第68話 たのみごと

 僕達は久しぶりにゼロタウンの冒険者ギルド職員のミライさんと出会った。


「いやぁ、皆さんお久しぶりですねぇ。

 私もしばらくゼロタウンを留守にしていたのですが、皆さまはこちらへ来ていたのですね」

「お久しぶりです、ミライさんはこの村の人だったんですね」

「はいー、よく何処か大きな街出身じゃないの?

 とか言われますが、見てのとおり寂れたこの村出身なんですよー」


 今は別にそんなに寂れてないけどね、いっぱい人いるし…。


「ゼロタウン離れる時に挨拶に伺ったのだけど、ミライさん居なかったので…ごめんなさいね」

「いえいえ、ベルフラウさん。お気になさらないでください」

「ミライさん、あの時は何処へ行ってたんです?」

「冒険者ギルド支部のサクラタウンという街に出向いてまして、そこでしばらく滞在してました」


 サクラタウン?何だか桜がいっぱい咲いてそうな街の名前だな…。


「レイさん達こそ、どうしてこの村に?それに昔に比べて村も随分様変わりしたような…」

 ミライさんはあまり最近の村の事を知らないようだ。


「もう!お姉ちゃん、通信魔法で散々言ったじゃん!

 村にダンジョンが発見されて人がいっぱい来たって!」

 隣にいたミライさんの妹のミラちゃんの言葉だ。ってか名前がややこしいな…。

 というか通信魔法?そんな魔法あるの?便利そうだ…。


「ミラの話は聞いていましたけど…流石にここまで変わっているとは…

 それにダンジョン発見って、流石に…てっきり私を家に帰らせるために大げさに言っているのかと」

「本当なの! この人達はそのダンジョンで一番深いところに行ってるんだよ!」


 え、そうなの?


「エミリア、今の話本当?」

「そうですよ? 今私たちは最も深層に到達してる冒険者です」

「地下五階を乗り越えてからレベッカ達はそれなりに話題になってたらしいですよ?

 筋肉のおじさまも言ってました」

 ジャンクさんね、何で誰も名前覚えないんだろう。


「ははぁ…なるほど、それではレイさん…というかエミリアさんですね。

 ダンジョン目的でここに来たわけですね。納得しました」

 誰が僕達を引っ張ってきたかもミライさんは分かったらしい。その通りだけど。


「あ、そうだ、お姉ちゃん。この人達、頼みたいことがあるみたいだよ。

 私じゃ解決できそうにないからお姉ちゃん代わりに聞いてあげて?」

「私にですか?何でしょうか?」


 さっきの武器防具の話だろうか、…ミライさんに言って解決できるのかな?


「……レイ、試しに聞いてみたらどうです?

 この人、見かけより大分交友関係広いですし色々深い部分も知ってると思いますから」


 深い部分って何?なんか怖い…。

 でもまぁ、確かに僕達の力だけじゃどうにもならないし……聞くだけならいいか。

 僕はミライさんに頼んでみることにした。


「えっと……実はですね……今回ドラゴンの素材が手に入って…」


 ◆


「……なるほど、ここの武具屋に装備作りを頼んだけど断られてしまったと」

「はい…その通りです」

「レイくんが頼みに行ったんだけどね、そんなもの作れないしキミみたいな貧相な子供に、そんな大仰な武器使えるわけないって言われちゃって…」


 思い返すと泣けてくる…そこまで言わなくてもいいじゃん…。


「ふむぅ……しかし困りましたねぇ……

 私は鍛冶師ではないのでお役に立てず申し訳ないのですが……」


「いえ、無理は承知の上ですので大丈夫です……」

「うーん、私も知り合いに心当たりが無いわけではないのですが……

 少々癖の強い方なので皆さんが気に入られるか心配でして」


 ミライさんが言うには知人に腕の良い職人がいるらしいのだが、

 性格的に気難しい人で、会っても話を聞いてくれるかどうか分からないと言う。


「ちなみに、どんな方なんでしょう?」

「うーん、一言で言うと頑固親父ですかね」

「えぇ……」

「有名な方なんですけど…… ちょっと偏屈な所があって、

 私の知り合いもあまり会いたくないと言ってるくらいなんですよ」

 ……うん、絶対嫌だわ……。

「ちなみに、その方はどちらに住んでるんですか?」

「人里離れた場所に住んでまして…どうも人間嫌いな節がある方なんですよね…

 場所はそうですね、この村から馬を走らせて半日くらいでしょうか?」


 結構遠いな……そんな所にわざわざ行くのは気が引ける。


「ちなみに、お値段はどれぐらいになるんでしょうか……?」

「うーん、材料持ち込みだと安くしてくれるかもしれませんが……

 それでも最低金貨10枚は必要になりますね」


「姉さん、今僕たちの所持金ってどれくらいある?」

 ダンジョン内で入手した不要な魔石を売却して元々持っているお金を含めればそれなりにあるはず。


「えっと、私達全員合わせて金貨100枚はあるよ」

「そこそこ良い魔石だと結構な金額で売却出来るんですよね」

「おかげで仕送りが捗って助かっております」


 え、そんなにあったの?!僕の予想じゃ半分以下だったんだけど?!

「……その額なら余裕を持って作れるんじゃないですか?

 多分、その人の腕の良さもあってかと思いますが……」


「そうなんですか?!」

「ええ、レイさんさえ良ければ紹介しますよ? その方が皆さんのためにもなるでしょうし」


 マジで!?やった!!これでようやく装備を整えられそうだ!


「是非お願いしたいです!」

「分かりました。では、仕事が終われば一緒に行きましょう……あ、条件付きでですけど」

「ありがとうございます!!……ん?」

 今何か言わなかった?


「ミライさま、今条件付きと言いませんでした?」

 そうそう、条件って何だろう?


「え?ああ、言いましたね。

 でも、簡単な事ですよ? 私も一度その例のダンジョンに行ってみたいんですけど」

 ダンジョンにミライさんが?

「それは構いませんが、危険な場所ですよ?」

「そうですね、ですから皆さんに守って貰えると嬉しいです。

 もし連れててってくれれば、その鍛冶師の方に上手く口利きしてあげますよ?どうしますか?」


「「「喜んで!!」」」

 ミライさんの提案に僕達は即答した。

 こうして、ミライさんもダンジョン探索に一時的に参加することになった。


「じゃあ今から行きましょうか」「え、今からですか?」

 別に構わないけど……ミライさんも今しがた帰ってきたばかりでは?


「実はですね、今回帰省したのは冒険者ギルドの仕事を兼ねておりまして…

 ゼロタウンに帰ってきたばかりの私に、エニーサイドに突如現れたダンジョンを調査し報告せよ!

 ……なんて言われまして、人使い荒いですよね?」

「お疲れ様です……」

「ですので、レイさん達に手伝ってもらえると私もとても楽出来ちゃいます。

 早く終わればすぐに出立できますが、どうでしょうか?」


「僕は全然構いません、みんなもそれでいい?」

「私は問題ないよ」

「同じくです」

「右に同じです」

「じゃあ決まりですね。では早速向かいましょうか」


 僕達は準備を整えて目的地であるダンジョンへと向かった。


 ◆


「着きましたね」

「意外に…というか物凄く近いところにあるんですね」

「エニーサイドのすぐ近くの森の中ですからね。何で今まで見つからなかったのか謎なくらいです」


 このダンジョンには色々思う所はあるけど…まぁ今はミライさんの案内をしよう。

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