第100話 廃村にて
僕達はゼロタウンに帰還して冒険者ギルドで依頼達成の報告を済ませた。
今回の依頼は何だかんだでエミリア(とレベッカのサポート)のお陰で楽に達成出来た。
「レイさん、お疲れさまです。オーガ討伐なんて流石ですねー」
「いえいえ」
担当はミライさんだった。最近はずっとこっちで仕事をしているらしい。
「今回の報酬は金貨十枚ですね、どうぞ」
僕達は報酬を貰って姉さんに預けて管理してもらう。
以前は四人で分配してたのだが、共同生活が長くなってからはこの形だ。
「ところでレイさん、また依頼を受けてくれませんかね?」
「えっと、何でしょう?」
「実は先程、緊急の依頼が入りまして」
「緊急の依頼?」
嫌な予感がする。緊急案件は難易度がかなり高いことが多い。
「はい、内容は『オークの群れの殲滅』です」
「……えーっと、それって結構危なくありませんか?」
「はい……なのでベテラン以上の方にお願いしたいのですが……
今、他の依頼をこなしている方がいまして……困っているんですよ」
「……ちなみに、どのくらいの規模なんですか?」
「約三十体ほどだと聞いています。
近くに村もあるので危険なので早めに処理したいんですよね」
廃村近くに住み着いているオークで、移転した村が三十キロ範囲内にあるらしい。
確かにこれは一刻も早く対処しないと不味いだろう。
「しかし三十体となると……うーん」
「お願いします!」
ちょっと難しい依頼だが仕方ないか……。
「分かりました、引き受けます」
「本当ですか!?ありがとうございます!!ではこちらが詳細になります!!」
そう言ってミライさんは依頼書を渡してくれた。
◆
「オーク、でございますか……」
「うん、帰ってきてすぐだけど大丈夫かな?」
高難易度の次はまた高難易度だ。人手が居ないとはいえ負担は大きい。
「私、オークってどういう魔物かよく知らないのだけど……」
オークは豚の顔をした二足歩行の魔物だ。
体格は大きく、力が強いため、普通の人間ならまず勝てないだろう。
「さらに言えば、繁殖力の高いモンスターですね。
一度に多く産むので個体数も多いですし、厄介なところはオスしかいないことです」
「それってどうやって増えるの?」
「……我々女の子にとっては最悪な繁殖の仕方をする、とだけ言っておきます」
「……」
ミライさんの話では、人間の女の子を『苗床』にするらしい。
それ以上聞きたく無かったので、深入りはしなかったがそういうことだろう。
「帰ってきたばかりで悪いけど、ごめんね」
「村の人を犠牲にするわけにはいかないし、仕方ないわ」
こうして、僕達は依頼のためにまた馬車に乗って近くの村で降りた。
◆
廃村の話を聞くために村に立ち寄ったが、
薬草採取していた女の子がオークたちに一人浚われたという情報を聞いた。
すぐさま駆け付けないと女の子が危ない。
「急いで向かおう」
そして、オークたちが住み着いてると思われる場所に到着した。
「ここが例の廃村でしょうか?」
「うん、オークたちはここに住み着いてるみたいだね」
目の前には既に廃墟となった村の跡地があった。
かつては賑わっていたのであろう村は見る影もない。
建物は朽ち果て、草木に覆われ、とても人が住めるような環境ではなかった。
「……なるほど、確かに何者かが住み着いてるようでございますね……」
「レベッカ、分かるの?」
「はい、よくみると一部の草木が足で踏まれたように折れてますし、
足跡も確認できました。しかも複数の足跡です」
レベッカの言う通り、確かに一部の場所だけ草木が潰され道のようになっている。
何体ものオークがここを通ったという事だろう。
「エミリア、索敵お願いして良い?」「了解です」
エミリアは<索敵>の魔法を発動する。
「……どう?」
「ここから二百メートルほど先に反応があります。数は十五体程です」
思ったよりも近い場所だ。しかし依頼書には三十体と書いてあったが、約半数か……。
どのみち正面からやり合える数ではないが、女の子が浚われてるとなると緊急性が高い。
「……悩んでも仕方ない。行ってみよう」
僕達は廃村内部を探索することにした。
◆
廃村に足を踏み入れて数分後、僕はオークと遭遇した。
オークの数は五体、手にはそれぞれ木の棒や槍のような武器を持っている。
しかし武器はどれもボロボロだ。おそらくこの村に置いてあったものを使っているのだろう。
「うわ……オークですね、気持ち悪い」
いきなりエミリアが酷いこと言ってるけど気持ちは分かる。
豚の顔に体は筋肉質な巨体の生物なんて生理的に受け付けない。
そんなこと言ってる間にオークがこっちに気付いて襲い掛かってきた。
距離はおよそ十メートル程度、僕は剣を抜いて前に出る。
「足止めしとくから攻撃お願いね!」
僕はそれだけ言って魔法を発動する。
足止めといっても何もしないわけじゃない。
「
魔法を発動し剣に付与させる。炎を纏ってるだけで怖気づく魔物も多い。
実際、オークたちの中には怯んでいる奴もいる。時間稼ぎには丁度いい。
「はぁっ!」「はっ!」
僕とレベッカは剣と弓で敵をけん制して時間を稼ぐ。
敵は応戦するがやはり火があまり苦手なようで積極的に襲ってこない。
そうやって怯んでいる間に後ろの詠唱が終わる。
「
エミリアの上級魔法が発動、それを感知した瞬間に僕は即座に後ろに下がる。
すると次の瞬間、オークたちの頭上から雷が降り注いだ。
「グギャアァッ!?」
「ウギィイイッ!!」
オークたちは断末魔を上げて倒れていく。
残りはあと二体、僕はそのうち一体を剣で斬りつけてレベッカが矢で止めを刺した。
残ったオークは逃げようとするが、姉さんの
「はぁっ!」
僕は後ろから残ったオークの首を剣で斬り落とした。
これで遭遇した五体のオークは倒した。報告が正しいならあと二十五体だろう。
「お疲れ様、エミリアの魔法は相変わらず強いね」
「いえ、レイが時間を稼いでくれたからですよ」
そんなやり取りをしていると、奥の方からドタバタと何かが走ってくる音がした。
「どうやらさっきの雷撃の音で気付かれてしまったようですね……」
しまった、こういう状況は考えてなかった。
こちらに向かってくる足音は複数だと思うが、後ろからも足音が聞こえる。
足音の数から考えると多数、挟み撃ちは避けたい。
「仕方ない、近くの廃屋に逃げ込もう!」
僕達は囲まれる前に近くのボロボロになった民家に逃げ込む。
しかし、その選択はあまり良くなかったかもしれない。
「レイ様、何か焦げ臭いような……」
どうやら、オークたちはここを嗅ぎつけて外から火を放ったようだ。
窓から外を見ると辺りは既に火の海になっていた。
更に奥にはオークが複数体待ち構えていることも確認できた。
特に入り口付近が火が強く、オークの数も多い。となると……
「この状況危なくないですか!」
「ど、どうしましょう!」
このまま僕たちが家の中に居ると煙を吸い込んで酸欠状態になってしまう。かといって今入り口から外に出ればオークたちが待ち構えており槍で串刺しにされてしまうかもしれない。
失敗したかもしれない。強引に突破するしかなさそうだ。
「姉さん、あれやろう」「あれ?」
そう、少し前に姉さんが編み出した魔法だ。
あと僕もヤケクソで使ったら出来てしまった魔法。
僕達は入り口とは反対の方を向いて魔法を放つ。
「「
僕と姉さんは魔法を同時に発動する。
大きな二つの魔法弾は民家の壁を強引に突き破り――
「今だっ!」
僕達は魔法で出来た大穴から脱出する。
大穴が開いた場所も多少火が回っていたがこの際無視だ。
それよりも二体のオークが待ち構えていた。
「お任せを!」
穴から即座に飛び出したレベッカが一体のオークと対峙し、もう一体の方は僕が受け持つ。
「はあっ!」
僕は
「って、こんなので倒されるわけないだろ!!」
剣に魔力を込めてその槍を剣で斬り裂き、そのまま敵を頭から切り裂いた。
集団ならともかく、今更こんな相手には苦戦しない。
レベッカもすぐさま撃破したようで、他の追手が来る前に民家から遠ざかった。
◆
「ふう、なんとかなった」
「一時はどうなるかと思いましたよ……」
「でも、おかげで廃村の中心部に近付けたね」
追手のオークはさっき倒したのも含めておよそ十体だった。
足はそれほど速くなく、体格もスピード差もまちまちだったので確保撃破で潰していった。
おそらくこの倒したオークが最初にエミリアが<索敵>で感知した数だ。
そこからもう一度<索敵>を使用。
今度は別の場所で反応があったのでそこまで僕たちは近づいてきた。
僕達が出てきた場所は広場のような場所だった。
そこには予想通り、複数のオークと浚われたと思われる女の子が縄で縛られていた。
僕達は石碑だったと思われる岩の影に隠れて様子を伺った。
「広場の奥に女の子が縛られてるね」
「それと、オークが十五体、調査報告と一致してますね」
ここまでは情報通りだ。女の子との距離はおよそ五十メートル近く。
付近にはオークが数体いるが、見張りのオークから距離はそれなりに離れている。
「ここから魔法で攻撃しますか?」
「……そうだね」
女の子から遠く、オークが五体ほど固まった場所に上位魔法を使う。
その後、魔法発動と同時に僕とレベッカが飛び出して敵を引き付けつつ撃退。
姉さんは別行動をとって作戦前になるべく女の子に近づき、
敵が混乱しているうちに女の子を解放し、安全な場所まで避難してもらう。
プランとしてはそんな感じだろう。
問題点としては女の子を人質に取られた時だ。
「人質を取られる可能性はあるかな?」
「どうでしょう、攫うだけであれば人質を取る必要はないと思いますが……」
「もし人質を取られそうになったら、私が対処するわ」
姉さんは自信満々に答えた。
「わかった、じゃあその方針で行こう」
僕の言葉に姉さんは頷いてコソコソと移動し始める。
少し待ってからエミリアは魔法の詠唱を開始する。
そして十秒後に、
「
エミリアの魔法が発動、女の子とは三〇メートルほど離れた場所に巨大な氷が出現し、
その中心に居た五体のオークは氷の中に閉じ込められる。
そして、同時に僕とレベッカが先頭を切って飛び出す。
僕達が飛び出したことでオークたちもこちらに気付いた。
「ブヒィッ!?」「ブッヒッイ!」
その鳴き声本当に止めてほしい。
「
僕は魔法を発動し、一体のオークを魔法の弾で吹き飛ばす。
「
レベッカも魔法を発動し、複数体を巻き込んでオークたちを攻撃する。
当然、女の子には当たらない位置で魔法は発動している。僕達は広場の周囲で暴れまわると女の子の近くにいたオークたちもこちらに向かってきた。
「……今ね!」
こっそり女の子の傍まで近寄った姉さんは隙を見て女の子の元へ駆けつけた。
「大丈夫ですか?すぐに助けます」
女の子に話しかけるが、どうやら気を失っているようだ。
「
その瞬間、女の子を拘束していた縄は解け、女の子はそのまま地面に倒れこんだ。
しかし、その音で女の子から遠ざかった音をオークが聴きつけて戻っていった。
「っ!まずいな、姉さん達が狙われる!」
とはいえ、僕達も複数のオークたちに囲まれてそっちに手は出せない。ここは姉さんを信じるしか……と思ったら、姉さんと女の子の姿が掻き消えた。それと同時に周囲にエミリアの攻撃魔法が展開され、こちらから離れたオーク二体はエミリアの電撃魔法で倒れた。
「ベルフラウは<空間転移>で女の子を避難させたみたいですね」
エミリアの言う通り、姉さんは<空間転移>が使用できる。
そのため女の子を救出するのに適任だった。短距離ワープしか出来ないので元の場所の二〇メートルほど先の林の方に避難したようだが、もう大丈夫だろう。
「よし、これなら」「ええ!」
僕とレベッカは背中合わせに僕達を囲む残ったオーク五体と対峙した。
ここで一気にケリをつける!
「
僕は一番近いオークに接近して横薙ぎの一撃で切り裂くと同時にその周囲に炎魔法がさく裂する。
「ブギィッ!?」
斬りつけたオークは倒れ、残り四体だ。
僕が発生させた炎で正面二体のオークは中々近づいて来れない。
僕の背後はレベッカが守りに徹している。
レベッカは槍の扱いに長けており、その技術はオークたちと比べて圧倒的に上だ。
二体のオークと同時に対峙しているというのに敵を近づけさせていない。
こういう状況下だとレベッカは防戦に徹すれば強い。
「
そんな中、後方のエミリアが一体のオークを雷撃で倒した。
これで残るは三体。
劣勢になったオーク達は後ろに下がり背を向けて逃げ出そうとするが――
「はっ!」「はああっ!」
僕とレベッカが即座に追撃して剣と槍で仕留めることが出来た。
「ふう、終わったね」
「お疲れ様です二人とも」
「危険は去ったようです、ベルフラウ様と合流しましょう」
かなり不利な状況だったけど、何とかなった。姉さんと合流しよう。
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