第55話 幕間3

 ―――更に二日後の夜


 元の部屋の修理が終わったので、

 僕はレベッカの部屋から元居た部屋に戻ることが出来た。

 僕達はダンジョン攻略を続けることを決意し、この日は夜まで準備をしていた。

 今回ミリクさんから貰った報酬の分配、足りないものの買い出し、新たに得た魔法や技能をお互いに共有し、連携の確認、軽い手合わせでお互いの力を把握し、今度こそ危険な目に遭わないように十分な準備をして明日また攻略に乗り出す。

 そのため夕食が遅くなり、その後ようやく全ての準備を終えてようやく床に就こうと思ったのだが、


 コンコンコン


「はい、鍵開いてますよ」

 自室をノックされたので招き入れるとパジャマ姿のエミリアだった。

「あの…レイ、入っていいですか?」

 エミリアは枕を持って少し顔を赤らめた顔を隠しながら僕に遠慮がちに聞いてきた。

「ど、どうぞ……」

 な、何だろう……いつもと雰囲気が違うんだけど…。

 焦る気持ちを胸に僕は平常心を装ってエミリアを迎え入れる。

「あ、ありがとうございます……座りましょうか…」

 エミリアにそう言われたので、ちょっと緊張しながらお互いに座る。


 ―――同じベッドの上に。


(何でベッドの上に座らせてるんだよ、僕は!?)

 駄目だ、自分でも抑えられないくらいこの先の何かを期待してしまっている。

 そのせいで普段なら床に座るところをそのままベッドに案内してしまった。


「「………」」


 どうしよう、気の利いたこと何も言えない。

 というかエミリアも顔を赤らめたまま黙り込んじゃって、お互いに何も言えなくなってる。

(この空気をなんとかしないと――!)


「そ、そうだ、今日暑いよね!ちょっと飲み物を―――」

 と、僕はベッドから離れようとするのだが、エミリアに袖を引っ張られてしまった。


「あの……レイ、今夜……一緒に寝ませんか?」

「は…はい…………えっ?」


 明かりを消して二人でベッドに潜り込む。

 ………どれくらい時間が経っただろうか。


(眠れるわけないだろーー!)

 元々エミリアのことは出会った当初から意識してたのだ。

 今は気持ちの迷いがあったとしてもこの状況で理性的で居られるわけがない。

 僕は15歳の思春期男子だぞ。


(エミリアはもう寝たのだろうか…)

 お互い背を向けて眠っているはずなのであちらの様子は分からない。

 いかにもな雰囲気で部屋を訪ねて来て、一緒に寝ようとか言いだしたのに、

 こっちだけ悶々とした気持ちで悩んでるのはズルい。


(悔しいからちょっと悪戯でも……)

 普段はそんなこと考えないのだが、

 流石にこの状況で何もしないほど僕はヘタレでは無い…はず。

 でも実際に何かしようと思っても手が出ないというか…。

(やっぱ僕ヘタレじゃん!あーもう!寝よう!)


「レイ、起きてますか…?」

「は、はい!」

 寝ようと決めた瞬間声を掛けられて心臓が飛び跳ねる。


「ちょっと話をしませんか…?」

「う、うん……いいよ」

 そう言って僕とエミリアはお互い暗がりの部屋のベッドの中で背を向けながら話す。


 始めてエミリアと会った時の話、

 湖の村でアドレ―さんに鍛錬を付けてもらった時の話、

 雨の日でびしょ濡れになって帰ってきてエミリアに看病してもらった時、

 エミリアに魔法を教えてもらった時、

 廃鉱山でエミリアと協力して戦った時、

 エミリアが刺されそうになって庇った時、

 一緒にゼロタウンに向かう時にレベッカと出会った時、

 ゼロタウンに着いて僕がエミリアに誤爆で告白してしまった時――――


「あの時のレイの告白は本当に驚きましたよ、ふふふ」

「わ、笑わないでよ…あの時は必死だったんだから………!」


 あの時は何も言わないとエミリアとお別れになってしまうと思って必死だったのだ。

 その結果、間違って言わなくても良いことまでベラベラ喋ってしまって…


「その後、補導されたんですよね……ふふふ、今思い出しても面白くて……!」

「う…今思うと恥ずかしい…」


 エミリアに間違えて告白してしまって、

 つい恥ずかしくて噴水広場の水の中に顔を付けていたら、

 通りがかりの人に不審に思われて警備の人に怒られてしまったのだ。

 初犯だし単純に注意だけで済んだから良かったけど……。


「まぁそれ位悩むほど私と別れたくなかったんですよね」

「――――っ! そ、それは……そうだけど、ね」

 ぐぐぐ……さっきからエミリアに言われたい放題だ……!


「まぁでも、そろそろ言おうかな、と思いまして」

「………何を?」


 ベッドの中のエミリアが動いた気がした。

「………告白の、返事です」

 声と同時にエミリアはこちらに寝返りを打ってぼくを胸元を後ろから抱きしめてきた。


「―――! え、エミリア……!?」

「…………」


 エミリアの柔らかい手が後ろから僕の胸に置かれ、

 エミリアの柔らかい胸と全身の感触を背中から感じる。

 同時にエミリアから感じる鼓動を背中から感じる。


(僕も……ドキドキしてるの聴かれてるかな……)


「……レイもこっちを向いてくれますか……」


 ドキドキドキドキドキ……


「うん………」


 僕はエミリアと同じように寝返って向かい合う形になった。

 暗いからよく見えないけど、エミリアの顔が自分の数センチ先にある。

 吐息すら感じるほどの近くに僕とエミリアは近くに寄り添っている。


「レイ……」

「うん……」


 暗がりだけどエミリアが紅潮しているのが分かった。

 きっと自分も負けないくらい顔が真っ赤なのだろう。


「……貴方は私にこう言いましたよね。……君と一緒に過ごしたい。

 同じ冒険者になって、一緒に依頼を受けたり冒険したり、家族みたいに笑いあって――

 だから、一緒に居てほしい―――って」


 ゼロタウンに来た時、確かに僕はエミリアにそう言った。


「うん……そう言った」

「今の私も同じ気持ちです――」


 ………それは、つまり―――


「私も、レイの事が好きです」


 ―――その言葉を聞いた時、僕の心臓が更に大きく飛び跳ねた気がした。


「同じ冒険者になって、一緒に依頼を受けたり冒険したり、家族みたいに笑いあって――」


 エミリアが僕が以前言った言葉を復唱する。


「………ふふふ、もう全部やっちゃっていますけどね……」

「………エミリア、その僕もエミリアの事が―――」


 僕は気持ちを全部伝えようと思った。

 けど、エミリアは僕の口を指で塞いでこう言った。


「駄目、です、今はここまでにしましょう………」

「え…なんで……最後まで聞いてよ……?」

 エミリアだけ一方的に言って、ズルいよ…僕も言いたいのに…!


「だって……レイはまだ、気持ちが決まってないんでしょう?」

「…………!」


 それは……、もしかして……。

「レイって結構惚れっぽい性格ですよね……

 私以外にレベッカやお姉さんのベルフラウにも似た気持ちがあったり

 ……してますよね?」


「…………う、うん……」

 何を答えてるんだよボクは、エミリアに嫌われてしまうじゃないか…


「素直ですねぇ……よしよし」

 嫌われるどころか、何故かエミリアに頭を撫でられてしまった。

 エミリアの赤くなった綺麗な顔を間近で見ながら、

 僕はレベッカにするようにエミリアに頭を撫でられ続けていた。


「そ、その…エミリア…」

 凄く安心するし、とても幸せなんだけど…何か色々おかしいような。


「可愛いですよ、レイ………少しだけなら、いいかな?」

 囁くような小さくて優しい声でエミリアは言った。


「えっ……少しだけって――」


 僕が言い終わる前に、エミリアの顔が更に近くなって―――


 ―――僕の唇―――の横にエミリアの唇が一瞬触れた。


「………あう……」

「………今はここまでですよ……

 あとは、レイの気持ちが決まってからにしましょうね……ね?」


 エミリアは最後にそうやって囁いて、こっちの気持ちの返事など訊かずに…。


「それじゃあお休みなさい、

 明日はダンジョンに行きますからちゃんと寝てくださいねーー」


 そう言ってそのまま寝てしまった。


「………………」

 何でこんなオチになるんだよぉおおおおおおおおお!!!!!


 僕はその後、エミリアの赤らめた表情とか

 抱きしめられた時の胸の感触とか唇の柔らかさとかが忘れられなくて、

 少しトイレに行ってからベッドに戻った。

 その時にはエミリアはスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。


 襲ってやろうかと一瞬思ったが、

 さっきトイレで冷静になってきたので自分も隣で寝ることにした。

 ちょっと冷静になったことを後悔した。


 ◆


 ―――その次の日


 朝起きたからエミリアはまだ寝ていて、

 部屋に置いてある備え付けの机に手紙が置いてあった。

 いつ置かれていたのだろう。

 昨日は準備で忙しくて部屋に戻ったのは夜だったので気付かなかった。


 読んでみると、それはミリクさんからの手紙だった。


『ダンジョンの件、お前たちに無理を言って済まない。


 きっとお前たちにも事情があると思うが、引き続き攻略を決断してくれたお前たちの想いを儂はとても嬉しく思うぞ。

 儂の目的はまだ言えないが、ダンジョンを踏破出来るのはお前たち4人だけだと確信している。もし儂の元にお前たちが辿り付けたら、儂の本当の目的を伝えようと思う。


 儂はその日が近いうちに来ることを期待している。 


 女神ミリクより』


「ミリクさんの手紙だ……」

「どれどれ、私にも見せてください?」

 ひょこっと顔を出したエミリアにびっくりして僕はベッドからひっくり返ってしまった。


「いたたたたた…ビックリしたじゃないか、エミリア」

「いやーすみません、普通におはようから言うと照れちゃいそうで…」

 ちょっと顔を赤らめて舌を出して笑うエミリアだった。


「それで、私にも手紙を見せてもらえますか?」

「うん、ほら」


 僕はエミリアに手紙を渡す。

「………引き続き攻略を決断してくれた~って何で分かったんでしょう?」

 言われてみれば、その時は僕達はまだ悩んでいたことすらミリクさんは知らなかった筈だ。

 何処かで見てたのだろうか。


「案外、何処かで僕たちを見てたりするのかな…?」

「一応あの人も神様なんですから、そんな覗きみたいなことはしないでしょー」


 僕達はそんな風に笑いながら手紙を読んでいると、

 下の方に文字が小さく書かれていることに気付いた。


『追伸:もし他の女が固いなら儂が夜の相手をしてやるぞ』


「「…………」」


 やっぱり覗いてるのでは…。

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