第80話 癒し

 

 僕達はジンガさんに頼んだ装備を受け取ることが出来た。

 総額は金貨七十枚程だった。素材を持参したことでかなり割安になっているらしい。

 本来であれば金貨二百枚を余裕で超えてしまうとか、持参して良かった。


「さて、このままエニーサイドに戻りますか?」

「私はそれでいいと思うけど、レイくんはどう思う?」


 僕も帰ってもいいとは思う。ただ、集落の定期馬車はあまり通って無いようだ。 それなら支部ギルドの中継点の街へ戻った方が馬車便が多く出ている。


「一度、支部の方に戻ろう。帰るにしろそっちからの方が都合も良いし」

「では、あちらへ戻りましょうか」


 僕たちは森を後にする。道中で出てきた魔物は<龍殺しの剣>の試し斬りにされた。別に進んで倒しにいってるわけではないが、出現率が無駄に高い。今回は熊のような魔物と出くわした。


 名前は<バーサクグリズリー>と呼ばれているらしい。力が強くその辺の木をなぎ倒すほどの力がある。ただ、擬態したトレントを間違えて殴り倒す辺り魔物同士の協調性は全く無いようだ。レベッカの土属性魔法で昏倒させた後に<龍殺しの剣>で倒した。


 ややこしいが、<アルミラージ>と<バーサクグリズリー>は魔獣扱いされている。どちらも本来の野生の動物が変異したらしい。


 この<龍殺しの剣>の威力はとんでもなかった。

 僕の体格からすれば大きい剣だが、振るえば並の相手を薙ぎ払える威力がある。盾としての側面もあり、かなり頑丈なためよほどの攻撃でも破損しない防御力も備えている。『魔力食いの剣』の性質も引き継いでおり、魔力を込めることで威力も底上げされる。


 射程拡張の効果は<魔力食いの剣>ほどの性能ではないが、それでも元々大きめの剣の為それなりの射程を伸ばすことも可能。勿論、魔法石を込めているため魔法剣も問題なく使用できる。

 欠点があるとすれば、この武器を使っている間は盾を使用できないことだろう。以前にジンガさんから借りた剣よりも重いため、少しは鍛えたとはいえ僕の筋力では片手で使用は難しそうだ。以前アドレ―さんから貰った<パワーリスト>を使えば可能かもしれないが、まだ試してはいない。


 そして、ジンガさんに鍛え直してもらった<マジックソード>だ。今は名前を改めて<魔法の剣>と呼ばせてもらう。こっちは僅かに射程が短くなっており、刃そのものが別の金属に付け替えられている。代わりに魔力を通しやすく、増幅する効果が加えられており補助具として文句なしの性能になっている。『龍殺しの剣』とは対照的に非常に軽く、この剣を主軸に戦えば別の戦い方も出来るかもしれない。


 どちらも文句なしの非常に強力な武器だ。

 僕自身が未熟なため、直ぐには使いこなせないだろうが『最高の仕上がりの武器』を『最高の武器』にするためにも僕は今よりも強くならないといけない。


<緩やかな加速>時よ軽やかに

 森を出た僕たちはレベッカの魔法で再び緩やかに加速して中継点を目指す。


「ぐぬぬ……!」

 この魔法使うたびにエミリアが悔しそうな顔をするんだけど……。

「エミリアは何でそんなに悔しそうなの?」

「悔しくなんて無いですよっ!? ええ!」

 いや、歯ぎしりしてレベッカに敵意むき出しにしてすごい悔しそうじゃん。


 その後、落ち着いたエミリアは僕の隣でボソボソと語り出す。

 レベッカにはあまり聞かれたくないのだろう。


「……<重圧>グラビティといい、<緩やかな加速>時よ軽やかにといい、レベッカは凄い魔法ばかり使うじゃないですか……」

 確かに、重力を操ったり時間を早めたり、かなり規模の違う魔法に思える。

「私だって他の魔法も使えるんですよ……」

「えっ? どんな魔法なの?」

 レベッカと似た系統の魔法なのだろうか。

「………………です」

 ん?今なんていった?小声でよく聞こえなかったよ?


「……<影縛り>シャドウバインドっていう魔法なんです……」

 初めて聞く魔法だ。どんな効果なのだろう。


「どんな魔法なの?」

「……」

「エミリア?」

「……」

「ねぇエミリアってば」

「……」

「おーい、戻ってこーい」

「……」

「……寝てるのか?」

「起きていますッ!!」

 突然大声で叫んだのでビックリした!!


「じゃあ何で無視するのさ」

「いや、その……あのですね」

 急にもじもじし始めた。この子可愛いな、知ってるけど。


「エミリアの魔法ってどういう効果あるの?」

「えっとですね……簡単に言うと私の影に入った対象を足止めする魔法です」

 それだけ聞くと結構有用に見えるけど……。


「今までそんな魔法使ったことあったっけ?」

「……だって私、魔法使いですもん。そこまで接近されて足止めだけしても意味なくないですか?」

「そ、そうなの?」「そうですよぉ」

 言われてみると、確かにそこまで接近されて足だけ止めて意味があるのか……。


「新人の時に私が使っていた魔法なのですが、

 攻撃魔法を使えるようになって全然使わなくなって……」

「何か、強みとかないの?」

「魔法力をほぼ消費しない。発動すれば足を止めるだけじゃなく麻痺に近い効果を発揮する。

 一応それなりの強みはあるのですが、とにかく私の戦い方に合わなくて……」


「エミリアの戦い方っていうと?」

「私の戦闘スタイルって距離を取って攻撃魔法連発とか、弱体化魔法で敵を弱くするとかそんな感じですよね。自分で言うのも何ですが基本ごり押しです」

「うん、そうだね」

 ごり押しが多いというのは否定しない。

「うぅ……」


 エミリアは魔法使いの花形のような戦い方だ。他にも<索敵>や<鑑定>など便利な魔法も使える。反面、僕は魔法だけ見るとエミリアの劣化だ。攻撃魔法は使えるが、それ以外は全然出来ないし、少し前に教わった回復魔法も使えるけどあまり強力な魔法は使えない。


「でもレベッカは、強化魔法も、攻撃魔法も使えて、挙句には失伝魔法と思われる時魔法まで使えるし、しかも<空間転移>とかいうとんでもない魔法が使えて、魔法だけじゃなくて武器戦闘も得意で……」

 どんどんネガティブになってくる。


 エミリアは少し前からレベッカをライバル視しているところがあった。最初の時は魔法使いとして見た場合、エミリアの方が適正試験でも大きく上回ってたのだが、レベッカの使用する多様で希少な魔法はエミリアには適性が無いらしく使うことが出来なかった。

 とはいえ、単純な魔法力や威力関してはエミリアが今も圧倒している。そこまで悲観することは無いと思うのだが、エミリアにとってはそうではないらしい。このままだと可哀想なので少しでも慰めてあげよう。


「エミリアだって十分凄いよ」

「本当ですかぁ?」

 半泣きになりながら聞いてきた。可愛すぎる……。

 普段冷静なのにこうやって半泣きで泣き付かれるとキュンとしてしまう。

「本当だよ。エミリアだって魔力は凄く高くて威力も強いし、

 敵の討伐数で言えばパーティ内でエミリアが圧倒してて、一番の主力だよ」


 討伐数の序列は一位エミリア、二位が僕で、三位レベッカだ。姉さんは基本は回復・妨害なので攻撃は苦手で、レベッカもサポートに回ることが多く、もっぱら槍よりは弓で敵を仕留めることが多い。


「ありがとうございますぅ」

 上目遣いの潤った目で僕の手を両手で握りしめてくる。

 近い、近いよ……!いや、もっと近寄ってほしい。


「うふふ、なかよしさんねぇ……」

「レイ様、エミリア様、仲睦まじくてレベッカはとても羨ましいです……」

 二人とも微笑ましそうに見ないでください……。あとレベッカ、目が一瞬輝いたような……。

 それ<魅了の魔眼>じゃないよね……?


 朝から中継点から出発し、森の深部へ入ってから引き返し、更に中継点へ引き返す。早朝から出て、行きは馬車を使ったが、それ以降はずっと徒歩だ。レベッカの魔法があるとはいえ、それでも九時間は経過している。流石に疲れたので中継点までのベンチで少し休むことにした。


「休憩にしようか……疲れたし」

「賛成ー」

「賛成ですー」

「レベッカも賛成です」


 皆の意見が一致したところで、僕たちはそれぞれ好きなように過ごす。

 エミリアは眠ってしまい、レベッカは木陰で読書をしている。


 僕?僕はもちろん……


「レイくん、気持ちいい?」「う、うん……」

 ベルフラウ姉さんに膝枕してもらってました。

 きっとここは剣の稽古とかすべきなんだろうけど、僕は癒されたい。


「最近大変だったもんね」「ごめんね……」

「謝らないで。私はレイくんと一緒にいられるだけで幸せだから」


 優しく頭を撫でてくれる。

 姉さんって絶対男をダメにするタイプだよね……。

 とはいえ、もう日も傾き始めてる。あと一時間もすれば夕暮れだろう。


 僕達は少し休んでから再び中継点を目指して、二時間半後には街へ着いた。

 流石に今から帰宅は大変なので今日は宿に泊まることにした。

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