第117話 殺意マシマシ
僕たちは更に奥へと進む。
すると立ち込めていた霧が薄くなってきた気がする。
「霧が晴れてきた?」
「比較的魔石が少なくなったからかも?」
確かにさっきまでに比べれば周囲の魔石の数が減ってきてはいる。
だけど、それだけにしては……。
「………何か怪しい気がします。
この奥はまた霧が濃くなってるような……」
僕達は警戒して先に進む。
するとまた広い空間に出て、そこの中心だけに霧が集まっていた。
「……どういうこと?
まるで霧が一か所に吸い込まれているような……」
そう思ってると中心に集まっている霧が徐々に形を成していく。
そして次第にそれは実体を帯びて、僕達の前に現れた。
「なっ……あれは……」
現れたのは上半身裸の男性型の巨人だった。
形としては、オーガに近いだろうか。
しかし、その魔物は全身真っ黒で顔らしいものは見当たらない。
「……」
「これは、嫌な予感がしますね」
この特徴を僕達は知っている。
それは僕達がミリクさんに討伐を任されている魔物と同じ――。
「<魔王の影>……で、ございますね」
まさかこんな寄り道の洞窟で討伐対象の魔物が現れると思わなかった。
「エミリア、能力透視お願い」
僕は隣のエミリアに指示をして、エミリアは詠唱を始める。
「
エミリアの魔法が発動する。
Lv??<???>
HP999 MP999 攻撃力??? 物理防御??? 魔法防御???
所持技能:存在秘匿Lv25 ???Lv?? ???Lv??
所持魔法:詠唱Lv20 闇魔法Lv15 呪いLv3
耐性:全状態異常無効
補足:正体不明、全てが謎に包まれている。
殆どの能力が不明。
だけど、その謎の多さこそ<魔王の影>である確信が持てる。
「レイくん……これってかなり不味いんじゃない?」
「……多分ね。
僕達四人だと倒せるかどうか分からないレベルかな」
以前に<魔王の影>と戦った時に勝てたのはほぼ奇跡に等しい。
ただ、今回はあの時と違って全員健在だ。
それに敵の使う魔法は今の<能力透視>で大よそ見当が付いた。
「姉さん、魔法を――」
しかし、僕が姉さんに指示する前に<影>が言葉を放つ。
『
その言葉を聞いた時、
僕達の視界は真っ暗になり何も映らなくなった。
「くっ……しまった……!!」
「め、目が……!」「み、見えません!」「……!」
闇魔法の
恐らく奴が使用しているもう一つの魔法、<呪い>の類だ。
文字通り視力が完全に奪われている。
厄介なのは<呪い>は全て致命的なものが多い。
恐らく奴を倒すか<呪い>を解く以外に逃れる方法は無いだろう。
そして一番の問題は、
この状況だと相手の攻撃手段が全く予想できない事だ。
即座に襲い掛かられると対処しようがない。
「くっ――!石の壁を護りたまえ、<ストーンウォール>!!」
レベッカが咄嗟に敵とこちらの中心に石の壁を出現させる。
一瞬でも時間稼ぎにはなるはず……。
「みんな落ち着いて!すぐに解除するから!」
この<呪い>に対処できるのは、回復・防御魔法。
それか<勇者>や<女神>に備わっている能力しか解除手段が無い
残念ながら僕は勇者じゃないから解呪する方法は無い。
「――我が主神、摂理を司る全能の存在よ、あらゆる災厄を打ち払え」
姉さんの声で真っ暗だった景色に少しずつ光が溢れだす、同時に体が温かくなる。
「――女神の名において、奇跡の力を、
二節目の姉さんの言葉で僕達の暗闇が完全に取り除かれ、視界が戻る。
同時に、周囲に存在した霧も消え去った。
「――ふぅ、使えて良かったわ……」
ひとまずの脅威が去ったことに僕達は安心する。
「助かったよ、ありがとう」
「この魔物、ベルフラウが居ないと詰んでた気がするのですが……」
「わたくしもそう思います」
本当にそれだよ、ミリクさんも無茶ぶりし過ぎだ。
だが、敵はまだ目の前にいる。
僕達は武器を構えて敵と対峙する。姉さんは別の魔法を詠唱する。
『……』
相変わらず奴は一言も喋らずに佇んでいる。
その姿からは何も読み取れない。だがこいつに対話など無駄だ。
更に詠唱をする姉さんの魔法が発動する。
「
僕らは姉さんの魔法により淡い光に包まれた。
<聖なる護り>致命的な状態異常を一度だけ弾く、最上級の防御魔法だ。
奴の使用する<呪い>を事前に対策するにはおそらくこれしかないだろう。
「効果が切れたらすぐに掛け直すわ」
「分かった」
これで最悪の事態は免れるだろう。
「……で、どうします?」
「……<魔王の影>を放置する気はないよ。全力で倒す」
ミリクさんが言うには、こいつを放置すると魔王が復活した時の力が増大するらしい。
それにこいつ自身が強力な魔物を呼び寄せている節がある。
万一の時は即撤退するけど、勝ち筋がある状況なら強引にでも倒しに行く。
「――行くよ」
僕たちは一斉に駆け出した。
「レイ様!
レベッカの強化魔法が僕に付与され、僕は銀のオーラに包まれる。
「
エミリアの弱体魔法が<魔王の影>に発動する。
<影>の足元に青い魔法陣が展開されて煙が舞い上がる。
無効化はされていない。
通ってしまえば、敵の装甲を少し弱体化させることが出来るはずだ。
しかし敵も黙っていない。
先ほどまで微動だにしなかった黒い巨人はその大きな体で僕に殴りかかってきた。
(――意外と好戦的な戦い方をするな)
僕は身を翻して躱し、魔法を発動する。
「
僕の放ったファイアボールが<影>に向かって放たれる。
しかし、<影>は右の拳で難なく魔法を弾いて消し飛ばした。
<魔王の影>はそれぞれ姿だけでなく戦闘スタイルも違う。
最初に会った<魔王の影>は人のような形をしているが、
恐ろしい呪いを使用するだけで近接戦闘はしてこない。
次に出会った<魔王の影>はデーモンの姿をしていて上級魔法を連発していた。
あの黒い剣に擬態していた魔物も<魔王の影>に含めるのなら、
そいつは人に寄生するという能力だ。
今回の影は見た目の筋肉隆々の巨人だからか、こういう戦い方なのだろうか。
僕の魔法を弾いた<魔王の影>は身を低くして、こちらに駆けてきた。
「――っ!早い」
あまりの動きの速さに僕は対応できずに、そのまま殴り飛ばされてしまう。
「レイくん!大丈夫!」
「だ、大丈夫……!」
かなり力任せな戦い方だが、シンプルに手強い。
『
再び<盲目>の呪いが放たれるが、今度は姉さんの防御魔法で無効化される。
「はっ―――」
レベッカの弓矢が<魔王の影>に突き刺さる。
しかし、深くは刺さらずに足元に矢が転がる。
それで動きを止めてくれるお陰で追撃されずに済んだ。
僕は姉さんの元に下がって言った。
「――姉さん、回復と、防御魔法の掛け直しお願い」
「うん、任せて」
姉さんの詠唱が終わると、僕の体は温かい光に包まれた。
「――ごめんなさい、私じゃ支援しか出来ないわ」
「十分だよ、ありがとう」
そもそも姉さんが居ないと戦いの土台にすら立てなかっただろう。
「
エミリアの上級魔法が発動する。
<魔王の影>の上空に落雷が発生し、その雷は地面へと落ちる。
そして<魔王の影>の身体中を感電させ動きを止めた。
同時に僕は<魔王の影>に剣で斬りかかる。
「はぁぁぁぁ!!!」
首元を狙った一撃、全力で剣を振り下ろすが―――
ガキンッ――とまるで金属に当たったかのような音をして剣が弾かれてしまう。
僅かに体を削ったがダメージ自体はあまり無さそうだ。
「――っ!固い……」
まるで火龍の時のような防御力だ。
しかし、今の一撃は無傷では無かったのか、
巨人は斬られた首元に手をやり頭をふらつかせている。
「追撃を――!」
レベッカは頭を狙って弓矢を放つが、巨人はそれを手で受け止める。
そして魔法を放つ。
『
巨人の手から放出された漆黒の槍はレベッカに狙いを定めて射出される。
「くっ!」
僕はレベッカの前に出て無防備にそれを受けてしまうが、<矢避けの加護>により無効化される。
そのおかげでダメージを受けない。
「れ、レイ様!」
「大丈夫、問題ないよ!」
……しかし、さっき頭を狙った矢を手で庇った辺り、頭が弱点なのだろうか。
なら試してみる価値はある。
「エミリア、魔法で頭を集中的に狙ってみて」
「了解です!」
エミリアは足元に魔法陣を形成しながら詠唱を始める。
その間、僕とレベッカは巨人の体に攻撃を加えるが、胴体は鋼のように固い。
しかし、このまま攻撃し続けて敵に動く隙を与えないようにする。
「お待たせしました
詠唱をしていたエミリアの攻撃魔法が完成する。
<中級火炎魔法><中級凍結魔法><中級雷撃魔法><中級爆風魔法>
それら四つの属性攻撃が、
<魔王の影>の頭部を狙って魔力弾のように射出される。
<魔王の影>は僕達の攻撃に対応するために、
手が塞がっており頭を庇うことが出来ない。
着弾と同時に魔力弾は爆弾のように破裂し、雷撃のように全身を感電させ、
その後巨人は爆風によって後方に吹き飛びながら頭部は凍り付き、
轟音を立てて頭から倒れた。
「うわ、えっぐ……!」
中級魔法だというのに、
その威力は一か所集中させた上級魔法にすら劣っていない。
「素晴らしい威力ですね……」
レベッカも驚きを隠せないようだ。
「レイの指示通り、頭部を狙いましたが、やはり効き目が大きいですね」
あの威力だとどこに狙っても物凄いダメージだったと思う。
「って、言ってる場合じゃない!」
<魔王の影>はそれでも動こうと立ち上がろうとする。
「くっ――」「任せてください!」
僕が走り出すと同時にレベッカが魔法を使用する。
「
レベッカの重力魔法が<魔王の影>に発動、
立ち上がろうとした<影>は再び膝を崩し立ち上がれなくなる。
「レイ様!今です!」「うん!」
僕は龍殺しの剣に最大まで魔力を込めて倒れた<魔王の影>の元に駆けて、
「はぁああああああああ!!!」
そのまま頭部に剣を全力で振り下ろす。
――ギィィン!! 今まで聞いた事の無いような金属音が響き渡る。
「っ!?」
最大限の勢いを込めたにも関わらず、頭部は砕けていなかった。
「そ、そんな……!」
しかし……
ピシリ……と音が鳴った瞬間、奴の頭部にヒビが入った。
「―――ッ!!」
そのまま割れるように<魔王の影>の頭部が真っ二つになる。
その途端、<魔王の影>の体が砂となり崩れ落ちていく。
「――や、やった?」
数秒後、<魔王の影>だった砂は消え去った。
どうやら完全に倒せたようだ。
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