第79話 新武器

 僕たちはこの一週間を冒険者ギルドの依頼を繰り返して過ごした。

 その際、今回は討伐依頼を多く受け、作戦は僕を中心とした組み方で戦った。


 理由は僕自身の実力を上げるためだ。

 ジンガさんが僕の魔法剣を封印させた理由は僕の基礎能力を補わせるなのだと思う。

 その為にあえて普段使う武器よりも重い剣を持たせたのかもしれない。


 そして一週間経って僕達はジンガさんの家へ向かった。

 中継点からここまでは馬車を経由したとはいえ相当距離が長い。

「ここに来るのも久しぶりだね……」

「久しぶりと言っても一週間しか経っていませんけどね」

「ジンガさん、元気にしてるかしら」


 僕達は一週間ぶりに森を経由してジンガさんを家へ向かう。

 途中で何度か魔物に出会ったが、トレントの擬態やアルミラージの魔法に警戒すればそこまで怖くなかった。途中の道はミライさんに書いてもらった地図と姉さんが事前に付けておいた目印で迷うことなく進むことが出来た。前回のような妨害は流石に無かったのは幸いだ。


「見えてきたよ」

 前方には以前と同じ大きな建物が見えてくる。

 入り口には見覚えのある人が立っていた。


「私たちはここで待っています」

「え?何で?」

「レイくん、剣とかの話になるとそっちに夢中になっちゃうし……」

「そんなレイ様も素敵だとは思うのですが……」

 えぇ……何その理由?


「それはまぁ冗談としても、

正直剣の話を色々話されても私たちには付いて行けませんし」

 ああ、そういう……。


「分かった、じゃあ行ってくるよ」

 そう言って僕はエミリア達と一旦別れてジンガさんの元へ行った。

「来たか」

「こんにちは、ジンガさん」

「とりあえず中に入れ、品物は用意してある」

 僕達はジンガさんの家の鍛冶場へ向かう。


「これだ、まずはお前の剣だ」

 ジンガさんに渡された剣は、以前の<魔力食いの剣>と比べると大きくて幅の大きい剣だった。

 この大きさは今ジンガさんに貸し出して貰っている剣の大きさとほぼ同じ大きさだった。


「もしかして、この大きさを想定して、この剣を貸してくれたのですか?」

「お前たちはドラゴンと戦うのだろ?

 以前の剣の大きさでは大きなドラゴンの鱗を貫くには力不足だったからな。

 ある程度完成形の大きさを想定して慣れてもらうためにあの剣を渡した」


 僕は借りていた剣をジンガさんに返し、新しい剣を手に取った。

 見た目の大きさはさっきの剣と同程度だが、重さは僅かにこちらの方が重い。


「鞘から抜いてみろ」

 言われた通りに鞘から剣を抜く。


「これは―――」

 それはとても眩い光を放っていた。

 そしてこの柄のデザイン、それにこの刀身は……


「ドラゴンの……?」

「そうだ、毒を以って毒を制すという言葉がある。

 この剣の素材はお前達が持ってきたドラゴンが材料、そしてお前達が討伐を目指すのもドラゴンだ。

 まさしく<龍殺しの剣>ドラゴンスレイヤーの名に相応しい」


 確かにこのデザインは竜種をモチーフにしているように見える。

 それに、この埋め込まれた魔石は三つ、そのうちの一つに見覚えがある。


「魔力食いの石を使っているのですか?」

<魔力食いの剣>マジックイーターに使われていた魔法石は殆ど破損していたが、無事な部分を取り出し、磨いて取り付けた。効果は残っているが、魔力食いの剣の時よりは劣化はしている」


「いえ、それでも嬉しいです……!」

<魔力食いの剣>は僕にとって思い入れのある剣だ。その一部でも引き継げるのなら鬼に金棒だ。


「残り二つの魔石の効果は、ドラゴンの鱗をも貫通する攻撃力、

 そして盾としても使えるだけの頑丈さを施してある。戦士として最も必要な能力を剣に盛り込んだ」


「ありがとうございます!最高の仕上がりですよ!!」

「その最高の仕上がりの剣を最高の剣に出来るかはお前次第だ、お前のこの先に期待している」

「はい、まだ未熟者なのでこれから鍛えて行きたいと思います」


「それともう一本の方だ、こっちは切れ味を上げてはいるがそれよりも別の側面を付けておいた」

 渡されたのは<マジックソード>だ。しかし、最初に持った時に感じたのは……。


「軽い……」

 渡す前に比べると重さを感じない。

 鞘を取ると以前と比べて刃が軽量化されて鋭くなっていた。


「お前は魔法剣とやらを使うのだろ? 少し工夫をした。後で試しておけ」

「分かりました、大切に使わせてもらいますね」


 ジンガさんはそれ以外にもいくつかの武器と防具も作ってもらった。

 それと武具の詳細の分かるメモを同時に渡してくれた。


「ところで外の連中は何で入ってこないんだ?」

「剣の事はよく分からないので僕に任せるって言われまして……」

「はぁ――これだから、ロマンを分かってない奴は困るな」

「本当ですよね、こんなにカッコいいのに……」

 自分で全部運ぶことが出来ないので外の四人を呼んできた。


「ジンガ様、此度はお世話になりました」

 レベッカは丁寧にお辞儀する。


「救ってくれて本当に助かりました。ありがとうございます」

 姉さんは僕を助けるために魔力枯渇しながらも回復魔法を使い続けてくれた。


「武器の事はよく分かりませんが、貴方の作ってくれた剣や防具が凄いことは分かります。

 ジンガさんはかなりの名工なのですね」

 エミリアが言いたいのは武具に内包されている魔力の事を言っているのだろう。魔石を磨いて魔法石に使ったり素材の加工の技術の高さなど、鉄を叩いて形を作る以上の事をジンガさんはやっている。


「ふん、他の若い鍛冶師がだらしないだけだ」

 こういう所が偏屈と言われるんだろうな。


「じゃあ僕はこれで失礼します。ジンガさん、本当にお世話になりました」

「ああ……また来いよ」

 ミライさんに偏屈で人間嫌いとか紹介されてたけど、実際は少し頑固なだけで優しい人だった。


「それでは行きましょうか」

「お世話になりましたー」

「お元気で、ジンガ様」


 三人はそのまま背を向けて家を去っていくが、僕はふと気になったことがあった。


「ジンガさん、部屋に飾ってあった写真って――」

「あれを見たのか……若いころの俺と妻の写真だ」

 

やっぱりそうだったのか。こんな辺鄙で危険なところに住んでいるのと、奥さんが見当たらないことには何か理由があったのかもしれない。だけどそんなところまで深入りするつもりはない。僕はそのまま三人について行った。

 


「それでどうしたんですか?」

 家を出た後、歩きながら僕たちは話していた。

「いや、ちょっと聞きたかっただけだよ」

「何をですか?」

「何でも無い」

「??」


 三人にこの話をするつもりは無い。

 ただ、僕が気になったのはもう一つの写真だ。

 ドラゴンの写真だったと思うんだけど……まぁ、他人の事情を詮索するのは野暮か。


 僕達はようやく本来の目的を果たすことが出来た。

 新しい武器と防具、色々あったが遂に入手することが出来たのだ。

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