第103話 再戦?
次の日、朝から僕達は街を出て街道を歩いていた。
久しぶりのババラさんからの採取依頼で、
今日は数が多そうなので依頼を四人で受けることになった。
道中では特に問題も無く順調に進み、昼前には目的地に到着した。
「さて、じゃあ早速始めましょうか」
「はーい」
「そうですね」
「では、のちほど」
姉さんの言葉を皮切りに僕達は一斉に薬草の採集を始めた。
「うーん、この辺には無さそうかなぁ」
今回見つけるものは魔避けの効果がある退魔草という薬草だ。希少な薬草なのだが、ここ最近この地域に生えている場所が特定されたらしく依頼書が出回るようになった。
僕達が今いる場所は先日のオーガと出会った森よりも更に奥地に位置する場所で、ここから更に北に進むと国境を越えた先にある山岳地帯に向かうことになる。僕達が依頼を受けたのはこの地域に生える退魔草の採集で、ゼロタウンの冒険者達の間では最近人気のあるスポットのようだ。
というのも退魔草は希少なため、かなりの高額で売れるためである。一つの退魔草からかなりの調合素材が得られるため、一つにつき小金貨二枚程度、三つあれば金貨二枚分だ。もし三つ入手出来ればゴブリン退治と同等に稼ぐことができて、魔物もあまり見当たらないため新人冒険者には絶好の稼ぎ場と言われている。
僕達四人は手分けして探すことにした。
しかし、中々見当たらない。
「うーん、もう少し奥に行ってみようか」
今は単独行動だが、日が傾き始めるころには決められた場所に集まる予定になっている。
僕は少し奥へ進み、そこでいくつか退魔草を入手することが出来た。
しかし、そこで意外な人達を見掛けた。
「あの人たちは……?」
確か昨日騒ぎにあって倒れていた人たちだ。
今は姉さんの回復魔法によって歩き回れるまで回復しているようだ。
「あ、レイさん」
その冒険者の一人がこちらに駆け寄ってきた。
確か女戦士のシフさんと言ったような。
「どうも、もう大丈夫なんですか?」
「はい、皆さんのおかげで助かりました」
「いえ、大したことはしてないですから……」
彼女と話していると他の魔法使いと僧侶の人もこちらへやってきた。どちらも男性だ。
僕達と同じく退魔草の採取へ来たらしい。
「アムトが捕まってしまったので、他のメンバーを募集しているのですが」
「中々人が集まらなくて……しばらくは安全そうな依頼で路銀を稼いでいる」
上の台詞は僧侶、下の台詞は魔法使いの人だ。
アムトというのは昨日不気味な剣で暴れまわって男の名前だ。
僕は昨日の事が気になっていたので、彼女らと少し話をすることにした。
「えっと、訊いてもいいのかな……」
「はい?何でしょうか?」
◆
「――なるほど、アムトの持っていた剣が見つからないと」
「ちょっと分からないな、もしかしたら誰かが持ち逃げしたのかもしれない」
明らかに不気味な剣だ、あれを好き好んで盗むような人が居るとは思えないけど……。
「そもそもあの剣は一体どこから?」
「アムトが言うには旅商人から買った名剣だとか言ってたのですが……」
「名剣?」
どっちかというと魔剣にしか見えなかったが……。
「ところで何故剣が気になるのですか?レイさんもあの剣が欲しいとか?」
「ううん、そうじゃなくて……」
どうもあの剣は不気味な感じがしたのだ。
突然暴れまわった時、アムトの体の変化以外にもあの剣も赤黒く変色していた。その後あの剣を弾いた後のアムトはすっかり大人しくなっていたのも気になる。もしかしてあの剣が元凶だったのではないか、というのが僕の推測だ。
「といっても何の証拠もない話だけど……」
「いえ、私たちもそう思いたいです」
アムトは元々あんなことをする人物では無かったようだ。
仲間を大切にして、正義感も強く熱く仲間を引っ張るリーダーシップの強い男だったとか。
最近高難易度の依頼を失敗して功を焦っていたという話もあったが……。
それだけ話して僕達は折角なので一緒に採取をすることにした。
そしてある程度数が集まったので集合場所に戻り、彼らと別れた。
◆
その日の夕方頃、ゼロタウンまで残り数キロというくらいの街道沿いで事件は起こった。
「おや、あの方たちは……」
「確か……昨日ベルフラウが魔法で傷を癒してあげてた面々ですね」
レベッカのエミリアの言葉通り、少し前に別れたはずのシフさんとその仲間の冒険者たちだ。
「こんな場所で何を――?」
その彼女ら三人は目の前の誰かと対峙しているように見えた。
(一体誰と?)
良く眼を凝らしてみると、その対峙している人……おそらく冒険者の男性だろうか。
エミリアと似たようなとんがり帽子を被っており、昨日の不気味な黒い剣を手にしていた。
「――あの剣は!?」「まさか……!」
シフさんの仲間の冒険者達はその姿を見て怯えているようだった。
しかし、僕はそれ以上に危機感を感じていた。
「……あの人、この前の?いえ、違うみたいだけど……」
姉さんの言うように別人だ。だが、昨日僕達を襲った男と同じ雰囲気を感じた。
僕は思わず駆け出し、彼女等の元へ急いだ。
「シフさん!大丈夫ですか!?」
「あ……レイさん」
僕の声に気付いたのか振り返ったシフさんはホッとした表情を浮かべていた。
しかしその瞬間、僕は何かを感じ取った。
「ッ!!危ない!!」
咄嵯に僕は彼女の前に立ち塞がり、彼女を庇うようにして突き飛ばした。
直後、僕の背中に強い衝撃が走った。
「ぐぁっ……!」「レイさん!?」「レイ様!?」
痛みと共に視界がブラックアウトしそうになった。どうやら手に持った不気味な剣で斬られたらしい。幸いにも僕は固い鎧に包まれていた背中だったため、致命傷では無かった。
僕はどうにか痛みをこらえて剣を構える。
しかし、背中の肉を大きく切り裂かれており血が噴き出していた。
「レイ君!
姉さんに支えられて回復魔法を使ってもらった僕は少しずつ痛みが治まっていった。
「レイ様!
「
僕が回復して貰ってる間、レベッカとエミリアが男を足止めしてくれている。
剣で弾いており、ダメージは無いようだが十分だ。
「ありがとう、姉さん。それにしても――」
僕は目の前の斬りかかってきたとんがり帽子の男の様子を見る。
見た感じ、魔法使いのような出で立ちだ。
昨日見た不気味な剣を持っているが不釣り合いな恰好だと感じた。
しかし、昨日の男同様に瞳孔が開いており正気では無い。
「シフさん達、この事を冒険者ギルドに報告してください。
僕たちはここで奴の足を止めておきます」
「分かりましたわ!」「ご武運を!」「すまない!」
三人はその場を後にし、シフさん達は走り去って行った。
「さて、と」
傷も姉さんの回復魔法で十分に癒えた。
僕は敵の魔法使いのような男を観察する。
恐らくこの男も手に持った不気味な剣に操られているのだろう。
確証はないが、今の所それしか考えられない。
「三人とも、多分あの剣が元凶だと思う。
どうにか男から剣を引きはがしてあの剣を回収しよう」
僕は男を警戒しつつ後ろの三人に声を掛けた。
三人は僕の提案に賛同してくれた。
「うん、でもどうやって引き離そうか……」
「そうでございますね……相手はあの剣を持っていますし、
下手に近づくのも危険かもしれません……」
「ならば、まずは私が魔法で動きを封じましょう。
エミリアの氷魔法が男の足元を完全に凍らせて身動きが取れなくなった。
「エミリア、ナイス!これなら――」
しかし、男は
「――魔法!?」
目の前の男は魔法使いのような恰好ではあったが、
エミリアの魔法を相殺するほどの魔法を使用するとは……。
「それに今ので大火傷しているのに痛がってる様子もないわ」
「やっぱり昨日と同じく正気を失っているのかな……!」
痛みを恐れず向かってくるのは戦いでは恐ろしい相手になる。
「おかしいですね、あれほどの魔法使いでは無かったはず」
「エミリア様、お知り合いですか!?」
「知り合いというほどの間柄ではないのですが……」
エミリアが言うには最近支部から越してきた魔法使いらしい。
冒険者としては新人が中堅に上がった程度のラインで、実力も並程度だったとか。少なくとも<上級魔法>のみならず<極大魔法>を習得しているエミリアの足元にも及ばないはず。
「じゃあ、あの剣のせいで魔力も強くなってるって事?」
「その可能性は高いと思います。あの男、完全に理性を失っているようです」
「とにかく今はあの男の動きを止める事が先決でしょう、レイ様!」
「そうだね。よし、みんな行くぞ!
僕は
(力はあまり無さそうだ、やはり本来は魔法使いか!)
剣の<狂化>によって身体能力は底上げされているようだが昨日のアムトほどではない。
これならば倒せるかもしれない!
「私達も行きますよ!
「はい!
続いて、エミリアとレベッカが攻撃を仕掛けるが、
その男は剣を前に突き立てて魔法を唱えた。
『
その魔法により、エミリアとレベッカの攻撃魔法が同時に無効化されてしまう。
「う、嘘……?」「――っ」
本来<魔力相殺>で名前の通り無効化するためには敵の魔力を超えてないと相殺は不可能。
しかも今の瞬間、エミリアとレベッカの魔法に対して<魔力相殺>をそれぞれぶつけて無効化した。つまり相手の魔法の発動スピードが非常に早く、魔力はエミリアとレベッカを超えているということになる。
「……ならこれならどうかしら!
姉さんの妨害魔法が男に発動する。成功すれば魔法の発動を阻止か遅延させられるが――
『
男の解除魔法により即座に無効化されてしまう。
それどころか男は反撃してきた。
『
エミリアとほぼ同等の<炎球>がこちらに襲い掛かる。
だが負けじとエミリアも<炎球>を発動させ、互いの魔法はぶつかり合って数秒拮抗して消滅した。
(距離を取ると不利かもしれない)
僕は男の方に駆け出して剣を振るうが、避けられてしまう。
「くっ――!」
男の運動力はそれほどでもないが、
人体ではあり得ないような動きでこちらの攻撃を避けている。
まるで関節を外したようなぐにゃぐにゃした動きだ。
「レイ様!
レベッカの強化魔法で僕は銀のオーラを纏い、更に男に斬りかかる。
男は急に速度を増した僕の多段斬撃に対応出来ず、腕や脚から血を流し始めた。
「このまま押し切る!
僕は<龍殺しの剣>に付与された風魔法の効果で一瞬だけ速度が跳ね上がる。
そのまま男の腕を目掛けて剣を振り下ろすが――
(くっ、でも……!)
このまま下せば男の腕を切断してしまう。なら剣を狙って――!
しかし、判断が遅いせいでまた奇妙な動きで回避されてしまう。
『―――』
今度は男が僕に向かって炎を纏った剣を横薙ぎに振るってくる。
咄嵯の判断で後ろに下がりながら回避すると、剣をそのまま地面に叩きつけ地面を焦がした。
「今の、魔法剣か!?」
魔法剣は僕オリジナルの攻撃技だが、まさか敵が使ってくるとは思わなかった。
「はっ――!」
レベッカの弓矢による三連射が僕と離れた男目掛けて放たれる。
男は二発は剣で弾くが、一発は男の左胸に直撃し、突き刺さった。
「今です!レイ様!」「くっ!」
僕はレベッカがくれたチャンスを無駄にしないために斬りかかり、男の剣を弾き飛ばした。
「姉さん!」「うん!<植物操作>」
姉さんの植物操作により、吹き飛んでいった剣を植物で絡め取った。
それと同時に、それまで暴れていた男は糸が切れた人形のようにその場に倒れた。
「ふぅ……」
「何とかなりましたね、あとはギルドの人達を待ちましょう」
僕達は一旦この場で待機することにした。
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