第110話 煽り耐性

――夕方頃、宿にて

 僕達はそれぞれ得た情報を共有し合っていた。


「――僕とレベッカが集めた情報はこれくらいだよ」

 ちなみに姉さんとレベッカは疲れたのでベッドで休んでいる。

 今起きてるのは僕とエミリアだけだ。


「では次はこちらが集めた情報ですね」


 今度は僕達がエミリアと姉さんが集めた情報を聞く。

 二人とも得られた情報はそこまで多くは無かった。

 しかしそれでも収穫が無いわけじゃない。

 まず、怪しい商人の情報だ。

 この村を出たのを住民が目撃したのを確認したそうだ。


「顔を見たわけでは無いらしいのですが、

 背中に重そうな武器を何本か背負っていてそのうち一本は黒塗りの剣だったそうです」


「なるほど……確かにそれは怪しい……」

 黒い剣身を持つ剣なんてまず見ることは無いだろう。

 もし本当に住民がその剣を目撃したのであれば、

 僕らが捜している商人の可能性は高い。


「レイ達の話によると黒い剣というのは非常に珍しいらしいですからね。被るのも考えにくいです」

 次に、その商人はドグという冒険者に接触している。


「その商人が一人の冒険者に剣を売ったことは私たちも訊いています」

 エミリア達の情報では「ドグ」という名前までは分からなかったようだが、

 おそらく同一人物だろう。

「私達が聞いた情報だと、その冒険者は一人でダンジョンへ向かい、

 その後に何故か武器を無くして戻ってきたそうです」


「え、どうして?」

「さあ?詳しい事は分からないようです」

 その冒険者にも何かあったのか?

 まあとにかく、そのドグという冒険者と接触すれば色々とわかるはずだ。


「ミラちゃんの話ではその冒険者は酒場で剣を自慢してたらしいけど……」

「……ふむ、今は酒場が繁盛する時間帯ですね」

「……行ってみるしかないか」

 僕達は宿屋を出ると酒場に向かった。

 ……酒場に着くと、ミラちゃんが出迎えてくれた。


「あ、今日はどうしたの?レイくん達もお酒飲む?

 良いお酒が手に入ったってマスターが言ってたよ」

「いや、そういう訳じゃ無いんだけど

 ……例のドグって冒険者って今来てる?」


「ああ、あのおじさんのことかぁ……ええと、来てるよ?ただ……」

「ただ……?」

 ミラちゃんはカウンターの一番端の方を指さして言った。


「あの人だけど、滅茶苦茶お酒に酔ってるよ?話になるかなぁ?」

 ……そこには顔を真っ赤にした中年男性の姿があった。


「あれがドグ?」

「うん、多分」

「お酒を飲んでいるのでしょうか?」

「……とりあえず話しかけてみましょう」

 僕達はドグさんの元へ歩み寄ると、声をかけた。


「すみません、ドグさんですか?」

 すると、ドグさんはこちらを見て言った。

「あぁ!?何だおめぇは?」

 うわっ、すっごい酒臭い……。


「実は貴方に用があるんです。

 少し話を聞かせてくれませんか?」

「うるせぇな!俺はまだ飲み足りねぇんだよ!

 ガキ共はミルクでも飲んでやがれ!」

 そう言ってドグはこっちを無視して酒を飲み始めた。


「仕方ない、少し痛い目を見せてやりますか」

 エミリアは男に杖を構える。


「いや、待った待った!!」

 僕はエミリアを後ろから軽く腕を制して止める。


「な、何で止めるんですか!こんな奴、懲らしめてやるんですよ!」

「落ち着きなって!こういう時はまずは話し合いでしょ?」

「……分かりました」

 エミリアは渋々と言った様子で杖を下ろす。


「あのドグさん、すいませんが話を聞いてもらえないでしょうか?」

 僕はなるべく穏便に柔らかい口調で話し掛けた。

「うっせぇ!モヤシ!ママのおっぱいでも吸ってろ!」

「……」


 僕は無言で剣を抜こうとしたがエミリアに羽交い締めにされた。


「ちょっ!落ち着いてください、レイ!!」

「止めないでエミリア!いくら何でもこの罵倒は酷すぎでしょ!」

 その後、僕達はミラちゃんに怒られて酒場を出た。


「あの酔っ払い、本当もう……!」

「まぁ出直しましょうか……」

 僕達は今日の所は宿に戻ることにした。


 ――次の日の朝

「今日も酒場に行くんですか?」

「うん、あの酔っ払い……じゃなくてドグさんから話を聞かないと」

 といっても、正直まともに話を聞いてくれるイメージが沸かない。


「おはようございます、お二人とも」

「おはよう二人ともー昨日は早く寝ちゃってごめんねー」

 姉さんとレベッカの二人も朝食に降りてきた。

「おはようー」「おはようございますー」


 そうして僕達四人は朝食に付く。

 朝食の間二人にも昨日の情報を共有した。


「――なるほど、それでドグ様という方から情報を貰おうと言う事なんですね」

「そういうこと。だから二人は今日一日付き合ってもらうよ」

 本当は悪酔いしてそうなあの男の前に二人を連れて行きたくないけど仕方ない。


「良いけど……どうやって聞き出すの?」

「それは……」

 考えてなかった。


「普通に聞いても答えてくれなさそうだよねー」

「……確かに」

「ふむ、わたくしの魔法でもしかしたら答えてくださるかも……?」

「え?そんなことも出来るの?」

 レベッカは精神系の魔法はあまり得意じゃなかったと思うのだけど……。


「はい、と言ってもかなり人を選ぶ魔法なので効くかどうかはやってみないと分かりません」

 何だろう?レベッカの魔法で人によって成否が変わる魔法?


「あー、そういうことですか」「はい、エミリア様」

 エミリアは見当が付いたみたいだけど……

「それなら、お姉ちゃんもその人に効果ありそうな魔法使えそう」

「姉さんも?……あ、確かに」


 というわけで、今回は姉さんとレベッカ二人でドグの相手をすることになった。

「お任せください。必ず情報を聞き出して見せます」

「うん、私も頑張るよ!」


 ……本当に大丈夫だろうか?

 僕とエミリアは心配しながら二人の様子を見守る事にした。

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