第116話 悪気は無かったです

 しばらく洞窟の中を進むと階段のようになっており、

 降りていくと広い場所に出た。

 この辺りから魔石の採掘がされていたようだ。

 ツルハシや台車などの残骸が至る所に落ちている。


「お宝があるとするならこの辺りかなぁ……」

 もっとも、あの宝の地図はデマの可能性が高そうだけど……。


「とりあえず奥まで行ってみようか」


 僕らは慎重に探索を開始した。

 途中何度か魔物と遭遇したが、確実に撃破しながら先へ進んでいく。

 奥に行くと今まで以上に周囲が紫色に光っていた。


「この辺の魔石を持っていけば結構なお金になるんじゃ……?」


「確かにこれだけの量があれば相当な額になりますが……」

「持って帰るの大変そうねぇ……」

「それに全部回収するのは現実的ではありませんね。

 持っていきやすそうなものだけわたくしの<空間転移>で運びましょう」


 本当に便利だよね、その魔法。

 それから僕達は純度の高そうな魔石だけ採取することにした。


 ◆


 ――それから二時間後


「これだけあれば十分かな」

 僕達は一通り広間の魔石を集めてレベッカの<空間転移>でまとめて送った。

 専門のお店で売却すれば金貨数十枚くらいになるかもしれない。

 十分すぎる収穫と言える。


 ……今更だけど、これ採掘泥棒になったりしないよね?


「結局、お宝らしいものは見当たりませんでしたね」

「あの地図胡散臭かったし……」

「でも、まだ先はあるみたいよ?もう少し探索したら?」


 姉さんが言うように、

 確かに広間の奥にはまだ掘り進んだ細い道が続いていた。

 しかし、これ以上先に進んでも何もないような気がするんだけど……。


「一応調べてみる?」

 僕らは更に奥へと向かっていった。

 しかし奥に進むごとに霧のように前が霞んでいった。


「これは……多分魔石から魔力が溢れてますね、魔力の霧になっています」

 魔力の霧は視覚を奪うだけでは無く、魔物を呼び寄せる。


「魔石が採取出来るのに放置されていたのかが謎でしたが……。

 この霧のせいだったのですね」


 この先に魔物が居た場合、

 今までよりも強力な魔物が出現する可能性があるかもしれない。


「姉さん、もう外は結構遅いよね?」

 この洞窟に入ってから数時間は経過しているはず。


「うん、外はもう夜かもね」

 その言葉で僕達は一旦撤退することを決めた。


<迷宮脱出魔法>ターンエスケープで外に出た僕達は、

 馬車を伴って帰還を始めた。

 外を出る時には外は暗かったので、魔法で外を照らしながら馬車を走らせた。

 村に戻り、その日は村で一泊することにした。

 明日もう一度洞窟に潜るつもりだ。


 ◆


 ――五日目


 翌朝、僕達は再び洞窟に向かった。

 洞窟に入るとやはり濃い魔力が漂っている。


「さて、何が出てくるかな……」

 周囲が霧で醜いため、姉さんの魔法で周囲の霧を中和しつつ先に進む。

 更に先へ進むと、やはり強そうな魔物が居た。


「あれは……」

 見たことない魔物だ。

 巨大な蜘蛛のような姿をしている。

 周囲には魔物が張ったような糸が垂れ下がっている。


<能力透視>アナライズしますね」

「お願い!」


 Lv30 <イビル・スパイダー>

 HP700 MP100 攻撃力200 物理防御150 魔法防御140

 所持技能:糸吐きLv5、毒牙Lv5、麻痺液Lv5 詠唱Lv10

 所持魔法:中級攻撃魔法Lv5 その他魔法Lv3

 耐性:毒、麻痺、束縛無効

 弱点:炎

 補足:蜘蛛の魔物が霧で強化され魔法が使用できるようになった。

 弱点である火属性の攻撃以外はあまり効かない。

 知能はあまり高くないが、特殊な粘液で状態異常を付与してくる。


「厄介な相手が出てきたね……」


「えぇ、でも私達なら倒せるでしょう。

 行きますよ、<炎球>ファイアボール!!」

 エミリアのファイアボールが<イビル・スパイダー>に直撃する。


 弱点であるため効果は大きいはずだ。しかし、


「う……周囲の霧のせいで効果が薄いですね。

 この魔法もそろそろ改良が必要かな……」


 魔力の霧とはいえ水分が含まれている。

 それで炎魔法の威力が低下したようだ。

 上級魔法ならおそらく倒しきれるだろうが……。


「エミリア様の上級魔法では範囲が広すぎて、

 この狭い場所では私たちも巻き込まれてしまいますね……」


「よし、なら直接……」

 僕は<龍殺しの剣>ドラゴンスレイヤーを抜いて魔物に接近する。

 しかし、敵は口から毒々しい液体を吐いてきて僕の鎧に付着した。


「うわっ……!」

 鎧に毒液が付着し、表面を溶かし始めた。



「レイくん!?」

「大丈夫!まだ動けるよ」

 しかしこの手の状態異常は僕の耐性でも効いてしまう。

 結構厄介かもしれない。


 そんなことを考えてると魔物は口から糸を吐いて攻撃してきた。


「――っ」

 足を止めると危険だ、僕は動き回り敵の攻撃を回避する。

 しかし、それだけに留まらない。

 蜘蛛の魔物は巨体にも関わらず、

 天井に張り付き僕の攻撃を回避しながら詠唱を始める。


<中級凍結魔法>ダイアモンドダスト

 魔物はこちらに対して中級攻撃魔法を発動する。


「っ!<剣技・炎魔法Ⅱ>火炎斬

 僕は即座に炎魔法を剣に付与して魔法を相殺する。


「――っ、体が……」

 体に異変があった。

 さっきの毒粘液の攻撃、鎧で防いだと思ったんだけど……。

 

 僕が自分の状態に戸惑っていると、

 隙を晒した僕に、魔物は僕に糸を吐いて体を束縛されてしまう。


「……っ!」

 身体の麻痺が少しずつ強まっていき回避が遅れてしまった。

 これはちょっと不味いかも……!


「レイ!<初級炎魔法>ファイア!」

 僕の状態を確認してエミリアが僕に攻撃魔法を放つ。

 そして、エミリアの放った炎が僕を縛っていた糸を焼き切る。


「助かった!」 

 これで直接攻撃が出来る。

「はぁぁ!!!」

 エミリアの魔法を自分の剣に纏わせて蜘蛛の魔物を斬りつける。


『―――――!!』

 蜘蛛の魔物の悲鳴というよりは奇声が洞窟内に響き渡る。

 攻撃を食らったところで魔物は天井に張り付けなくなったのか、落ちてきた。


「レイくん?大丈夫?<全治療>キュアコンディション

 姉さんの回復魔法で僕も麻痺が緩和されたため、僕は一旦蜘蛛から離れる。


「今の間に――」

 僕が下がったところを見計らってレベッカの弓から矢が放たれる。

 レベッカの<龍殺しの矢>が蜘蛛の口の中に突き刺さる。

 更にダメージを受けて、魔物は相当弱っているようだ。


「トドメ行きますよ!<炎の息>ヒートブレス

 エミリアの<中級火炎魔法>と<中級爆風魔法>の複合魔法が発動する。

 名前の通り、まるでドラゴンの炎のブレスのような火炎が放射され、

 蜘蛛が死ぬまで炎が放たれ続ける。蜘蛛の魔物は全身を焦がされ、

 そのまま悲鳴をあげながら地に伏して黒い煙を上げて消滅した。


「やりましたね、みんな無事ですか?」

「はい、問題ありません」

「うん、僕の方も大丈夫だよ」

「良かったわ、じゃあ先に進みましょうか」

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