第59話 地下七階その2

 ―――地下七階

 翌朝、僕たちは目覚めてから探索を再開する。

 昨日の来た通路を引き返し、まだ向かっていない通路を進む。

「宝珠の状態は今どんな感じです?」

「欠片二つ組み合わせると半分くらいの大きさだから、あと二箇所かな」

 昨日と同じく水晶のある部屋をあと二つ見つける必要がある。


「レイ、かなり疲弊していましたが大丈夫ですか?」

「うん、全然大丈夫だよ」

 どういうわけか今回はかなり魔法力も体力も回復している。

 特に何かしたわけではないと思うんだけど…。


「ペンダントの能力が一つ開放されたのかしら?」

「えっ?これ?」


 自分の胸元のペンダントを見る。

 これは以前に女神だったころの姉さんに貰ったアイテムだ。

 僕に色々能力を付与してくれているそうだ。


 通路を進んでいくと、正面に大きな扉があり、左右に分かれ道がある。

「扉は開きませんね…」

 四人で力一杯押しても引いても扉が動かない。

「特に鍵穴もないみたいだし、これも何かの仕掛けかな」

 となると左右の分かれ道のどちらか、あるいは両方に扉を開ける仕掛けがあるのだろうか。


「レイさま、どちらに行かれますか?」

「結局どっちにも行くことになりそうだし、まぁ右から行こう」

 しかし右へ進んでいくと壁になっており行き止まりに突き当たった。


「うーん、こっちはハズレってことかしら?」

「まぁそれなら次は左に行ってみましょうか」

 しかし、左に進んでもやはり同じような構造で、行き止まりになってしまった。


「どういうことだろう?」

 もしかして何処か他の道があった?確かに前半の道は水路が多く通ってて複雑ではあったけど…。

 大部屋から大部屋に行く道に進むようになってからは、分かれ道も減って迷うような場所も無かったはずだ。何処か何か見落としがあったのだろうか。


 一度さっきの扉の前に戻ってくる。

「ふむ…困りましたね、この先どう進めばよいのやら…」

「そうねぇ、左右の部屋に宝珠の欠片があって扉を開く仕掛けとかを期待したのだけど…」

「昨日までの道を引き返すしかないんだろうか」

 前半の道はかなり入り組んでいて、似たような場所が多いからしらみつぶしで道を探すのは正直避けたい。どうにか進めないかと僕たちは相談するのだが…。


「……ん?もしかして?」「エミリア?」


 エミリアが何かを思いついたのか扉の前に立ち魔法を発動した。

<索敵Lv7>サーチ

 索敵は周囲を探って動くものを判別する魔法だ。今使うようなものではないと思うのだけど…。

 あるいは、もっと他の使い方があるのだろうか?


「索敵完了です、ちょっと分かりましたよ」

 エミリアは扉をコンコンと叩きながら言った。


「この扉の先は存在しません。おそらくダミーだと思われます」

「エミリアちゃん? それってどういうこと?」

「今使った索敵魔法は周囲の生体反応を探る以外にも使い道があります。

 その一つが地形の把握、その結果、この先は部屋らしき空洞が存在しないことが分かりました」

「つまり…」

「はい、おそらく何処かに隠し通路があるのではと私は考えます。

 そうでなければ、これだけ複雑な構造の迷宮にこのような意味深な小細工などしないでしょう」

「なるほど、流石はエミリアさまでございます。わたくし達パーティの参謀でございますね」

「えっへん」

 レベッカの言葉で胸を張るエミリア。子供っぽい反応してて超かわいい。

「レベッカ、索敵で分かったことは他にもある?」

「はい、おそらくですが左右の通路のどちらかに隠し通路があると思います」

 …確かに、その可能性は髙そうだけど。


「エミリアちゃん、通路にあるって何で分かるの?」

 姉さんが疑問を口にする。僕も同意見だ。


「左右の通路も索敵を試みたのですが、索敵魔法で地形の把握が出来ませんでした。

 私より上位の術者による幻惑、擬態の魔法で隠し通路を巧妙に隠してる可能性があります」

 上位の術者か、まぁミリクさんしか居ないよね。


「なるほど、そんな擬態をする必要がここにあるってことなんだね」

「ですです、なのでここが怪しいわけですね」


 納得だ。つまりここの通路を虱潰しに探せば何か見つかるだろう。


「じゃあ両方の通路を調べてみましょうか」

 エミリアの推理を元に、僕達四人は手分けして左右の壁を調べることになった。

 僕は左側の壁を調べていく。しかし、僕には判別が難しい。


「うーん、見た目はただの石壁に見えるんだけど……」

「レイさまーーー!」


 レベッカが少し離れた場所から僕を呼ぶ。


「何か見つかった?」

「はい、こちらにスイッチがございました。試しに押してみてはいかがでしょうか?」


 言われた通りに押すと、ガコッという音と共に壁に四角く切り込みが入った。

 そして手前側にゆっくりと開き始めた。


「おぉ、これってもしかして……」「はい、正解です」

 開いた先には階段が続いていた。僕達は地下七階の探索を再開した。


「それにしても、よくこんな仕掛け見つけられたね」

「いえ、難しいことでは…。壁に触れた時に不自然な感触がありましたので」

「それでも凄いわよ、普通は分からないもの、レベッカちゃんえらいえらい…」

 姉さんがレベッカの頭を撫でて、

「はぅ…」と鳴きながらエミリアは素直に頭を撫でられている。


 そんな光景を僕は見ながらエミリアと話す。

「今回もエミリアのお陰で助かったよ」

 エミリアが仕掛けを看破しなければ僕たちはずっと進めなかっただろう。

「私は頼りになりますよね!ふふふっ」

 そう言ってエミリアは自慢げに笑うが、

「とはいえ、私の索敵魔法で今回は看破は出来ましたが、

 隠蔽系の魔法を使った仕掛けが今後もあるとかなり厄介です。面倒な話ですね」


 この手の仕掛けは気付くまでが大変だ。

 ダンジョン主のミリクさんにも何か考えがあるんだろうけど…


「仕掛けを作ったのもミリクさんだろうけど面倒なことするよね…」

「全くですよ、何の目的でこんなことをやってるのか…」

 そんな会話をしながら、僕たちは階段を降りていく。


「さて、着いたみたいだけど……」

 階段の先は広い空間になっていた。天井は高く、横幅もある。

 しかし、周りは水路が張り巡らされており、上から水が流れている。

 真ん中に貯水路だろうか大きめの水のたまった場所もある。


「ここはもう地下八階なのかしら?」

「そういうわけではないでしょう、おそらくここはまだ地下七階の範疇かと」


 僕たちが話していると、奥から何か周りから水をかき分けるような音が聞こえてきた。

 僕とレベッカはそれが何かが水路から這い出てくる音だと気付いた。


「みんな、魔物が来るよ!」「皆さま、敵襲です!」

 現れたのは巨大なイカだった。

 大きさ的にはクラーケンと呼ばれる魔物に近いかもしれない。

 以前にそういう魔物の存在を聞いたことがある。


 しかし聞いていたものと少し違う感じがする。

 何というか知性を感じない。

「レイ様、あれは多分違います。おそらく魔獣の一種、水棲型キメラの一種でしょう」

 魔獣か…自分としては通常の魔物と区別が付いていない。


 無から生まれた存在が本来の意味の魔物。

 元々居た生物が魔物の影響で異様に変質した存在が魔獣だったか。

 ちなみにクラーケンや一角獣は魔物扱いされてるが、一応は野生の生物である。


 もっとも、人に危害を加える存在は基本は全て『魔物』と扱われていることが多い。

 そのためこの区別はさして意味が無いと思うのが僕の感想だ。


「見た感じ、知性は無いようだね」

「そうですね、接近されないうちに動きを止めましょうか」


 エミリアは詠唱を始める。

<中級氷結魔法>ダイアモンドダスト

 エミリアが放った魔法の冷気が、瞬く間に巨大イカの動きを止める。


 これで奴は身動きが取れなくなったはずだ。後はとどめをさすだけ、と思ったのだが。

 パキンと氷は砕け散ってしまった。奴は再びこちらに向かってくる。


「水棲型の魔物らしく、氷魔法は効かないか…!」

 僕は剣を構えるが、正直剣のリーチで届く相手か怪しい。


「レイさま、ここはわたくしが!」

 レベッカが僕よりも前に出る。

 そしてイカの魔獣はその長い足を鞭のように撓らせ襲い掛かってきた。


「―――はぁ!」

 レベッカが敵の攻撃に合わせて槍で薙ぎ払う。

 剣よりも長いリーチを生かして上手く敵の攻撃を防いでいる。

 下手に僕が前に出るより彼女が前衛の方が戦いやすいかもしれない。


 なら僕は援護をしよう。

『魔力食いの剣』を鞘から抜き、魔力を込める。更に中級魔法を付与させる。

 レベッカが敵の攻撃を凌いだ瞬間に僕は前に出る。


「<剣技ソード雷魔法Ⅱ雷光斬>」

 僕は魔力で剣の射程を伸ばした魔法剣で敵を突き刺す。

 相手はデカい、普通の人間なら届かない距離でも剣を突き付ければ僕の攻撃が届く。

 電撃を帯びた一撃を受け、巨大イカは大きく仰け反った。


「レイさま、お見事です!」

「ううん、レベッカのお陰だよ!エミリア、上級魔法で一気にやっちゃおう」

「了解です」


 エミリアが詠唱を始める。おそらく雷魔法だろう。

 さて時間稼ぎをしないと。


「大きめの<束縛>バインド!」

 姉さんの魔法の鎖がイカの足を纏めて束縛する。


<中級火炎魔法>ファイアストーム」「<礫岩の雨>ストーンレイン

 レベッカと僕の攻撃魔法、僕とレベッカは本体そのものに魔法を浴びせ続ける。

 これだけ巨体な相手だと特にレベッカの魔法はダメージが大きいだろう。


「これなら私も当たりそうね!<魔法の矢>マジックアロー連発!!」


 姉さんの魔法が指から十発ほど連射する。

 本来大したことない魔法なのに姉さんの一撃一撃はまるで銃弾を思わせる破壊力がある。

 まぁ、これだけ大きい相手にも数発外すのはアレだけど…。


「今失礼なこと考えなかった?」「いいえ、全く」

 嘘はついてないので問題ないだろう。


「皆さん、お待たせしました<上級電撃魔法>ギガスパーク!!」

 レベッカの上級魔法が発動する。水で体が濡れたこいつには効果抜群だろう。

 強烈な雷撃を浴び、イカは悲鳴を上げる。

「レイ君、最後は任せるね」

「はいはい……それじゃあトドメ」


 僕は剣を天に掲げる。

 最近このやり方の方が魔力を込めやすいことが分かった。

「よし、行くよ!」

 僕は無防備になった敵の体を斬りつける。

 そしてそイカの体が真っ二つになり地面に倒れ伏した。


 そして魔物は消滅し、割れた宝珠が転がった。


「これで宝珠の欠片はあと一つかな」「はい、そうですね」

 僕たちは次の階層へ続く階段を探すため、周囲を探索し始めた。

 するとまた何か大きな水の中を激しく動き回る音が聞こえる。


「何の音かしら?」「分からないけど、何か嫌な予感がする」

 その音は徐々に近づいて来る。


「レイ様、危険です。先ほどのように一度戻りましょう」

「ううん、多分ここのボスだろう。どっちにしろ戦う必要があるはずだよ」

 僕らは急いで音のする方へ向かう。

 音の正体はすぐに分かった。それは巨大なタコだった。


「イカの次はタコか…」

「何かお腹空きましたね、攻略終わったらダンジョン出て食べに行きましょう」

「賛成です、レベッカもお腹ぐうぐうです」

「ごめんね、お弁当用意できなくて…」


 どうやらみんな空腹らしい。僕だってそうだ。

 だが、今はそれより目の前にいる巨大蛸をどうにかするのが優先だろう。


「エミリア、もう一回上級魔法使ってくれない?」

「えー…結構アレしんどいんですよ?」「お願いします、エミリア先生」

 僕は頭を下げる。エミリアはしばらく考えて、仕方ないという表情をする。


「分かりました、そこまで言うのならやりますか。その代わり、ちゃんとフォローしてくださいね」

「もちろん!」


「ではいきます!この際ですから、補助結界も使いましょう!」

 エミリアの足元に魔法陣が浮かびあがる。えっ、何それは……?


「エミリア、それどうやってるの?」

「最近気づいたんですよ、補助結界も魔法で描いちゃえばいいやって」

 よく見ると魔法陣はエミリアの魔法と思われる小さな炎を形作って描かれている。


 器用なことを出来るなぁ。

 それは良いとして、いつもの足止めしないと。


「レイさま、来ますよ!」

「っ!」

 と、そこにタコ足が僕に襲い掛かってきた。

 僕は再び剣に魔力を込めて巨大蛸に向かって振りかぶる。


<剣技・炎魔法>ソードファイア

 咄嗟なので初級魔法を付与した魔法剣を放つ。

 中級魔法に比べると威力は低いが、それでもタコ足を焼き切るなら十分だ。

(たこ焼き食べたくなってきた…)


 タコ足を斬り落とした瞬間、本体の魔物の叫び声が聞こえた。

 そちらを見るとレベッカがタコの頭に矢を数本放っていた。


「ふむ…表面がぬるぬるしていて中々当てづらいですね」

「レイくん、この子は束縛が効きにくいわ、何かヌルヌルするの!」

 束縛で封じられないとなると……タコ足全部切り落とすしかないかな。


「みんな、とりあえず本体よりタコ足どうにかしよう」

「了解です、はっ!」

 レベッカはタコ足に向かって矢を放つ。

 姉さんも<魔法の矢>を撃つが、まぁ当たらないよね…。

「よし、なら直接剣で、って」

 敵に向かって斬りかかろうとして、タコの足元はヌルヌルで素っ転んでしまった。

 思いっきり頭ぶつけた。

「いっ……いったぁ…!」


「レイくん……今のは格好悪いわ…」

「……どんまいです、レイさま!」

 ちくしょう。


「お三方、とりあえず上級魔法詠唱終わったのでぶっぱなしますね」


 僕達は被害を受けないようにその場から引こうとするが、

「わぁああああ!レイくん助けて!」

 姉さんがタコの足に絡めとられてしまった。


「姉さん!」「ベルフラウさま!」

 僕は少し助走をつけてジャンプして姉さんを捕縛している足を剣で切断する。


「姉さん!大丈夫!?――――おわっ!」

 姉さんをカッコよく助けたまでは良かったが、着地で再びスッ転んでしまった。


「姉さん、無事!?」

「う、うん…レイくんの方が大丈夫?今結構痛そうな滑り方したけど…」

 股関節がグギッとした気がするけど、そんなこと正直言えない。


「二人とも!早くこっちへ!そこだと魔法の範囲内です!」

 大声でエミリアに呼ばれる。魔法はとっくに完成してたの忘れてた!


「ひとまず避難しよう!」

「レイさま、私が弓でけん制しますので離れてください!」

 レベッカが矢を放ってタコをけん制してくれたお陰で無事避難出来た。


「ようやく撃てますね…。魔力強化<上級電撃魔法>ギガスパーク

 エミリアの特大の雷がタコに降り注ぐ、タコは全身に電撃を浴びてそのまま倒れ伏してしまった。


 すると宝珠の欠片と、それ以外に複数の宝箱が出てきた。

 それに大きな魔石が二つだ。これは売れば結構な金額になりそうだ。


「よいしょ…これで宝珠は完成かな?」

 僕は4つの欠片を試しに元の形になるようにくっつけてみた。

「お、上手く嵌った」

 どうやらこれは欠片というよりは組み立てるようなものだったようだ。


「うっ……上級魔法2連発は中々辛いですね」

 エミリアがふら付いていたので手を貸した。今回は結構無茶させてしまったかもしれない。

「エミリア、お疲れ、多分もう戦闘は無いからこのまま手を貸すよ」

「うう…魔力切れではないんですが、すいません…」

 どうも強力な魔法を連発すること自体にそれなりに負荷が掛かるらしい。


「みなさまー、こちらに扉と台座がありますー!」

 レベッカの声を聞いて僕たちは扉の前に集まった。

 さっき組み立てた宝珠を覗くと『Ⅶ』と書かれていた。

「じゃあ台座に嵌めるよ」

 僕は台座に宝珠をはめ込むと、扉が音を立てて動いた。


「それでなんだけど、流石にみんな帰るでしょ?」

 姉さんの質問に僕を含めた全員が頷く。二階層連続で攻略したため疲労がかなりある。

「それじゃあ、皆で帰りましょう。私の元にあつまってね」

 僕達は姉さんの元へ集まって、脱出魔法で地上へ帰還を果たした。


 New (SSR)クイックロッド 1個

 New (SSR)フォースシールド1個

 New (SSR)女神の衣 1個

 New 魔石(特大・上物) 2個

 New 魔石(中・普通) 12個

 New 魔石(小・低) 30個

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