第七章 旅編

第98話 嘘でしょ……?

ミリクさんの作ったダンジョン完全攻略から二か月後――

僕達は、ゼロタウンで冒険者として再び活動を始めていた。


ミリクさんのいう魔王討伐はそもそも魔王が誕生していないため討伐が不可能であり、

<魔王の影>を討伐するにしても、そもそも情報が無い。

そのため通常の冒険者として様々な依頼を受けながら情報を集めていた。


「おいレイ、そっち行ったぞ!!」「はい!」

僕は今、他の冒険者と混じってゴブリンの群れと戦っていた。

僕達はミリクさんのダンジョンで修羅場を潜って以前とは比べ物にならないくらい強くなった。それでも油断すれば命を落とす。だからこそ気を引き締めて戦いに臨む。


<中級火炎魔法>ファイアストーム!!」

僕の放った炎魔法がゴブリン達に命中してまとめて四体焼き払う。

「うおぉ!?すげぇ威力だな……」

「やりますねレイ、私も負けていられませんね!」

後ろで見ていたエミリアが魔法の詠唱を始める。以前よりも格段に速い。

しかし、この詠唱は……。


「はぁぁぁぁぁ!!<上級氷魔法>コールドエンド!!」

「ちょっ、エミリアやりすぎ……!!」

ゴブリンは沢山居るけど、上位魔法はオーバーキル過ぎる!

エミリアの上級魔法はゴブリン10体と周囲一帯を丸ごと凍結させてしまった。

「あちゃー……」

「これは流石にやばいんじゃねぇのか?」

周りの冒険者もドン引きである。


「ごめんなさい、つい……」

今回の任務は村の近くに住み着いて野菜や家畜を襲うゴブリンの討伐だったのだが、村の近くの戦闘なのが今回は不味かった。エミリアの魔法によって近くの畑も巻き込んでしまい、場合によってはその分の弁償代も払わなければならなくなる。


「仕方ないから炎魔法で氷溶かしておくよ」

「すいません……」

エミリアはちょっと反省して別のゴブリンに向かって魔法を使用する。

ダンジョン攻略後、僕達は他の冒険者と比較してもかなり討伐数を稼ぐようになっていた。

エミリアはそれが目立っており、以前なら一日1~2発撃てばほぼ魔力切れになっていた上級魔法を複数回連発出来るようになった。

昨日は小型の魔物を<上級獄炎魔法>を二十数体巻き込み一人で殲滅していた。


(まぁ、強くなったのは良いんだけど……)

強くなり過ぎて、力の加減が出来ていないような気がする。

そんなことを考えてるうちに、ゴブリン討伐はほぼ終わったようだ。

僕は氷をある程度とかしてから周りに居た農家の人に頭を下げた。


「すいません……」

「いやいや、気にしなくて大丈夫だよ。

それに魔物をしっかり倒してくれたからもう安全になったからね」

その言葉に別の冒険者さんが反応する。


「そうだな、この辺の魔物はほとんど狩り尽くしたからな!」

「それじゃあ帰ろう」

「「「おお!!」」」

僕たちは農家の人に挨拶をしてから馬車に乗り、冒険者ギルドへと戻った。

結局野菜は少し駄目になったものもあったようだが、大きな損失は無かったらしい。



「ふぅ……今日は疲れました……」

「おつかれさま、エミリア。はいこれどうぞ」

「ありがとうございます……」

エミリアは僕から受け取った飲み物を飲み干した。


「そういえば、さっきの戦いで新しい魔法を覚えたんです」

「へぇ、どんなの覚えたの?」

「それはですね……」

僕は興味本位でエミリアに聞いたが、その答えはとても衝撃的なものだった。


「<極大魔法>です」

「……は?」

何それ、聞いたことない魔法なんだけど……。


「分かりやすく言えば、私が使う上位魔法の更に上の攻撃魔法ですね」

嘘でしょ……何でそんな魔法をゴブリン倒した後に覚えちゃうんだよ……。


「えぇと、ちなみにその極大魔法の何を覚えたの?」

<極大吹雪魔法>フィンブルです。前に使ったことあったので割と早く習得しちゃったみたいですね」

え、前に使ったって……?

「それって半年くらい前に集落を氷漬けにした?」

「はいそれですね、それで是非明日の依頼では試し打ちしたいのですが……」


あの規模の魔法を何処で試し打ちするんだよ。

集落一帯を凍らせるような魔法を撃とうものなら、畑が凍る程度じゃ済まない。

下手したら街まで被害が出るかもしれない。


「ダメですか……?」

上目遣いで僕を見つめてくるエミリア。

滅茶苦茶可愛いし、思わず頷きたくなるんだけど……。

僕には分かる、これはお願いしているのではなく断れば実力行使に出るつもりだ。

「わ、わかったよ……。でも威力は抑えるようにね」

「はい、わかってます!!」

嬉しそうな顔のエミリアを見てると何も言えなかった。



その日の夜――

「――ということがあってね」

「あらら、まぁ……」

「エミリア様、凄いです……」

僕は今日あった出来事をレベッカと姉さんに話していた。

ちなみに今日は僕とエミリアだけでゴブリン討伐に参加、姉さん達は採取依頼を受けていた。


「で、極大魔法を打たせないように穏便に済ませたいんだよね……」

ダンジョンならともかくこの辺りの魔物相手では上級魔法すらオーバーキルになりがちだ。

それに範囲が広すぎて撃てる場所も限られてるし、余計な面倒ごとを起こす可能性が大だと思っている。

この話は当のエミリアに訊かれたら困るので、

エミリアが部屋に籠っている今二人にこうやって相談している。

「とはいっても、エミリアちゃんは撃ちたがるでしょうねぇ」

「はい、エミリア様は魔法使うのがお好きですし、本当は今すぐにでも試したいのでは」

だからって家の中でぶっぱされても困る。

「じゃあ、何か良い方法は無いかな?」

「例えばなんですが、エミリア様には一度ゼロタウンを出てもらうというのはどうでしょうか」

「依頼を受けるって事?でも最近はこの周辺のゴブリンやコボルト討伐とかそんなのばっかりだし……」

近くにダンジョンが見つかったらしいけど、

少し前に大きなダンジョンを攻略してちょっと飽き飽きしている。


「いえ、そうではなくてですね。

少し遠出する依頼を受けて頂くんですよ。

例えば……『北の森のオーガ』を退治するとか」

「オーガ……!?そんな依頼あったの?」

僕は思わず声を上げてしまった。

「はい、採取依頼の帰りに珍しい依頼がありましたので、頂いてまいりました」


僕達はレベッカが持ってきた依頼書を三人で確認する。

『ゼロタウンから三〇キロ先の北の森に、<オーガ>と思われる強力な魔物が多数出現。

近くの町に被害報告は無いものの、早急に手を打つ必要がある。自信のある冒険者は是非』

依頼書にはそう書かれていた。


オーガとは額から角を生やした巨体が特徴の魔物である。

ゴブリンなどとは違い、知性も高いが人間に対して強い敵意を持っている。

力が強く場合によっては徒党を組んで襲ってくるため、討伐難易度も高いと言われている。


(どうしようか……)

僕は腕組みしながら考える。

正直言って、今のエミリアのレベルなら問題なく倒せると思う。

ただ、エミリア自身がそれを望んでいるかどうかが分からない以上、安易にOKを出すわけにもいかないのだ。


――と、僕が考えていると背後から声が掛かる。

「私は賛成です!だって最近弱い魔物ばかりで身体を動かしてなかったので、丁度いいと思います!」

振り向くと、部屋に籠っていたはずのエミリアが居た。


「エミリア様!?聞いていらしたのですか!?」

「え?いえ、オーガがどうの……ってのは聞きましたが、他に何か言ってたんですか?」

どうやら最後の方しか聞いていなかったらしい。


「ううん、その話で合ってるわ、ね?レイくん」

「う、うん」


姉さん達と上手く口裏を合わせる。

「なら決まりですね!!明日の朝一番で出発しましょう!!」

「まぁエミリアがいうのなら……」

こうして、明日は北のオーガ討伐に向かうことになったのだった。

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