第112話 突然のキャンプ
翌朝、僕達は準備を整え村を出ることにした。
お世話になっている宿の主人やミラちゃんにはもう挨拶しに行った後だ。
目的は勿論、ドグが言っていた怪しい商人の足取りを追うため。
僕達は馬小屋に預けていた馬に馬車を繋げて旅の準備を整えた。
「では行きましょうか」
そうして村を出たところで呼び止められた。
「待てぃ!!」
「え?」「あ」「……はぁ」「おお」
僕達が振り向くと、ダンジョン主であり女神のミリクさんが立っていた。
「あ、ミリクさん久しぶりです」
「久しぶり……じゃないわ!
折角来たのに儂に挨拶も無しとはどういうことじゃ!?」
「いえ、最初は何かアドバイス貰おうと思ってたんですが……」
結局、自分達でどうにか出来たので会うのを止めたのだ。
ミリク様に会いに行こうとするならわざわざダンジョン十階に潜って難関の迷宮を抜けないといけない。ただえさえ怪しい商人の足取りを追うために急がないといけないのにそんな面倒なことをする暇はない。
「ミリク様、今日はどのようなご用件で?」
「う、うむ……お主らが村に来ていたのには気付いていたのじゃが、
そのまま村を出て行きそうなことに気付いての……。
ちょっと止めに来たのじゃ、色々疑問もあるじゃろ?」
疑問……というと、ドグの事かな?
「駄……女神様、もしかして今回の件の全貌を知っていたんですか?」
「全貌というわけではないが、
あのドグという男がおかしな剣を持っていたことくらいは知っておる。
ほら、色々気になることはあるじゃろう?」
「いえ、全然?さぁレイくん達、行きましょ?」
姉さんとエミリアはそのまま馬車に乗り込んで言った。
訊く気は全く無いようだ。
「あ、ええと、ミリクさん。
挨拶できずにごめんなさい。今は少し急いでるので、またの機会に……」
僕も適当に挨拶して姉さん達の後を追った。
「ちょっ――待てぇえええええ!!」
その後、ミリクさんはレベッカと何か話した後にトボトボと帰っていった。
構ってほしかったんだろうか……。
「さぁレイくん、早く乗ってちょうだい」
「ああうん……」
こうして僕達は何事もなく旅を再開したのであった。
◆
それから僕達は遠い街『サクラタウン』を目指す。
サクラタウンはエニーサイドを南下し、大きな橋を渡ってから隣の大陸に渡り、
そこからしばらく周辺の村を経由しつつ大陸の中央部まで馬車で進む必要があるようだ。
馬車で行くなら寝泊まり含めておよそ一ヶ月以上かかるらしい。
ちなみにこの世界には飛行機のような乗り物は存在しない。移動手段は主に馬車と船だ。
今はレベッカが御者、その後に僕、エミリアと交代制だ。
姉さんも慣れるために時々御者をやってもらう予定でいる。
まだ初日のため僕達は疲労は殆どないが、
野営や近辺の村で寝泊まりしながら進むことになるだろう。
歩きよりはマシとはいえ、これほどの長旅は経験が無いので期待と同時に不安もある。
◆
初日は日の高いうちから野営の場所を準備をすることになった。
まだ次の村からは遠く、このまま進むと魔物が多い地域の為危険と判断したからだ。
「ふぅ、やっと休めるね」
僕は木陰に座りながら言う。
「そうね、少し疲れちゃったわ」
「私もですー」
馬車の中からテントを取り出し、組み立てていく。
以前のミニテントでは四人は入れないので今回は旅の為に新しいテントをエニーサイドで購入したこれなら少なくとも三人は入れるし、残りはミニテントを組み立てれば問題ないだろう。
他にも鍋や食器なども事前に購入してある。
「レイ様、薪を割ってきました」
「ありがとう、レベッカ」
レベッカが近くの木から薪を取ってきてくれた。
本当は力のある僕がやるつもりだったのだが、レベッカが気を利かせてくれたようだ。
「レイくん、水を汲んできたよー」
「こっちもです、食べられそうな果物が木に生ってました」
「二人とも、ありがとう」
水の入った皮袋を姉さんが、エミリアは籠いっぱいにフルーツを持ってくる。
この辺りは小さな森に囲まれており、その近くに小川もあるので意外と環境が良い。
「じゃあ、早速夕飯の準備を始めようか」
「「「おー!」」」
そうして、僕達は夕食を作り始めた。
「まずはスープかな」
鍋に火をかけ、野菜を切り刻んでいく。
「ねぇレベッカ、肉とかってある?」
「はい、干し肉ならありますが」
「じゃあそれを使おうか。
あとはパンとチーズがあればいいんだけど……」
「パンとチーズであれば、保存がきくものをエニーサイドで今朝買っておきましたよ」
「エミリア、ナイス!それで今日の夕食を作ろう!」「了解しました!」
こうして僕達は簡単な食事を作った。
今日作ったのは野菜のスープだ。具材は大きめに切った干し肉と玉ねぎ、人参っぽい野菜。
味付けは塩胡椒のみだが十分美味しい。
それと焼いただけのシンプルな黒パンにチーズを乗せて食べる。
「うん、おいしい」
「そうですね、というかレイも食事作れたんですね。意外です」
四人で共同生活するようになって簡単な料理は姉さんに習ったのだ。
おかげで少しくらいなら手伝えるようになった。
「レイくんが頑張って覚えてくれてお姉ちゃん嬉しかったー」
「わたくしもベルフラウ様に色々習わせていただきました」
「レベッカちゃんは元々故郷で料理を習ってたから覚えが早かったわ」
三人とも会話しながら美味しそうに食べてて嬉しいなぁ。
最後はエミリアが取ってきてくれた果物をカットしてデザートとして食べた。
全部は食べきれなかったため、残りの果物は氷魔法で冷凍保存することになった。
その日はそれで周囲に防御結界と拠点結界を張り、就寝することに。
あまり魔物が居なかったため、今回は少し見張りをしていたがすぐに四人全員眠ることが出来た。
◆
二日目――
朝食を食べ終えて、また馬車で僕達は出発した。
以前の地域と比べて少し魔物と遭遇する頻度が上がったが今の所旅は順調だ。
次の村はまだ少し遠く、明日の昼くらいに到着の予定になっている。
そして、その日も日が落ちる前に野営の準備を始めた。
昨日残った果物は氷魔法で氷漬けにして残しているがあまり日持ちしそうにない。
なんとかしたいけど……。少し考えてドライフルーツを作ることにした。
残った果物を保存食に出来れば間食としても食べられるし、旅の資金はなるべく節約したい。
そのためには食べ物の保存が必要だ。
「果物を保存するなら氷魔法使って冷やしましょうか」
「それなら、切った果物は瓶に詰めて保存すれば良いか思われます」
「でも、そのままだと腐っちゃうよね?」
「私が風魔法で空気を抜いておきましょう。その間に三人で瓶詰めしてください」
エミリアの案を採用し、姉さんとレベッカが果物を切る。
僕は切り終えた物を容器に入れて蓋をし、風魔法を使って中の空気を抜く。
こういう形で風魔法を応用するとは思わなかったが、
<初歩魔法>にこのような使い方の魔法があるらしい。
「レイも魔法の使い方上手くなりましたねぇ」「そ、そう?」
その間、エミリアと姉さんは乾燥させる為、果物を布を敷いた天板に乗せて温めることにした。
その後に火を止め僕は果物を取り出し、粗熱を取るために皿に並べて置いておく。
「これって何になるのかな?楽しみだね」
「さすがにこのままじゃ食べられないし、
干しブドウみたいなものになればいいんだけど……」
「ブドウってなんですか?」
「えっとね、僕の居た世界の果物だよ。
この世界にも似たようなものあったと思う」
「へぇー……」
そんな話をしているうちに、
果物の水分も抜けてきたので僕達はそれを一口味見してみた。
「ん、おいしい!」「本当ですね」「これはいけます!」
干し葡萄より少し甘みは少ない気がするが十分に美味しい。
「じゃあこれを干しちゃおうか」
「えぇ、そうしましょう」
こうして僕達は干し果物を完成させた。
戦闘ばかりだったからこういうことに頭使うのは新鮮だ。
旅をすることになって色々大変だけど、四人ならきっと楽しいと思う。
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