第93話 最終階層 到達1
地下十階、最深部――
僕たちは最後と思われる扉に入る前に、
<ダークナイト>からドロップしたアイテムを確認していた。
「エミリア、その指輪、どういう効果だった?」
「この指輪は<聖女の指輪>という名前らしいです。
効果は魔法を使った時に消費する魔法力が1/2に軽減と、状態異常の耐性強化です」
それは凄い。誰に装備しても使いやすそうだ。
「とはいえ、私はさっきの<魔力増幅の指輪>がありますし……」
「わたくしも、<威力増幅の指輪>を頂きました」
となるとやっぱり姉さんが使うべきだろう。
「姉さんが使うといいよ」
「そう?ありがとうね」
姉さんは左手の人差し指に<聖女の指輪>を嵌めた。
「さて、それじゃあ――」
僕達は最深部と思われる扉を見た。
今までの扉の三倍近い大きさ、装飾が施された豪華な両開きの扉だ。
「姉さん、やっぱりこの先って――」
「うん、ミリクが待っているわね」
やっぱりここが最深部か、散々引き伸ばされたけどようやくミリクさんの意図が訊きだせる。
(まぁ、正直もう読めてるんだけど……)
そんな事を考えながら、僕は扉を押し開いた。
中は広い部屋になっており、正面には玉座があった。
そこには、一人の褐色の美しい女性が腰かけていた。まぁ、ミリクさんだけど。
「おぉー!やっと来てくれたのー!?」
ミリクさんは僕達が入ってきたのを確認すると嬉しそうに明るい声を出した。
「言われた通り地下十階を攻略してきましたよ」
僕は少し疲れた声で答えた。
ここまで大変でミリクさんのテンションの高さがちょっとうっとおしい。
「それで、ミリク様?ここまで私達を呼んだ理由を教えてほしいのですが」
エミリアがミリクさんに問う。
といってもエミリア達も薄々気付いてはいるのだろう。
「おう、そうじゃったの、その前に――」
「あ、すいませんがミリクさんと戦うとか無しでお願いします」
この流れだと絶対、『まずは儂と戦って力を示すのじゃ!』とか言うに決まってる。
「なんじゃ、つまらんのう……では本題に入るとするか」
良かった。ミリクさんの分身体が姉さんに粉々に破壊される姿を見なくて済む。
「レイくん?失礼な事考えてない?」
「いや、全然」
だって姉さん露骨にミリクさん嫌ってるし。
「お主らの強さは十階でたっぷりと見させてもらったぞ。
まさしく勇者に相応しい強さじゃった」
「勇者――ですか」
反応したのはエミリアだ。うん、言われると思ってた。
そしてこの後も大体予想できる展開だろう。
「そう、お主にこの世界の女神が命ずる――」
ミリクさんはこちらの反応を伺いながら無駄に溜めて言葉を発した。
「お主らは勇者となり、魔王と戦うのじゃ!!」
あまりにも定番の展開過ぎて、僕達は無反応だった。
「あの、ミリク様、質問よろしいでしょうか?」
おずおずとレベッカは手を上げて質問する。
「なんじゃ?」
「何故わたくし達なのでしょう?」
「それは簡単じゃ、このダンジョンでお主らは他の冒険者よりも圧倒的に強いからのう」
強けりゃいいんかい。
「いやいや、既に地下五階の時点でもう決めておったがの」
地下五階というとアークデーモンと戦った時だ。
「姉さん、結局予想通りだったね……」
「うん、ここまでテンプレ通りだと逆に困るわ……」
以前から『魔王』だの『勇者』だの言葉が出てきて既に予想はしていた。
「答える前に質問いいですか?」
「なんじゃ?」
「結局、このダンジョンは何だったんですか?」
このダンジョンがミリクさんによって作られてるのは既に明らかだ。無限沸きする魔物、不自然にドロップするアイテムや魔石など、妙にゲーム的な部分はミリクさんの趣味なのだろう。他の冒険者と競合してダンジョンを進んでいる筈なのに、宝箱が残ったままになっているなど気になる部分もある。
「ふむ……やはりそこに気付いたようじゃな」
「まぁ気付きますよね」
ミリクさんは僕達の反応を見て満足気に笑みを浮かべた。
「なら話は早い、ここはわしが作った<訓練用ダンジョン>じゃ!」
「いや、もうまんまじゃないですか!」
この神様、実は中身が子供とかなんじゃないだろうな!
「宝箱の話は簡単。冒険者のパーティによって別々に配当しておるからの」
そう言ってミリクさんは王座の手元にあったリモコンのようなものを手に取り、ボタンを押した。
すると、僕達の周囲にモニターのようなものが複数浮かんだ。
「これは他の冒険者ですか?」
もはやテレビにしか見えないが、
そこには各階層を攻略している他の冒険者の姿があった。
「うむ、しかしこのダンジョンは全く同じ場所ではあるが次元をズラしておる」
「次元……って」
姉さんが反応した。
これも女神様の『権能』を使った技術なのだろう。
「お主らは一度も他の冒険者に会うことは無かったじゃろ?
それも当然、儂が各冒険者パーティに割り振って全く同じ構造の別の場所に送り込んでおったからの」
別のプレイヤーが同じゲームをしてたような感じだろうか。
RPGで例えると分かりやすい。それぞれ別のセーブデータでニューゲームを始めている。
おそらくそんなイメージで良いのだと思う。
「なんでそんな大掛かりな事を……?」
「そうせんと先にきた冒険者が早い者勝ちでレアアイテムを持ち逃げしてしまうからのう」
ああ、そういうこと……。
それだけの為にこんな手間が掛かりそうなことをしたのか。
「それにしても、よくこんな物作れましたね?」
「これでも女神じゃからのう、大抵のものは作れるわい」
自慢げに胸を張るミリクさん。
「魔物はどうやって?」
「元となる魔物を拾ってきて、それを元にして別々にコピペしておる」
「えぇ……」
「まぁそのコピー元が勝手に居なくなると消えてしまうのだが……。
お主らが戦った<レッサーデーモン>がそうじゃったな」
あの時のレッサーデーモンは明らかにミリクさんに反逆していた。
ミリクさんはその時を思い出したのか、ちょっと口調が荒くなりながら言った。
「あやつ、儂がちょっとお主らのダンジョンを弄った時に勝手にあれこれしおっての!
結局本体のデーモンを処罰したせいで別の魔物を他から調達せざるおえんくなったわ、全く!」
あー……なんかごめんなさい。
「それはそっちのミスじゃない」
「わかっとるわ!あやつの仲間のデーモンが儂の構築したシステムにハッキングしたんじゃろうな。儂の知らんところで宝箱のデータやコピー元の保存場所をぐちゃぐちゃに入れ替えてて大変じゃったわ」
デバッグする身にもなってみよ!とかミリクさんは怒っている。
「レイ、この駄女神の言ってることがよく分からないんですが?」
「しすてむ?は、はっきんぐ……?……レベッカにはよく分かりません」
うん、僕も正直さっぱりです。
「要は、このダンジョンを作ったミリクさんがデータを書き換えた隙に、何者かによって改竄されてたみたいだね……」
「ふむ、なるほど。……で、データって?」
「ごめん、僕もよく分からない」
ミリクさんが変に僕達の世界の言葉を使うせいで色々カオスになってきた。
「姉さん、何でミリクさんはこの世界にはない言葉を使うの?」
「女神は世界に干渉する能力があるのよ、その中で共通語みたいなものがあるの」
ミリクさんを見ると「ほほう、よく知っておるの」と感心していた。
「他にもこの世界の言葉で喋れるようにしたり、文字を読めるようにすることも出来るの。私達はもう慣れてあまり違和感を感じないけど、外の世界の人間からしたら外国語を話してるようなものね」
その能力で僕はこの世界の言葉を理解出たり、言葉を読めるのか。
「「???」」
姉さんとミリクさんの説明でエミリアとレベッカが「?」状態になってる。
「レイ様、異世界とかそういうお話なのでしょうか?」
「うん、まぁ多分……」
ちょっと脱線し過ぎたからそろそろ本題に入ろう。
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