第54話 幕間2

 ミリクさんに性的に襲われそうになった僕は、

 姉さんの乱入によって何とか貞操の危機から脱することが出来た。

 部屋の扉が粉砕され壁が穴だらけになったので、宿の主さんにその事を謝罪して僕は一時レベッカの部屋に泊まることになった。修復には時間が掛かるという事でしばらく立ち入り禁止だ。

 ちなみに修繕費と賠償金は今回の当事者であるミリクが全額支払うことになった。


 ミリクさんから改めて僕たちに話があるということで、

 今は村の酒場に来てテーブルを囲みながら話をすることになった。


「貴女様がミリクテリアさまなのでしょうか?」

 レベッカはミリクさんをキラキラした目で見つめている。


「そうじゃぞ!だが、儂のことはミリク様と呼ぶが良い!

 本来その名前は間違いじゃからの!ここにいる全員に言っておくぞ!」


「そ、そうなのですか…ではミリクさまとお呼びしますね」

「おうおう、そうするがよい!

 しかしレベッカはかわゆいのう!おーよしよし!」

 ミリクさんはレベッカを猫か何かみたいに撫でまわしてる。


「は、はう…」と鳴いてレベッカは顔を赤らめる。

 レベッカ、嫌なら止めてって言っていいんだよ…。

「レイも結構同じ事やってますよね?」とエミリアに言われる。

「えっ?そうだっけ?」

「貴方、もしかして無意識でやってたりします?」

 レベッカが可愛くてつい手を動かしてたかもしれない。


「……で、ミリク。貴女、なんでレイくんを襲ってたの?」

「何でお主は呼び捨てなのじゃ!?……いや、悪かったから指を向けないでくれ、な?」

 姉さんがミリクさんの頭にずっと指を向けている。

 下手なこというとミリクさんの頭が吹っ飛びそうで怖いんだけど…。


「レイのことはあれじゃ…その、儂も女じゃからのう…

 もうこういうことは二度としないから、許してくれ……本当に、頼む!」

 ミリクさん土下座してるよ……流石にちょっと可哀想になってきた。


「姉さん、僕は大丈夫だったし、こういってるから許してあげて…?」

「レイくんが言うなら…」

 僕の説得で姉さんはミリクに向けていた指を下げる。

 これで姉さんの<魔法の矢>マジックアローで人の頭が吹っ飛ぶ瞬間を見ないで済む。

 とりあえず周りの目線があるのでミリクさんには早々に土下座を止めてもらった。


 事を見守っていたエミリアがため息をついて言った。

「……これが、神様ですか。何というか、イメージが崩れますねぇ」

「べ、ベルフラウさま…もう少し手心というか…」

「レベッカちゃん、エミリアちゃん、こういう時に加減は要らないのよ」

 普段の温厚な姉さんと違って今の姉さんはちょっと怖い。

 僕の事をそれだけ心配してくれてたんだろうけど、ここまで怒ってるのは初めてだ。


「食事持ってきましたー、どぞー」

 酒場の看板娘さんが大きなトレイを片手に持って僕たちの机に料理を並べていく。

 5人分でかなり重そうなのに手際よく片手で置いていく。

「ありがとうございます」「ごゆっくりどぞー」

 ウェイトレスさんを見送ってから僕は前を向いてミリクさんに声を掛ける。


「それでミリクさん、話って?」

「おお、そうじゃ、それが本題であった。

 周りに聴かれては困るからの、少し人払いさせてもらうぞ」


 ミリクさんは咳ばらいをしてから何かを唱える。

 その瞬間、周りの風景が一瞬灰色になってすぐに元の光景へと戻った。


「ミリクさん、今のは…?」

「ちょっとした人払いじゃよ。

 儂らの声は周りには聞こえず、よほど強い意志がないとここには近寄らん」

 魔法か何かだろうか?特に魔法の発動は感じなかったけど…。


「権能、ね……」

 ぼそりと姉さんは言った。ということは今のは神の能力なのか。


「さて、それで話なんじゃが…

 まず、そなたらに今回の件でいくつか謝らないといかんことがある」


「今回の件?レイくん襲ったこと?」

「違うわ!……いや、その事を謝らんとは言っておらん、指を差すのは止めろ!」

 姉さん…。


「こほん、まずは四階の件じゃ……

 本来、あそこの宝箱には地下五階に行く際にゆっくりを降りられるアイテムが入ってたのじゃ

 それをレッサーデーモンが入れ替えたようでの、これは儂の監督責任じゃ……」

 ……確か、四階の宝箱は何故か金貨とか銀貨とか妙にケチってた気がする。

 そういう調整でも入れたのかと思ったけど、あの魔物の仕業だと思ってたのか。


「つまり…あそこで私たちが死に掛けたのは…」

「言ってみれば儂の責任じゃ………本当にすまんかった」

 そんな風に言われては僕も責めることは出来ない。


「って!姉さんマジックアロー使うの止めて!」「で、でもぉ!」

 危うく姉さんが本気でミリクさんに撃とうとしてるのを見逃すところだった!


「エミリアも炎魔法の詠唱するの止めて!それ撃ったら絶対ヤバいから!」

「……あ、つい<上級獄炎魔法>インフェルノ使うところでした……」

 全力ブッパにも程がある。


「というか、よく私の魔法の看破できましたね…」

 言われてみればなんとなくどういう系統の魔法かは分かるようになってた。

 少しは強くなったという事だろうか。


「お、お主ら怖いの……本当に大丈夫か心配になってきたぞ」

 ミリクさんが両方から圧力掛けられて体を震わせていた。


「れ、レベッカは…良かった、大丈夫そうだね」

 特に魔法発動したり武器を転移させたりはしていないようだ。

 が、ちょっと泣きそうになってる。


「い、いえ…おに……レイさまのあの時を思い出してしまって…」

 レベッカが泣きそうになっていたので、隣で頭を撫でることにした。

「―――♪」

 レベッカの気持ちも少しは落ち着いたようだ。


「つ、次の話に移っても良いかの…?」

「あ、はい…どうぞ」


「次に五階の件じゃが、あやつらを粛清するためお主らを利用させてもらったことじゃ。

 直接あやつらと対峙すると、他に居るかもしれん魔物共に中枢を乗っ取られるかもしれん。

 なので直接向かうことは出来ずに、儂の分身だけ飛ばさせてもらった」


「分身……?それじゃあ今の貴女は?」

「これも分身ではある。今回は肉体アバターも用意したがの」

 つまり直接本人が来たわけじゃないのか。


「結果お主らにほぼ助けてもらった形になった。

 この件に関して礼を言わせてもらおう。…と、同時に頼みがある」


「頼み…でしょうか?ミリクさまがわたくし達に?」

「うむ、ダンジョン攻略を続けてほしいということじゃ」

 え?それだけ?

「これを渡そう」

 ミリクさんは僕にいつも階層で入手できる宝珠を僕に手渡してきた。

 確認すると『Ⅴ』と中に書かれている。

 これで地下五階の最後の扉を開くことができるだろう。


「それを最初に入り口の台座に入れれば即地下五階にワープできる。

 お主らが最後の階層を攻略した時、儂はそこで待っとるからな、その時にまた話そう」

 そこまで話してミリクさんはスクッと立ち上がり出口へ向かう。


「ちょ、ミリクさん!?」

「もう気付いておると思うが、あのダンジョンを作ったのは儂じゃ。

 儂なりに目的があってあのダンジョンを運営しておる。理由はそこで話そうと思う」


「………待ってください、ミリクさん。

 それは私たちで攻略しないといけないのでしょうか?」

 エミリアはミリクを引き留めて言った。


「お主らが適任じゃと儂は思う。来るかどうかは自由意志じゃが……信じておるぞ」

 ミリクさんはそのまま酒場を出ていこうとするので僕たちは追いかけるが、

「そうそう、レベッカの部屋に本来の地下五階の報酬を移動させてあるからの」

 それだけ言って足早にミリクは去っていった。

「待ってください、ミリクさん……ってあれ?」

 今出ていったばかりなのに外に出るともう何処にもミリクさんは居なかった。


 ◆


 僕達は食事を終わらせてからレベッカの部屋に戻りアイテムを回収した。

 食事中、終始エミリアが無言だったのが少し気になった。


「……エミリア、どうしたの?」

 レベッカの部屋でアイテムを回収してから僕はエミリアに訪ねた。

「え…?どうしました?」

 ……いつもと比べて返事もあまり元気が無いように思える。


「食事中ずっと何も話していなかったし、何か悩んでいるように見えたから…」

「…そうね、お姉ちゃんもちょっと気になってたわ」

「エミリアさま…悩み事でしょうか?」

 エミリアは少し考えて言った。


「……そうですね、何も言わないのもダメですよね。

 ……私は、ダンジョンの攻略を中断してみんなを連れて帰ろうと思ってます」


「えっ、何で…?」

 このダンジョン攻略で最も乗り気だったのがエミリアだったので意外だ。


「…もしかして、レイくんのことを気にしてたの?」

「僕の事?」

 エミリアは姉さんの言葉に頷いて言った。


「あの時…レイが酷い怪我を負って…意識が戻らなくて…

 それでレベッカさんがずっと泣いていて、

 ベルフラウさんは何も言わなかったけど凄く悲しそうで…」


「………」「……エミリアさま」


「私は酷く後悔しました。

 こんなことになるなら私の我儘で皆を巻き込むべきではなかった、と。

 きっとミリクさんの力が無ければ、今頃レイは―――」


 少しずつ言葉が小さくなっていくエミリア、そしてエミリアの目から涙が零れた。


「でも私には何も言う資格が無かった…!

 わがままでみんなを危険に晒して、どんな顔をして同じように悲しんでいられるかって!

 私が全部悪いのに!全部―――!」


「エミリ――」

 エミリアと言おうとする前にエミリアは僕にしがみついた。


「私だって、レイが酷い目に遭って―――本当に……!泣きたかったのに――!」

「エミリア……」

「ご、ごめん……こんなこと言う資格、私にはないのに――――」

 ずっと涙を流して、今にも消えてしまいそうなエミリアを僕は抱きしめた。


「っ!………れ、レイ…」

「ごめん、そんな風に想ってくれてたなんて……」

 エミリアがそこまで思い詰めていたことに僕は、気付いてあげられなかった。

 きっと姉さんやレベッカも――自分のことで精一杯だったから。


「………レイ、レイ……!」

 エミリアは僕を強く抱きしめ返して―――


「………あ……」

 エミリアは後ろから姉さんとレベッカに抱きしめられた。


「……ごめんね、エミリアちゃん。

 私も一緒にいたのに、貴女がそこまで傷ついているなんて思わなくて…

 そうよね、ずっと一緒に居たんだから――悲しいに決まってるわよね…………」


「わたくしも……レイさまが死んでしまうかも、とばかり考えて――

 エミリアさまやベルフラウさまのことが全然見えておりませんでした―――」


 僕だってエミリアや姉さん、レベッカが危ない目に遭ったらきっと後悔する。

 きっと悲しむ……だから、エミリアの気持ちは僕達と一緒だ。


「大丈夫だよ……エミリア、

 もう僕はみんなを悲しませるようなことはしないから…だから……」

 これからも一緒に、僕たちは四人で―――


 その後、僕たちはしばしの時間、四人で抱きしめ合って過ごした。

 お互いの不安を言い合って僕たちは少しずつ成長していく。僕たちは一人じゃない。

 四人の家族なんだ。だからこの先もずっと一緒で居られるよう、皆で強くなろうと決めた。



 New (SR+)聖女のベール 1個

 New (SR+) 聖なる鎧 1個

 New (SR)ウィザードハット 1個

 New (SR)聖銀の髪飾り 1個

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る