第六章 ダンジョン編(後編)

第83話 攻略再開、地下九階

―――地下九階

僕たちは久しぶりにダンジョンに潜った。

「やっぱりここ熱いね……」

溶岩だらけの洞窟なので熱いのは当たり前だが。

<極光の護り>オーロラバリア

姉さんの魔法で僕らの周囲にオーロラのようなオーラが展開される。

本来はブレス系の攻撃を軽減する魔法だが、熱気を防ぐ効果もある。

「ありがとう、姉さん」

「ベルフラウのお陰で大分助かりますね」

「効果が切れない間に参りましょう、レイ様」

レベッカの言う通りだ。僕たちはダンジョンを進むことにした。

以前に来た時は途中で脱出魔法で戻ったので最初からだ。


「やっぱり居ましたね」

以前も出会ったリザードマンだ。

体格は僕と大差無いが、高い炎耐性と槍を持った戦士のようなトカゲだ。


「単独みたいだから僕一人で戦ってみるよ」

「レイ様、強化魔法はどうします?」

安全を考えるならここは使うべきなんだろうが……。

(一度、自分の素の能力がどの程度か確認しておいた方がいいかも……)


「最初は無しでやってみるよ」

僕はそう言いながら<龍殺しの剣>ドラゴンスレイヤーを鞘から抜いて構える。

「レイくん、大丈夫?」「レイ様……」

やっぱり心配されるよね。気持ちは分かる。


「大丈夫、無理はしないよ」

敵もこちらに気付いたようだ。こちらに槍を向けて近づいてくる。

「じゃあ行ってくるね!」

僕は敵に向かって飛び出す。


「あっ……レイくん……」

「ベルフラウ、気持ちは分かりますが見守ってあげましょう……」

「うん……」

「レイ様、頑張って……」


僕とリザードマンは単独で対峙する。

「(すごく心配させちゃったな……)」

後で謝らないと……と、そんなことを考えてる場合じゃない。

「っ!」

僕はリザードマンが突きだした槍を横に躱す。

「ガアッ!」

リザードマンは槍を僕が逃げた方に薙ぐが、剣でそれを受け止める。

「(……っ!やっぱり力は強いな)」


分かっていたことだが、この洞窟の敵は強い。

敵単独の戦闘力で考えるなら八階以前の敵と比較しても飛び抜けている。

「はあっ!」

剣を両手で振るい、槍を弾いてリザードマンに更に接近して剣で袈裟切りする。

「グアアッ!」

龍殺しの剣は固いリザードマンの皮膚を切り裂き、血が飛び散る。

<初級氷魔法>アイス

追撃で左手から氷魔法を発動、リザードマンの顔を狙って魔法を放つ。

体が大きく切り裂かれ、頭が凍り付いたリザードマンはうめき声も出せずに後ろにフラフラと下がっていく。そこを剣で追撃、そのまま頭を狙って頭を砕いた。


「ふう……」

僕は一息つく。前回と違って一応単独でも勝てたことにホッとする。

「レイくーん、お疲れさま」

「レイ様、ご無事ですか?」

二人が僕の方へ駆け寄ってくる。

「うん、なんとかね。……ごめん、無茶なことして」

僕は心配してくれた二人に謝る。今回は自分がどう考えても悪い。

「あはは……まぁ二人が心配性なのはありますけどね、そんなに謝らなくても大丈夫ですよ」

エミリアはフォローしてくれた。

「エミリア」

「レイも凄く強くなりましたし、自分の強さを分かっておきたいって気持ちは分かりましたよ」

「う、気付いてたんだ……」

このパーティ、心読まれる率が高い気がする。


「そういうことでしたか……」

「ごめんね、レイくんが強いのは分かってるんだけど……」

二人も分かってくれてはいたようだが、やはり心配なのだろう。

思えば僕は大怪我を負うことが多くて、三人に心配をかけっぱなしだ。


「僕が強くなったと言っても、まだ全然足りないからさ。もっと強くならないと」

僕はそう言って笑う。……三人に心配をさせないようにしないとね。

「装備の性能もある程度確認出来たし、次からはちゃんと連携するよ」


以前は<魔力食いの剣>マジックイーターの魔力強化とレベッカの強化魔法を貰って倒した。今回は魔力を込めずに戦ってリザードマンの鱗付きの固い皮膚を切り裂けたのだ。十分に威力が上がっている。前回と違って素の能力で力負けしなかったのも大きな収穫だ。とはいえ、強化魔法無しでこの階層で連戦するのは難しい。次からはちゃんと強化してもらうつもりだ。


「それじゃあ、先へ進もうか」

僕たちはダンジョンを進み始めた。

「……思っていたのですが、地下八階から敵が魔石落とさなくなりましたね」

エミリアに言われて気付く。確かにそうだ。

地下八階のボスに至っては、いつもなら報酬ドロップがあったのにそれすらなかった。

「何でだろうね」

「魔石が少ないと稼ぎが無いのですが……」

割とそれは由々しき問題だ。ダンジョンに潜るメリットが無い。

「ミリク様の考えは私には読めません……」

レベッカがなんとなく落ち込んだ感じで歩いている。

自身の故郷の村が崇拝する女神様の気持ちを理解しきれないのが辛いのだろうか。

「レベッカちゃん、落ち込まないで。神様なんてそんなものだから」

「ベルフラウ様……」

「……」

エミリアは二人の様子を見てどこか訝しげにしている。

正確には姉さんを見て、だろうか。


とはいえ今はダンジョンを進もう。

更に進むとリザードマン二体、それと大きい芋虫のような魔物が居た。

見た目の色は赤とピンクが混じった色をしている。

僕達は一旦影に隠れて様子を見る。敵の数が多い、正面突破は危険だろう。


「こんなところに芋虫が……」

「どういう攻撃を仕掛けてくるか分からないわ、注意しましょう」


姉さんはそう言って、二つの魔法を僕達に付与する。


<物防広域展開>フィールドバリア

<魔防広域展開>フィールドレジスト


片方は物理防御、もう片方は魔法防御は引き上げる範囲防御魔法だ。

これにさっき付与した<極光の護り>オーロラバリアを加えることで大半の攻撃に対策が出来る。


「よし……それじゃあ行こうか。レベッカ、強化魔法よろしく」

僕はいつものようにレベッカに指示する。


「……はい!!」

レベッカはいつもより張り切って魔法を展開する。

もしかして、さっき僕が魔法を拒否したことを気にしていたのだろうか。

そうしてレベッカの強化を待つのだが、いつもより少し詠唱が長い?

レベッカの強化魔法はかなり早く発動するイメージなんだけど……。


「お待たせしました!<全強化>貴方に全てを

レベッカの強化魔法が付与される。しかしいつもと違う、これは……!


「凄い、いつもの強化魔法が全部付与されて……それでいて更に性能が上がっているような……」

気付くと僕は銀のオーラに包まれていた。


「更に上位の強化魔法を覚えました。同時に魔法強化もされている筈です」

それは凄い、はっきり言って自分でも滅茶苦茶強くなった気がする。

強化幅こそ以前ミリクさんに貰った強化より劣るだろうが、それに近いものがある。


「レ、レベッカ……また強くなったんですね……」

詠唱を溜めていたエミリアが何かまた落ち込んでる……。


「レベッカさまもどうぞ、<魔力強化Lv10>知恵の祝福を

エミリアにも強化魔法が掛かる。これも初めて使う魔法だ。


「おお……凄い、魔力がどんどん溢れてきますよ……!」

そう言えばエミリアが強化魔法貰ったの初めてのような。


「では行きましょう!<中級氷結魔法>ダイアモンドダスト

まずはエミリアが先鋒を切る。敵の中心から中範囲に氷の粒が舞いそれが一気に凍結する。


「よし!」

それを確認してから、僕はリザードマンに斬りかかる。

敵は氷魔法により動きが鈍化して奇襲に対応しきれない。


ここの敵は強い。エミリアの魔法が強力でも中級魔法では倒しきれないだろう。

だが、氷魔法は別だ。威力自体はそこまで高くともここの敵の大半は弱点、

しかも氷魔法は冷気で動きを制限する効果もある。


結果、リザードマンの一体はまともに攻撃をガードできずに僕に一撃の下で倒される。


「ぎゃあっ!」

もう一体のリザードマンは氷魔法の影響がそこまで強くなかったようだ。

多少速度が落ちていてもこちらに向かい槍を突きあげてきた。


「くっ……!」

剣での防御が間に合わないと感じ、一歩下がるが回避しきれずに右銅に突きを受けてしまう。

しかし、ダメージがそこまで大きくなく、次の攻撃が来る前に一旦後ろに下がった。


「レイ!大丈夫ですか!」

「平気!軽傷だよ!」

氷魔法のダメージが予想より小さいことに驚いた。

想像より氷耐性が強いのか、敵が思いの外タフなのかどちらかだろう。

こちらも防御魔法と元々鎧の防御が高いおかげで大したダメージを負っていない。


「はぁっ!」

レベッカの龍殺しの矢がリザードマンに突き刺さる。

この矢もジンガさんに制作してもらったものだ。通常の矢と違ってドラゴンの牙が使われている。

威力はかなり高く、固いリザードマンに深々と突き刺さった。


「レイくん!<中級回復>キュア

姉さんの回復を貰った僕はお返しとばかりに矢でダメージを受けたリザードマンに追撃を加える。

龍殺しの剣でリザードマンの首を刎ね、残りは芋虫だけだ。

その芋虫はというと……。


「げっ……!」

どうもこいつも火を吐くようで、自身の周りの氷を溶かしていた。

そして、次のターゲットは僕だった。大きな火吹き芋虫は僕に向かってブレスを吐いてきた。


「あっつ…!」

ただえさえ周りは熱いのに、更に火を浴びせられて僕は少々火傷を負ったが、それでも大きなダメージにはならない。


<氷の槍>アイスランス

エミリアの周囲に四本の氷の矢が浮かび上がり、火吹き芋虫に直撃、氷の槍が全て突き刺さり動かなくなった。

これで遭遇した敵は全て倒したことになる。


「レイくん、大丈夫?<初級回復>ヒール

「ありがとう姉さん」

再び回復魔法を貰い、僕は姉さんに礼を言う。


「うーん、最初の一体は上手くいったんだけど……」

それ以降の敵の動きが予想外で無駄に被弾してしまった。

新防具と防御魔法のお陰で相当ダメージ軽減できたのが幸いだ。


「私も、やっぱりもうちょっと氷魔法に慣れておくべきでしたかね……」

エミリアは自分の氷魔法の威力が低かったと考えたようだ。

しかし、エミリアの魔法はレベッカの強化魔法によって十分ブーストされているように見えた。


「最初の一体は十分凍っていたからやっぱり効果範囲と、あとは敵の耐性かな……」

「そうね、あのトカゲさん達が想像よりも大分タフということなのかしら」

そもそも炎地帯だから氷が弱点だろうという発想は先入観でしかない。


「レベッカが思うに、若干離れた位置の敵三体を纏めて効果範囲に入れたのが理由だと思います」

要は三体の中心に魔法を置いたせいで、範囲ギリギリに近い敵には効果が薄かったという事だ。

僕が攻撃したリザードマンは氷魔法の直撃を受けていたから影響が強かったのだろう。


今回の経験を生かして次は戦うことにした。

「リザードマン三体ですね」

「普通にしんどい相手なんだけど……」

一対一なら負けないだろうが、三体居ると流石に安易に接近戦は出来ない。


「レイ、上級魔法使っていいですか?」

うーん……ダンジョン割と序盤なんだけど仕方ないかなぁ……。


「お願い」「了解」

エミリアが詠唱を開始する。おそらく氷の上位魔法だろう。

しかし厄介なことに敵に気付かれてしまった。


「姉さん、動きを止めて!」

「うん、<束縛>バインド

姉さんの魔法が敵の内一体を魔法の鎖で拘束する。


「はっ!」

レベッカが他一体を矢で食い止める。銀の矢を連発して使って足止めしているようだ。

僕も接近せず足止めに専念しよう。もう一本の<魔法の剣改>を鞘から取り出す。


<剣技・二連風魔法>二連真空切り

剣から<初級風魔法>エアレイドを二連続で放つ。一撃の威力は低いが風で十分に足止めが出来る。

<魔法の剣>は武器の威力こそ低いが、魔法を使用した際の性能は髙い。

特に魔法石の効果により弱い魔法なら最大二つまで同時発動できるというのは非常に強力だ。

エミリアの技能の『マルチタスク』を疑似的に再現できる。今回は風の刃を二発同時に放った。自分の魔法力では倒しきることが出来ないが、これを交互に撃てば足止めはたやすい。

その間に姉さんが他の敵にも<束縛>を掛けていく。


以前より詠唱速度が早くなっていたエミリアの氷魔法が発動する。

<上級氷魔法>コールドエンド

エミリアの魔法でリザードマン三体はまとめて凍り付き、分厚い氷の中に閉じ込められた。

もう動くことは出来ないだろう。

「お見事です、エミリア様」

皆で拍手を送る。本人的には切り札の上級魔法を使ったのは不満のようだ。


その後、なるべく敵を避けて進むと分かれ道があった。

分かれ道といっても、周囲が溶岩だらけなので進む道が限定されてると言った方が正しいのだが。

「正面の道へ行くか、脇道へ行くか……」

「脇道へ行ったら宝箱とか無いでしょうか……」

「さすがにそれは無いんじゃない?この辺りってモンスターしか居ないし」

「まあ一応行ってみますか?」

全員一致で行くことに決まった。


「…………おお」

脇道へ行くと、宝箱は無かったもの金貨や銀貨や転がっていた。

と、同時にドラゴンキッズが居た。どうやらこいつが光り物を集めていたようだ。


「よし、倒して行こう」

「レイくん、何か変なスイッチ入ってない?」

「大丈夫だよ姉さん、ただちょっとレアモンスター狩りたいだけ」

「本当のところ散らばってる金貨が欲しいだけですよね」


ドラゴンキッズはこちらを見つけるなり突進してきた。

その口に炎が見える。


「姉さん!」「うん、<極光の護り>オーロラバリア!」

姉さんのオーロラの魔法が再び発動する。これでブレスにはある程度対策出来る。


<全強化>貴方に全てを

レベッカの新強化魔法が僕に発動し、再び僕は銀のオーラに包まれる。

「よしっ!行ってくる!!」


僕は<龍殺しの剣>を構えてドラゴンに駆けていく。

ドラゴンキッズは大きく口を開いた。炎のブレスを撃つのだろう。


「そうはさせない!<剣技・氷魔法Ⅱ>氷結斬

龍殺しの剣を通して魔法を発動する。敵の口から放射されたブレスを氷魔法で塞き止める。


<氷の息>コールドブレス

エミリアの複合氷風魔法が発動し、横からドラゴンの炎とぶつかり合う。

僕の魔法剣が壁を作りエミリアの魔法でドラゴンの炎を押し返した。


「―――はっ!」

後方からレベッカの龍殺しの矢がドラゴンキッズの右目に突き刺さった。


「ギャアアアアアアア!」

ドラゴンキッズが大きな悲鳴を上げて暴れだす。


「ベルフラウ様、動きを!」

<束縛>バインド!」


姉さんの魔法の鎖でドラゴンの足を止めるが、力が強すぎて長くは保てない。

僕は<龍殺しの剣>に魔力を込める。この剣で魔力を込めて攻撃するのはこれが初めてだ。


<氷の槍>アイスランス

エミリアの氷の槍四本がドラゴンキッズの翼に当たり、何本かは刺さったようだ。


「レイ、これで飛べないと思いますよ!」

僕は<龍殺しの剣>を構えたまま、ドラゴンキッズに向かって走る。

そしてドラゴンの目掛けて剣を振り上げながらジャンプした。


「うぉりゃああ!」

振り上げた剣を振り下ろし、ドラゴンキッズの頭を切り裂き、胴体の半分近くを抉った。

そのまま地面に落下し、ズシンという音を立てて倒れる。


「……ふぅ、勝ったー……」

<龍殺しの剣>の威力はかなりのものだ。

今回使った魔力も<魔力食いの剣>マジックイーターの時と比べると半分で済んでいる。

魔力の強化幅が低くても元々の武器の威力差が大きい。

僕達は暫くの間は余韻に浸っていたが、戦った理由を思い出した。


「金貨を回収しないと」

「あと、ドラゴンを剥ぎ取りませんと」

「あっ、そっちも忘れちゃいけないね……」

周りに敵が来ないように、姉さんは防御結界を敷いて作業を始めた。


そして……

「やっぱりお肉持って帰りませんか……?」

「そうなるよね……」

周りの金貨を回収し、ドラゴンの鱗や皮を剥ぎ取った僕たちはお肉を解体してから脱出魔法で地上に帰った。

今回も酒場にお肉を提供したのだが、やはりドラゴンの肉は好評だった。

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