第92話 最終階層その4

 相変わらず僕達は地下十階の攻略を続ける。

 最後の階層らしく非常に長く敵の出現率も高く苦労している。

 しかし、ようやく最深部にたどり着いたのか、大きな部屋に出た。


「いい加減、本当にボスかな……?」

「多分……」

「流石に長すぎるわ……もう疲れた」

「ミリク様とお会いできると良いのですが……」

 僕達はこのダンジョンの最後の部屋にようやく差し掛かれると思ったのだが―――。


「ん?」

 この部屋で強い気配があるのは間違いない。

 だが、先にまだ通路があってその奥にいつもとは違う扉があり、そこに更に強い気配がする。

 おそらく奥の扉の先こそミリクさんなのだろう。


 ということは――

「まだ他にもいるということか……」

「でも今までで一番強そうな気配ですよ」

「そうね、今までとは比べ物にならないくらいね」

「早く行きましょう」


 僕達が戦闘の準備を終えて奥に進むと、そこには黒い鎧を着た騎士がいた。

 全身を覆っているため顔までは見えない。身長は2mほどあり、体格も大きい。

 右手には巨大な剣を持っていた。

 その剣だけで僕の身長くらいはある。

 そしてその左手にも盾を持っている。


「あれは……」

 その姿を見て、エミリアが呟いた。

「知っているの?」

「はい、あの鎧の騎士の名前は<ダークナイト>です。闇属性を持つかなり強力な魔物です。物理耐性が高く魔法に対して高い防御力を持っています。更に闇属性の魔法を使用できるという話です」

「あれ、人間じゃなくて魔物なのか……」

「はい、元々は暗黒神に仕える者だったらしいですけど……」

「そんな人がミリクのダンジョンにいるなんてね……」


 僕は<龍殺しの剣>を構え、ダークナイトを見た。

 すると、こちらに気付いたらしく、ゆっくりと近付いてくる。

 しかし、すぐ止まり、どうみても当たらない位置から剣を振り上げて――


「……ッ!」

 僕の技能の『心眼』が警告を発した。

「皆、散って!!」

「「「!!」」」


 僕は咄嗟に仲間に呼びかけ、横に避ける。

 すると、<ダークナイト>が振り上げた剣の直線状に黒い衝撃波のようなものが放たれた。

 僕達はギリギリ何とか回避することが出来た。


「あ、危ない……!」

「レイ君!今のは何!?」

「分からない!でもあの魔物はどこに居ようと攻撃を当ててくるのは間違いない!」

<ダークナイト>がまた動き出そうとしている。僕は即座に走り出し、<ダークナイト>に向かっていった。既にレベッカの強化魔法を付与されていた僕は銀のオーラに包まれ、一気に加速する。


(この距離でこの速度の斬撃、これなら当てられる!!)

 そのままの勢いで斬りかかるが、<ダークナイト>は僕の一撃を盾で軽く受け止める。


「なっ!?」

 今の一撃は<ツインドラゴン>であっても怯ませられるだけの威力がある。それを無造作に……!

 僕は驚きつつもすぐさま次の攻撃に移る。


<剣技・炎魔法Ⅱ>剣技・火炎斬!」

 僕は剣に炎魔法を付与して更に連撃を加える。単純な一撃では無い魔法と物理の同時攻撃だ。

 それだけでは終わらない。僕は左手で<魔法の剣>を抜いて高速の連撃を加える。


<剣技・風魔法二連>二連真空斬!」

 魔法の剣の性能を活かした二連撃の斬撃、更にそれを風魔法で加速させ瞬時に追加で四回攻撃を繰り出す。


 今の僕が繰り出せる最速の必殺攻撃だ。<ダークナイト>の盾はそこまで大きいわけではない。

 これだけ追撃を加え続けば防御を崩せるはず――!!だが、その時――

「え……?」

 僕が放った最後の突きの攻撃は、なんと<ダークナイト>の左腕によって簡単に止められてしまった。

「嘘……だろ……?」

 このタイミングでの全ての攻撃が防がれてしまうなんて……。

 今の攻撃を全て受け止められて、一瞬隙だらけになってしまった僕に<ダークナイト>は剣を振りかざし――

<炎球>ファイアボール!!!」

 割り込む形で発動したエミリアの<炎球>ファイアボールを<ダークナイト>は僕に対する攻撃を中断しギリギリで回避行動を起こした。


「レイ、無事ですか!?」

 エミリアの鋭い声で僕はようやく冷静さを取り戻す。そしてすぐに<ダークナイト>から距離を離す。

「うん、ありがとう。助かったよ……」

「いえ、それよりも気を付けて下さい。あの魔物は本当に強いです!」

「えぇ、気を引き締めてまいりましょう!」

「レイくん一人に負担は掛けないわ!みんなで戦いましょう!」


 ……そうだ、僕一人で戦ってどうする。

 少し強くなったくらいで、調子に乗り過ぎだ。

 僕達はずっと四人で戦ってきたんだから――!


「ごめん、僕も油断してた。ここからは全員で戦うぞ!」

「はい!」

「了解!」

「任せて!」


 僕達は改めて<ダークナイト>と向き合う。

 そして全員が一斉に攻撃を仕掛けていく。


「行きます!はぁ――っ!」

 レベッカは弓を構え矢を<ダークナイト>目掛けて連射する。

<ダークナイト>は盾の及ばない場所に来た矢を全て剣で弾き飛ばす。


「まだまだです!」

 レベッカはさらに続けて矢を放つが、今度は全て弾かれてしまい、

 その隙を突かれて<ダークナイト>がまた遠距離から剣を振りかざす。

 それを察知してレベッカは即座にその場から横に動き、漆黒の衝撃波を回避する。


「食らいなさい!<魔法の大砲>マジックキャノン!!!」

 姉さんの新魔法の<魔法の大砲>マジックキャノンが轟音を立てて<ダークナイト>の若干右側に撃ち出される。流石にまともに受けてはいけないと悟ったのか、ダークナイトは左に避けるのだが―――。

「その位置はダメですよ。<氷の槍>アイスランス

 事前にエミリアが頭上に配置して放っていた氷の槍がダークナイト目掛けて襲い掛かる。様々な角度から襲い掛かる計十二本もの<氷の槍>をダークナイトは半数は盾で防ぎ数本は剣で防ぐのだが、


(盾を使った防御、剣の巧みさがずば抜けている!でも――)


 それでも完全には防ぎきれず、数本は<ダークナイト>の鎧に突き刺さってしまう。盾も今の攻防でボロボロになり、おそらくもう使い物にはならないだろう。そして<ダークナイト>の動きは明らかに鈍くなっているようだ。


「よしっ!効いてる!」

「やったね!」

「畳みかけるぞ!」

 三人で一気に攻撃を加えようとした瞬間だった。

<ダークナイト>の全身を覆う黒い霧のような物が突然吹き出した。


「これは、魔法だ!」

<暗闇>ブラックアウト

 闇の魔法の一つ、周囲を闇に染めて視界を塞ぐ魔法だ。しかし、この魔法の対策は知っている。


<閃光>フラッシュ!!」

 姉さんが光の魔法を放つ、放たれた眩い光に<暗闇>ブラックアウトは瞬く間に霧散する。

「助かりました!これで――」


 だが、それこそが狙いだった。

 僕は見た場所には<ダークナイト>はおらず盾のみが転がっており――

<ダークナイト>は既に僕達の背後に回り込んでいた。

「――しまった!?」

 僕達が振り返ろうとした時、既に剣は振り下ろされ――


「――甘いですね」

 レベッカは<心眼>より即座に奴の位置を特定し、<初速>による瞬間移動かと疑うほどの踏み込みで僕と<ダークナイト>の間に割り込み、槍で奴の剣を受け止めていた。


 ギィイインッ!! 凄まじい金属音が鳴り響き、二人の視線が交差する。


『見事だ』

「あなたこそ」

 お互いに武器を交えながら賛辞を送りあう二人。


『「はぁあああっ!!」』

 そのまま力任せに押し合いを始める。

 まずい、レベッカの力では押し切られてしまう……!

 僕は<ダークナイト>の死角に回り込み、<ダークナイト>の首目掛けて剣で薙ぎ払う。


『!?』

<ダークナイト>は咄嗟に首を捻り、直撃を避け、そのまま後方にジャンプして僕らと距離を取る。


「させません!<上級電撃魔法>ギガスパーク!」

 エミリアは距離を取った<ダークナイト>に雷魔法で追撃を行う。

 奴は金属製の鎧を着ている。この攻撃が直撃すれば致命傷だろう。しかし――


<魔力相殺>ネガティブマジック

 直撃するかと思った上級魔法は奴の<魔力相殺>により頭上の雷撃がかき消され無効化されてしまう。エミリアが強力な魔法を詠唱していることに気付いていたのだろう、対応が迅速だった。


『お前たちの連携も見事な物だ。まさか私にダメージを与えられるとは思わなかったよ』

 ダークナイトはそう言いつつ、先程まで僕が斬りつけていた首元に手を当てる。

 手には血が流れており、僕の斬撃が確かに届いていたことを示していた。


『さて、そろそろ終わらせよう。これ以上長引かせるのも面倒なのでな』

 ダークナイトは剣を構え直す。

 そして次の瞬間、僕達の目の前から消え去った。


(どこへ行った!?)

 周囲に目を配るが姿を捉えることができない。

 しかし、レベッカにあるように僕も<心眼>を持っている。

 そして<心眼>とその先の直感で奴の場所を導き出した。


「――後ろだっ!」

 僕は<龍殺しの剣>を体を回転させながら力任せに後ろに薙ぎ払う。


『――なっ!』

 最初の時よりも瞬時に後ろに回り込んだ<ダークナイト>は察知されるとは思わなかったのだろう。

 奴が振り下ろそうとした剣が僕の剣に弾かれて、宙を舞う。


「姉さん!」

「任せて!」

『く、しま――』

「逃さないわよ!」

 姉さんの魔法が<ダークナイト>を襲う。


<魔法の大砲>マジックキャノン!!」

 轟音と共に放たれる大きな魔力弾はついに<ダークナイト>を捉えた。


『があああっ!!』

 <魔法の大砲>マジックキャノンによって大きく後方へと吹き飛ばされる。


「よし、トドメ行きますよ!」

 エミリアが詠唱に入る。おそらく上級魔法でトドメを刺すつもりなのだろう。

 しかし、奴が得意なのは剣だけでは無かった。


<暗黒の槍>ダークスピア

<ダークナイト>は不安定な姿勢のまま闇の魔法で作り出し漆黒の槍をエミリア目掛けて投擲した。


「あ……しまっ…」『殺った』


<ダークナイト>の漆黒の槍の投擲は間違いなくエミリアを捉えていた。

 この位置では誰もエミリアを助けることは出来ない。<ダークナイト>はそう確信した。

 しかし、エミリアに当たるはずの槍はエミリアの喉元一歩手前で勢いを無くして地面に転がり落ちる。


『ば、馬鹿な――!』

「――危なかったですね、助かりました。レベッカ」

「いえ、ご無事で何よりです、エミリア様」


 レベッカは戦闘に入る直前に既に全員に強化魔法を付与していた。


 その一つは<矢避けの加護>

 効果は、矢や投擲などの遠距離攻撃を一度だけ確実に防ぐというものだ。

 それにより、<ダークナイト>の投擲を完全に防御していたのだ。


 そしてこの状況、奴は剣を飛ばされて無手であり、エミリアはトドメの魔法を詠唱している。


「反撃はさせない」

 僕は<魔法の剣>マジックソードに持ち替えて、構える。


<無限・風魔法>無限真空斬

 僕が剣を横薙ぎに振ると<ダークナイト>目掛けて真空の刃が飛んでいく。


『くっ……この程度の真空破で―――っ!』

 奴の言葉が終わる前に二発目の僕の真空の刃が奴目掛けて放たれる。

『は、速い――!』

<魔力の剣>は振るえば通常の剣を超える速度で切り付けられ、魔法を使えば二つの魔法を同時使用できる。更に風魔法と魔法剣を組み合わせれば凄まじい速度の斬撃を絶え間なく飛ばすことが出来る。


 つまり、僕の魔力が底を突くまで、この真空の刃は途切れることなく放たれ続ける。

 もし<ダークナイト>が剣を持っていたなら、この攻撃にも同じ<闇の衝撃波>で対応することが出来ただろう。しかし、無手である以上、奴は防御に徹する以外の事が出来ない。一撃の威力が低いとはいえ、連続してまともに受けてしまえば蓄積して大ダメージは避けられない。


『こ、これほどとは―――!!』

 そして、防御に徹している間にエミリアの魔法が完成する。


「――行きますよ、<上級獄炎魔法>インフェルノ

 レベッカが得意とする最強の上級魔法インフェルノが発動する。

<ダークナイト>を標的とした赤い霧が発生し、そこから轟音と共に地獄の炎が顕現する。

 この魔法に少々の魔法抵抗力など無意味だ。それほど途轍もない威力を持つ。


『がああぁぁ――っ!!』

<ダークナイト>は地獄の炎で焼き尽くされ、奴は凄まじい断末魔を残して倒れ伏した。

 そして、地獄の炎に焼き尽くされた体は黒い煙を上げて虚空へ消え去った。


「まさかここまで強いなんて……」

「えぇ、私達も油断できない相手でしたね」

 エミリアは額の汗を拭いながら言った。


「……流石にこれで終わりだと思いたいね」

「そうね……」

 僕達は<ダークナイト>が最後に残した宝箱と魔石を拾って、最後の扉へ向かった。


 New (SSR)壊れた魅力の腕輪 1個

 New (SSR)魔力増幅の指輪 1個

 New (SSR)威力増幅の指輪 1個

 New (SSR)聖女の指輪 1個

 New 魔法の霊薬 5個

 New 中級回復ポーション 5個

New 魔石多数(数は省略)

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