第65話 地下九階 挑戦

 地下八階攻略から二日後、僕たちは地下九階攻略へ向かった。


 ―――地下九階

「また魔法陣でございますね」

 階段を降りると八階と同じくまた大きな魔法陣だけの部屋だった。

「姉さん、これってやっぱり?」

「八階と全く同じ空間転移の魔法陣ね。移動先は多分違うんだろうけど……」

「空間転移って便利ですね…私も使ってみたいです」

 自由に移動できる魔法なんて便利過ぎだもんね。僕も使ってみたい。


 そして、僕たちは魔法陣に入った。

 前回はいきなりアンデッドの集団に囲まれたので警戒の為に戦闘準備は怠らない。

 そして転移が始まり、気が付けば別の場所に居た。


「ここは……」

 転移の先はどこかの洞窟のようだった。

 しかしその割には妙に明るい…というかなんだか…。


「滅茶苦茶暑いんだけど……!」

「何でしょうね、この暑さ…私結構厚着なので気持ち悪いです」


 エミリアは胸元の汗を拭う。三角帽子もこの場所だとかなり暑苦しそうだ。

 移動した洞窟内は異様な熱気に包まれていた。

 少し進むとそこにはあまり見られないような光景が広がっていた。


「溶岩だね……」

 洞窟の奥ではマグマが流れているのか赤く光っていた。


「もしかして、ここは……火山の傍の洞窟…とかに転移させられたのでしょうか」

 レベッカは比較的薄着ではあるが、それでも滝のように汗を流している。


「姉さんは暑いの平気?」

「私も苦手かしら、レイくんは?」

 僕も下に服と鎖帷子を仕込んでその上に鎧を着込んでいるから相当暑苦しい。


「こういう暑さを抑える魔法とか誰か覚えてたりしない?」

 そんな都合の良い魔法とかあるのか知らないけど。


「そうね、試してみましょうか。<極光の守護>オーロラバリア

 姉さんの唱えた魔法により、僕らの周囲はオーロラのような光に包まれた。

 同時に先ほどまでの暑さが緩和されたような気がする。


「おおー、 結構涼しくなった」

「良かった。本来は火炎とか冷気を防ぐ防御魔法なんだけどね」

「ベルフラウさま、ありがとうございます」

「良かった…下手すると出直して薄着で来る羽目になるところでした」


 薄着のエミリアも見てみたいけど…。

 顔に出てしまったのか、エミリアは胸元を手で隠しながらジト目でこう言った。


「レイ……貴方、見た目草食系なのにスケベですよね」

「何も言ってないよ!?」


 エミリアにセクハラ疑惑を受けて少し落ち込んだが、気を取り直して洞窟探索を再開する。

 周囲には至る所に溶岩があり、かなりの熱気だった。

 ここはどこなのだろう…。


「レイ、魔物らしい生き物を発見しました」

 エミリアが指を差す方向を見ると、赤いトカゲのような生き物が徘徊していた。

 更によく見ると二足歩行で武器らしいものも持っている。


「あれって何?」

「リザードマンですね。人型の亜人種で武器を扱うのが特徴で、好戦的なので注意です」

「ふむ……興味深い魔物ですね」

 リザードマンは僕らの進路方向に居る。戦闘は避けられないだろう。


「仕方ない、じゃあ戦うか…」と僕は剣を抜き構える。


「接近戦闘仕掛けるよりまずは魔法でしょう! <炎球>ファイアボール

 エミリアが僕が近づくより早く魔法を仕掛ける。

 しかしリザードマンの戦士はそれを槍で簡単に弾いた。


「嘘っ!? この魔法結構強力なはずなんですが!?」

 エミリアのファイアボールは威力もさることながら熱量が凄い。普通の魔物が防ごうとしても相当なダメージなはずだ。よく見るとリザードマンはまるで龍のような鱗で覆われている。あれで熱を防ぎ切ったのか。

 エミリアの放った火の玉は打ち消されてしまい、その隙にリザードマンがエミリアに迫る。

「くぅ!」

 咄嵯の判断でエミリアは自分の杖を前に出しガードの姿勢を取る。

 その前に僕はエミリアの前に出てリザードマンの槍の追撃を防いだ。


「っ!」

 かなりの衝撃だ。槍のリーチも厄介だが力もかなり強い。


「レイさま!  <筋力強化Lv9>力を与えよ

 僕の後ろからレベッカの声が聞こえた直後、僕の体が軽くなり敵の槍を押し返す。


「助かった、ありがとうレベッカ」

「いえ、お役に立てて幸いです」

 敵はこちらに警戒して後ろに下がり、僕はエミリアを下がらせ敵と対峙する。

(強化魔法なしだと僕より力も射程も上だ、厄介だな)


 単独なら支援でどうにかなるが、この魔物が多数出現するなら脅威だ。

 炎攻撃が通じにくいのは分かった。なら物理攻撃がちゃんと通じるのか試してみよう。


「たあっ!」

 僕は剣を構えて距離を詰める。槍は厄介だが懐に入ればこちらが有利だ。

 槍の棒の部分を姿勢を低くして回避し、リザードマンの胴体を横なぎで攻撃する。


『ぐああぁ!!』

 手ごたえはあったが浅い、鎧のような鱗のせいで致命傷にはなっていないようだ。


「ちぃっ!」

 そのまま相手の足を払って転ばせ、僕は剣に魔力を伝わせて威力を上げる。


<剣技・氷魔法Ⅱ>氷結斬

 転んだ相手に剣を振り下ろすと同時に氷魔法を発動させる。

 振り下ろされた刃が接触した瞬間、魔法でリザードマンは凍りつき大きく切り裂いた。

 こうなれば相手はほぼ身動きは出来ないだろう。僕はそのまま首を斬って止めを刺した。


「ふぅ……」「レイくん、お疲れ様ーよしよし」

 姉さんに頭を撫でられ息を整える。


「レイさま、お見事です」とレベッカ。

「うう、またしても炎魔法が効かないなんて……」

 エミリアは炎魔法が大得意なので炎魔法が効かない敵は苦手なんだろう。


「結構強いね…炎魔法も効かないみたいだし」

 あの敵と僕が相対するには強化魔法と『魔力食いの剣』での強化が必要そうだ。


「次に現れた時はわたくしも弓で援護しますね」

「じゃあお姉ちゃんは<魔法の矢>マジックアローで援護しようかな」

 姉さんの攻撃魔法は怖いから止めてほしい。


 そんなことを言ってると、今度は二体のリザードマンが現れた。

「先手必勝ですね!<中級火炎魔法>ファイアストーム!」

 いや、だから何で炎魔法なのさ!

 敵はまとめて炎の渦に撒かれるが、やはりあまりダメージが無いようだ。


「エミリアさま、炎魔法に拘りがあるのは良いのですが、今は他の魔法がよろしいかと!」

 レベッカは喋りながら近くに寄っているリザードマンに矢を連射する。


<魔法の矢>マジックアロー連射!」

 姉さんの指から銃弾のような攻撃魔法が連発される。

 リザードマンは槍で防いだり、そもそも当たらなかったりするが攻撃魔法の連射に近づけないようだ。

 もっと言えば僕も後ろから撃たれそうで近づけない。ここに来て妙に連携悪いなこのパーティ。


「仕方ないですね…魔力強化<中級雷撃魔法>サンダーボルト

 エミリアの魔法陣を込めた雷撃が命中し、リザードマンの一体を倒した。

 もう一体は姉さんの魔法連射とレベッカの矢によって止めを刺されたようだ。

 今度は僕が何もしてないな…。


 その後も何度かリザードマンと遭遇したが、

 僕とエミリアの魔法があまり通用せず、レベッカの弓による遠距離射撃が最も有効だった。


「この辺りの魔物は硬い鱗に覆われていますので、通常の武器では厳しいかと」

「確かに、レベッカの弓矢は凄く貫通力が高いね」


 八階のロードコープスにはあまり弓の攻撃が通じなかったのは、

 相手の防御力の高さとシンプルにアンデット系に弓が相性が悪かったらしい。


「はい、この以前の階層で入手した<女神の弓>はとても使い勝手が良いです」

 レベッカの弓は女神さまを模したようなデザインが施された美しい弓だった。

 何よりレベッカにとても似合っている。


「この溶岩だらけの場所に住んでるから自然と炎耐性も強いのでしょうね…」

「エミリア、もうちょっと氷魔法で攻めた方が良いんじゃ…」


 エミリアは攻撃魔法が得意だが、氷魔法だけは苦手な部類に入る。

 使用頻度も低めだし中級以上を詠唱する際は大体発動も遅い。

 反面炎魔法は無駄に溜めたりしなければ詠唱も早く威力もかなり大きい。


「ううぅ……私だってもうちょっと上手く使いたいですよぉ」

「まあまあ、これから強くなっていけば良いじゃない?」

「うん、とりあえず今は僕の剣を強化するよ」


 僕は『魔力食いの剣』を鞘に納めたまま魔力を込めて目の前の敵を見据える。

 今度の敵はさっきとは違って何かミミズみたいな魔物だ。やたら大きくて気持ち悪い。


「あれは何て魔物なんだろう?」

「えっと、名前は<デス・ワーム>みたいね」

「姉さん、名前だけ聞いても分からないんだけど……」

 どうやら機敏には動かないようだがあの大きさは普通に怖い。


「えーとね、<デス・ワーム>は主に砂漠地帯に生息する巨大なミミズみたいな魔物ね。

 地中に住むから基本は見つけることが出来ないわ。ただ、偶々地上に出て来た時に運良く遭遇したら、ものすごい勢いで襲ってくるわ」

 姉さん詳しいな、本で勉強とかしたんだろうか。


「とりあえず…虫っぽいし燃えるだろうか、エミリア?」

<炎球>ファイアボール!」

 エミリアが放った炎の玉が<デス・ワーム>に命中した瞬間、

  その身体が激しく燃え上がるが、炎を振り払うように動き始めた。


「レイさま!あの敵は炎に強いようです!」

「そっか、じゃあ次は僕が行くよ!」


 剣を抜いてさっき込めた魔力で射程と威力を伸ばす。

 デスワームの顔の部分が大きな口のようになっており襲い掛かってきた。


「はっ!」

 デカいミミズとはいえ、顔の部分を切断すれば倒せるだろうと、

 顔から下の部分を剣で切断した。すると、まるで生きているかのようにビクビクと動く。


「これって生きてるのかしら?だとしたら厄介かも」

「そういえば、普通の魔物は死んだら煙上げて消えるんだよね?」

「はい、そうなんですけど……」

 よく分からないがスライムみたいなもんだろうか。


「それなら―――不浄なるものよ、天へ還れ」

 姉さんの<浄化>だ。本来はアンデッド系に特効の魔法なのだが、

 姉さんのレベルだと通常の魔物でも十分に効果がある。

 デス・ワームはその巨体を光に変えて消えていった。


「ふぅ……これで終わりかな?」

「はい、今ので最後だったと思います」

「それにしても、何で急にこんな場所に出たんでしょうかね」

「それはやっぱり、ここが火山だからじゃないかな」

「あぁ~、確かにこの熱気ですもんねぇ」


 僕たちは次の扉を探しながら歩いていたのだが、どうにも暑い……。

 さっきの姉さんの魔法が切れかかっているのだろうか。


「姉さん、さっきの魔法もう一度頼んでいい?」

「いいけど……<極光の守護>オーロラバリア

 姉さんのオーロラの魔法で再び周囲が涼しくなり、熱気が収まった。


「この魔法、防御魔法でも結構上位のものだからそれなりに魔法力MP消費するからね?」


 あまり連発は出来ないのかな…。姉さんの魔法力は膨大だから大丈夫だと思うんだけど…。

 僕達は魔法の効果時間の間になるべく動いて先に進むことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る