第115話 洞窟探索
今回はエミリアの持ってきた『魔石鉱脈』の宝探し以外にも、
村で持ってきたいくつかの依頼も道中で消化しながら進んでいく。
依頼書の数は全部で五枚、そのうち二つは採取だ。
僕達は村から東に七キロ先に進んだ草原の先の湖にある薬草の群生地に来ていた。
「採取依頼の<赤薬草>はこんなくらいでいいでしょうか?」
「はい、エミリア様、十分でございます」
赤薬草は<中級ポーション>の材料となる薬草だ。
そのまま使っても効果はあるが、薬として調合すると傷の治りも高まって冒険者にとって大事な回復薬になる。
「姉さん、あともう一つの採取依頼は何?」
「ええっと、あとは……ああ、これね。これはちょっと珍しいものらしいからよく分からないわね」
エミリアが受け取った依頼書には、
<青薬草:上級ポーションの原料の一つ。乾燥させたものを粉末にして使用する。水草の多い水辺に生える。> と書かれている。
「ふむ、これだけじゃ良く分かりませんね」
「<青薬草>って言うくらいなんだから青いんじゃないの?」
「うーん、青い薬草なんて見たことないんですよねぇ……基本薬草は緑色ですし」
「そっかぁ……」
言われてみると<赤薬草>もそこまで真っ赤と言うわけではない。
うーん、どうしようかな。
「この辺りに生えている薬草にそれらしいものは見当たりませんね。
反対側の湖へ行ってみましょうか」
「そうだね、でも気を付けないと魔物が出るかもしれないから慎重に行こう」
僕達は来た道を戻りながら、反対側へと移動していった。
◆
それから一時間ほど歩き回り、ようやくそれらしい場所を見つけた。
「あ、あれは……」
そこには一際目立つ大きな葉っぱがあった。
「青というか……」「緑ですね」
それはまるで緑色の巨大な大根の葉のような……。
「これ、大根だよね?」
「大根?なんですかそれ?」
「え、知らないの?」
「聞いたことがないですよ」
どうやらこの世界にはないらしい。
どうみてもただ根っこの上の方が緑色の大根だと思うんだけど……。
「……もしかして、青首の大根だから<青薬草>って言うのでは……」
「え、どういう事ですか?」
「……とりあえずこれ持って帰ろうか」
「そうですね」
◆
残り三つはどれも魔物討伐依頼だった。
一つ目は荒野のゴブリン集団の退治。
「
レベッカがゴブリンの集団目掛けて地獄の炎を放つ。
出会って即座に上級魔法ぶっぱされるゴブリン達が大分不憫だ。
二つ目は森に住みついたアルミラージの駆除だ。
『
アルミラージは大きな鋭いツノと厄介は睡眠魔法を使用するためかなり厄介なのだが……。
「――はあっ!!」
僕は魔法を打たれても構わず突っ込み剣を振るう。
『ブルッ――グゥゥ……!』
この手の魔法は何度も受けてしまうと自然と耐性が出来てくる。
それに僕が持つペンダントに状態異常魔法の耐性強化の効果もあり、僕にはほぼ通用しなくなった。
「よしっ!」
レベッカやエミリアの支援もあり討伐はスムーズに済んだ。
ひとまず最低討伐数の八体は倒した。
「お疲れ様、二人とも」
「レイ様もお疲れ様でございます」
「眠りの魔法も慣れてしまえばそんなに怖くないですね……」
怖くないと言いつつ、エミリアは最初に直撃して瞼が少し閉じてたのは内緒だ。
三つ目は『魔石鉱脈』の洞窟近くの湿地帯に時折発生するアンデッド退治だ。
「――彼の者に安らぎを、そして輪廻の輪へ」
姉さんの光の魔法<浄化>で湿地帯を広範囲に渡って浄化する。
普通の浄化と比べて格段に範囲と効果が高い姉さんなら発動時間こそ掛かるが、
何度か使用すれば数十体のアンデッドを簡単に浄化できる。
「お疲れ姉さん」
「ベルフラウ様、流石です」
「お疲れ様です、馬車で休んでいてください」
姉さんの広範囲の<浄化>は場合によっては上級魔法に近い魔法力を消費することもある。
「うん、ありがとー」
流石に疲れた姉さんは馬車に戻って休んでいった。
◆
依頼と平行して進んでいたため、
既に昼を大きく回っていたが目的地の『魔石鉱脈』の洞窟へたどり着くことが出来た。
「少し遅くなったけど、入ってみようか」
「はい、でも本当にこんなところに魔物がいるんですかね?」
「……いるよ、確実に」
何故断言出来るのか。その理由は簡単だ。
この洞窟の奥に居るであろう魔物の気配を感じ取っているからだ。
「……レベッカ、何か感じる?」
「……確かに、奥までは分かりませんが気配を感じますね」
僕とレベッカは<心眼>という技能を有している。
これにより大雑把だが、周囲に敵意を発する生き物が存在すると察知することが出来た。
「シロウサギ、クロキツネ。ここで待っててね」
姉さんは馬車を物陰に隠して、二頭の馬を近くの木に繋げている。
「さあ、行こう」
「はい」「ええ」「あ、待って!」
僕達は四人で薄暗い洞窟の中へと足を踏み入れた。
◆
洞窟の中は思ったよりは暗くなかった。
「魔石の発する輝きのお陰ですかね、壁が紫色に光っています」
真っ暗ではないので歩くだけなら不都合は無さそうだ。
「……やっぱりね」
洞窟に入って数分程歩いた頃だろうか。
前方からゴブリンらしき集団が現れた。
数は十体程度、それに恐らく……
「魔法を使うゴブリン、<ゴブリンメイジ>もいるかな……」
「……どうしますか?倒していきましょうか?」
「いや、ここは任せて」
僕はゴブリンの集団に向かい、駆け出した。
「えっ!?レイくん!大丈夫!?」
僕の行動を見た姉さんが心配そうに言った。
「大丈夫だよ姉さん、見てて」
僕は剣を抜きながら呟いた。
「
それを僕の
「おお!」「凄い!」「えっ、何それすご……」
後ろで見ていた三人の歓声が上がる。
僕の持つ魔法の剣は一度に二つの魔法を同時発動できる。
初級魔法であれば更に拡張してもう少し増やしても一度に使用可能だ。
「うん、実戦では初めてだけど上手くいったかも……」
僕は中級までの攻撃魔法しか使えないけど、剣を通して魔法を使えばほぼ無詠唱で発動できる。
それを剣と組み合わせて使えば普通に魔法を使うよりは威力も範囲も広げられる。
つまり今放った魔法は通常の氷魔法よりも射程も威力も上回っている。
「そろそろ<魔法剣士>って名乗っていいかな」
だって響きがカッコいいし。
「よし、一気に行く!」
魔法を放ったことで動揺しているゴブリン達に僕は追撃を仕掛けた。
まずは目の前に固まっていた二体を風の刃で両断。
そのまま振り向きつつ、今度は左の二体の首を跳ね飛ばす。
僕はそのままの勢いで右側のゴブリン達に向かって走り出す。
「グギャッ!?」「ギィヤアアッ!!」
突然の事に硬直していたゴブリン達は反応が遅れ、
咄嗟に手に持ったナイフで抵抗しようとするが――。
僕の剣とぶつかり合った瞬間にナイフが凍り付き、そのまま砕け散ってしまう。
「
そしてそのまま二体のゴブリンは氷の斬撃により凍結し、数秒後には砕け散った。
それを見た<ゴブリンメイジ>は怯えながらも魔法を発動する。
『
メイジの放った炎球が一直線に僕に襲い掛かる。
それを見て僕は違う魔法を使用し、剣で炎球を一閃する。
「
炎球は風魔法が付与された僕の剣の一閃で瞬く間に吹き飛び、
後方の<ゴブリンメイジ>を真空の刃で両断した。
「ふう、これで終わったかな」
残りは完全に凍結しきったゴブリンだけだ。こうなると放っておいても死ぬだろう。
僕は剣を鞘にしまってみんなの元に戻った。
「お疲れ様です、レイ様」
「レイくん、すごーーい!!」「うわっ!」
姉さんが久しぶりに抱きついてきた。
「でもさっきの魔法は何?見たこと無い魔法だったよね?」
そう言えば三人にはまだ見せてなかったかも。
「あれは
更に言えば、あれを剣に乗せて放つことで射程を大きく広げている。
「ふむ、エミリア様の複合攻撃魔法と同じものですか……」
「お姉ちゃんには無理だなあ……」
エミリアが使った複合魔法を参考にして真似ることが多いけど、今回は珍しく自分で考えた魔法だ。
正直結構自信作だったりする。
「どう、エミリア?」
僕は自慢げに胸を張って言った。
「……凄いと思います。複合魔法の応用力は素晴らしいですね」
やった、褒められた。
「私の立場が危うくなりそうなので調子に乗らないでくださいね」
何か怒られた。怖い。
ゴブリン達を倒した僕達は洞窟の奥へ進んだ。
宝の地図なんてアテにならないとは思うけど一応期待しておこう。
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