第118話 悪気は無かった(2回目)

「――ふう、終わったね……」

「そうですね、一時はどうなるかと思いましたが……」

 姉さんが回復してくれなかったら危なかった。


「しかし、このような場所で<魔王の影>と遭遇するとは……」

「そう言えば今の所、魔物が多い場所ばかりに出現してるね……」

 何かあるのだろうか?


「気にしても仕方ありませんよ……。

 話は変わりますが、洞窟はまだ続いていますね。どうします?」

「僕はまだ大丈夫だけど……」


 姉さんが魔法で霧を消してくれたお陰か、先の通路を見通すことが出来る。

 魔力の霧が消えてる今こそ探索すべきかもしれない。


「少し疲れたから、少しだけ休憩していいかしら?」

 姉さんは慣れない強力な魔法でかなり消耗しているようだ。


「そうですね、わたくしもさっきの戦いでかなり疲弊しました」

「分かった。じゃあ少し休憩しよう」


 それから数十分後、再び先を探索する。

 魔力の霧が消えたお陰か、それ以降の魔物との遭遇率は激減した。


「めぼしい魔石はいくつか採取したけど……肝心な宝は……」

「あ、レイくん!あったよ!」

「えっ?」


 姉さんの声に反応してそちらを見る。

 そこには確かに大きな箱が置かれていた。

 直径は150cmくらいの宝箱というよりは大きな木箱だ。


「一応罠かもしれないし、調べようか」

「そうですね。<判別魔法>ハイドチェック<罠解除魔法>アンチトラップ

 エミリアが連続で魔法を発動させる。

 箱は青く光り、罠のようなものは無い。

「<パンドラの箱>の例があるので、

 <能力透視>アナライズを………反応はありませんね」


 どうやら問題は無さそうだ。

 蓋を開けてみると、そこには多数の魔石が詰め込まれていた。

 しかし、特別良さそうなものは無い。

 どちらかというと売り物にならないため放置されてたような感じだ。


「うーん、悪くないものもあるけど……」

「全体的に見るとさほど質が良いわけではありませんね」

 価値が全く無いというわけでは無いが、

 宝の地図に書かれていたものがこれだとしたらちょっと拍子抜けだ。


「やっぱり宝の地図はデタラメだったのかしら?」

「いえ、これはこれで貴重なものですよ」


 この程度の魔石でも普通の人にとっては十分な収入源となるらしい。

 アクセサリーや日用品に使用することで多少の魔法効果も得られるとか。

 ただ、強力な防具や武器には出来ないため、冒険者には恩恵が薄い。


 箱全体の大きさと詰め込まれた魔石の量を考えると、

 百キロ以上の重さがあるかもしれない。とても運びきれる量では無い。


「僕にはちょっと無理かも」

「重そうな剣を振り回してるレイくんでも無理なら私たちも無理ね」

「わたくしの空間転移でもちょっと前に掘り当てた魔石が残ったままです。

 今持ち帰るのは難しいと考えます」

 仕方ない、これを持ち帰るのは諦めよう。


「エミリア、最後に魔物が残ってないか調べてからここを出よう」

 一応、この洞窟には魔物討伐の依頼がある。

 出来るだけ数は減らしてから報告した方が良い。


「分かりました。では、周囲の気配を探りましょう」

 僕らは再び警戒態勢に入り、周囲を調べる。


 エミリアは<索敵>サーチの魔法を使用し、

 周囲の様子を探ろうとするのだが……。


「んん??」

 魔法を使用した直後にエミリアが変な反応をした。


「エミリアちゃん、どうかした?」

 エミリアはこちらに振り返って言った。


「いえ、その、魔物の気配とかはなかったのですが……」

 索敵で調べたところ、この箱の下に空洞があったらしい。


「下に何かあるみたいです」「本当?」

 僕は全力で箱をその場から退かそうとするのだが……


「うぐぐぐぐぐぐぐぐ……!」

 お、重い……!!

 戦闘の疲労もあるのだが、普通に箱が重過ぎて動かない。


「レイ、がんばー!」

「レイくん、ふぁいとー」

「レイ様、気合です!」

 後ろの三人が気の抜けるような応援をしてくれる。


「ぐぐぐ……!!」


 ズズ……


「お、少しだけ動きましたよ!」

「そ、そう!よーし、それじゃあここから一気に――」

 僕は全力を込めて箱を押し始めた。


 ズズズ……


 よし……あと少しだ!

「レイ様、わたくしもお手伝いします。<筋力強化Lv14>力を与えよ

 唐突に僕に強化魔法が入る。


「え?」

 いきなり力が強化されてしまった僕は、

 勢い余ってそのまま箱ごと地面に倒れ込んでしまった。

 ドォン!!!


「いったあああ!?」

 頭を打ったせいか、一瞬意識が飛びそうになる。

 箱が倒れた衝撃で中身の魔石が散乱してしまったようだ。


「あちゃ~、箱がひっくり返って中身がこぼれてしまいましたね……」

「す、すいません、わたくし余計な事を……」


「いや、大丈夫大丈夫」

 僕は頭を押さえながら笑顔で言った。

 箱を退かした下には鉄板が敷かれていた。鉄板を退かすと、下には階段があった。


「隠し階段があるとは……」

「よし、行ってみよう!」


 僕達は四人で階段を降りて行った。

 しばらく降りると、そこには明かりも何もなく、僕達は<点火>で辺りを照らした。


 すると――


「た、宝箱だ……!!」

「え!?本当ですか!?」


 そこには確かに、装飾の入った大きな宝箱が置かれていた。

 念のため、<判別魔法>ハイドチェックなどで調べたが罠では無い。


「あ、開けるよ?」

「う、うん」「どきどき……」「わくわく……」

 僕はゆっくり箱を開けた。

 中には素晴らしく純度の高い魔石が入っていた。


「これは……鉱脈の元の持ち主が隠したものなのでしょうか?」


 エミリアの推測通りかもしれない。

 ミリクさんのダンジョンで入手した魔石よりも質が高い。


「これはすごいね……」


「これ、売れば金貨百枚は下らないと思います」「そんなに!?」


「はい、これほどのものになると、

 伝説級の武器や防具に組み込まれるレベルの魔石でしょうし」


 こんなものがあるなんて……もしかしたら、

 あの地図は本当にこの魔石のことを指し示していたのだろうか?


「でも、この魔石は売るのが勿体ないですねぇ……」

「た、確かに……」


 僕達は魔石を取り出し、丁寧に包んで僕の鞄に入れておいた。

 僕の鞄は女神様が作った特別製だ。

 入れておいても重さは感じないし、傷つくことも無い。

 ついでに無くした時の為に、

 魔法でいつでも見つけられるように魔法を掛けておく。


「――これでよし、では帰りましょうか!」

 僕達が戻ろうとしたその時だった。


 ――ゴゴゴ…… 地面が揺れ始めた。


「え、地震?」

「違うと思う……何か嫌な予感がする」

「えぇ、私もです……」

「まさか、また魔物?」

「いえ、でもこの感覚って……」


 え、まさか。

 この魔石取ったらダンジョンが崩落するとかそういうオチ?

 僕が焦っていると、洞窟の壁がパラパラと崩れ始めてきた。


「!!」

 どうやら本格的にマズイ状況になったらしい。


「皆さん、急いで脱出しましょう!」

 エミリアは<迷宮脱出魔法>を使用する。


 そして、何とか四人脱出したところで、

 洞窟の入り口は完全に崩壊した。


「ふぅ、危なかったですね……」

「もうダメかと思ったよ……」


 僕達はその場でへたり込む。

 それにしてもどうしよう。

 僕達のせいで洞窟が崩落したと聞いたら村の人怒らないだろうか……?


「レイくん、今回の件って村の誰かにここに向かうって言った?」

「え、いや、言ってないと思う……皆は?」


 僕が訊くと、三人はふるふると首を振った。

 どうやら全員、黙ってここに来ていたようだ。


「「「「………」」」」


 僕達はここに来なかった。いいね?


 六日目――

 村では『魔石の鉱脈』の洞窟が崩落したという噂で持ち切りになった。


「おお、冒険者さん達、

 噂は聞いたかい?なんでもこの近くの洞窟が急に崩落したそうだよ」

「旅人さん達、何か知らないかい?」


「い、い、いえ……な、なにも……?」

「わわわわ、私たちは何も見てませんから……」

「お姉ちゃんは昨日お昼寝してたからわからないわぁ……うふふふふ」

「………レベッカは何も知りません、はい、本当に……」


 三十分後、僕達はバレないうちに馬車で村を出立した。

 ――その後、崩落の原因は何処かの盗賊が洞窟を荒らしまわって、

 中の魔石が何かの理由で爆発したのだろうという事になった。


 ◆


「それにしても、何で洞窟が崩落したんだろう?」

 僕は疑問を口にする。


「宝箱の中身が動かされると罠が発動する仕掛けだったのかなと」

 マジでそういう理由だったんだ。


「魔石の本来の持ち主がやったということでしょうか?エミリア様」


「多分ですけどね。おそらく何かの理由で手元に保管できず、

 かといって他人に手渡したく無かったんでしょう」


「それであんな隠し場所に……?」

「えぇ、でも結局こうして見つかっちゃいましたね」

 あの地図のお陰だったわけだ。


「でも、どうして地図があったんでしょうね?」


「村に残ってたという事は、住んでた人の所有物だったんでしょう。

 でも、所持した人は何かの理由で居なくなって、

 誰も確かめたりしなかったから、デマだと思われたのかも……」


 そんな会話をしながら、僕達は再び旅を再開したのだった。

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