第62話 地下八階その2
「ベルフラウさま、お辛いでしょうがもうひと踏ん張りです」
「うん……」
目を覚ました姉さんの表情は少し険しい。
こんな状態で戦えるのか?
「……大丈夫だよ、レイくん。私はまだ戦えるから」
「……姉さん」
……地図の×のマークの地点まではまだ距離がある。
一度撤退をすべきかもしれない。
その時、エミリアが少し離れた場所に建物があることに気付いた。
「あそこに隠れましょう。そこで一先ず休憩を取ります」
「分かりました。あの小屋ですね」
レベッカは指を指す。そこには小さな小屋があった。
僕達はそこへ避難することにした。
◆
「とりあえず、ここで一旦休みましょう」
「ごめんね、レベッカちゃん……」
小屋の中はベッドが二つとテーブルに椅子が4つ置いてあった。
食料らしいものも棚に置かれていたが、カビが生えていてとても食べられたものではない。
僕は姉さんをベッドに寝かせて、小屋の外に出ているエミリアに声を掛ける。
「エミリア」
「レイ、丁度良かった。結界を張るので手伝ってください、レベッカもお願いします」
「わかった」「分かりました」
エミリアの指示で小屋の周囲に防御結界を二重に敷いて、
更にビンに入った水を小屋の周囲に撒く。
「聖水です、アンデッド相手ならしばらく近寄ってこないでしょう」
更にエミリアの魔力で結界を発動させた。
これで一日は無理だろうが数時間は稼げるだろう。
「さて、この後どうしましょうか……」
姉さんはベッドで寝息を立ててスゥスゥと眠っている。
少し眠ればまた戦えるだろうが、魔力は完全回復とまではいかないだろう。
「エミリア、魔法の霊薬はあとどれくらいある?」
「結構使い過ぎてましたので…実はそんなにストックは無いんですよね。あと6個だけです」
定期的にエミリアが調合して霊薬を作ってはいるが、最近は消費の方が多い。
「霊薬を全部ベルフラウが使ったとしても、全快までは無理ですね……」
そう言えばどれくらい消耗するのか良く知らない。
「エミリア、浄化ってどれくらいの魔法力使うの?」
「小規模の浄化なら中級魔法1発分、広範囲となると2~3倍くらいでしょうか」
姉さんは規模の大小を含めて浄化を二十回は使っている。
いくら膨大な魔力でも殆ど限界に近かっただろう。
地図を確認すると、目的の場所にかなり近づいていたのが分かった。
「この建物のマークがこの小屋なのでしょうね」
「この×の印の場所がこの階層のボスだとするなら、あと数キロ先でしょうか…」
「……よし、行こう」
僕は決断した。このまま進むことを……。
「え!?レイさま、危険すぎます!まだ万全ではないのに……」
「少し厳しいけど、引き返すより進んだ方が良いと思う。
それに、今行けば今後の攻略が少し楽になるはずだよ」
もし撤退を選んだ場合、まだ同じ道のりを経てここまで進むことになる。
そうなるとどのみち消耗は避けられない。
それに姉さんの魔力は膨大だ、仮に撤退しても再び挑むには数日掛かるだろう。
それならば多少リスクがあっても先に進んでおくべきだった。
「……分かりました。ただ無理だけはしないでくださいね」
「分かってる、無理だと思ったらすぐに撤退するよ」
こうして僕達は×のマークの地点を目指すことになった。
とはいえ、姉さんはまだ休ませないと動けないだろう。
「エミリアとレベッカもここに来るまで結構魔力使ったよね?
もう一つベッドがあるから二人でしばらく寝てて、今の間に休んでいて欲しい」
「それはありがたいですが、見張りが必要だと思いますよ」
防御結界を二重で張っているとはいえそこまで規模の大きなものではない。
聖水で魔除けしているとはいえ、敵がこちらに襲ってくる可能性がある。
「大丈夫、僕はあまり魔力を使ってないから起きて見張ってるよ」
「しかし……」
「このペンダントのお陰なんだろうけど、他の人より回復が少し早いから」
僕の装備している『ペンダント』には自動回復という、
少しずつ怪我と魔力が回復する効果が発現していた。
その気になれば単独でもある程度連戦も出来るだろう。
「分かりました。レイさま、万一があれば大声で起こしてくださいまし」
「レイ、無理はしないでくださいね……」
僕は二人がベッドに入って眠るのを見届けてから、窓に椅子を運んで外の様子を見守る。幸いなことに、小屋の周りではゾンビ達がうろうろしていたが、結界の効果で近寄ることが出来ないようだった。
外の様子を確認しながら、僕は地図を確認する。
目的地点に近づきつつあることは間違いないが、まだ到着するまで時間が掛かりそうだ。
それから少しして、僕は疲れで椅子に座ったまま眠ってしまった。
◆
………………
「……様、レイ様!」
誰かの声が聞こえる。あれ?もう夜になったのか?
「良かった!目を覚ましましたね、レイ」
「あぁ、ごめんエミリア。ちょっと寝ちゃってたみたいだ」
僕は体を起こす。
「レイさま、これを飲んでください。魔力は回復しますが、体力は回復できませんから」
レベッカはコップに入った飲み物を差し出してくる。
「ありがとう、レベッカ。姉さんは?」
「今は寝ています。お目覚めになりましたら食事にしましょう」
そう言って、レベッカはベッドの方へ歩いていった。
エミリアの言うとおり、寝ている間に大分回復したようだ。
姉さんは眠っていたが、少しして目が醒めた。
「あ……私、随分寝ちゃってたみたい…」
「姉さん、体の方は大丈夫?」
「レイくん……うん、少しは大丈夫だと思う」
姉さんは僕に心配させないように体を動かして元気そうに見せるが…。
(まだちょっと無理してる感じがあるかな…)
「ベルフラウさま、お食事の用意が出来ましたのでどうぞ」
「えぇ、ありがとうレベッカちゃん。すぐ行くわ」
姉さんはそう言いながらも立ち上がるのに苦労していた。
「姉さん、肩貸すよ」
「いいの?」
「うん、これくらいはさせて欲しいな」
「ふふっ、ありがと。じゃあお言葉に甘えるわね……」
僕は姉さんを支えながら部屋を出て、テーブルのある場所まで移動した。
テーブルの上にはパンやスープといった簡単な料理が置かれていた。
「皆、待たせてごめんなさいね」
「いえ、それより食べて下さい。少しでも栄養を取らないと……」
「ええ、そうするわ」
僕達は簡単な食事を終えて、小屋を出る準備を整える。
その際、姉さんには所持していた『魔法の霊薬』を3つほど飲んでもらう。
残りは念のために取っておく。
「エミリア、姉さんの魔法力がどのくらい回復してるか見てくれる?」
「了解です。ベルフラウ、失礼しますね
能力透視は対象の能力を数値化して強さを見通す魔法だ。
基本的には未知の敵に対して使う魔法だが、味方に使うことも出来る。
「エミリアちゃん、今の私の状態はどんな感じかしら」
「……はい、全快とはいきませんが、先程よりは魔力も戻っています」
「それなら十分ね。それじゃあ行きましょうか。
ここから先は少し厳しくなると思うけど、頑張りましょう」
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