第109話 聞き込み中

 翌日――


「それじゃあ別れて情報収集しよう」

 僕達は商人が来ていないか確認するため、二手に分かれて行動することにした。

 と言っても、まずは例の怪しい商人が村に来ていないかどうかの確認だけど。


「それではこう分けましょう」

 レベッカの提案により、僕とレベッカ、姉さん、エミリアの組み合わせで村を回る事になった。


「それではまずは雑貨屋に行きたいと思います」

 レベッカは何故か張り切っていた。

 村の中を歩くこと数分、目的の雑貨屋の前まで来た。


「こんにちはー」

 扉を開けると店内には数人の客がいた。


「おお、確か君たちは……」

 エニーサイドで滞在していた時に、時折来ていたお店だ。

「お久しぶりです、今日はお聞きしたことがありまして……」


 それから数分、僕達は怪しい武器を売っている商人を見なかったか尋ねた。

「ふむぅ……済まないが、そのような人は知らないねぇ」

 お店の主人は申し訳なさそうに答えた。


「そうでございますか……」

 僕達は他に来ていたお客さんにも尋ねたのだが、やはり心当たりは無いようだ。

 僕達二人は雑貨屋を出た。


「ここに情報は無かったね」

「それでは、次は武器屋に向かいます」

 それからまた数分ほど歩き、目的の場所に着いた。

「こんにちは」

 中に入ると一人の男が座っており、その奥に武器が飾られていた。


「おう、お前らは……誰だ?」

 男は僕達を見るとそう言った。ちなみに僕達も同じ感想だ。

「あれ?確かエニーサイドには別の商人の方が居ませんでした?」


 前に僕がドラゴンの素材で装備を作ってくれと頼んだら断られたのだが、

 店に居たのは別の人だった。


「ああ、前の店の奴か?

 自分で作った武器が売れなくなったから店を畳んだらしいぞ」

 ……あーうん、なんか凄く納得できた。


「それで新しい店を構えたってわけさ」

 なるほど、つまりここがあの人のお店で間違いないみたいだ。

「あの……実は少し気になることがありまして、

 教えて欲しいことがあるのですが……」

 レベッカが尋ねると、店主は笑いながら答えた。


「ほう、なんだ?言ってみな」

 レベッカはその言葉を聞いて一瞬迷ったようだったが、意を決して質問をした。

「……この村に、貴方以外に武器や防具を扱っている商人の方はいますか?」


「…………」

 沈黙が流れた。

 もしかしたら不快な意味に取られたのかもしれない。


「……おい嬢ちゃん、それはどういう意味だ?」

 店主は若干ドスの聞いた声で言った。


「それは……」

 レベッカは気圧されそうになりながらも言葉を続けようとしたが、僕が遮った。


「レイ様……」

「大丈夫、僕が言うよ」

 僕は店主の威圧に負けないようにレベッカの言葉を引き継いだ。


「僕達は、とある旅の怪しい商人を行方を追っています」

 僕は以前に拾った黒い剣の柄部分を店主に見せた。

「何だこりゃあ?」

「この柄には、真っ黒い剣身が付いていました、そんな剣に覚えはありませんか?」

 僕の問い掛けに、店主は顎に手を当てて考え込んだ。


「うーん、こんなもん見たこともねえな」

 やっぱり知らないか……。

 いや、この人が最近来た旅商人である可能性も否定できない。さっきの態度も元々の性格かそれとも探られてるのを警戒してるのか僕達には判別が付いていない。


「でもよぉ、それがどうかしたのか?」

「貴方が作ったか、あるいは売った武器では無いのですね?」

「当たり前だろ!それに黒い剣身なんて聞いたことも無い。

 染めれば出来なくもねぇが普通は斬ったりすると塗装が剥げちまうよ」


 やはり違うのか……。

 なら一体誰が作ったと言うんだろう。

 僕としては武器屋の可能性が一番高いと思ってたんだけど……。


「他に何かあるか?」

「いえ、ありがとうございました」

 僕達は店を出た。


「ここで店を構えてる可能性があると思ったんだけど……」

「旅の商人という話ですし、もうエニーサイドには居ない可能性も考えられますね」

 僕達は二人してため息をついた。


 ここは冒険者の数こそゼロタウンより少ないが、ダンジョン攻略を志す意識の高い冒険者も多い。

 アムトさんの話では怪しい商人はこのエニーサイドに向かうと言っていた。もしその商人の目的が金目当てであるなら、似たような剣をここで売りさばいていてもおかしくないと思っていたのだけど……今の所それらしい情報は無い。


 仮にもし売られていたとしたら、

 その剣の正体を考えると騒ぎになってもおかしくない。

(なんせ正体は魔物だからな……)


 だがそうなると、ますます怪しい。

「次に行く場所はどうするのですか?」

「そうだね……まだ日も高いけど、最後に酒場に行って聞いてみよう」


 僕達は先ほどの雑貨屋と同じ方向に歩いて行き、目的地に着いた。

 中に入ると夕方ということもあって人は少なかった。

「あ、レイくん、いらっしゃーい」

「うん、こんにちはミラちゃん」「むっ……」


 カウンター席に座っていたミラちゃんに声をかけられた。

 彼女は客が居ないとお皿やグラス拭いていたりする。


「今日は何にする?エールで良いかな?」

「うん、お願い」

「わたくしはお酒を飲みに来たのではありません」

「えー、いいじゃん別にー」

「駄目です、今は情報収集の時間です」

 レベッカがちょっと不機嫌だ……。


「それで、何を聞きたいの?」

「実は……」

 僕達が事情を話すと、ミラちゃんは首を傾げた。


「うーん……そんな人居たかなぁ?特に見たことなかったような」

「そっか……じゃあ次はどこに向かおうか……」

 僕が悩んでいると、ミラちゃんが思い出したように言った。


「あ……ちょっと前に変なお爺さんが剣を売りに来てたって話は聞いたかも」

「本当!?」

「う、うん……それで冒険者の人が剣を買ったって話だけど……」

 僕はレベッカと顔を見合わせた。


「……その変なお爺さんと買った人の名前って分かる?」

「ううん、その人は直接会ったことがないし名前も分からない。

 ただ、他に見た人もいないっぽいから村を出たんじゃないかな?」

 そうか……ここまで来て足取りを掴めないとは……。


「でも冒険者の名前は知ってるよ?ドグっていう名前だったと思う」

「ドグ?」

「うん、中年くらいのおじさん剣士だったと思う。

 買った日にこの酒場で自慢してたから覚えてるよ」

「ミラ様、それって何日前のお話ですか?」

 ミラちゃんはうーん、と頭を悩ませながら言った。


「三日くらい前かなぁ……?」

 これは良い情報かもしれない。

 その冒険者に会えば少しは分かるかも……!


「分かりました、ありがとうございます!」

「ありがとう、ミラちゃん!」

 僕達はそれを聞いて酒場を出ようとする。


「え、もう行くの?」

「はい、また来ますね!」「またね!」

 僕達は店を出て、来た道を引き返した。


「ドグという名前の冒険者が居るようですね」

「うん、これで一歩前進だね」

 僕達は情報収集はこの辺りにして、宿に戻った。

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