第82話 またダンジョンへ

 次の日――


 僕達はギルドへ足を運んだ。目的は、ある依頼がまだ残っているのか確認するためだ。依頼を受けるかどうかはまだ決めていないが、成否に関わらず一度行ってみたいと思っている。


「レイ様、今日はエニーサイドに戻る予定だったのでは?」

「うん、そのつもりだったんだけど――」

 初日に見たワイバーン討伐の依頼、あれが気になっていた。


「ワイバーンですか?」

「うん、達成できるかどうかは分からないけど一度見ておきたくて……」

「お、レイも<ドラゴンスレイヤー>を目指すのですか?

 折角強力な武器も手に入りましたし、気持ちは分かりますけどね」


<ドラゴンスレイヤー>は竜を倒した冒険者の称号のようなものだ。

 何かあるわけではないが、倒したというだけで冒険者として名が残り称賛されるらしい。


 ちなみに僕達も<ゴブリン召喚士>を倒した実績があるのでそれなりに有名になっている。とはいっても、当時新人だった冒険者にしては、というレベルだ。ミライさんの言っていた『ゼロタウンの英雄』はかなりの誇張表現と言える。


「いやいや、そんなつもりは……」


 今回の依頼を受けるのはあくまで確認だ。

 ジンガさんの家に飾られていた写真、僕はあれがワイバーンじゃないかと思っている。

 倒すことが出来ればそれも良いが、そう上手くはいかないだろう。


「一度受けてみたいんだけどいいかな?」

「レイくんが行きたいなら私は構わないよ。

 エミリアちゃんとレベッカちゃんもそれでいい?」

 姉さんの言葉で二人が頷く。

「レイ様が望むのであれば。剥ぎ取れば仕送り増やせますし」

「ダンジョンに戻ればどうせ戦うことになりますからね。前哨戦としてアリだと思います」

「ありがとう、それじゃあ依頼受けてくるね」


 ◆


「すみません、これお願いします」

 受付嬢に一枚の紙を渡す。さっきのワイバーン討伐の依頼書だ。

「えーっと、ワイバーン討伐ですか?」

「はい」

「すいません、この依頼は既に終了しております」

「えっ!?」

「はい、どうも依頼関係なく別の方に討伐されてしまったせいで、

 掲示板にそのまま残って張られていたみたいです。申し訳ありません……」

 まさか間違いで貼られていたとは……。

「誰が討伐したのですか?」

「えーっと、冒険者ではないから詳しいことは分かりませんが……。

 この街の手前にある集落の街道を西に行った先の森に住んでる方らしいです」

 西の森……?もしかして、ジンガさん?

「それってどのくらい前の話でしょうか?」

「確か二ヶ月ほど前だったと思います。

 といっても報告があったわけではないので時期は推測でしかありませんが……。

 その時期から目撃されなくなったので、調査員を出して確認した結果です」

「……そ、そうですか。

 ところで何故誰が討伐したか分かったのですか?」

「西の森に住んでおられる方はその、以前から色々噂になっておりまして……

 以前に他の冒険者の方が、ワイバーンの住まう場所でその方が戦う所を目撃したそうです」

「そんなことが……」

「様々な武器でお一人で討伐されたと噂が立っております。あくまで噂でしかありませんけどね。かなりのご高齢なので何かの間違いでは無いかと思うのですが……」 


 職員さんに礼をして僕は受付を後にする。その後に皆が待つソファーへ戻ってきた。


「あ、レイくん、依頼を受けてきたの?」

「ううん、もう達成済みだったよ。間違えて張られてたんだって」

「あら、珍しいこともあるんですね」

「二ヶ月も前に討伐されていたみたい。倒したのは冒険じゃないみたいだけど」

「ワイバーンをですか……それほどの相手に打ち勝つ方がいらっしゃるのですね」

「しかし、そのワイバーンを倒した人、かなりの強者ですね」

「うん、強者だね」


 しかし―――


 まさか、ジンガさんが討伐していたとは。

 この街の手前の集落、そこから街道を沿って西の森なのだから間違いない。

 あんな危険な場所に住む人なんてジンガさんだけだろう。

 魔物が出現するような森で一人で平然と暮らしているのだから強くて当たり前だろうけど。


「まさかワイバーンを討伐するような人だとは……」

 自分で武器を造るだけじゃなくて自分で戦うとは凄い人だ。

 鍛冶場に置いてあった武具は、単に作っただけでは無くジンガさんが使ったものなのだろう。

 あの写真もジンガさんが直接撮ったものなのかもしれない。


 ◆


 それから1時間後、僕たちは定期馬車に乗っていた。

 ダンジョン攻略へ戻るために、再びエニーサイドを目指す。


「私達もいつか、ワイバーンとか倒せるようになるのでしょうか?」

「……うーん、どうなんだろ」


 僕達もダンジョン攻略に戻るなら、火龍と戦う羽目になる。

 正直勝てる気がしない。


「まぁ、今はダンジョン攻略かな……」

 地下十階はミリクさんが待っているだろう。そこでどうなるかは分からないけど……。

 そんなことを考えていると、隣に座っている姉さんが僕の袖を引っ張った。


「ねぇ、レイくん」「何?」


 姉さんは僕の耳元で小声で言った。

「レイくんはさ、元の世界に帰りたいって思う?」

 ……唐突な質問だな。


「急にどうしたの姉さん?」

 周りに聞こえないように僕も小声で言った。

「そうだね……お母さんとお父さんに会いたいけど……」

「うん……」

「今は、姉さんやエミリア、レベッカがいるから……」

「……そっか」

 姉さんはどこか安心した表情を浮かべた。


「どうしたんですか?レイ」

「お二人とも、真剣なお顔で話されていましたが……」

 二人には聞こえてなかったか、まぁ聞かれても困るわけではないけど……。

「レイくんのいつものホームシックだよ」

「え、僕が言ったことになるの?」

 そんなに僕ホームシック起こしてたっけ?


 ◆


 数時間後、僕たちはエニーサイドに到着した。


「久しぶりに戻ってきた気がする」

「相変わらず冒険者が多い村ですねぇ……」

 以前より人は少なくなってるように見えるが、それでも冒険者は相変わらずだ。


 宿を取る前に、酒場の方に顔を出すことにした。

「こんにちはー」

「あ、レイさん達!久しぶりだねー」

 酒場に行くと看板娘のミラちゃんがいつものように冒険者さんの接待をしていた。

「久しぶりです、ミライさんは何処に?」

 帰ってきたので今回のお礼を言いたかったのだが、

「あー、お姉ちゃん、また本部に呼ばれて帰っちゃったみたい」

「あら……残念ですね、お礼したかったんだけど……」

 僕達は一週間ほど中継点に泊まっていたので、その間にゼロタウンに戻ったらしい。

 折角なので酒場で食事を済ませて、宿に向かった。


 僕達は宿を取って今後の方針を相談することにした。

「明日からまたダンジョンに入るとして、次はどこに行くべきだと思う?」

「折角、龍殺しの剣も手に入ったのですから、地下九階に挑むべきでしょう」

 エミリアは既に覚悟を決めているようだ。

「ドラゴンと戦えば、また剥ぎ取って仕送りを増やせるので……」

 レベッカはまた剥ぎ取る気のようだ。頼もしいけど、この子12歳だからね。

「姉さんは?」

「レイくんの行きたい場所でいい。この際ミリクの事は忘れて良いと思うの」

 忘れて良いのかなぁ……。

「良いのよ。あの子の目的は私たちには関係ないもの」

「ベルフラウ、言い切りましたね……」


 それはともかく、目的は決まった。

 次こそは地下九階の完全攻略だ。僕たちはジンガさんに作ってもらった武装を身に着けて挑む。

 結構時間が経ってしまったけど、ミリクさん怒っていないだろうか――。

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