第102話 街中で……
次の日の朝――
僕達は冒険者ギルドに呼ばれていた。
理由は昨日の依頼で遭遇した<レッサーデーモン>と<魔王の影>のことについてだ。
想定外の事が起こった場合、冒険者はギルドに詳細を報告する義務がある。
これは依頼人への報告義務も兼ねており、サボると冒険者登録をはく奪されてしまうこともある。
「――これで、昨日報告できなかった事項全てです」
僕達は昨日は端的な報告だけで留めていた内容の詳細を全て話した。
聞いていたギルド職員のミライさんは詳細を書類に纏めつつこう言った。
「なるほど……<魔王の影>ですか。西の森で遭遇したあの魔物がこの辺りにまで出現するとは」
――以前、ミライさんは僕達と行動した時に<魔王の影>と遭遇したことがあった。
そのため、どれほど脅威の魔物なのか身に染みて分かっているのだろう。
<魔王の影>というのは今の所は仮の名前として付けており、
今の所ギルドとしては新種の魔物程度の扱いだ。
「
すぐに
以前の遭遇した<魔王の影>とは姿が少し違いましたが、亜種だと思われます」
「上級攻撃魔法……それは厄介ですね。更に<レッサーデーモン>ですか。
ここまでくると普通の冒険者では対処できない可能性がありますね」
<レッサーデーモン>単体でも新人冒険者はまず歯が立たない。
それが複数体となると上位の冒険者が数人必要なレベルになる。
「とはいえ、新人の冒険者さんの仕事を無くすわけにもいきません。万一遭遇した場合、すぐに逃げてギルドに報告することを呼びかけるくらいしか出来ないでしょうね」
「確かにそうかもしれませんが、危険すぎませんか?」
「レイ、冒険者とは元よりそういう仕事です。
危険だからといって依頼を受けさせないのは彼らに飢え死にしろと言っているようなものですよ。
私達だってある程度の危険は分かってて依頼を受けているのですから」
「……それは」
エミリアの言葉に反論は出来なかった。
「ただ、以前とは違う魔物が出現するという依頼は如何にも危険そうですからね。
その辺りの依頼は新人さんが受けないように、という配慮は出来ると思います」
「分かりました。それでお願いします」
◆
――一週間後
「出てこないねぇ……」
「そうだね……」
ここ一週間、僕達は例の<魔王の影>を探して色々な依頼を受けていた。
しかし一度も<影>にも魔王の部下らしい敵にも遭遇していない。
そして今日も依頼を探して街を歩いていたのだが――
「ん?」「どうしたのレイくん?」
どうも街が騒がしい、何かあったようだ。
「レイくん、行ってみる?」
「そうだね」
僕達は人混みをかき分けて騒ぎになっている場所に向かう。
「誰か!助けてくれぇ!」「痛い、やめて!」「うわあああああ!!」
大勢の人達が地面に倒れている中、一人の男が剣を振り回していた。
「――っ!アレは――?」
おそらく冒険者一団だが、仲間割れか?
人の男が剣を振り回していて、他の三人の戦士、僧侶、魔法使いと思われる面々が倒れている。
倒れている三人は血に染まっている。おそらく剣を振り回してる男がやったのだろう。
それ以外にも何人か他の冒険者が負傷している姿が見られる。おそらく取り押さえようとして返り討ちにあったのだろう。
「姉さん!倒れてる人達を避難させて回復してあげて!」
そう言いながら僕は
「わかった、レイくんは?」
「僕はあの男を止めてくる!」
そう言って僕は男の前に飛び出して剣を構える。
ここは街中だ、このままだと冒険者どころか民間人にすら危害が及んでしまう。
この男は冒険者ギルドで見たことがある。倒れている仲間もこの男の仲間だったはず。
間違いなく僕らと同じ冒険者だ。しかし、この状況は一体……?
「何をやっている!倒れてるのはお前の仲間だろ!」
僕は男に剣を向けて強く言葉を掛ける。しかし、男の反応は薄かった。
「………」「……?」
無視をされている?いや、何か様子がおかしい。
「その剣で仲間を斬ったのか!?」
もう一度男に問いかける。奴の黒い剣には赤黒い血がべったり付いている。
明らかに人を斬った証拠だ。
「……」
やはり反応が無い。まるで別の生き物のように感じてしまう。
しかし、その男はこちらに剣を振り上げて、斬りかかってきた。
「っ!やる気か!」
僕は奴の剣を自分の剣でガードし、そのまま力を込めて押し返す。
「姉さん、今の間に!」「うん!」
姉さんは倒れてる冒険者たちに回復魔法を施す。
その間、周りで状況を見ていた冒険者たちがその男を取り押さえた。
「レイ、ナイスだ!」
「よし男を取り押さえるぞ!」
「この野郎!警備兵に突き出してやる!」
暴れまわる男を押さえつける。総勢5人ほどの冒険者に押さえつけられたらもう身動きなど出来ないだろう。
僕はホッとして姉さんに声を掛ける。
「姉さん、倒れた人の様子は?」
「他の冒険者の人達は軽傷みたいだけど、倒れてる三人は命が危ないわ。
回復魔法は施してるけど、放っておくと危険よ」
そう言いながら姉さんは一人ずつ回復魔法を何度も掛けている。
しばらくは手は離せそうにない。
「分かった、じゃあ僕がこいつを見張って――」
しかし僕がそう言い終える前に、
男を拘束していたはずの冒険者五人が吹き飛ばされた。
「なっ――!?」
「え――?」
突然の出来事に僕も姉さんも固まってしまった。
「ぐあっ」「くそ、何だよコイツ――」
どうやら拘束を逃れた男が反撃をしたらしい。
しかし、あの人数をどうやって――
そこで気付いた。男の様子がさっきと違うことに。
先ほどまでは虚ろな目をしていたが、今は瞳孔が開いており何より殺気が凄まじい。
「まずい!」
僕は咄嵯に<龍殺しの剣>を抜き、構える。そして――
ガキンッ!!
「っ!」
僕の目の前で火花が激しく散り、金属音が鳴り響く。
「レイくん!」
突然奴がこちら目掛けて襲い掛かってきた。しかし、さっきより全然力が強い。
それにさっきはただ真っ黒い剣だったが、今は剣がまるで内臓の肉のような赤黒く不気味な色をしている。そして一番の特徴は剣を持っている腕がまるで腫れ上がったかのように膨張している。
「―――っ!」
その恐ろしい外見の変化に僕は動揺してしまい、体勢が崩れてしまう。
その隙を逃さず、男は僕に向かって再び剣を振るう。
(不味いっ!)
「レイくん!」
姉さんが冒険者に回復魔法を掛けながら叫ぶ声が聞こえる。
僕は咄嵯に<龍殺しの剣>を構えてガードをするが、勢いが強く弾き飛ばされてしまう。
「ぐぅ!!」
僕は地面を転がるが、すぐに立ち上がり態勢を整える。
「レイ、無事ですか!」「レイ様!」
と、そこで別行動していたエミリアとレベッカが飛び込んできた。
「二人とも……!」
良かった、これで何とかなるかもしれない。
「レイ、この男は何者です?それに後ろでベルフラウが回復魔法を施してる人達は?」
「目の前の男に斬られたから姉さんに回復してもらってるんだ。
この男は冒険者、のはずなんだけど――」
少なくとも、今の目の前の男はただの冒険者とは呼べない出で立ちをしている。
それに先ほどからこちらに対して殺意が凄まじい。普通の人間が出せるような殺気では無い。見た目と剣の禍々しさを見るに魔物と言った方が納得できる。
「レイ様、あの男――まだ交戦するつもりのようです」
レベッカが言うように、男がこちらに剣を向けて襲い掛かろうとしている。
「
それを見たエミリアは攻撃魔法を男に向けて放つ。
しかし、エミリアの攻撃は剣を振るだけでかき消され効果が無く、
まるで何も無かったかのように平然としている。
「そんな!?私の魔法が全く通じないなんて……!」
男は狼狽するエミリアに向かって駆け出して、僕はそこに割って入る。
――ガキンッ!!
「――っ!」
エミリアを庇って僕の剣と奴の脈打つ剣がぶつかり合い、また力比べになる。
――大丈夫、今度は行ける!
さっきと違い、今度は僕の方が力が勝っており少しずつ男を抑え込んでいく。
僕の装備している<魅力の腕輪>は僕が好意を持っている異性が傍にいると装備者の能力が底上げされる。先ほどまでは姉さんだけの効果だったけど、エミリアとレベッカが来てくれたから僕の能力は跳ね上がっている。
これなら何とか戦えるはずだ!
僕はそのまま鍔迫り合いに持ち込み、そのまま奴の剣を弾き飛ばして男の頭を殴りつけた。
「――ぐぉ!」
流石にこれは効いたようで、男は地面に倒れ込む。
男はそれでも立ち上がろうとするが、回復し終えた姉さんの魔法で動きを封じられる。
「
姉さんの魔法の鎖により、男は手足を縛られて身動きが取れなくなった。
「姉さん!」
「大丈夫よ、負傷者はもう治したわ」
姉さんのその言葉を聞いて僕は安心した。
縛られた男の様子を見ると、さっきとは違いもう抵抗する様子も無く眼を閉じていた。
それにさっきまで剣を持っていた腕は何倍にも膨れ上がっていたのだが、普通の腕に戻っている。
「ど、どうやら解決したみたいですね……私の魔法は何で効かなかったんでしょう?」
「わたくし、飛び出してきたは良いものの何もやっておりませんね……申し訳ありません」
エミリアとレベッカがそう言って僕に謝罪してくるが、全然そんなことはない。
「いや、二人が来ないと多分負けてたよ、助かった」
僕はそう言って二人に感謝を伝える。
「それよりレイくん、早くギルドに戻って報告しないと!」
確かにその通りだ。ひとまず近くの人が警備の兵を呼んだみたいだからそれを待とう。
「――そうだ、さっきの剣は?」
僕はさっきまで男が手に持っていた剣を探すが――
「あれ?無い……」
そこには既に剣は無くなっていた。
◆
その後、駆け付けた兵達によって男を連行して行った。
僕達は事情を説明して後処理を任せることにした。
そして、今回の件については一応僕達が当事者なので事細かに説明する義務がある。
冒険者ギルドに戻ると、ギルド職員のミライさんが待っており事情を話した。
「――というわけなんです」
「成程……分かりました、調査の方はこちらで進めます」
僕達の話を聞いていたミライさんは納得して、そしてこれからの事について話してくれた。
「とりあえず、今日の所はこの辺りでお開きにしましょう」
「例の暴れていた男はどうなりました?」
「えぇ、そちらも無事拘束しました。今は牢屋に入ってもらっています」
それを聞いて僕達は安心し、その日は流石に疲れたので拠点に戻ることにした。
「しかし、あの男は一体何だったんだろう……」
話で訊いたところそれまで普通だったのに、突然仲間に剣を向けて暴れ出したらしい。
それに、あの不気味な剣、男が警備兵に連れてかれた後に少し探したけど何処にも見当たらなかった。結局、あの男がどうしてあんなことをしたのか分からず仕舞いだった。
考えても分からないので、今日はもう休むことにした。
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