第119話 恩返しとかしたい

 ――七日目

 村を出た僕達は目的の街を目指しながら馬車で進んでいた。


「サクラタウンってあとどれくらいで着くのかな?」

「まだまだですよ、まだ一か月近く掛かります」

「そうなんだ……」


 長旅だと分かっていたけど、

 いざこう旅が長いと何というか……その……


「お姉ちゃん、ちょっと飽きちゃった……」

「「「……」」」

「レイ、私も少し退屈になってきました」

「「……」」

「レイ様、何か面白い話をお願いします」

「無茶ぶりしないで!」

 レベッカにこんな無茶ぶりされる日が来るとは思わなかった。


「ほら、レイの得意なホームシックネタとか」

「ホームシックネタってなんだよ」


 ネタでそんなことやったことないよ。


「え?ママに会いたいとか言ってたじゃないですか?」

「やめて」

 寝言で言ってた気がする。 


「じゃあベルフラウの女神様ネタとかどうですか?」

「女神はネタじゃないわ!本当だから!」


 姉さんが必死に反論する。

 というか二人とも本当に女神は知ってるだろうに。

 単にからかっているだけだろう。


「そういえば前に、レイが酔っぱらって、

『ベルフラウ姉さんは僕のものだー』って叫んでたのは面白かったです」


「やめてぇええええええ!!!」

 これ以上僕の黒歴史を晒さないで……。


「レイ様……少し引きます」

 レベッカに引かれると精神的に来るから止めてほしい。

 家に帰りたいよ、お母さん……。


「それでは、レイ様のもう一つの得意技の異世界転移ネタは如何でしょうか」

「そっちもネタじゃないから!」

 この子たち分かってて言ってるだろ!

 

 ◆


 八日目――


 僕達はお昼頃、道中の村に立ち寄った。

 この村は旅人が立ち寄ることが多いのか、

 アクセサリーなどの露店が多かった。


「レイくん、これ可愛くない?」

「えっ?どれ?」

 姉さんは髪留めを手に取って見せてきた。


「こういうのってどうかな?似合うと思うんだけど」


「うん、姉さんに似合ってて可愛いと思うけど」


「ううん、レイくんに似合いそうだから呼んだの」

 いや、僕かよ!


「いや……こういうの女の子向けだから……」

「えぇー?似合うのにー」


 そんな話をしていると、

 食料を買い終えたレベッカとエミリアが戻ってきた。


「なんだか楽しそうですね、何かあったんですか?」

「可愛らしい髪留めでございますね」

 レベッカとエミリアは興味深げに聞いてきた。


「レイくんにはこれが似合うんじゃないかなって話してたの」

「いえ、わたくしはこちらの方が……」


「あっ、こっちもいいかも……」

「ふむ……」


 姉さんとエミリアは二人して色んなものを見て楽しそうだ。

 僕もちょっと横にズレて他の露店を見ることにした。


 他を見てみるとちょっとした指輪や小物などもあったり、

 どちらかと言えば女の子が喜びそうなものが多い。


「(……そういえば、三人の誕生日プレゼントとか全然買ってないな)」


 誕生月とか聞いてなくて、

 気が付いたら過ぎてた事が二回もあった。

 数か月前は何時の間にかエミリアの誕生日で、

 レベッカも一時故郷に帰省した際に過ぎてたりする。


「(……今更だけど、ちょっとしたものでもいいからプレゼントしたいな)」


 そう思って僕は何か良さげなものを探すのだが――。


「……お?」

 三人に似合いそうな物が見つかった。

 一つは花の形をしたブローチだ。

 真ん中には真珠のような宝石が付いてて、姉さんに似合うだろう。

 二つ目は指の第一関節だけ開いてる穴あき手袋だ。

 手の平は黒く手の甲側が赤色で、これはエミリアに似合いそう。

 三つ目は白と緑模様の靴だ。見た目も可愛らしくて清楚な感じで、

 何となくレベッカに似合いそうな気がする。


 三人に気付かれないように僕は露店の商人さんに声を掛ける。

 見た目結構若い男の人だ。


「この三つが欲しいんですが、おいくらでしょうか?」

 僕が商人さんに声を掛けると、商人さんは驚きながら言った。


「おや、キミはもしかしてレアハンターかい?」

「え?いえ、そういうわけでは」

 レアハンターとは、希少な魔道具を収集している人たちの事だ。

 旅人や冒険者に多いらしい。


「そうなのかい?

 何てことのない物と混ぜてあったのに的確に選んできたから驚いたよ」


「そうなんですか?」


「うん、どれも金貨十枚以上の価値のある立派な魔道具だよ」

「き、金貨十枚!?」


 全然気付かなかった。

 てっきり銀貨二、三枚で買えるようなものだと……。


「どうだい、お兄さん。

 気に入ったのがあるならまとめて買ってくれれば安くしておくよ?」

「そ、それはありがたいのですが……」


 流石に金貨三十超えなんて持ち合わせは無い。

 財布を確認すると、今の手持ちは金貨十五枚しかない。

 姉さんに頼めば出してもらえるかもしれないが、

 流石にプレゼントする本人にお金の工面を頼むのは恰好悪すぎる。


「ち、ちなみに三つ全部買えばどれくらい安くしてもらえますか?」

「そうだねぇ、どれもそれなりの価値がある魔石が付与されてるし、

 安くしても金貨三十枚って感じかな?」

 た、足りない……どうしよう。


「あ、ご、ごめんなさい全然足りそうにありません」

 僕は正直に話した。


「そうかい……ところで、

 もしかしてお連れの女の子三人のプレゼントの為かい?」

 男の人は離れたところでキャッキャしてる女の子三人を指差して言った。


 勿論、姉さんレベッカエミリアの事だ。

 今だに僕に何が似合うのか相談してるらしい。

 終いには服がどうとか言い始めてる。


「は、はい、あの三人のです……」

「ふむ、なるほどねぇ」

 その商人さんは僕をジロジロ見て、少し思案してから言った。


「条件を呑んでくれたら、さっき提示した半額で譲ってあげよう」


「えっ!ほ、本当ですか!?」


「ああ、私は嘘つかない主義だからね。

 それに、キミは中々見どころがありそうだ。

 ――旅人なら足が付かなさそうだし(ボソッ)」


「……そ、それはどうも」

 最後に余計な一言が聞こえた気がする。


「君たちは明日はまだこの村に滞在する予定かい?

 明日一日キミに付き合ってもらいたい場所はあるんだが」


 馬車生活で疲労が溜まっていたため、

 明日も一日この村に滞在の予定ではある。

 その事を伝えると、商人の男の人は言った。


「決まりだ!私はジャミル、明日の早朝にまたここに来てくれ。

 あ、装備もちゃんと持ってきてくれよ。ちょっと遠出する予定だからね」


 ジャミルと名乗った商人さんは、

 それだけ言うと僕の返事も聞かず何処かに行ってしまった。


「(……うーん、まぁいいか。明日一日で終わるって話だし)」

 僕は三人の元に戻り、改めて三人に聞いた。


「姉さん、エミリア、レベッカ、

 明日の朝はちょっと用事があるから別行動になるけど、三人共それで良い?」


 三人は一斉に僕を見て答える。


「それは構いませんが」

「レイくん一人で何処かに行くの?」

「わたくし達が付いて行ってはダメなのですか?」


 そう言われるとちょっと答えにくいけど……。

「えっと……個人的な用事があって、明日は三人でゆっくりしてて欲しいな」

 僕がそういうと三人は、渋々ながらも納得してくれたようだ。

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