第86話 地下九階、モチベーション
――二日後の朝。
流石に<パンドラの箱>と<呪いの書>との戦いは厳しかったので、
一日休憩を入れてダンジョンに再び向かうことになった。
「それで、今日はどうします?」
「まぁ地下九階の攻略だよね」
気合い入れて行こうとしたのに毎回途中で帰ってる気がする。
「それも良いかと思いますが、地下七階未満では魔石が入手できます」
「ああ、レベッカが良いこと言いましたね」
「換金用の魔石はもう少し蓄えが欲しいかな。
ジンガさんに金貨も良い魔石も持ってかれちゃったし」
「お財布役のベルフラウ様が仰るなら、集めた方が良さそうですね」
ATMみたいな言い方しないで。
「それなら今日は魔物の出現率の高い地下四階に行きますか?」
「エミリアちゃんの提案に賛成!」
「そうですね、それでは明日はドラゴンキッズ解体に行きましょう」
討伐とすら言われないドラゴンキッズさん……。
というか、地下九階ダンジョン完全攻略の話はどうなったの?
「私はまたドラゴンステーキが食べたいわ」
「ふふふ、明日のお楽しみにしましょう。
酒場にお肉持っていけばまた作ってくださいますよ」
「女神様って普通に食事するんですね、今更ですけど……」
おかしい、何かがおかしい……。
このパーティはどんどん脇道に逸れていってる気がする。
僕がしっかりしないと……!このパーティのリーダーは僕なんだ!
今度こそ、金貨にもお宝にも目もくれずに進まないと!
◆
――地下四階、八時間後
「見てください!ストーンゴーレム三十体も狩ったらこんなに!」
エミリアは比較的大きい魔石を手いっぱいに持って喜んでいた。
「こちらも小さい魔石が大量に手に入りましたよ」
「換金すれば結構な金額になりそうね、楽しみだわ!」
「うん、そうだね」
◆
――次の日
ダンジョンに入ってから既に五時間ほど経過した後の話。
「レベッカ、今日ドラゴンキッズ何体剥ぎ取ったっけ?」
「ええと、四体目ですね」
何度も出入りを繰り返すうちに、倒すのも剥ぎ取るのも慣れてしまった。
「今回はリザードマンの鱗も持っていきましょうか」
無駄に手際が良くなってきた。
◆
――更に次の日、地下六階
「地下六階の取らなかった宝箱に金貨が入ってましたよ!」
「あらー、それは良かったわ」
「あのよく分からない魔物は<ローパー>って言うらしいですね。
「<浄化>が効いたから助かったわ」
「わたくし、あの魔物はやはり苦手です……」
◆
――更に更に次の日、地下七階
「イカとタコは美味しそうでございますね」
「これも解体して持ってきましょう」
「良かったですね、レイ」
「え?あ、うん……」
足だけ切り取ったら消えないんだね、あの魔物……。
◆
――更に更に更に次の日、地下五階
「明るくなったので探索してみましょう」
そう言って、探索すること数時間、いくつか宝箱を見つけた。
「「「「………」」」」
今回は取るのを止めておいた。
◆
――更に更に更に更に次の日、地下九階
「
レベッカの強化を貰い僕はドラゴンキッズと対峙する。
「レイ様、頑張ってください!」
「うん、それじゃあ行ってくる!!」
僕は目の前のドラゴンキッズへ駆けていく。
何度も戦う内にキッズの戦い方が分かってきた。
キッズは距離があるうちはブレス主体で攻撃してくる。
そして目で見たものを中心に狙ってくる。
つまりは視覚からの情報が多いのだ。だから、なるべく近くで戦った方がいい。
僕はブレスに当たらない角度に回り込みながら『魔法の剣』を鞘から抜く。
僕は無手で魔法を使う時は詠唱が遅くて発動も遅れやすい。
しかし魔法剣で戦い続けた成果だろうか。剣を使用して魔法を発動した時のみ、ほぼ無詠唱で発動できるようになった。エミリアには『反則的な能力だ』とか言われて怒られてしまったが、あくまで
「
まずは一度当てる。しかしその程度の魔力では通じない。
『魔力の剣』の効果で既に用意された魔法をもう一度発動させる。
「
わざわざ魔法の剣を使用するのは剣の能力で間を置かず連発するためだ。相手が遠距離の攻撃を放ってくる前に、相手の頭上から雷を落とす魔法を放つ。一撃程度ならドラゴンキッズはそう怯まないが、雷撃魔法を連発して当てることで十分に
怯んだ瞬間に、今度は
「――はあっ!」
魔力で強化された剣の一閃、ドラゴンキッズとの距離は本来ならまだ少し遠い。
普通に考えれば僅かに剣先が掠める程度だろう。しかし、レベッカの強化魔法と魔力で強化された『龍殺しの剣』の射程は瞬間的に1.5倍程度に伸びる。通常あり得ないような奇襲に、ドラゴンキッズは為す術もなくその首が両断されてしまう。
「お見事です、レイ様!」
「レイくん、すごーい!」
「お疲れ様です。今回も無駄に魔法連発してましたね」
エミリアが何か言ってるけど、そこだけ無視して称賛だけ受けることにする。
「うん、ありがとう」
何度も解体を繰り返してるうちに随分ドラゴンキッズを倒すのに慣れてしまった。
レベッカの強化魔法は非常に強力だ。
最初の内はあまりの強化に能力を持て余していたが何度も使われることで体が少しずつ慣れていった。これなら今日もまだまだドラゴンキッズと戦い続けられるだろう。
「レイも解体手伝ってください」
「うん、分かった」
今回一人で戦ってたのは、他のみんなが別のドラゴンキッズの剥ぎ取りを行っていたからだ。
この調子で他のドラゴンキッズも―――。
そこまで思考して、自分が何か忘れてるような気がした。
あれ?僕達って何しに来たんだっけ……?
「ねぇ、みんな」
「「「はい」」」
「今日は何をしにここへ来たんでしたっけ」
「「「……」」」
三人が顔を見合わせる。
「剥ぎ取り」
「魔石稼ぎ」
「ドラゴンステーキ」
見事にバラバラである。一人は調理後の話だよ。
「いや、違うよ!火龍だよ!」
そもそも僕達、火龍の為にわざわざ遠出して装備揃えたんだった!
いつの間にかドラゴンキッズ狩りばかりしてて忘れた!
「今日こそ地下九階のボスの火龍を倒すよ!」
僕は気合いを入れて叫ぶが――
ちょんちょんと袖を引っ張られると、
「あの、レイ。私もう魔法力半分以下なんですが……」
「私も調子にのって<空間転移>三回くらい使って疲れちゃって……」
「剥ぎ取った材料持ち帰らないといけません……」
三人が申し訳なさそうに言う。
「あれぇ!?おかしいなぁ!!」
おかしいのは僕の方かなぁ!! 結局この日は途中まで進んで地上へ戻った。
◆ 一週間後 ◆
「何か、アレですよね」
「え、何?」
「別に火龍倒さないでも良くないですか?」
「あーわかるかも」
「ちょっと飽きてきました」
三人ともすっかりやる気をなくしていた。
「いやいやいやいや、そういうわけにはいかないでしょ!」
僕だってそろそろ飽きてきてるけどさ。
というか最近九階のドラゴンキッズ狩りと七階までの魔石集めしかしてない気がする。
「いえ、でも地下八階以降、魔石もドロップしませんしドロップアイテムもありませんし」
「あんまりダンジョンの先に行く意味も無いのよねぇ……」
「レベッカはドラゴンキッズさえ剥ぎ取れれば、仕送り増やせて満足です」
そのドラゴンキッズ絶滅しそうな勢いなんだけど。
「うぅん、困ったなぁ」
正直言ってここまで何も出ないとモチベーションも続かない。
「……帰ろうか?」
「そうしましょうか」
ぶっちゃけダンジョンで十分な稼ぎも出来たし、装備も潤った。
これだけあれば生活にも困らないだろう。
あとはゆっくり時間をかけて攻略すればいい。
「よし、じゃあ戻ろうか」
そう言った時だった。
ゴォオオオオッッ!!! 凄まじい轟音と共に目の前の壁が崩れ落ち、巨大な影が現れる。
「え……嘘……」
それは間違いなく『火龍』であった。
そして、それはつまり、地下九階のボス部屋に入ったという事であり――
「えええええええええええええええええええええええ!!!」
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