第108話 同衾の意味を述べよ
ゴブリン達の襲撃を退け、僕達はまた馬車を走らせる。
エニーサイドまであと六時間程度走らせればもう着くはずだ。
そう思っていたのだが――
「えっと……途中で道を間違えたのでしょうか?」
「地図を見る限り、目的地までは合っていますが……」
再出発してから二時間後、順調に進んでいたはずだったのだが、途中で道を間違えてしまい現在迷っている。
幸いにも日はまだ高い位置にあるため、今日中に着けないことはないだろうが……。
そこで僕達と別方向へ向かう馬車が通りかかった。
僕は馬車から顔を出して聞こえるように大きな声で呼びかけた。
「すいませーん!この先の道ってエニーサイドに続いていますかーー!?」
すると向こうからも大きめの声で返事が返ってきた。
「おう坊主共、こっちに向かってくるなんて珍しいな。
俺らはエニーサイドに向かう商人だぜ。
ちなみにお前らが向かってるのは逆方向だぞ」
どうやら僕らは運悪く正反対の方向に進んでしまったようだ。
「そ、そうだったんですね……!」
「レイ様がお声を掛けてくださって助かりましたね……」
レベッカがホッとした様子で言った。
「本当にありがとうございます」
「いやいや、困った時はお互い様だ。気にすんなよ!」
僕達が頭を下げると、商人の男性は笑顔で手を振って去って行った。
「よし、それじゃあ今度は正しい方向へ進もう!」
「そうですね」「はい!」
それからしばらくして、
僕達は無事に目的地である『エニーサイド』へ到着した。
既に時間は遅く夕日はとっくに落ちていた。
相変わらずこの村は冒険者が多かったが、今はそれより早く宿を取らないと。
僕達は村の中心にある宿屋へと向かった。
「すみません、部屋空いてますか?」
「はいよ、個室は全部埋まってるから、四人部屋一つで大丈夫かい?」
「はい、お願いします」
「あいよ、大銀貨四枚だよ」
僕達はお金を払って鍵を受け取り、部屋に向かった。
「ふぅ……」
二日の馬車の旅だったけど、
なんとか野営せずにようやく落ち着ける場所に着いた。
「それにしても意外でしたね」とエミリアが言った。
「え、何が?」
僕がそう言うと、姉さんとレベッカとエミリアが困った顔をした。
「んん?」
僕は未だに状況が飲み込めてない。
「いえ、四人部屋と言われてレイが迷わず決めたことにです」
エミリアは少し困った顔をしながら笑って言った。
「……あ」
今更気付いた。男一人女三人なのに普通に同室にしてしまった。
「まぁ長い付き合いですし、別に構いませんけど」
「私はお姉ちゃんだから元々気にしないよ」
「そうでございますね、
そもそもレベッカはレイ様と何度か同衾しておりますから」
言い方。
「ちょっ、言い方!語弊があるから!」
「……?レベッカ、間違っておりましたか?」
「<同衾>の意味って何でしたっけ、ベルフラウ?」
「ええとね、確か男女が同じ部屋に寝ることだと思うよ」
「はい、その通りでございます」
「いや正解じゃないから!それだと僕の貞操観念がおかしいみたいじゃないか!!」
「まぁ確かに、レイは私達のこと大好きですよね」
「それはもう、お慕い申し上げておりますとも」
「うん、そうだよね~♪」
「くぅ……」
否定できない自分が憎らしい……!!
「ところで夕食はどうする?」
これ以上話題を逸らすのも限界なので、僕は話を切り替えることにした。
「うーん、この時間だと宿の食事はもう出してくれないと思うわ」
となると……
◆
「いらっしゃーい!……あ、レイくん!!」
「うん、久しぶりだねミラちゃん」
僕達は以前お世話になっていた酒場で食事を取ることにした。
相変わらずミライさんの妹さんのミラちゃんはこの酒場でバイトをしているようだ。
「久しぶりー!!またダンジョン攻略に来たの?」
「ううん、今回は別件で……少ししたらまた元の街に帰ると思う」
「そっかー残念だなー……」
「あはは、ごめんね。ところでテーブル空いてる?」
「うん、奥の方開いてるから座っててね、私はちょっと忙しいからいけないかもだけど」
「了解、ありがとう」
僕達は店の奥へと進み席についた。
店内には何人かの冒険者達がいたが、
僕達にはあまり関心が無いのか特に絡んでくることは無かった。
「食事は……あ、何かお任せってメニューが追加されてるね」
「へぇ、前はありませんでしたね。試しに四人分頼んでみましょうか」
エミリアが席に着くなり四人分のオーダーを取った。
「それで、この後はどういたしますか?」
注文が来るまでの間、暇になったエミリアが僕に話しかけてきた。
「うーん、とりあえず今日は疲れたからもう休もうかな。
明日は四人で例の怪しい商人が来てないか情報収集、
もしまだ居たら引き留めて問い詰めないとね」
「了解です」「おっけー」「分かりました」
三人が僕の言葉に反応し、各々返事をした。
「ところでレイ様」
「ん?どうしたのレベッカ?」
レベッカは何故か隣の席の僕にくっつきながら言った。
「相変わらずミラ様と仲が宜しいですね」
「え、ああ、うん、そうだね……え?そう?」
僕もよく分からない返事をしてしまった。
「ねぇ、エミリア、そんなに仲良さそうに見えた?」
「いえ、そこまでは見えなかったですが」
一応、この村では年も近いし親しい方なのは間違いないけど。
「むっ……そうですか……」
レベッカは何かを考えて言った。
「わたくし、皆さまとお会いしてからもう半年を過ぎていると思うのですが、
ミラ様ほどすぐ打ち解けて無いように思いまして……」
レベッカの場合、言葉がずっと固いからそう感じなくはないが……。
「僕からすると結構前から仲良くなってると思うよ」
最近は言われてないけど、以前は二人きりだと『お兄様』とか呼ばれたりしてたし。
というか最近呼ばれてないから呼んでほしい。
「言葉が固いという点では私も似たようなものですが、
レベッカとは十分打ち解けてると思いますよ?」
エミリアも「です」「ます」口調なのでちょっとレベッカと似た部分はある。
「私はレベッカちゃんの事ずっと可愛いと思ってるし、
そういう口調が固いところも好きよ?」
姉さんはまぁ姉さんだし。
「そ、そうですか……」
レベッカは少ししょんぼりしている。
――そう言えば、最近僕もレベッカに対して少し対応が違ってた気がする。
以前は本当に妹のように可愛がってたけど、
ある出来事から妹扱いをあんまりしてなかった。
「………」
僕は無言でレベッカの頭を撫でた。
レベッカに告白された頃からむやみなスキンシップは避けてたけど、
もしそれで距離を感じさせてしまってたら僕の責任だ。
「……!……♪」
レベッカは一瞬驚いたようだったが、
すぐに笑顔になり僕の手を自分の頭に乗せていた。
……いいか、今はこういう関係で。
僕とレベッカのやり取りを見ていた二人はそれぞれ違う表情をしていた。
姉さんはニコニコしながら僕達を眺めていて、エミリアは微笑ましそうな顔をしていた。
◆
それからしばらくして、料理が出来上がりテーブルの上に並んだ。
「お待たせしました、こちらオーク肉と野菜のスープになります」
………ん?
「あの、ここって魔物料理メニューってありましたっけ?」
以前ダンジョン攻略で来てた時はまだそんなメニュー無かったと思う。
「あーこれ?ちょっと前に新しいメニューが追加されたんだよねー」
ミラちゃんが厨房の方から顔を出して答えてくれた。
「へぇー……あ、美味しい!」
一口飲んでみると、確かに前より格段に美味しくなっていた。
「本当だ、美味しい……」
つい最近オーク三十体くらい倒したけど、こんなに美味しいとは思わなかった。
「今度オーク倒すときは解体して持って帰りましょうか」
このパーティ時々発想が猟奇的になるから怖い。
――その日の寝る前のお話。
「お兄様、久しぶりに同衾しましょう」
久しぶりに頭を撫でられて嬉しかったのか、レベッカが誘いを掛けてきた。
ちなみにここは四人部屋である。
当然のようにレベッカの言葉はエミリアと姉さんにも聞こえている。
「言い方」
お兄様呼びで同衾ってのがもうヤバい。
「レイ君、私の事は気にしないで良いのよ?」
何言ってるの姉さん。
「レイ、今日はもう遅いですし、早く休みましょう」
エミリアもおかしい。
「……まぁ、きょ、今日だけだよ」
僕が了承すると、レベッカはパァっと明るい笑顔になった。
下手にデレデレすると二人にからかわれそうなので僕はいつもより顔がこわばっている。
「それではお兄様、失礼します」
レベッカはそう言うとベッドに潜り込んできた。
そして僕を後ろから抱きしめるように腕を回してきた。
「えへへー」
幸せそうに笑うレベッカに僕は何も言えないまま朝まで過ごした。
が、我慢我慢……!!
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