第94話 最終階層 到達2
僕達は引き続きミリクさんと話をする。
今の所『勇者になって魔王を倒せ』で終わる話しかしていない。
内容が浅すぎて泣けてくる。
「それでミリクさん」
「うむ」
「結局は僕達に何をさせたいんですか?」
「そうじゃな、いきなり魔王を倒せと言っても混乱するじゃろう」
そもそも返事してないんだけどね。
一応全部聞いてから断ろうと思っている。
「まず、そもそもお主らは魔王がどういう存在か知っとるか?」
姉さんが言うには世界の危機に関わってるらしい。
ただ具体的なことはさっぱりだ。
「全然知らないです」
「じゃろうな、短的に言えば魔物の親玉。
ここ十年魔物が活発化してるのはそれが理由じゃ」
ミリクさんの言葉を聞いて、僕は皆を見て訊いてみた。
「そうなの?」
「まぁ、そうですね。少しずつ人間の勢力圏が魔物に支配されてきてる気がします」
「魔物の軍勢に滅ぼされた国もあるようです、
おじいさまに聞いた話なのでレベッカにはよく分かりませんが」
見た目よりも深刻な状況らしい。
「それならなんで僕らに頼むんです?」
そう、僕達はまだ子供でしかもただの冒険者パーティだ。
「そうじゃのう、儂の好み――いや、何でもない」
ミリクさんは椅子に座って腕を組み、脚を組んだ。
(……結構おっぱい大きいんだね……)
この位置でその体勢だとやたら胸が強調されている。
「レイ、顔に出てますよ」
「すいません許してください」
何で女の子ってそういうのすぐに気付くの!?
「気にせんでもええぞ、むしろそのくらいの方が可愛げがあっていい」
……それは男としてどうなんだろう。
「話を戻すぞ。この世界に危機が迫っているんじゃ」
「具体的には?」
「このままでは近いうちに魔王が誕生する。
そうなると魔物が今以上に活発化し、人間を襲うことになるじゃろう」
誕生する?ということはまだ魔王は存在しないってこと?
「それはいつ頃になりそうですか?」
「分からん、だが既に魔王の影響は各地で出始めておる。
例えばこのダンジョンに乗り込んできた<アークデーモン>のような魔王の配下もおる。儂のダンジョンに潜り込んできたのは、邪魔な存在である女神を誕生前に消してしまうと思ったのじゃろうな」
あの時現れたのはそのせいだったのか……。
「他にも、そうじゃな……。
各地に、魔王の<分身体>と思われる存在が出没したという情報もある」
「それって、ミリクさんが使う<分身体>と同じですか?」
「意味としては同じではある。<魔王の影>と言うべき存在。魔王はまだこの世界に現れていないものの、既にその力の一端を送り込んできておる。そうやって奴は世界の影響力を高めておくことで誕生した時の力が増大していくわけじゃ」
「つまり、まだ魔王はこの世界に降臨していないけど、その影響は既に現れ始めていると?」
「うむ、既に影に人間が襲われたケースがいくつも上がっておる」
――その影って、もしかして。
「レイ様、もしや西の森の……?」
「あの時の、化け物ですか――?」
あの時の、黒い影のような顔の無い魔物――
「ん?お主ら、<魔王の影>と出会ったことがあるのか?」
「はい、一度だけですが……」
確証はないが、おそらく間違ってないはず。
以前に姉さんも『魔王に等しい力』と言っていた。
「倒したのか?」
「一応は……」
「ほう、ならば話が早い。恐らくそやつらが魔王の力の一部じゃろう。
そして、その力の一部は今もなお暴れておる」
「そんなにたくさんいるんですか?」
「そこまでの数は確認されてない。せいぜい数体程度じゃが、その力は強大そのもの。
お主らも見た通り、並大抵の者で勝てる相手ではない」
だからこそ――とミリクさんは続ける。
「<魔法の影>を倒したお主たちは勇者に相応しい。
――儂からのお願いじゃ、世界の為にも頼む!」
……あの時の影の魔物が、魔王の分身体だったとは。
もし、またどこかで<魔王の影>が現れて、人々を襲ったなら――
僕は姉さんに声を掛けられる。
「レイくん、あの時は断っちゃっていいと言ったけど……今はどう思ってる?」
「……そうだね、僕は――」
世界の為とか、そんなことは僕に出来るとは思えない。
ただ、もしあんなことが――
『………あ、お兄様…』
『れ、レイくん………』
『に、逃げて……レイ……!』
あんなことが再び起こって、そして大切な皆が居なくなってしまったら僕は耐えられるだろうか。
その時、僕はきっと後悔する。助けられたかもしれないのに見捨ててしまったことを。
僕は姉さん達に振り返る。
「姉さん、僕は………」
僕は、もしそうなってしまった時のことを思い泣いてしまった。
姉さんはそんな僕を強く抱きしめてくれた。
「……大丈夫。貴方が決めたなら私は付いて行くから……」
「姉さん……」
僕は姉さんに抱きしめられながら、エミリアとレベッカを見る。
「私も、例え世界が滅びようと最後までご一緒致します」
「レベッカ……いいの?」
「はい、元より女神ミリク様が仰るのであれば、覚悟はありました」
……きっと、レベッカは僕達三人が断っていたとしても一人でも戦ったのだろう。
こんな幼いのに、泣きながら悩んでいる僕よりもずっと気丈で立派だ。
「エミリアは――」
僕はエミリアを見る。エミリアは顔を伏せながら言った。
「私は――」
エミリアは途切れ途切れに言った。
「私は普通の冒険者です、魔王なんて倒せると思っていません……」
……そうだよね。
「――ですが」
エミリアは、少し間を置いて言った。
「君と一緒に居たい。同じ冒険者になって、一緒に依頼を受けたり冒険したり、家族みたいに笑いあって、ここに来て初めて出会ったキミだったから、そう思えた」
その言葉は、僕が以前に言った――。
「以前に私がレイに言われた言葉です。
……ふふっ、まさか逆の立場になるとは思ってませんでしたけど」
「エミリア、それって……」
エミリアは顔を上げて僕を見つめて言った。
「……はい、私も貴方と一緒に居たいですから。付いて行きますよ」
一緒に来たら危険なのは分かってるのに、それでも三人は僕と一緒に戦ってくれることを選んでくれた。僕はボロボロと涙を零してしまった。
「ありがとう、三人とも――」
僕は涙を拭いてミリクさんに向き合う。
「ミリクさん、僕は勇者になれるとは思いません。
ですが、僕は家族や大好きな人達と一緒に、この世界で精一杯生きるんです。
その為に、戦うつもりです。世界の為なんていう大それたことは出来ませんが、それでよければ」
『勇者』はなれない。僕にそんな器は無い。
でも大事な人達と『冒険者』として一緒に戦うのであれば――。
ミリクさんの顔は、とても優しげな表情をしていた。
「……かわいいのぅ」「え?」
今、この状況に似つかわしくない言葉を聞いたような……。
「い、いやなんでもないぞ。うむ、その意気込みじゃ!
では早速じゃが、お主にはこれを渡しておこう」
そう言って差し出されたものは、一つのペンダントだった。
「これは……?」
「女神の祝福というやつじゃの、付けてみるとよい」
――ちょっと待って、
僕は以前にこれと似たようなものを貰ったような。
「それはダメよ、レイくん」
「姉さん?」
姉さんは僕の首元に掛けてある、<ペンダント>を指しながら言った。
「ミリク、もうレイくんは女神の祝福を受けているの、貴女が入る隙間はもうないわ」
そうだ、思い出した。
前に『転生の間』で元女神の姉さんに貰ったものとほぼ同じものだ。
「それはどういう――」
そこでミリクさんはようやく気付いた。
「お主、人間にしては妙な気配をしていたが、まさか女神なのか!?」
「あら、バレちゃったかしら?まぁ、今は違うけどね」
「バレるも何も、今の今まで気付かなかったわい!まさか数か月前に感じた神の気配はベルフラウ、貴様だったのじゃな!儂の力が落ちたのは貴様が原因か!?」
「あら、それは貴女の信仰が少ないのが原因じゃない?」
「だからそれは貴様のせいじゃろうが!」
異世界に来た時まだ女神だった頃の姉さんは、
『女神でなくなれば名前を知られても問題ないのですが、
この世界で下手に有名になってしまうと元々居た神から信仰を奪ってしまう可能性があります』
ということを言っていたような気がする。
名前が知られてなくても、他に女神が居るだけで信仰を奪ってしまうこともあるようだ。この世界に来て姉さんが女神だった期間は一週間足らずだったと思うが、その間にも女神のミリクさんに影響があったという事なのだろうか。
「おい、レイよ!こんな元女神ではなく儂の祝福を受けるが良い!」
「えぇ……」
そんなこと言われても……
「――貴女、良い度胸ね……」
あ、姉さんブチ切れた。ヤバい、姉さんを止めないと。
「いやいやいや!待って!本当に頼むから落ち着いて!!」
僕は必死に止めるのだが、駄目だ全然聞こえてない。
「――いいわ、今ここで決着をつけましょう」
「ふ、二人とも落ち着いてくださいませ……」
レベッカが間に入ろうとしてくれたけど、無理っぽい。
「レベッカ、止めるでない!
この元女神の癖に現女神に逆らう愚か者に制裁を加えてやらんと!」
「うふふふ、貴女がレイくんを襲ったこと、私まだ忘れてませんよ……!」
あ、ヤバい。この流れ、本当にミリクさんと戦闘になりそう。
「ならば決着を付けようではないか、いざ決戦のバトルフィールドへ!」
ミリクさんがそう言うと同時に、僕達の周囲に魔法陣が展開される。
「「「えええぇぇぇぇぇ!!」」」
僕たちはその魔法陣に巻き込まれ転移されてしまった。
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