第121話 男としてどうなのか

「ここだよ」

 森の奥深くまで進むと、

 ジャミルさんが立ち止まり一つの木を指し示した。

 そこには赤い実をつけた一本の木があった。


「これが最後ですか?」

「うん、そうだよ。<魔力の実>と言って魔力を多く含んでいてね。

 食べると一定時間身体の強化の効果が得られるんだよ」

「へえ、便利ですね」

「まぁ、相応に欠点もあるんだけどね」

 そう言ってジャミルさんは苦笑いを浮かべた。


「何が欠点なんですか?」

「まず、この実の数があんまり生産出来ないことかな。

 特殊な環境がないと生まれないものだから、希少価値が高いんだよ」


「ジャミルさん、本当はこれが目的だったんじゃ……」

 僕がそれを指摘すると、ジャミルさんは目を逸らして言った。


「それともう一つなんだけど……」

「もう一つ?」

「うん、実はね、この木――」


 ジャミルさんが言い終わる前に異常が起こった。

 目の前の気が突然動き出したのだ。


「うわっ!」「うおっ!」


 動き出した木はまるで手足のように、

 根っこや枝を動かしながら地面から這い出てきた。


「もしかして、魔物…!?」

「そ、そう、見てのとおりだよ。

 <魔力の実>は希少なアイテムではあるんだけど、

 この魔物の木から生えているんだ」

「な、なるほど……」

 確かにこんな危険な魔物から生えていたら、誰も取りに来ないだろう。


「では早速採っちゃおう!」

「は、はい!」

 僕は剣を構えながら木の幹に向かって駆け出す。

 すると、魔物の木は僕の方に向かって太い根を伸ばして、

 僕の足元を払おうと振り回してきた。


「うおっ……!」

 僕は咄嗟に足を止める。

 木の魔物は鞭のように根っこを振り回してこちらを寄せ付けない。


「思ったより厄介ですね……!」

「ふふん、ここは僕の出番のようだね!」

 ジャミルさんはこちらの苦戦をまるでなんでもないかのように杖を振り上げた。


「この魔物は炎に弱い。

 僕の魔法で楽勝さ!さぁ!食らえまも――」

 ジャミルさんは魔法を放つ前に木の魔物の根っこで吹き飛ばされた。


「ぐはぁぁぁぁっ!!」

「じゃ、ジャミルさーん!?」

 そんな、魔法使いなのに無駄に前に出るから……!

 僕は慌てて倒れたジャミルさんのところに駆けつける。


「だ、大丈夫ですか?」

「ああ、なんとか……」


 良かった生きてるみたいだ。

 しかしジャミルさんの顔色は悪い。

 どうやらあの攻撃でどこか怪我をしているようだった。


「傷を治しますね。<中級回復>キュア

 僕はジャミルさんの体に手を当てて回復魔法を唱える。


 一応回復魔法を教わっておいて良かった。

 僕の魔法でジャミルさんの体の傷や打撲は少しずつ消えていく。


「おぉ、すごいね。君の回復魔法も使えたんだね」

「まぁ一応……」

 それなりに魔力が上がったおかげか効果はあるようだ。


 そして改めて魔物の方を見る。

 木の魔物だし、確かに炎魔法は効きそうだね。


 でも、あんまり前に出られても困る。

「ジャミルさん、魔法使いなんだからあんまり前には……」


 僕より前に出られると庇おうにも庇えなくなる。

 ジャミルさんには安全なところで戦っていて欲しい。


「だが魔法が有効なら僕が出ないと……」

「大丈夫です、僕も多少魔法が使えるので――」


 僕は<魔法の剣>マジックソードを取り出して、

 魔物に向けて魔法を詠唱する。

 そして数秒後、魔法の構築を終わらせて魔法を発動させる。


「貫け――<炎の槍>フレイムランス


<中級火炎魔法>と<魔法の矢>を三本重ねた複合魔法。

 炎魔法の形状を重ねた魔法の矢に纏わせて、

 それを槍のように引き伸ばして勢いよく敵に射出する魔法。


 エミリアの<氷の槍>アイスランスを真似た魔法だ。

 大量展開は出来ないから、一本に絞って威力を底上げしている。


 <炎の槍>は僕の剣から射出され木の魔物の幹に突き刺さる。

 突き刺さった<炎の槍>は大きく炎上し、木の魔物を焼き尽くす。


「<魔力の実>を採取しないといけませんね」

 僕は助走を付けて勢いよくジャンプをして、枝を剣で複数切り落とす。

 そこで落ちたいくつかの実をキャッチして、魔物から離れた。


「四つほど採取できましたが、これで足りますか?」

「……」

「……ジャミルさん?」

「あ、ああ、十分な数だよ、ありがとう」


 ふう、良かった……。

 足りないと言われたらまたあの魔物を探す羽目になったよ。


「それにしてもキミ凄いね。

 剣士かと思ったら回復魔法も使えるし、

 僕の知らない攻撃魔法まで使用できるなんて……。

 一体何者なんだい?……もしかして、勇者とかかい?」


「あはは……普通の冒険者ですよ。

 仲間が皆僕よりも魔法が得意でして、

 色々学んでいるんです」


 驚いた。

 こんなところで『勇者』なんて言葉を聞くとは。


「そうなのかい?

 その割にはかなり魔法の錬度が高く見えるけど……」


 ジャミルさんは苦笑いを浮かべていた。

 そんな風に話しながら僕らは森の出口へと向かっていた。


「ジャミルさん、本今日は色々ありがとうございました」

「いや、いいんだよ。

 こっちも世話になったし、<魔力の実>も手に入ったからね」


 僕はジャミルさんと一緒に森を出た。

 もうすっかり日が落ちていて空を見上げると綺麗な星たちが輝いていた。

 こんな景色を姉さんに見せてあげたい。


「後で露店の方に来てくれ、約束通りサービスするよ」

「はい、ありがとうございます」


 その後、

 約束通り半額にしてもらい、商品を受け取り宿に戻った。

 一人宿屋の部屋に戻りながら今日のことを振り返る。


「はぁ、疲れた……」


 でも三人のプレゼントを買うために頑張れた。

 仲間と離れて連戦なんて初めてだったけど、少し疲れた。

 部屋に着くと包みをベッドの横に置いてそのまま寝ころんだ。


 ◆


 そしてややあって―――


「……ん?」

 気が付くと1時間ほど時間が経っていた。


「あ、起きましたね」

「レイ様、お疲れのところ申し訳ありません」

「レイくん、今日は帰り遅かったねー?」

 いつの間にかベッドのすぐ横に三人立っていた。


「ど、どうしたの?」

 寝顔を見られていたと思うと恥ずかしい。

「えっとね、私達今日は相談しながらプレゼントを買ってたんだよ」


 プレゼント……って。


「……え?僕の為に?」


「はい」

「それでね、これなんだけど――」

 そう言って僕は姉さん達から紙袋を渡された。

 中にはラッピングされた箱が入っていた。


「開けてみて下さい」

 言われるままに包装を解いて中身を取り出す。


 するとそこには手袋が入っていた。


「これは……手袋?」

「うん、剣使ってると手を怪我してたりしてたでしょ?」


 剣を使ってると、

 手の平の皮が剥けていたり小さく傷が出来ていたりする。

 特に習い始めの頃は持ち方が下手で力込め過ぎて鬱血してたり、

 皮がめくれて血が出てたりしてたっけ。


「それで、わたくし共で何か出来ないか考えまして」


「昨日の夜に三人で話し合って、

 購入した手袋を私たちなりにアレンジしてみました」


「持っていた魔石を職人さんに磨いてもらって、

 魔法効果の強い物を取り付けたりとか――」


「あと肌触りをよくするために、

 手袋の中に柔らかい布を編み込んだりとかね」


「それ以外にも、わたくし達全員の魔力を込めて、

 レイ様に少しでも長く使っていただけるように工夫しました」


「――ありがとう」

「いえ、喜んで頂けたなら良かったです」


 本当に嬉しい。

 両親にプレゼントは貰ったことはあるけど、

 こうして他の誰かに貰うというのは初めてだ。


「あ、ありがとう、本当に……!」


「こらこら、喜んで貰うつもりでプレゼントしたんだから、

 泣いちゃダメだよ、レイくん」


「レイは涙もろいですねぇ」


「ふふふ、とても可愛らしいです……」


 三人とも僕の頭を撫でてくれた。

 そして僕は泣きながらそのプレゼントを受け取った。


 本当に、本当に嬉しかった。


「そ、そうだ、僕もあるんだ」

 僕は用意したプレゼントの紙袋を手に取り、三人に渡した。


「姉さんはブローチ、

 エミリアは穴あきグローブ、

 レベッカは可愛い靴なんだけど……」


 正規の値段はどれも金貨十枚以上するアクセサリらしい。


「これを私たちにですか?」

「わぁ……」

「オシャレな靴です……」

 

 ただ、皆と違ってただ買っただけのものだ。

 みんながくれたプレゼントと釣り合うとは思えない。

 それでも、僕にはそれ位しか……。


「僕は手作りとか出来なくて、

 買っただけのものなんだけど……」


 それでも受け取ってくれるだろうか?

 三人の様子を伺ってみる。


「ううん、凄く嬉しいわ」

「レイからの贈り物です、大切にします」

「一生の宝物にします」


 ……良かった。喜んでくれたみたいだ。

 三人とも、すぐにその場でアクセサリを付けて僕に見せてくれた。

 ――うん、似合ってる。


 僕も貰った手袋を付けてみた。

 ……温かい、それに不思議と気持ちが安らぐ。

 魔法効果とかそういうのもあるんだろうけど、

 三人の手作りというのが僕にとって一番大きい。


「――うん、僕も一生の宝物にするよ」

 その言葉に、三人はとても喜んでくれた。


「じゃあレイくん、これからもよろしくね?」

「はい、こちらこそ」

「ええ、レイにはいつも助けられてますからね」

「お返し出来るように頑張ります」


 僕達はお互いに手を出して握手をした。


 ――余談。


「実はもう一つプレゼントがあるのです」

「えっ?手袋だけじゃなくて?」

 そう言って、僕はもう一つ大きな紙袋を渡された。

 その中を覗いてみると―――


「………」


 僕の顔は強張った。

 中に入っていたのは、髪飾りとリボンと、あと服だ。

 ちなみに服はお嬢様が着そうな黒いゴスロリ衣装だった。


「……あの、これ」

 いや、本当にどういうことなの……?


「それは……レイが喜ぶと思って」

「わたくし達で選んで買いました」

「えっと、ちょっと待って、何で?」


 どうしてこんなものを用意したの?

 僕が困惑していると、三人が顔を見合わせて言った。


「「「似合うと思って」」」


「いや、僕は男だから!!!」


「「「大丈夫、絶対似合います」」」


 駄目だ、この人達……早くなんとかしないと……。

 折角良い話だったのにおかしなオチが付いた。

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