第78話 冒険者の日常
翌日、朝食を食べ終えてからギルドに向かう。
「今日は何か良いのあるかな……?」
「また魔物退治とかでしょうか?」
「そうだね、ただ今回はエミリアとの連携魔法は止めとこう」
タイミング間違えると普通にエミリアに殺されかねない。自分の魔法と比べて威力が高すぎて制御もほぼ出来なかった。やっぱり補助具として使用できる剣が手元に戻るまでは魔法剣は無理かもしれない。
「今回は、ホブゴブリンくらいしかないかなぁ……」
ゴブリンの上位種だけど、今の僕たちならおおよそ苦戦しないはずだ。
悩んでいると受付のお姉さんが話しかけてきた。
「それでしたら、ちょうど良さそうな依頼がありますよ?」
受付のお姉さんから一枚の依頼書を見せてもらう。内容は……。
<コボルトの集落の調査> 調査か……集落の規模によっては殲滅もあり得るだろう。
「これはゴブリンとは別口なのかな?」
「はい、こちらは最近になって森の奥の方で発見されたものです。
最初はゴブリンが住み着いたのではないかと思われていたのですが、ゴブリンの反応が無いので別物と判断されています。現在はコボルトの群れがいる可能性が高いため、危険度を考えて上級冒険者に回された依頼になります」
「そんなのがあるんだ」
「はい、こちらの案件は常時張り出されているものなので、いつでも受けられますよ?」
「なるほど、じゃあこれをお願いします」
この手の仕事は結構好きだ。それに討伐よりは少し気楽だしね。
僕らは早速、準備を整えて出発した。
◆
森の中を進み、目的地まで辿り着いた。
「ここが依頼の場所みたいだね」
依頼にあった場所には木々が無く開けた空間になっており、中心に大きな泉があった。
「エミリア、コボルトってどういう魔物なの?」
色々説明は聞いたが、自分の認識としてゴブリンの亜種程度としか考えていない。
「基本的に二足歩行する狼といったところですね。人里にも現れ、家畜を襲うこともあります」
「じゃあ基本的にはゴブリンと同じ感じなんだね」
「そうなります。ただし知能が高いので武器を使う個体も多いです。注意しておきましょう」
なるほど、となるとゴブリンよりは少し厄介かもしれない。
「レベッカ、この近辺で何か見掛けない?」
レベッカは『鷹の目』で周囲を警戒している。
もしコボルトが居た場合、即座に知らせてその地点へ向かう算段となっている。
「今のところは何も……おや?」
「どうしたの?」
「前方の茂みから微かに反応がありました、少なくとも大きな魔物ではなさそうです」
「そっか、単独だろうね……」
「コボルトの集団までいる場所まで移動する可能性もありますね」
となると、この場合は敢えて手出しをせずに合流させて位置を把握する手もある。
「この場は一旦隠れよう。エミリアは隠れたあと<索敵>で周囲を探ってほしい」
「了解です」
僕達は近くの岩陰に隠れて様子を見守る。
「
エミリアが魔法を発動させる。
さっきの魔物の動向を探るために範囲を狭める代わりに追尾して索敵を行う。
「合流したようです。やはりコボルトが複数いますね」
「数はどのくらい?」
「今の所、三体です」
「よし、じゃあこっちも四人で警戒しながら進んでいこう」
僕たちは気配を殺して移動を開始した。
「……いました、あの先です」「あれだね」
コボルトたちの住処らしき洞窟が見える。入り口付近に数匹のコボルトがいた。
「まずは他の三匹を排除するよ、レベッカお願い」
慎重に行くならレベッカの弓で奇襲、その後僕が前に出て姉さんとエミリアで妨害と攻撃を担当してもらうのだが、今は僕の鍛錬の為に戦い方を変えている。
「はい、
レベッカの強化魔法により僕の速度が上昇する。
今回はスピード勝負だ。見張りを速攻で倒す。
「何かあったら三人は援護よろしくね」
僕は剣を抜き、一気に駆け出した。
「グガァッ!?」「ギャウゥ!!」
コボルトたちに気付かれたか、しかしこの距離で反応してももう遅い。
「はあっ!」
僕は強化魔法でレベッカに近い速度で踏み込み、即座に見張りのコボルトを剣で薙ぎ払う。
「ギャウッ!!?」
一撃の下に首を飛ばされ絶命し、血を吹き出しつつ倒れる。
そのまま勢いに任せ、残り二体の脇を通り抜ける際に胴を切りつける。
「グキャアッ!!??」
更に通り抜けざまにもう一体を蹴り飛ばして壁に叩きつけ、首元目掛けて剣を振り下ろす。
「ギャンッ……!!……」
最後の一体は振り返りながら腕を振るってきたので、それを避けて喉笛を一突きにした。
「ふぅ……」
素早く片付いたけど、油断は禁物。
まだ他のコボルトが残っている可能性がある。
「みんな大丈夫?」
「問題ありません」
「こちらも無事です」
「私も平気だよ~」
よかった、皆怪我も無さそうだ。
「さて、問題はこれからだけど」
「まずはコボルトたちを倒してからですね」
「さっきはエミリアの<索敵>でも三体しか反応しなかったけど、他にも居たりするかな?」
「索敵の範囲が狭かったから分かりませんね」
僕らは気を引き締め、警戒しながら洞窟の中へと入っていった。
◆
中へ入るとすぐに広い空間に出た。コボルトたちがここで生活しているのか、地面は草で覆われており所々には木の実なども落ちている。
「……これは」
そこには巨大な猪のような魔物が倒れていた。
「コボルトたちの獲物でしょうか?」
「多分そうだろうね」
どうやら既に事切れているようで、辺り一面に血溜まりが出来ている。
「これを見る限りだと、コボルトの群れが倒したように見えるよね」
「はい、この大きさの魔物なら複数で襲えば倒せるでしょう」
「うーん、となるとやっぱり他に仲間がいるのかもしれないね」
僕は『心眼』で周囲に気配が無いか探る。
すると、奥の方からこちらへ向かってくる反応があった。
「……来たみたいだね」
「えぇ、行きましょう」
僕らは警戒しながら反応のある方角へ進んでいく。付近には四匹のコボルトがいた。
敵はまだこちらに気付いていないようだ。
「レベッカ、弓で二体行ける?」
「やってみます」
レベッカは弓矢を構えると狙いを定めて放つ。
「ギャッ……!」
「ギャインッ……」
命中したのを確認しつつ僕達も走る。
レベッカが射抜いたコボルトの後ろにいたコボルトに向けて走り出す。
「はぁっ!」
速度を大きく上げ、コボルトに追いついて一閃する。
「ギャアァ!?!?」
「
レベッカの攻撃魔法が残りのコボルトを焼き尽くし倒した。
「これで全部かな……」
「今回、私は何もやってない気がする……」
「ううん、姉さんの防御魔法のお陰でそこそこ無茶な斬り込みとかできたし」
実際、今回は僕も結構動いたから最悪被弾を覚悟していた。
こういう作戦だと防御魔法と回復魔法が使える姉さんが傍に居てくれた方が助かるのだ。
「そ、そう?だったらいいんだけど」
しかし、そろそろ引き上げ時だろうか。
「エミリア、もう一度索敵お願いしていいかな」
「分かりました、
エミリアの索敵の魔法が発動する。索敵は深さや範囲で精密性が大きく下がってしまう。さっきの場合で完全な把握が出来なかったのは、索敵の範囲を絞り込んでいたからだろう。
「……どうやらもう居ないようですね」
「よし、じゃあ戻ろうか」
僕らは来た道を戻り、森の外へと出る。
日は既に傾きかけており、もうすぐ夕方になる頃合いであった。
その日の依頼報告を終えて僕たちは宿へ戻った。
こうやってギルドで依頼を受ける日々は久しぶりだ。
僕たちはこの一週間を冒険者ギルドの依頼を繰り返して過ごしていた。
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