第105話 言われるまで気付かなかった
僕達はアムトさんが監禁されている牢へ向かい話をさせてもらうことになった。
しかし、アムトさん自身今回の事件が信じられないらしく茫然自失といった状態だった。
「アムトさん」「……」
話しかけても反応が返ってこない。
剣に操られてた時と違って目に生気はある。しかし、精神がやや不安定のようだ。
「アムトさん!!」
僕は少し強めの口調で言った。
「……ああ、何かな」
良かった。ちゃんと反応はあった。
「今回の事件のことを詳しく訊かせてもらえないでしょうか?」「……」
「お願いします」
「……分かった」
それから僕は事件の経緯と詳細を話し始めた。
それによると、シフさんを含めた四人でパーティを組んで冒険者活動をしていた。
そして、色々な依頼をこなして自信が付いてきた所で、少し高難易度な依頼を受けたそうだ。
「その依頼は何だったのですか?」
「<ドラゴン>討伐の依頼だ」
「えっ!?」
予想外の単語が出てきてつい驚いてしまった。
「そんなに驚くことかね?」
「い、いえ、すみません。続けてください」
「……それで、我々は失敗した……今思えば当然だ。腕に自信があったとしても私は新人だ。
僕達はドラゴンに為す術もなく負けてしまい、ゼロタウンに戻って失敗の報告をしたとき周囲の冒険者から笑われたよ……」
冒険者がドラゴン討伐を目指すのは珍しい話ではない。
中には<ドラゴンスレイヤー>なんて称号が欲しいために一人で討伐に向かい、
散った冒険者の話をたくさん聞いている。
「それでも全員無事に帰ってきたんでしょう?」
「そうだ、だが私は恥ずかしかった。私が身の丈を考えず<ドラゴン>討伐の依頼を受けて、挙句私のせいで仲間たちに恥をかかせてしまった。
私の力がないせいで……だから私は!!」
アムトさんは話すたびに声が大きくなっていき、最後は牢屋を腕で叩き始めた。
周りの警備兵が何事かとこちらへ向かってきている。
「ちょっと落ち着いて下さい!」
「うるさい!! こんな弱い自分が嫌なんだ!!!」
警備の人が騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた。
このままだと騒ぎになって話どころじゃなくなる。
「どうした!?何があった!」
「い、いえ……ちょっと興奮気味なようで……」
「私をここから出せぇ!!!仲間に謝罪しなければ!!!!」
アムトさんは更に興奮して暴れ始める。
このままではまずいかもしれない。
「おい!大人しくしろ!これ以上騒ぐなら拘束するぞ!」
警備兵が無理やり押さえつけようとする。
「止めろぉおおおお!!!」
しかし、それを振りほどこうと必死に抵抗する。剣に操られているわけではないが、おそらく自身が起こしてしまった事件に罪悪感を感じて自分を責め続けているのだろう。
この状態ではまともに会話ができるとは思えない。
「姉さん、お願い」
「分かった
姉さんの魔法がアムトさんに発動する。
<沈静化>は対象の怒りを鎮め、冷静にさせることが出来る魔法だ。
効果量が強ければ<ドラゴン>の逆鱗すらも沈静化させることが出来る。
「あ……」
しばらくすると、落ち着いたのか静かになった。
「迷惑かけて申し訳ありません」
「びっくりしたよ、今度何かあったら呼んでくれよ」
アムトさんが冷静になったため、警備の人達は元の配置へ戻っていった。
「それで、もう大丈夫ですか?アムトさん?」
「ああ、すまない……罪の意識で自分を追い込んでいたらしい」
アムトさんは姉さんの魔法ですっかり落ち着いたようだ。
この魔法凄いな。
「それで話の続きを聞かせてほしいのだけど」
「ああわかった。<ドラゴン>討伐失敗まで話したかな?」
それから冷静になったアムトさんから僕達は話を聞いた。
高難易度の依頼に失敗して周りから嘲笑され精神的に折れ掛かっていたアムトさんは失意の中、怪しい商人に声を掛けられたらしい。
アムトさんはその商人にこう言われたそうだ。
『この剣があれば貴方は如何なる敵も打ち倒せる勇者となる。
多少の汚名など成果で流せば良い。そうすれば誰からも信頼される冒険者となるでしょう』
当然、本来のアムトさんはこんな怪しい文言に騙されるわけは無かった。
しかし、さっきのように自分を責め続けていた彼は冷静な状態ではなく、
商人の言葉を信用してしまったらしい。
そして、剣を手に取り、操られるように仲間を襲ったそうだ。
「あの時、仲間を傷つけて正気に戻った時、自分の愚かさを呪った……
何故、あんな怪しげな言葉を信じてしまったんだろうってね」
その商人は黒装束に仮面を付けており、素顔は分からなかったそうだ。
「その商人は他に何か言ってましたか?」
「ああ、確かエニーサイドに向かうと……
知ってるかな?あの村は今ダンジョンで持ち切りだそうだ」
エニーサイド、もちろん知っている。
そのダンジョンを踏破したのは他でもない僕達なのだから。
◆
その後、僕たちは宿に戻り、話し合った。
「結局、あの剣は魔物だったということでしょうか?」
「多分ね……僕らが以前に遭遇した黒い球体の魔物と同じ存在、あれが剣に化けていたんだろう」
僕がそう言うと、レベッカが手を挙げた。
「レイ様、その黒い球体の魔物というのは?」
忘れていた。
その時はまだレベッカとは出会ってもいなかった頃の話だ。
「レベッカちゃん、実はね……」
◆
「人に寄生し、不死の呪いを掛ける魔物ですか……」
僕達三人は以前廃鉱山で出会った魔物のことをレベッカに話した。
「以前私達が戦った時は取り付いていた人間にどう攻撃をしても倒すことが出来ませんでした」
あの時は、僕とエミリアが取り付いた人間を必死で止めて、最終的には僕が胸に剣を突き刺して床に張り付けてエミリアが氷魔法で完全に凍結させて、そこから這い出てきた寄生体を姉さんの<浄化>で消してようやく消滅させることが出来た。
もしあの時に姉さんがいなければ、どうなっていたことか……。
「それにしても、妙な共通点がありますね」
共通点?
「レベッカ、何の話?」
「いえ、<黒い魔物>というのが引っかかりまして……気付きませんか?」
「レベッカ、何が言いたいのですか?」
「ですから……。
<魔王の影>とその<黒い球体>の魔物と類似点があるのでは?
と私は思いまして……」
・・・・・・・・・・・・
「えっ!?」「あっ……」「確かに……」
確かに言われてみるとそうだ。
どちらも人の命を奪うことに躊躇が無いし、何よりその外見だ。
<魔王の影>は今まで二度遭遇していて、どちらも姿が違ったが黒い魔物だった。
そして今回遭遇した<黒い球体>も同じく黒い魔物だ。言われるまで思いつかなかったけど……。
「わ、私も気が付かなかったわ……」
「ということは以前私たちが遭遇した<黒い球体>も<魔王の影>だったということですか……」
思えば、あの時も近くに<レッサーデーモン>がいた。
そして少し前に<魔王の影>と遭遇した時も、同じく<レーサーデーモン>と遭遇した時だ。
「あの時のデーモンも魔王の部下だったと考えると辻褄が合いますね……」
何にせよレベッカの言葉でようやく気付くことが出来た。
「ありがとうレベッカ!」
「そ、そうですか?お役に立てて何よりでございます」
レベッカは困惑してたが、それは置いておいて今後の方針を考えないと。
「レイくん、アムトさんは例の商人はエニーサイドへ向かうと言ってたのよね?」
「うん、ただそれも数日前の話だから今もいるとは限らないけど」
とはいえ、明らかに怪しい存在だ。
最初は怪しいアイテムを売りつける悪徳商人かと思ってたけど、
今回の件が<魔王の影>に関わると分かった今放置は出来ない。
それに仮にもう居なくてもあの村にはミリクさんがいる。
何かアドバイスを貰えるかもしれない。
「明日はエニーサイドへ行ってみよう」
「そうですね、早いうちに行くべきでしょう」
ということで明日は馬車で再びエニーサイドに向かうこととなった。
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