第91話 最終階層 その3
僕達は地下十階の最深部を目指す。
僕達は一旦引き返し、正規のルートである正面の道へ進む。
するとまた別れ道だった。
「今度は右かな?」
分かれ道を適当に進むと階段を発見した。下りるとそこは今までとは違う雰囲気の場所だった。小さな小部屋だけで他に行けそうな場所も無さそうだが、安全そうな感じがする。
「なんだかここ温かいですね、それに少し安らぎます」
「確かに、それと宝箱もありますね」
レベッカの言う通り、部屋の隅に宝箱があった。
中身は回復薬の類が殆どだが、レアアイテムとして腕輪が入っていた。
「これって何だろう、付けてみればいいのかな?」
僕は腕輪を嵌めてみる。
サイズは自動調整されたのかぴったりと収まった。
「レイくん、似合っていますよ!」
「本当でございます、レイ様。お可愛らしいです」
え?可愛い?
「そうかな?ちょっと照れるかも……」
褒められるとやっぱり嬉しいけど、この腕輪可愛いだろうか?
僕が今付けた腕輪を見ると、模様と赤い宝石の付いた普通の腕輪に見える。
「本当ですよレイ、とっても似合ってます」
「え、そう?」
三人に言われるとちょっと自信が出てきた。
でも何か不安だったのでエミリアに鑑定を使ってもらった。
名前:<魅力の腕輪(SSR)>
詳細:装備した対象以外に効果を見ることが出来ない。
装備すると気になる異性に魅了の魔法が掛かる。
近くに好きな異性がいると装備者のステータスが底上げされる。
「うーん、鑑定でも分からないとは。
でもレイに似合ってて素敵だと思います」
「そうね、レイくんかっこいいわ!」
「はい!レイ様は素敵です!!」
どうも周りには能力が分からなかったようだ。
多分最初の一文が理由だろう。
「あ、ありがとう……」
複雑な気持ちだったが、まぁいいや。
それよりも気になる事があった。
「ところでみんなは僕のこと好き?」
「もちろんです」
「大好きだよ」
「愛しております」
即答されてしまった。どうやら効果は絶大のようだ。
効果絶大過ぎてどうしていいのか分からなくなった。
一度外してみて様子を見た。
「あれ、外すんですか?」
「レイくん、どうしたの?」
「レイ様?」
「…………ねぇ、僕の事好き?」
何となくもう一度聞いてみた。
「は?突然何を言ってるんですか?」
「レイくん、さすがに自意識高過ぎよ」
「そのような気持ちは心に留めておくべきかと」
「………」
もう一度つけてみた。
「みんな、好きだよ」
「私も好きですよ、レイ。今度両親に会ってください」
「わたくしもでございます、故郷で婚姻を結びましょう」
「平和になったらお姉ちゃんと結婚しようね」
三人とも笑顔で答えてくれた。
僕は<魅力の腕輪>を外すことを止めた。
もうダンジョンとかどうでもいいから四人で静かに暮らしたい。
そんなことを考えながら僕達は<補助結界>を敷いてからその小部屋で数時間仮眠を取った。
寝ている間、三人は僕に抱きついてきた。もう一生このまま居たい。
しかし無情にも仮眠は終わってしまった。
そして、階段を引き返し、違う分岐の道を進むとまた宝箱に<ツインドラゴン>が入っていた。
「レイ様!凄いです!まるで小説の王子様のようです!」
「レイくん!カッコいい!お姉ちゃん禁断の恋をしてしまいそう!」
「レイ、愛しています!一緒に暮らしましょう!」
女の子三人の声援を受けながら僕は全力で<ツインドラゴン>と戦う。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
<魅力の腕輪>の効果によって能力が跳ね上がった僕はツインドラゴンを一方的に追い詰めていた。
(今の僕は無敵だ!三人の声援があるから―――!)
そして僕は<ツインドラゴン>に止めを刺した。
「よし!」「「「きゃあああ!!」」」
三人の黄色い声援をBGMにして、僕は愉悦に浸っていたのだが……。
バキン
「え?」
何処かから何かが壊れる音がした。いや、音がしたのは僕の腕の辺りだ。
見るとさっきの腕輪の宝石の部分が一部割れてしまっていた。
どうやらさっきの戦闘中に敵の攻撃が掠っていたらしい。
宝石の部分が割れてしまったことで効果が切れたようで三人が元に戻った。
「えーっと、これはどういう状況でしょうか?」
「レイ様?何故かわたくし記憶が……」
「うーん、お姉ちゃん何してたんだっけ?」
どうもさっきまでの記憶が無いらしい。
「――ごめんなさい」
とりあえず謝っておいた。
その後、エミリアにもう一度<魅力の腕輪>の鑑定をしてもらった。
すると……
名前:<魅力の腕輪(SSR)>
詳細:装備した対象以外に効果を見ることが出来ない。
近くに好きな異性がいると装備者のステータスが底上げされる。
一部の効果は破損して無効化されている。
「何で肝心な部分だけ消えたんだよおぉぉぉ!!!」
「……あの、レイ様?」
「レイくん?」
「これ、どうしたんですか?」
エミリアは不思議そうに今鑑定した腕輪の傷を指さした。
「あぁそれね。実はさっき倒したモンスターの攻撃を少し受けちゃったみたい」
「そうだったのですね」
「うん、でも大丈夫だから」
「「「……」」」
三人が唐突に黙った。
「私たちには鑑定の結果が分かりませんでしたが、
レイは効果は見えたんですよね?」
「え?それは――」
「私達にも教えて?」
「いや、でも」
「教えろ」
「……」
三人の圧力に逆らえなくて、僕は洗いざらい白状した。
「「「……」」」
そして僕らの間には沈黙が流れた。
「……レイ様」
「はい」
「わたくし達に隠し事は無しですよね?」
「……ごめんなさい」
「お姉ちゃんと約束だよ」
「……分かったよ」
「……レイ?」
「何、エミリア?」
「忘れろ」
「……は、はい」
◆
「うぅ……僕は最低だ……」
僕は未だに落ち込んでいた。
「もう、いつまで落ち込んでいるのですか。
頭を撫でてあげますから元気出しましょう」
「そうよ、男の子なんだからシャキッとしないとね」
「レイ様、ふぁいとです!」
励ましてくれる三人の優しさに僕は少し気を紛らわせることができた。
「ありがとう、もう大丈夫」
「本当ですか?」
「無理しないでね」
「うん」
そして、しばらく進むとまた階段を見つけた。
階段を降りていくと、少し周りの色が変わっただけの似たような空間があった。
「………」
「ここも変わらないね」
「はい、まだ地下十階のようですね」
「じゃあさっきと同じように進んでいこうか」
「了解しました」「はーい」
ちなみに<魅力の腕輪>は壊れてはいるが、
能力強化の方は残っているからそのまま付けたままにしている。
「レイ、壊れててもその腕輪付けてるんですね?」
「え、あ、うん……」
エミリアは僕の耳元でこう言った。
「(また愛していますって言ってほしいですか?)」
「!!!」
エミリアに振り向くとニコニコと笑っていた。
か、揶揄われた……!?
「いやー、好きな人が近くに居ると強くなるんですねー、その腕輪!」
「うんうん、好きな人が近くにいるとねー!」
「ふふふ、レイ様、可愛らしいです……」
……こ、この子たちめぇ……!
僕は恥ずかしくて三人の顔を見れなかった。
それからしばらく探索し、魔物と戦いながら宝箱を開けていく。
「レベッカ、その指輪の使い心地はどう?」
「はい、とても良い感じです」
さっき僕が倒したツインドラゴンも指輪をドロップしていた。
名前は<威力増幅の指輪>といい、装備した武器と攻撃魔法の威力が上がるらしい。
「本当にわたくしが使ってもよろしいのでしょうか?レイ様の方が……」
「大丈夫だよ、それにほら、僕は魅力の腕輪があるから」
レベッカは先の戦いの火龍戦で火力不足が目立っていた。
最初はだれが使うのか相談したのだが、パーティ全体の強化を考えてレベッカになった。
僕は<魅力の腕輪>でかなり恩恵を受けてるのでこれがあれば問題ない。
(好きな女の子三人分のパワーだからなぁ……)
自分で考えてて恥ずかしくなってくる。
「レイ様?」
突然名前を呼ばれてレベッカの顔が近くなった。
「な、何?」
「いえ、何かお悩みのようでしたので……」
そこまで言って、レベッカは思い当たったのか僕に微笑み、
「(魅力の腕輪などなくても、わたくしはレイ様を愛しておりますよ?)」
レベッカは僕の耳元でそう言った。
「れ、レベッカ……」
「ふふっ、これでわたくしも戦えますね♪」
「う、うん……」
僕も<魅了の魔眼>なんて無くてもずっとレベッカに魅了され続けそうだ……。
そんな魅力的な女の子三人に惑わされながらダンジョン探索は続く。
<魅力の腕輪>壊れなきゃよかったのに……。
<ベルフラウの好感度が僅かに下がった>
<エミリアの好感度が僅かに下がった>
<レベッカの好感度が僅かに下がった>
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