第60話 遊びに来た

 地下七階を攻略し帰還した次の日

 村の酒場にて、僕たちは食事をしていたのだが――


「この世界にはたこ焼きが無い…無いんだ…」

 僕は地味にこの世界にタコ焼きが無いことに傷ついていた。


「……レイはどうしたんですか?」

「あはは…どうしたんだろうね、姉ちゃんにも分かんない」


 イカだのタコだの如何にもなモンスターが居るにも関わらず、

 まさかこの世界にタコ焼きっていう文化が無いとかあり得ない。


「お母さん、お父さん……元の世界に帰りたいよ…」

 久々に僕はホームシックになっていた。


「ベルフラウ、姉でしょう?アレ、どうにかしてくださいよ…」

「お姉ちゃんでもどうにも出来ないことがあるの…」

「おいたわしや……レイさま」


「そうだ!自分で作ればいいんだよ!」

 僕は名案を思い付いた。無いなら作れば良いんだ!

「レイさま?どうされたのです?突然元気になられてなによりですが…」

「うん!たこ焼きを作ろう!」

「たこ…やき?」

 レベッカは首を傾げた。


 ◆


 数時間後―――


「よし、取ってきたよ!」

 近くの海辺にタコっぽいモンスターが居たのでちょっと一狩りしてきた。

「あとは卵と小麦粉で生地を作って…」

 よく調理で使われてる茶色い無精卵の卵と、異世界でよく使われてる小麦粉っぽいものを用意。

「生地をよくかき混ぜて、とりあえずその辺の調理器具のくぼみに流し込む」

 その後、中にタコっぽい魔物の足を分割して生地の中に入れる。

「<点火>して火をつけて、生地が固まったらひっくり返す!」

 よし、あとは適当に調味料となんかよく分からない黒い粉を掛ければ完成だ!


「あの…アレは本当に大丈夫なんでしょうか?」

 レイの持ってきた魔物は確かに料理屋で使われることもあるけど、

 白い粉や黒い粉は中身を知らずに適当に入れてるように思えてしまう。

「まぁレイくん、料理とか素人だろうし」

「害はないとは思うんですが、まぁ見守りましょうか…」


 そうして私たちは温かい目で見守る。

「よく分かりませんが、あれはレイさまの故郷の食べ物なのですか?」

「うん、あんなに大きくは無かったと思うけどね」


 普通のたこ焼きはピンポン玉くらいの大きさの筈なのだが、

 レイの作ってるたこ焼きは野球ボールくらいの大きさになってる気がする。


「レイくんが納得すればいいんだけどねぇ…」

 流石に元の世界には戻れないから、こればっかりは自分で解決させるしかない。


 結局、中身が生焼けだったけどレイは満足したらしい。


 ◆


 その次の日―――


「よっ、久しぶりじゃの!」

 食事を済ましていた僕たちの前に現れたのは、ミリクさんだった。

「ミリクさん、えっと…どうも」

「ミリク…貴女、何しに来たの……?」

 以前僕は自室でミリクさんに性的に襲われそうになって苦手意識を持っている。

 ちなみに姉さんはそれ以降、ミリクを目の敵にしている。

「お主ら、何か儂を警戒しておらんか…?」

 いや、そりゃそうなるよ…。

「ミリクさま、お久しぶりでございます」

「おおぅ、レベッカ!お主だけじゃのう!儂を崇めてくれるのは!

 よしよし!飴ちゃんをやろうぞ!かわいいのぅ!儂と一緒に住まんか!?」

「い、いえ…それは…」

 神様、自分の信者にドン引きされてますよ。


 少し事の成り行きを見ていたエミリアが口を開いた。

「……で、ダンジョン主の駄女神さまが一体何のようでしょうか?」

「うむ、そうであったな!その話をしたかったのじゃ、

 早速――ん?お主、女神様の言葉の前に何か言わなかったか?」

「いえ?なにも?」

「お主、駄女神とか言ったじゃろ!」

「えー、何のことですかねー?」

 あの手紙の件でエミリアも色々思う点があるようだ。


「こほん…まぁ、あれじゃ……。

 まずは地下七階まで突破おめでとうと言っておこうかの」

「は、はぁ……」

 この神様、結局何しに来たんだろう……。

「祝ってくれるのは良いけど、貴女の目的は何なの?

 このダンジョンを突破させて、私たちに何かやらせるつもりなんでしょ?」

「せっかちな奴じゃな……。

 神が人間に頼み事するというのは名誉なことじゃと言うのに。

 まぁ、何かやらせるというのは合っとるがの」

「ミリクさま、それは一体?」

「まぁ待っとれ、もう事実上お主らしか候補はおらんとはいえ、

 用意したダンジョンは突破して貰わんとな。まぁ言ってみればこれは試練じゃ」


 この神様、何か肝心なこと何も言わないな…。

 試練とか言ってるけど、単に神様の暇つぶしに付き合わされてるというオチじゃないよね?


「ミリクさん、実は暇つぶしとかじゃ…」

「そんなわけなかろうが!」

「じゃあなんですか?」

「…………」

 そこで沈黙するのか、この駄女神さま。


「ええい!とにかく!地下十階まで来るのじゃ!そこで話す!」

「まぁ…私としてはちゃんとお宝用意されてれば行きますけどね…」

 エミリアは元々レアアイテム目当てだもんね。

「それに関しては期待しておるがいい、

 ちゃんと十階までこれたら今まで入手出来た装備を有効化させてやる」


 ………ん?有効化?


「今、何か聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど…」

「まぁそういうことじゃ、頑張るんじゃぞ!」

 それだけ言うと、ミリクは消えてしまった。


「今のはどういう意味だ……?」


 僕は頭を抱えながら考える。

 ミリクさんが言っていたのは、恐らく僕の持ってる武器防具のことだ。

 そう考えてみると、あの人の言葉の意味を想像すると……。


「……今、私、嫌な想像してしまったんですが…」

「エミリアちゃん、私もよ…」

「僕もだよ……でも多分合ってると思う……」


 考えないようにしていたが、冷静に考えるとおかしい。

 無数の冒険者が全く同じダンジョンを攻略しているのに、

 今まで一度も別の冒険者とダンジョン内で鉢合わせしたことが無い。


 僕達はダンジョンに他の人より遅れて挑戦したにも関わらず宝箱が開けられていなかった。

 それに魔物が倒されても他の新しい冒険者が入ると復活しているのもおかしな話ではある。

 ボスを倒すと不自然に装備やアイテムがドロップするというのも都合が良過ぎる。

 これらは全てミリクさんがそのように仕組んだのは間違いない。


 まるでゲームのような話だ。

 他の冒険者の攻略状況が何故か反映されていない。


「レイは今回のダンジョンの違和感に気付いていました?」

「まぁね、流石に色々おかしいよ」

 地下一階の時点で既に違和感は感じていた。

 トラップがあったとはいえあんな判りやすい宝箱を他の冒険者が見逃すとは思えない。

「レイはどう思います?」

 僕は、例えばの一例を挙げてみる。

「僕たちは他の冒険者と同じダンジョンに見えて別の場所を攻略してる、とか?」

 ダンジョン内で他の冒険者と一切鉢合わせしないなら可能性がある。

「あるいは、私たち以外の冒険者はあの駄女神が演じさせてるだけ…という可能性も」

「何その発想、滅茶苦茶怖いんだけど…!」

 エミリアの考えだと、完全にラスボス的ポジションじゃん。

 ……いや、そうでなくても間違いなくラスボスだろう。


「エミリアちゃんの可能性は流石に無いと思うの、多分」

「だ、だよねぇ?」

「まぁ冗談ではあるのですが、結局どういうことでしょうね…」

「ミリクさまは善神の筈です…あり得ません」

 レベッカからするとミリクさんに対して認識の違いがあるのだろう。

 ただ、あの人が善の神か?と言われると疑問符が付く。


「姉さんはどう思う? あの神は良い人かな?」

 姉さんも元神だ。何か思うところがあるかもしれない。

「俗っぽいけど悪い神ではない……と思う、多分」

 煮え切らない言い方だ。

「ベルフラウはもっと辛辣に言うと思ってたんですが…」

 姉さんは小さい声で言った。

「……もし悪神なら討伐命令出てたはずですし」

 姉さんが今怖いこと言った気がする。

 もしかして神ってそんな感じで入れ替わったりするのだろうか。


 でも<有効化>という言葉の真意はなんだろうか。

 装備やアイテムに対してその言葉を言うのはちょっと気になる。


「どのみち地下十階まで進むしかありません」

「そうね、ミリクの思惑に乗るかどうかはそれから決めましょう」

「ミリクさま、レベッカは貴女様を信じております…」


 こうして僕たちの方針が決まった。

 僕たちがどう動くかは、ここから先の行動次第ということになった。

 結局、あの女神さまの真意がどうあれ僕たちのやることは変わらない。


 目指すは地下十階だ―――

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