第67話 久々の職員
ドラゴンキッズ二体を倒せた僕達だったが――
「三人とも怪我はない?」
「はい」「私も大丈夫だよ」「レベッカも問題ありません」
良かった、とりあえず三人共大きなダメージは無いみたいだ。
「レイくんが一番怪我してるよ。
姉さんの回復魔法で僕は通常通りに動くことが出来るようになった。
「ありがとう、でもちょっとこれは厳しいかな…」
連戦で何とか倒せたとはいえ、明らかに強敵だった。
キッズ単独の強さは地下五階で戦ったレッサーデーモンよりずっと強い。
「レイさま、焦げた方はどうしようもありませんが、もう一体のドラゴンを剥ぎ取りたいのですが…」
「あ、うん、いいよ」
レベッカ元気だな…いや、自分は動きすぎて疲れてるだけかもしれないけど。
剥ぎ取りを安全に行うために再び防御結界を張り、更に中に拠点結界を敷いて僕らは少し休んだ。
そして、十分休憩した後で剥ぎ取りを行う。
「うわー、結構硬い鱗…まともにナイフが通らないです」
エミリアも剥ぎ取りを行うために姉さんのナイフを借りてるのだが力が足り無いようだ。
「
レベッカは自己強化を行って僕の剣で斬り裂いて解体している。
「そういえば、皆さま」
「ん?どうしたの?レベッカ」
「ドラゴンのお肉も解体して持っていきませんか?今なら新鮮なので美味しいですよ」
「え、食べられるの!?」「それは良いですね!」「ドラゴンって食べれるんですか……」
ドラゴンは高級食材として取引されている、らしい。
「はい、焦げてしまった方は売り物にはならないでしょうが、
酒場や食堂に持っていけばもしかしたら美味しい料理を作って振る舞ってもらえるかもしれませんし」
…………僕たちはそれを聞いて、脱出魔法で地上に帰ることにした。
◆
僕達はエニーサイドの酒場にそれぞれ肉を切り分けて持って行った。
「ありがとねーお客さんが持ってきてくれたお肉のお陰で酒場が凄く盛り上がってるよー」
酒場の看板娘さんにお礼を言われて、僕たちは四人テーブルについて食事をしている。
「ねえ、このドラゴンステーキっていうのすごくおいしいんだけど!」
「本当ですね!これは良いお土産になりました」
「私はこれをくれたレイさんに感謝しています」
酒場に来ていた他の冒険者さんにもお礼を言われてしまった。
……確かに味は最高だ。ドラゴンの肉なんて初めて食べたけどこんなに柔らかくて旨いのか。
「はむはむ……とてもおいしゅうございます…」
レベッカが隣の席でドラゴンステーキを頬張りながら食べている。
「これは…魔力を感じますね」
エミリアは目の前のお肉を違う視点で見ていた。
「え、そうなの?エミリアちゃん?」
「はい、これを食べればもしかしたら貯蔵魔力が上がるかもしれません」
え、マジで?
僕は空になった皿を返却して更に四皿くらいドラゴンステーキを貰いに行った。
取ってきた張本人なのでいくら食べても無料だ。やったね。
食べてる最中に金髪の男性の冒険者に声を掛けられた。
「ドラゴンの素材は武器屋に売った方が良い値段になるはずだ。
それに頼めばドラゴンの素材で新しい防具や武器だって作ってくれるかもしれないぞ」
「あ、そうなんですか?」
「ああ、俺も前にドラゴンキッズを倒した時に名のある鍛冶屋に行って大剣と鎧を作ってもらったことがある」
「えっ、貴方もドラゴンを倒したことが?」
「あるぜ!そいつは氷を吐くドラゴンだったが、いやはや流石に並の魔物じゃねえな。強敵だったぜ」
すごい…自分達はかなり必死だったのに、この人は普通に倒せたのか。
この人はライオネルという名前らしい。こことは別の大陸で三人で冒険をして、スノードラゴンというドラゴンの子供達と戦ったという話だ。
「流石に親のスノードラゴン相手には逃げるしかなかった。
だがあの戦いは死闘だったぜ、全員無事に生き延びたのは奇跡だったかもな…」
ライオネルさんはその時の情景が浮かんだのか、目を瞑って当時の光景を回想している。
「それで手に入った大剣と鎧はキッズとはいえかなりのモノになってな。
剣の方はドラゴンの鱗を容易に貫ける武器に、鎧は冷気にかなり強く勿論頑丈だ!
あれは良いものだったぜ」
それを聞いて僕はちょっと希望が湧いた。
もしかしたら今回のドラゴンの素材で強力な装備が作れるかもしれない―――!
◆
「―――というわけで武器屋と武具屋に持っていこう!」
僕は次の日の第一声でみんなにそう声を掛けた。
「昨日、酒場を出た後に妙に元気になったと思ったらそういう話でしたか……」
「うふふ、レイくん男の子だもんね。そういう話になると夢中になっちゃうのも仕方ないわ」
二人は呆れ顔で僕を見てる。レベッカは黙々と矢の手入れをしている。
「レベッカはあんまり興味無さそうだね…」
「いえ、そういうわけでは…
ただ、最近かなり矢を消耗してしまったので、少し念入りに手入れをしておりました。
少し変形したものや鏃を修復をしないと、数が少なくなると困りますので」
レベッカの使う銀の矢はレベッカのお手製が多い。
銀を素材にしているのは魔物に有効だからだそうだが、同時にお金もかなり掛かる。
なのでせめて素材は自分で調達して自作しているらしい。
「でも、本当に良いものが出来上がるかもしれませんよ?
あのドラゴンのお肉を持ってきたのも正解でしたね」
「うん、そう思う。まあ、出来上がらなかった時はまた別の方法を探せばいいし!」
僕たちは早速、酒場のお姉さんに教えてもらった店に向かうことにした。
◆
「……で、結局駄目だったのですね、レイさま」
「うん……」
僕たちは酒場に戻ってきていた。
ちなみにまだ昼には遠い時間のため酒場は空いている。
「やっぱり、そんなに簡単に都合の良いものが手に入るはずはないよね」
「残念だけど、仕方ないわ。私達はまだまだ駆け出しなんだから贅沢言ってられないしね」
「ドラゴンの素材の装備は貴重ですが、まぁ無理なものは無理ですし」
それでもせっかくドラゴンの素材とダンジョンで集めた純度の高い魔石があるのだ。
ミリクさんの装備は何か怪しいし、出来れば新しい装備が欲しい…!
というかそれがないと地下九階のサラマンダーと戦えるわけない。
「んー……何か良い方法無いかなぁ……」
「お客さん達、どしたのー?」
酒場の看板娘が話しかけてきた。
「あ、看板娘さん」
「看板娘さんって……私の名前はミラっていうの!
というか貴方たちとは酒場で結構顔を合わせてた筈なんだけど!昨日も会ったよ!」
そう言えばそうだった…。名前を聞いたのは初めてだけど。
「それで、どうしたの?まだ食事には早い時間だし……」
「実はですね――」
エミリアが事情を説明してくれた。
「へえ、ドラゴンの素材で武器屋と防具屋に新しい装備を作ってもらいたいんだ?」
「そうなんですけど、中々上手くいかなくて……」「ふむふむ」
ミラちゃんは少し考えて言った。
「うーん、そういう話はお姉ちゃんなら詳しいかも?お姉ちゃん知り合い多いし」
看板娘さんには姉が居たのか。
「お姉ちゃん?」
「うん、ゼロタウンで働いてるみたいなんだけどねぇ…
あー、でももうじき帰省するって言ってたような…」
その時、酒場の扉が開いた。
「ただいまですー、久々に帰ってきましたねぇ」
どこかで聞いたことのある声を聞いた。
「あ、お姉ちゃん!」
どうも今噂してた姉が帰ってきたようだ。ミラさんがそちらに駆けていく。
僕達もそっちの方を見ると―――
「お姉ちゃん、お帰り!」
「ミラ、久しぶりですねぇ、少し大きくなりましたか?」
「そりゃあ大きくなったよ!お姉ちゃんが出ていったの三年前じゃんか!」
「あはは、もうそんなに経っちゃってましたか…早いですねえ」
「もう!時々通信魔法で連絡くれるけど全然帰ってこないじゃん!」
「あはは、ごめんね」
微笑ましい姉妹の再会なのだが、僕たちはその姉の事を知っていた。
「え、何であの人がここに?ここが実家ということですか?」
「うーん、意外…だけど」
僕達は二人の会話の折を見て話しかけることにした。
「ミライさん!」
「おや、あなた方は……?
レイさん達ご一行ではないですか、お久しぶりですねぇ」
その人はゼロタウン冒険者ギルド職員のミライだった。
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