第70話 遠出
――翌日、僕達は馬車でミライさんと鍛冶師さんの家へ行くことになった。
「おはようございます、皆さん。今日はご一緒させてもらいますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ミライさん」
こうして僕ら一行はミライさんを加え、目的地へ出発した。
馬車に揺られて僕たちは進んでいく。
「鍛冶師さんの家はどの辺りにあるのですか?」
「人里離れた場所なので、近くの集落から三時間ほどの道のりがあります。
そこからは馬車ではとても行けない道のりなので、少し大変ですよ」
そんな道に同行してくれるのか、ミライさんには結構苦労掛けてるかもしれない。
「ちなみに、どういった道なのですか?」
「集落で馬車を降りてそこから街道を西に向かってそのあと森に行きます」
森に住んでるのか、鍛冶師さんは…。
「近くに鉱物が取れる場所があるようで、そこで鉱石を取ってくるみたいですよ」
中々アグレッシブな鍛冶師さんのようだ。
「もしかしてそこって魔物とか出たりします……?」
「んーと、そうですね。魔法を使うアルミラージとか木に化けた魔物、それにクマみたいなの」
どうやら普通より危険な所らしい。
「まぁ私達なら大丈夫ですよ。いざとなったら私が倒しますから!」
「わぁ、頼もしいですね! 私はあまり戦えないので助かりますー」
………ん?あまり戦えない?
ミライさん、非戦闘員かと思ってたけど実は少しは戦えるのか?
「ところで、ミライさんは戦うときは何を使って戦うんですか?」
「やだなぁ、レイさん! 私が戦うように見えますか?こんなにか弱そうなのにー」
ミライさんがニコニコしながら言うとエミリアが呆れて言った。
「よく言いますよ。この人、対人相手なら結構な魔法使いですよ」
ん、エミリアと同じ魔法使いなのか。見たところ普通のギルド職員の服装だけど……。
「ミライさんって、どんな魔法使うんですか?」
「そうですねぇ……例えばですけど……」
ミライさんは、自分の手を広げて指で文字のようなものを書いている。
(何をやっているんだろう?)
まるで酔い止めに『人』の字を書いてるみたいだ。
「じゃあ、魔法使ってみますねー」
ミライさんはそう言って、その手のひらを自分の耳に当てた。
「ミラちゃん、聞こえますかー?」
『え? お姉ちゃん!? 急にどうしたの?』
「!!?」
いきなりこの場に居ない声が聞こえたんだけど、これって――
「通信魔法です、レイ」
やっぱり通信魔法か。という事は……
「これが私の魔法の使い方です。
同じ通信魔法を使える相手ならこうやって離れた場所でも通話が出来るんですよ」
便利だな、おい。それってかなりすごいんじゃないの?
「さっきの声はミライさんの妹さんですか?」
「はい、エニーサイドのアイドル、ミラちゃんですよー」
『お姉ちゃん、何言ってんの……?』
相変わらず、通信先のミラちゃんの声が聞こえる。本当に便利だな。
『それで、お姉ちゃん、何か用事だったの?』
「いえ、愛しの妹のミラの声が聴きたくなりまして―――ってあれ?」
どうも通信魔法を切られたらしい。
「もう、ミラってば照れちゃって……まぁこんな感じですね」
「なるほど、それは確かに便利な魔法ですね」
僕は、エミリアとレベッカの方を見たが二人とも首を横に振った。
やはり、誰も使えないみたいだ。
「それでは、そろそろ到着するので準備しましょうか」
そんな話をしているうちに、目的地に着いたようだ。
「それでは御者さん、ありがとうございました」
「はいよ、それじゃあね」
僕達は近くの集落で馬車を降りてからそこから街道に沿って西へ進む。
「ここからしばらく歩きます。それでは行きましょうか」
ミライさん先導で僕たちは街道を進んでいく。今日は風も爽やかで良い天気だ。
気候も良くて気分よく進んでいたのだが―――
「おい、そこの! ここを通りたければ通行料を払いな!」
突然現れた盗賊たち四人に道を塞がれてしまった。
「ここは俺らの縄張りだからな! 金目の物を置いていきな!」
どうやらこいつらは街道を通る人たちからお金を巻き上げているらしい。
「うわー、面倒な奴らに絡まれちゃいましたねぇ」
「このような人達には関わりにならない方が……」
エミリアとレベッカの言う通りなのだが、それを聞いた盗賊が怒り出す。
「あ?なんだと!?てめぇら良い度胸だな!
今謝れば一人金貨十枚で許してやってもいいがな」
「金貨十枚って……」
異世界でもこういう人達って居るんだなぁ。反社会勢力というか……。
「あの、すいません、ここを通してもらえませんか?」
まずは穏便に話してみよう。
「はっ、ガキが何言ってんだ!
痛い目に遭いたくなかったらとっととお家に帰るんだな!!」
なんかもうダメな気がしてきた。
「レイさん、ここは私に任せてください」
「え?ミライさん? 危険ですよ!」
「大丈夫ですよ、こういう人を取り締まるのはギルド職員の仕事でもありますからー」
そう言ってミライさんは僕たちの前に出る。
「おうおう、言ってくれんじゃねぇか眼鏡の姉ちゃんよぉ!? 中々イイ女じゃねえか、ぐへへ……」
ヤバい、この人達アレな人だ。
「後ろの女も胸デカくて美人だなぁー」
「ひっ!」
後ろで姉さんが怯えてる!
「大丈夫ですよ、ベルフラウさん。では行きますね」
ミライさんはニコニコしながら、盗賊たちの前に出て眼鏡の外し――
「はい、じゃあ捕まってくださいね」
――そのまま盗賊たちは身動きが出来なくなった。
「えっ?」
ミライさんは一体今何をしたんだ――!?
「はい、終わりました。これで彼らは動けなくなりましたよ」
盗賊たちはその場で固まったまま動かない。
「な、何だ……か、体が動かねぇ……!?」
これは、一体……?
「魔眼ですよ。使ったのは<麻痺の魔眼>ですね」
疑問に答えたのはエミリアだった。
「魔眼……?」
「はい、その通りです。私の場合裸眼で相手を認識しないと発動しないんですけどね」
ミライさんが眼鏡を外したのはその為だったのか。今はもう眼鏡を戻している。
「あ、もちろん、眼鏡無しでも私が使おうとしない限り無害ですよ。
そうでないと日常生活に支障が出ちゃいますからね」
ミライさん実はすっごい強いのでは……?
魔眼で身動き出来なくしたと言ってもいずれ効果が切れるので、
ミライさんは通信魔法でギルド本部に連絡を取って盗賊たちを引き渡すことになった。
その間、念のために姉さんの植物操作で体を拘束している。
「お待たせしました、それでは目的地に行きましょうか」
「ミライさん、このままにしといていいんですか?」
「大丈夫です、ギルドの人に連絡を取ったので少ししたら引き取りに来てくれますよ」
「わ、わかりました」
それからさらにしばらく歩いて目的の森に到着した。
「この森の奥に鍛冶師さんが住んでいる筈です」
「ミライさま、その鍛冶師さまのお名前は何と言うのですか?」
「あ、そういえばまだ聞いてなかったかも」
どんな人なんだろう。頑固な人って言ってたけど……。
「ジンガ、という方です。気難しいですが悪い人ではありませんよ」
森の中に入ってしばらく歩くと、木の陰からカサッと音がした。
「ん?なんだろう……」
気になってそっちの方に寄ると……いきなり目の前に鋭いツノが―――
「うわっ!」
僕は咄嗟に左手の盾で急に飛び出してきたツノを受け止めた。
「な、何だ!」
「どうしたの、レイくん?」
僕の声でみんなが僕に駆け寄ってくる。そのツノの正体は……
「レイさん、それはアルミラージです!」
アルミラージ、確かウサギに似た魔物だけど凶暴な肉食獣だ。
「レイさん、大丈夫ですか!?」
「ええ、なんとか防げました。それより……」
アルミラージは僕を警戒して距離を取っている。
(どうする、こいつ結構力が強いぞ)
すると、アルミラージはこちらから更に距離を取り―――
「
僕は急速に意識を失い、倒れそうになった。
「っ!」
咄嗟に僕は右手の剣をアルミラージに投げつけた。
ザシュッ!!
「ぎゃあっ!」
アルミラージは悲鳴を上げて倒れた。
そこで何とか意識を保つことが出来た。
「レイ、大丈夫ですか!? 今倒れかけましたが……!」
エミリアが僕の体を掴んで支える。助けようとしてくれてたのだろうか。
「う、うん……大丈夫」
危なかった……反撃しなければ、今のは完全に意識を落とされてたかも。
「レイさん、凄いですね。よく今の魔法に抵抗できましたね?」
ミライさんの言葉で、さっきの瞬間を思い出す。
「魔法? そう言えばさっき……」
「はい、
あの魔法を受けてしまうと大半の人はそのまま眠りに落ちてしまうんですが……」
<眠りの魔法>など状態異常を起こす類の魔法は何度も受けて抵抗力を付けているか、
装備で耐性が無いと初見はまず耐えられないらしい。
「レイさんは見たところ、それを防止する装備などはしてないようだったので……」
そうなのか……もしかしたらペンダントのお陰かもしれないな。
「そのような魔法を……アルミラージとはとても厄介な魔物ですね……」
僕はアルミラージに投げつけた剣を拾って鞘に納める。
「今ので分かったと思いますが、この森の魔物は厄介です。気を付けて進みましょう」
ミライさんの言葉を受けて僕達は気を引き締めて進むことにした。
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