第88話 地下九階 決着
姉さんの<空間転移>でどうにか窮地を乗り越えたレイ達。
「あ、危なかったわ――!!」
なんとか姉さんの<空間転移>で離脱できた僕たちは息を整えていた。
「し、死ぬところでした……!」
「呼吸がまともに出来なかったです……」
二人ともかなり消耗しているが、それでも生きている。
本当に運が良かったとしか言いようがない。
「次にまたあのブレスが来たら今度こそ危ないわ、どうしましょうか……」
確かにあの威力のブレスをもう一度放たれたら全員無事とは行かないだろう。
「ところで姉さん、ここは何処――」
ここは何処と訊くまでも無かった、すぐ近くから火龍の咆哮が聞こえたからだ。
「ごめんなさい、今の私の力では<空間転移>でも短距離しか移動できなくて……!!」
「謝る必要はありませんよ、ベルフラウ」
「そうだよ姉さん」
姉さんの転移が無ければあのまま全員焼き焦げていただろう。
「それよりも、あの火龍はまだこちらに気付いていないようでございます」
僕達は自分達が居た地点よりもおよそ五〇メートルほど後ろに転移していた。
こちらは一応岩の影に隠れているが、さほど大きい岩ではないのでいずれは気付かれてしまうだろう。
しかも火龍は逆鱗に触れたのか怒り狂ってその辺りのものまで滅茶苦茶にして暴れている。
「今の間に何か作戦を立てましょう」
「えぇ、でも――」
こちらも既にかなり消耗している。
姉さんの回復魔法で火傷は治してもらったものの、魔法力は全員半減している。
特にエミリアは強力な攻撃魔法を連発して残量はおよそ1/4以下だろう。
「多分、私は上級魔法一発撃てるかどうかくらいだと思います……」
「申し訳ないのですが、レベッカの魔力もあまり残っておりません。
それに残っていたとしてもわたくしの攻撃では殆どダメージが通らない思います」
確かに、レベッカの攻撃でまともに通ったのは
矢の攻撃もダメージそのものは多少あっただろうがトドメは刺せない。
「重力魔法は使えそう?」
「はい、ですが一発が限度だと思います。二発使うには少し足りないかと」
「姉さんは?」
「私は1/3切ったくらいかな、レイくんは?」
「僕は残り1/4くらいだと思う。魔力を込めないと殆どダメージを与えられなかったから……」
火龍には確実にダメージを与えていたものの、このままだとトドメを刺せない。
姉さんは最も魔法力が残っているが、この中で最も攻撃力が無い。
「うーん……どうしようかしら」
「やっぱり僕が囮になって注意を引くしかないと思うけど、
さっきみたいなブレスを撃たれると厳しいかな」
しかし、それをしてもおそらく倒しきれないだろう。
「そうだ、レベッカの
「そうね、それが一番可能性が高いかも。ただ、誰が行くかだけど……」
単純な火力ならエミリアか僕が行くべきだろう。
ただ、あの暴れまわる火龍相手に正面から挑むのは危険すぎる。
「あいつはまだ気付いてないみたいだけど……」
せめて何か良い手はないだろうか。火龍の動きを止める方法……。
……そう言えば、日本の神話で似たような話があったような……。
確かあれは――
「そうだ!!!」
「な、何!?レイくん、急に大声を出したら聞こえちゃうよ!」
しまった、その通りだ。
「レイ様、何か思い付いたのですか?」
「うん、ちょっと聞いてくれる?」
僕は自分の作戦を三人に伝えた。
◆
「う、うーん、あの火龍に効くかしら……?」
「ですが、確かにあの状態の火龍にノコノコと正面から挑むのは危険すぎますし……」
結構な賭けになるが、冷静さを失っているあの火龍なら効く可能性があるかもしれない。
「それで三人の中で必要な魔法を使える人はいる?」
この作戦で最重要な部分だ。
もし誰も使えないなら別の手段を考えないといけない。
「私は一応使えますね」
「私も、封印魔法で似たようなものがあるから使えると思う。
多分、今の火龍には丁度良さそうかな」
「わたくしは使えません。申し訳ありません」
全然問題ない。むしろエミリアと姉さん二人が使えるって状況は最良だ。
「わかった。それじゃあ――」
「では行きます。
レベッカの魔法が発動し、僕と姉さんの魔法力が共有される。
「ありがとうレベッカ、それじゃあ皆準備は良いかな?」
三人は頷く。
「あっちに移動したら即座に全員行動しよう、僕がタイミングを言うね」
「うん」
僕は『龍殺しの剣』を取り出し、魔力を込める。
攻撃役は僕だ。最低でも姉さんがあと一回は魔法を使える分は残す必要があるが、それ以外はほぼ全部つぎ込む。
三人も次の魔法発動の準備は既に終えている。
「よし、行こう!」
「分かった!それじゃあ行くね!」
僕達は再び手を繋ぎ合わせて、<空間転移>で移動した。
◆
そして、僕たちは火龍の正面に<空間転移>した。
火龍は突然目の前に現れた僕達に戸惑いつつも、大きな口を開けて――
「
その前にレベッカの重力魔法が発動する。口を開けて今にもブレスを吐こうとした瞬間に重力魔法で口が閉じてしまったため、火龍の口の中で爆発が起きる。
『――――ッッ』
凄まじい火龍の悲鳴だが、まだこれくらいでは倒れない。
だが事前にかなりのダメージを負わせていなければこの魔法は通用しないだろう。
「二人とも!」
「はい」「ええ!」
そして示し合わせた二人の魔法が発動する。
「魔力超強化
「魔力超強化
エミリアと姉さんの魔法が同時に発動する。
二人の魔法はエミリアの<鼓動する魔導書>の効果によって強化されて威力を底上げしている。姉さんの
僕の伝えた作戦、それは弱らせたドラゴンを眠らせるというものだ。
日本の神話で、ヤマタノオロチという龍が酒を飲まされて眠ったところでトドメを刺して倒したという逸話がある。
しかし万全の状態でこの火龍を眠らせるのはほぼ不可能だろう。
それに興奮状態の火龍が果たして眠るかというのも怪しいところだ。
そのため、弱らせた後で二人以上の
ただ、姉さんの魔法の
『グゥルルルッ……』
火龍はその場に崩れ落ちるように倒れこむ。
姉さんの魔法で逆鱗は静まり、更にエミリアの魔法で火龍は今までの暴れっぷりが嘘のように眠ってしまった。
「
レベッカの今回最後の魔法が僕に付与される。
僕は火龍の首元に乗り、魔力を込めた『龍殺しの剣』を全力振り下ろした。
「これで終わりだよっ!!」
姉さんと僕の魔力を最大まで込めて深紅に染まった龍殺しの刃は、鋼よりも固い火龍の首を遂に切り裂くことが出来た。そしてそのまま火龍は、最後に体をピクリと痙攣させ、そのまま動かなくなった。
「終わった………」
僕はその場で座り込んでしまう。
魔力も殆ど使い果たしてしまったし、もう限界だ。
「大丈夫?」
姉さんが僕に手を差し伸べてくれるが……。
「おわっ!」「きゃっ!」
姉さんは僕に手を差し伸べようとしたが、自分の方が倒れてしまった。
「ご、ごめんね……」
「うん、大丈夫」
僕と姉さんは<魔力共有>しているのだ。
僕がほぼ枯渇しているなら姉さんも枯渇しているのは当たり前だ。
「それで誰か、魔法力が残ってる人は……」
僕はレベッカとエミリアの方に目を向けるのだが―――
「す、すいません、私も魔力切れです……」
エミリアは最後に姉さんと自身両方の威力アップを負担したので魔力切れを起こしたようだ。
今うつ伏せ状態になって寝込んでいる。
レベッカは――
「レイ様、わたくしも打ち止めです……」
レベッカはぺたんと女の子座りで地面に座り込んでいる。
何処となく、ぼーっとしている。
要するにほぼ全員魔力切れということだ。
「あれ、これどうやってダンジョンから帰ればいいんだろう?」
「そ、そう言えば……」
姉さんはキョロキョロ周りを見渡しているが、僕も同じだった。
完全に忘れていた。
このダンジョンは一度入ったら出口まで行かないと出られないタイプなのだ。
そして今は全員が魔力切れを起こしている。
つまり僕達は完全に詰んでしまったわけだが………。
「あ……あの、レイ……?」
うつ伏せになったエミリアがとある方向を指さしている。
そちらを見ると――
「あ、魔法陣だ……」
おそらくこの階層を攻略したから次の階層に向かうための魔法陣が出現したのだろう。
地下八階と同じく、ボスは消滅しないためおそらくドロップアイテムも無いのが分かった。
「ごめん、レイくん……私眠いわ……」
姉さんはそのまま座り込んで眠ってしまった。
「ちょっ……!」
魔法の霊薬を何人か飲んで脱出するという手もあったのだが、
姉さんが寝てしまったので、その場で一時間ほど休んでから姉さんを起こした。
その後にエミリアに魔法の霊薬を飲んでもらい
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