第104話 懐かしいボス

 僕は倒れている男の元へ近づき、生死を確認した。

「死んではいないけど、気絶しているみたいだね。とりあえず拘束しようか」

「そうですね、レイ様」

 それからすぐにギルドの職員達が駆けつけてきた。その中の一人にミライさんも同行していた。

 職員達は男を縄で縛り上げて連行していった。その際に姉さんは男に回復魔法を使用し、レベッカの矢も取り除いておいた。これで死ぬことは無いだろう。


「ありがとうございます、レイさん」

「いえ、ミライさん、それでこの剣なのですが……」

 僕は姉さんの植物操作で絡めとった剣を見ながら今さっきの出来事を話した。


 ◆


「剣が人間を操っていたと、そう言われるのですか?」

「はい、間違いありません」

 さっきもこの不気味な剣を手放した途端に男は倒れた。


 エミリアが言うにはさっきの男は本来あそこまで強力な魔法使いでは無かったらしい。剣が人を操り、理性を奪い、身体能力や魔力を強化していたのは疑いようは無いだろう。以前のように消えられても困るし、どういう条件下で人を操るのか不明なので姉さんの<植物操作>で縛って触れないようにしている。


「その剣は一体どこから現れたのでしょうか?」

「最初に操られていたアムトさんの仲間の女性に聞いたのですが、

 どこかの旅商人から買ったものだそうです」


「……旅商人?……ふむ、では聞き出す必要がありそうですね。

 剣はどうしましょうか?」


「一応、僕達が預かります。もし何かあったらいけないので」

「わかりました。ではお願いしま………あの、レイさん?」

 ミライさんは途中で言葉を切って、困惑した表情をしながら剣が絡めとられている方を指さした。

 そこには何やらもぞもぞ動いているものがあった。


「……なんだあれ?」


 見ると動いてるのはさっきの不気味な剣だ。いやな予感がする。


「姉さん!<大浄化>お願い!!」「わ、分かった!」


 姉さんは通常とは違うオーラを纏い詠唱を始めた。

 僕は念のため剣を構える。あの剣、もしかしたら正体は剣に擬態した魔物かもしれない。

 エミリアとレベッカも念のため杖と弓を構える。その様子にミライさんが困惑した。


「あ、あの、どういうことですか?レイさん?」

「ミライ様、もしかしたら<パンドラの箱>や<呪いの書>のような危険な魔物の疑いがあります」

「え!?」


 剣を中心に禍々しい黒いオーラが渦巻き始めた。

 そして、剣に絡みついていた蔦は枯れ果て、剣から黒い煙のようなものが噴出し始めた。

 剣は形を変え始めて、黒い球体へと変化した。


(こいつ……どこかで見たような)


 ――思い出した!僕が初めて異世界に来た時、廃鉱山で出会った魔物だ!

 禍々しいオーラと見た目がその時人間に取り付いていた魔物と瓜二つだった。


「あの時、人間を不死していたスライムの核のような魔物ですね……」

 エミリアも当時のことを思いだしたらしい。


「レイさん!早く倒して下さい!」

「分かっています!」


 とはいえ、あの魔物に近づくと今度は人間を直接取り込もうとする可能性がある。


「あの時のように凍らせてみましょうか<中級凍結魔法>ダイアモンドダスト!」

 エミリアが黒い球体目掛けて氷魔法を発動させる。僕も習って同じく氷魔法を使用する。

 黒い球体は魔法によって凍り付き、動きを止めた。


「……よし、あとは……」


 丁度良いタイミングで姉さんの魔法が発動する。


『女神の力を以って、悪しき存在を断罪する―――――<大浄化>』

 姉さんの魔法により、黒い球体は光でかき消され、

 光が止んだ後には剣の柄の部分だけが残されていた。


 ◆


 僕は残った剣の柄を拾い上げて鞄にしまった。

 念のためエミリアと姉さんに<鑑定>チェック<解呪>カースディスペルの魔法を使ってもらったが、柄は普通の柄だった。

 これを持って帰って最初に操られたアムトさんに訊いてみよう。


「結局なんだったんでしょうね?」

 ミライさんは終始困惑していたが、あっさり解決して良かった。


「さぁ、でもこれで終わりだと思います」


<パンドラの箱>や<呪いの書>のような強力な魔物では無かったが、

 あの魔物は近くの人に取り付いて人間を不死の魔物に変えて操る能力がある。

 もし僕達がその存在を知らずに安易に近づいたら取り込まれていただろう。


「ところでレイさん、さっきの方はどうされるんですか?」

「そうですね。今頃はギルドの方で取り調べを受けているでしょうし、

 落ち着いたら話を聞きに行きます」


「そうですか、分かりました」

 僕達はミライさんと一緒にゼロタウンへ帰宅し、

 依頼を済ませて少し時間が経ってから二人に面会へ向かった。


 ◆


 僕達はまず最初にとんがり帽子を被った方と面会をした。

 先ほどの怪我で男の人は包帯だらけだったが、見た目よりは元気そうだった。


「私はマルテと言います。この度はご迷惑をおかけしました」

 男はそう言って頭を下げた。どうやら素直に謝ってくれるようだ。


「いえ、気にしないでください。それよりも事情を教えてくれませんか?」

「はい、実は――」

 男はぽつりぽつりと話し出した。

 彼も最初は普通に冒険者としてソロで依頼を受けていたようだ。


 そして、その帰り道に、


「誰かに呼ばれたような声がして、そちらに向かったんです」

 声の主には覚えがなかったのに何故か疑問に思うことはなく、意識が曖昧になりフラフラと歩いていき、行きついた先に剣が地面に突き刺さっていた。それを見て正気を取り戻したそうだ。


「それで、その剣を貴方は手にしたと?」

「はい、私は魔法使いですが、魔道具の研究をしていまして……。

 この剣は物凄い魔力が込められていたのが分かったんです」


 それで研究の為に手に取ってしまい、そこで意識が途絶えたらしい。


「気が付いたら私は全身傷だらけで、

 酷い筋肉痛と魔力不足で体がろくに動かなくて……

 もうこりごりですよ……」


「あはは……ご愁傷様です」

 あれだけ僕の攻撃を受けて魔法も撃ちまくってたんだから仕方ない。


「しかし、皆さんの話を聞いていると僕は凄い魔法を使っていたらしいですね!

 魔法使いとして僕は二流だの三流だの散々言われてたのに!そう思うと何故か気分が良いです!」


「えーっと、はい、まぁ、そうですね」

  本人は今まで馬鹿にされてきた反動なのかとても上機嫌だった。


「それで、私の処遇はどうなるんでしょうか?

 まさかこのまま放逐なんてことはないですよね?」


「いえ、今回の件が魔物の仕業だと認められれば大丈夫だと思います」

 幸いなことに、マルテさんは早期に僕達が止めたおかげで周囲に被害は出ていなかった。おそらく冒険者ギルドからペナルティや罰金などはあるだろうが、追放とまではならないだろう。


 マルテさんには色々訊かれたがこっちが知りたい情報は大体聞くことが出来た。

 まだマルテさんは話をしたがってたが、切り上げてもう一人の方へ向かった。

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