


 魔物が増えて冒険者になる人が増えた影響か、

 武器防具を売り出して少しずつ発展したら街らしい。

 『サクラタウン』の前に怪しい商人が立ち寄っている可能性がある。


 魔石を売却出来るお店もあるらしい。

 何だかんだで旅の資金が心もとない僕達には、

 少し遠回りしてでも向かう必要がありそうだ。


「レベッカ、地図だとどれくらいの日程が掛かりそう?」

 僕は手綱を握りながら後ろのレベッカに声を掛ける。


「そうでございますね……、

 少し南東に逸れる必要がありそうですし、

 途中の谷で休息を挟む必要を考えると三日ほどでしょうか?」

「了解、ありがとう」


「そうだ、レイくん。

 私少し馬を走らせることが出来るようになったよ!」

「え、本当?」

 

 頑張って練習してたし、努力が報われたのかな。

「それじゃあ、あと少ししたら姉さんに御者を代わってもらおうかな」

「うん、任せて!」


 ――そして数時間後。

 僕は姉さんに馬車を任せることにした。


「さぁ、いくよ!シロウサギ、クロキツネ!」


 そう言って姉さんは張り切って手綱を動かす。

 ちなみにシロウサギとクロキツネは馬の名前だ。

 すると、馬のスピードが上がり、街道をぐんぐん進んでいった。

 その様子に、僕達は驚きを隠せない。


「す、凄い……」

「わたくしが乗った時はこんなに速くなかったはずなのですが……」

「ふふん、これが愛の力だよ!」


 まだ愛の力引っ張るのか。

 姉さんの愛の力で更に加速する馬車だった。

 しかし、その後が続かなかった。



 ――一時間後

「ああ、シロウサギもクロキツネももうくたくたでございますね。

 よしよし……」

 僕達は途中通りかかった小屋で馬を休ませていた。


「姉さん……」

「ち、ちがうの!お馬さん達が言うこと訊いてくれたからつい!」


 姉さんが御者をすることで爆発的に速度が上がったのは良いのだが、

 馬の体力が上がったわけでもない。

 

 それなのに何故か二頭の馬は興奮して加速し続け、

 その後一気にスピードが落ちた。


「お馬さんをあんまり興奮させないようにね……」

「ごめんなさい……」


 そんなやり取りをしていると、

 馬小屋の近くにあった小屋から出てきたエミリアが言った。


「ここの小屋は無人でした。

 旅人が利用するために作られた休憩所だと思います」


「ならしばらくここで休息しよう」

 僕達は馬を休ませるため、小屋の扉を開いた。

 

 小屋の中は椅子やソファー、ベッドなどがあり、

 保存された回復アイテムなども完備されていた。


「調理用の台所も付いてるね。

 少し早いけど夕食を作りましょうか」


 姉さんはさっきまで落ち込んでいたのに、

 急に元気になって台所に付いた。


「わたくしはお馬さんにニンジンを与えてきますね」

 そう言ってレベッカは馬の世話に向かった。


「では私も馬達の様子を見てきます」

 そう言ってエミリアは外に出ていった。


「僕も何かやることがあったら言ってね」

 僕もそう言って小屋の中にあった地図を見た。


 この先にある谷を越えたらイースの街があるようだ。

 イースの街にはジャミルさんが言っていた魔石屋もあるらしい。

 出来ればそこで『魔石』を売ってお金を稼ぎたいところだが……。


「レイくん出来たよ~」

 僕が色々考えていると、料理が完成したようだ。


「おお、美味しそうだね」

 僕は姉さんが作ったスープを口に運ぶ。


「うん、おいしいよ」

「えへへ~そう?」

 姉さんはとても嬉しそうだった。


 外に居るレベッカとエミリアを呼んで一緒にご飯を食べることにした。

 三人で談笑しながら食事を終えると、外はすっかり暗くなっていた。


 僕は火を起こして薪を焚べると、鍋を温めてお湯を作る。

 そしてそこに蜂蜜を溶かし込み、少し粉ミルクを入れる。


「はい、温かい飲み物が出来ましたよ」

 僕はカップに注いだホットドリンクをみんなに配った。

 今日はそうして温まり、その夜は休憩所で寝泊まりすることにした。


 ◆


 ――十一日目

 早朝。目が覚めた僕は朝の準備を始める。

 昨日は疲れていたのかぐっすり眠ることが出来た。

 朝食もしっかりと食べ終え、出発準備を整える。


「さぁ行こうか」

 そして四人で馬車に乗り込む。

 途中で空に見覚えのあるシルエットが飛んでいるのを目撃した。


「あれは――」

 確か、数日前に遭遇した雷龍って魔物だ。

 結構珍しいドラゴンらしいけど……。


「あの時のドラゴンでございますね……」

 ドラゴンは僕達がこの先に向かうであろう谷の方に飛んでいった。


「随分あちこち飛び回るドラゴンですね」

 ドラゴン自体珍しいというのに、

 こうやって空を好き勝手に飛んでいる光景も中々に珍しい。


「でも、下手すると鉢合わせになるかもしれないね」

 仮に戦闘になったとして、馬車が巻き込まれる可能性がある。


 なるべく穏便に済ませたいところだけど……。

 しかし、僕達の存在に気付いた様子もなく、

 そのまま谷の方に向かっていった。


「……どうやら気づかれなかったみたいだね」

「そうでございますね」

 僕達はほっと胸を撫で下ろす。


「よし、じゃあ今度こそ出発しようか」

 僕達は再度馬車に揺られて街道を走り出した。


 ◆


 それから二時間後――


「ん?」

 谷の街道の方に近づいていくと、

 何かが複数こちらが向かってくるのが確認出来た。


「レベッカ、ちょっと」

 僕は御者をしながら馬車の中で休んでいるレベッカに声を掛ける。


「なんでしょうか、レイ様?」

「この先の谷の方に何かがこっちに来てるように見えるんだけど、見えないかな?」

 レベッカは弓手で僕達より視力が良い。遠見する場合はレベッカの出番だ。


「ふむ……暫しお待ちを」

 レベッカは馬車から顔を出し、前方を目で確認する。


「確かに複数いますね、恐らく魔物でしょう」

「どんな魔物か見える?」 


 僕が尋ねると、レベッカは少し間を置いて答える。

「―――戦ったことがある魔物や魔獣が多いようです」

 僕は一旦馬車を停車して、外に出る。


「何々?どうしたの?」「どうかしましたか?」

 僕が馬車を止めると姉さんとエミリアも外に出てきた。


「魔物の集団が谷から降りてきてるみたい」

 魔物達は谷から下って街道沿いに進んできている。

 おそらく十数分後には鉢合わせることになる。


「さっきのドラゴンが原因でしょうか」

 数時間前に雷龍が谷の方に飛んでいったことを言いたいのだろう。

 もしかしたら魔物達が雷龍に襲われて逃げてきた可能がある。

 魔物からすれば必死なのだろうが人からすれば迷惑この上ない。


「可能性はあるね」

「どうします?大した魔物ではないなら追い払えると思いますが……」

 エミリアの言う通り、戦えなくはないが……。


「レベッカ、数はどれくらい居そう?」

「少しお時間を」


 そう言ってレベッカは若干高台に位置取り、前方を遠見する。


「……数は凡そ三十程でしょうか。

 コボルトや谷やその周囲の森林に住んでいた魔獣などが複数見られます」


 思ったよりも数が多い。

 それにコボルトはゴブリンに比べて俊敏でより知恵が働く、数が居ると面倒だ。


 魔獣は魔法を使用する魔物も多いし、個々の能力も高めだ。

 ここまで多いと囲まれた場合に危険だろう、一度迂回すべきか……。


「うん、一旦別の道を――」

 僕がそう言った時、レベッカに遮られる。


「――お待ちを!どうやら他の旅人もおりますね。

 魔物から逃げるようにこちらに向かってきています」


「えっ!?」

「今はまだ逃げきれていますが、

 このままだと、魔物に追いつかれてしまうかもしれません」


「……く」

 僕は黙り込む。旅人が危ない。

 しかし、これだけの数だとこちらも無傷で済まないかもしれない。


 ……出来れば助けたいけど。


「レイ様、急がないと旅人が……!」

「……分かった!急ごう!」


 僕達は急いで馬車に乗り込むと、

 そのまま谷に向かって再び走り出した。

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