第113話 鳥女神様

 ――三日目


「さて、今日のお昼くらいまで馬車で走れば次の村に着くと思います」

 

 馬はずっと走り続けられるわけではない。

 定期的に休息が必要になるため速度を何度も落とさないといけない。

 大体通常の速度でも人の足よりも馬は少し早い程度、

 速歩ならもっと早く進んで行けるがすぐに疲れてしまう。

 回復魔法のお陰で幾らかハイペースで進められるものの、

 それでも休憩なしとはいかない。


 なのでもうすぐ村ではあるのだが今は休憩している。

 物資の補充などを考えると早く村に着きたいところだが、

 馬に無理をさせるわけにはいかない。

 この子は今では僕達の仲間なのだ。怪我をさせたりしたくはない。


 そして馬車生活を続けていると思うことがある。


「この世界に飛空艇とか無いんだろうか……」

「レイくん、多分そういうのは無いと思うわ」

「そうだよねー……」

 もしあるなら是非乗ってみたいけど、無いものねだりしても仕方ない。


「飛空艇というのはよく分かりませんが、飛行魔法というのはありますよ?」

「え、あるの!?」

 まさかの返答に思わず食いついてしまう。


「はい、一部の魔法使いが使えるみたいですね」

「ええ……僕使えないんだけど……」

「体を魔力で完全に制御できないと使えませんからねー、私にもまだ厳しいです」

 言ってる意味が分かんないけど、

 便利なんだろうな飛行魔法って……。


「飛行モンスターの餌食になりやすいらしいですよ。

 鳥とかと勘違いされるみたいです」

「思ったより不便だね……」

 ていうか飛んでる人間は魔物にとって鳥扱いなのか……。

 しかしそれだと空を飛ぶ敵が出てきた場合かなり厄介だろうなぁ……。

 まぁ、今はそこまで考える必要はないか。


「ところで姉さんって飛べたりしないの?女神様だし」

 大体神様ってのは天から降りてきたリというイメージが強いけど、

 今の所姉さんがそういうことした覚えが無い。

「元女神だよ、うーん……魔力で飛ぶってイメージ沸かないし……」

 試しに姉さんが魔力を使って飛ぼうとするのだが……。


 ◆


 数分後――

「む、無理っぽい……」「だよねぇ……」

 自分で言ってて結構な無茶ぶりをした気がする。


「ベルフラウ様、女神の力?というのを使ってみたらどうでしょうか?」

「そうですね。<大浄化>とか<空間転移>使った時に現れるオーラで飛べたりしません?」

 確かにあの時の姉さんは光輝いてどことなく女神様っぽい感じがする。


「うーん、やって見るだけやってみようかしら……」

 そう言うと姉さんの体が淡く発光し始める。

 そしてその光が徐々に強くなっていく。

「こ、これ大丈夫?」

「さ、さすがにちょっと怖いです……」

 レベッカもエミリアも不安そうな表情を浮かべている。


 しかし――

「「「おおー!」」」

 姉さんの体が少しずつ浮いてきてる!!


「姉さん凄い、浮いてるよ!!」

「飛行魔法とは違う気がしますが……凄いですね!」

「ベルフラウ様、すごいです!」

 僕達が姉さんがどんどん浮き上がって十メートルくらいまで浮き上がった。


 ……内緒だけど、スカートの中が丸見えなのは秘密。

 誰かが指摘するまで僕は口に出さない。


「そ、そう?私女神っぽいかしら、えへへ……♪」

 姉さんは機嫌を良くしたのか、どんどん浮き上がっていく。

 既に二十メートル近く浮き上がってる。


 ……しかし、これだけ浮き上がって飛行モンスターの餌にされないか心配だ。


 そんなことを考えていたら、急に空から影が落ちてきて――


「「「あ」」」「え?」

 上空を見上げるとそこには大きなドラゴンがいた。


「キャアァァァァ!?」

 姉さんはその姿を見て悲鳴を上げながら落ちていく。


「姉さああああん!!!」

 慌てて落下地点まで走ると、

 丁度地面まであと少しの所で姉さんを何とかキャッチした。


「あっぶなー!……姉さん大丈夫?」

「し、心臓止まるかと思った……」

 姉さん、高度上げ過ぎた上に光ってたから何処かの山に住んでたドラゴンに狙われたのだろうか。

「とりあえず無事で良かったよ」

「うん、ありがと……」


 そのまま僕達はレベッカ達の元へ戻り、改めてドラゴンを見る。

 体長は十メートルほどだろうか、黒に近い青色の鱗に覆われていて、口元からは鋭い牙が見える。

 目は金色で、ギロリとした視線が僕達を見下ろしていた。


「ベルフラウ様、ご無事でしたか」

「良かったです、色んな意味で終わったかと思いましたよ」

 二人ともこちらに声を掛けながらもドラゴンから目を離さないようにしていた。

 何かあった時に即座に対応するためだろう。


 キッズ以外のドラゴンと対峙するのはこれで三度目だけど、

 今までのドラゴンとかまた違う感じだ。


「エミリア、あのドラゴンの種類分かる?」

「いえ……私も初めて見ます」

 初めて見るドラゴンか、逃げたとしても馬車では追いつかれそうだ。

 馬車はこの場所から少し離れてるけど、巻き込まれてしまう可能性がある……。


「レイくん、どうする?戦えない相手ではないと思うけど……」


 ……少なくとも以前戦った火龍よりは小さい。

 確かに苦戦はするだろうけど、姉さんが言うように勝てない相手ではないだろう。


「そうだね、まずは情報収集しないと……」

「それならアレを使いましょうか」と言ってエミリアは魔法を使用する。


<能力透視Lv12>アナライズ


 Lv45 雷龍(中)

 HP1200 MP0 攻撃力400 物理防御275 魔法防御250

 所持技能:雷のブレスLv30 ドラゴンのツメLv20 ドラゴンの尻尾Lv15 咆哮Lv10

 所持魔法:雷魔法Lv10 その他魔法Lv5

 耐性:雷無効、状態異常半減

 補足:雷を操るドラゴン、成長すれば更に多彩な魔法を使いこなす。


 以前のエミリアの<能力透視>は以前よりも詳細な情報になっている。

 魔法のレベルが上がったのが理由だろうか。何にせよかなりのステータスだ。

 以前の火龍ほどではないけど、十分な強敵だ。


「名前も判明しました。あれは雷龍という種族のようです」

「雷龍……聞いたこと無い種類だね」


 能力透視を参考にするなら雷魔法は通用しないだろう。

 上空にいる敵を攻撃するなら最も有効な攻撃魔法なのだが仕方ない。


 しかし、僕達と雷龍はその場でにらみ合いになり……。

 数分後、雷龍は近くの山まで飛んでいった。

 そして山の中に姿を消した。


「……行っちゃったね」

「……そうですね」

 四人してその場に座り込み、ホッと息を吐く。


「まぁ……無事でよかったよ」

「ええ、そうですね」


 この場で戦闘になってしまえば近くに置いてある馬車を巻き込んでしまっただろう。

 あのレベルのドラゴン相手なら激戦は避けられない。


「しかし何度見てもドラゴンのプレッシャーは凄まじいですね……」

 そんなこと言ってるレベッカはドラゴンを何体も剥ぎ取っているわけだが。


 ドラゴンのプレッシャーに気圧されたのは僕達だけでなく、

 馬もそうだったようでしばらく興奮気味のようだった。

 そして数十分後、ようやく村に向けて出発出来た。

 そして数時間後、少しお昼を過ぎたころにようやく村に到着することが出来た。


 ◆


「やっと着いたー!」

「ふぅ……さすがに疲れましたね……」

「私はちょっと楽しかったわよ?」


 僕とレベッカは到着できたことに喜び、姉さんは何故か楽しんでいるようだ。

 僕達は村の門番に事情を話し、馬車を止めさせてもらって、そのまま村に入らせてもらった。


 この村に冒険者ギルドこそ無いものの、

 いくつかのゼロタウン認可の依頼書が村の中央広場に張られていた。

 宿はいくつかあり、そのうちの大浴場のある場所に僕達は泊まることにした。


 僕達は広い四人部屋に一泊することにして、荷物を置いて村の外に出た。


「さてと、旅の物資を整えるのが先だけど……その後どうする?」

「レベッカはドラゴン狩りに行きたいのですが」

「あ、私も雷龍と戦ってみたかったです」


 レベッカは狩り目的だろうけど、エミリアはちょっと蛮勇過ぎる気がする。

 というか今からドラゴン狩りは勘弁してほしい。あと数時間で日が暮れてしまう。


「僕はパス、姉さんは?」

「浴場に入りたいな、レイくんも来る?」

「遠慮しておくよ」


 姉さんと一緒に入りたい気はするけど、

 前みたいに熱で倒れた姉さんを担いで戻るのは勘弁したい。


「残念ー」

 本当に残念そうな顔をしている姉さんを見て少し罪悪感を感じるが仕方ない。


「じゃあ明日の朝に出るから、今日は物資だけ整えて早めに休もう」

「分かりました」

「はい」

「は~い」


 僕達は村の人に挨拶しながら旅で不足している食料などを買い込んだ。

 そしてその日は各々村の中で自由に過ごしてから休んだ。

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