第53話 幕間1

 

 レイが気を失ってから一日後の話


「……………ん」

 気が付くと僕は宿の部屋のベッドに横になっていた。


(………僕は、どうしてここに居るんだっけ?)

 地下五階の時に空に投げ出されてあやうく死に掛けて、その後色々あって敵と戦いがあって、

 それから敵の魔法を死ぬ気で乗り越えて倒したことまでは覚えてるんだけど。


「………?」

 ベッドから起き上がると自分の左腕に重さを感じた。


「………すぅ」

 隣を見るとレベッカが僕の左腕を抱きかかえたまま同じベッドに眠っていた。

 そっか、僕は疲れて気を失ってその後ここに運ばれたのか…。


 レベッカの長い銀髪を指でとかす。サラサラでとても綺麗だった。


「………ん……あ……」

 そうして髪を撫でていたらレベッカが目を醒ましてしまった。


「……お兄様……」

「お、おはようレベッカ……起こしちゃった?」

 き、気まずい……


「あの………やさしくお願いします、お兄様…」

「何の話してるの!?」


 ◆


 その後、僕達の様子を見に来たのか姉さんとエミリアが部屋に訪ねてきた。


「良かった。二人とも、目が醒めたんですね」

「あの後二人そろって倒れちゃうんだもの、お姉ちゃん驚きました」

 二人の話によると、僕がデーモンを倒した後に僕とレベッカが倒れてしまったらしい。

 その後に、ミリクテリアさんの力で宿まで転移して運んでもらったそうだ。


「でも何でレベッカも一緒に?」

「レイくんが倒れた時に真っ先に駆け寄ったのがレベッカちゃんだったの」

「その後、手を掴んだままレベッカさんも倒れてしまって…」

 引き離そうとしたけど全然離れなくて結局同じベッドに休ませたそうだ。


「あの人には最後までお世話になっちゃったみたいだね」

「流石ミリクテリアさまでございます」


 ……思い出した。ミリクテリアってレベッカが言ってた神様の名前だ。

 という事は協力してくれた人は、姉さんと同じ神様ということになるのか?


「その、ミリクテリアってのは声だけの聞こえてた人ですよね。

 その事は一旦置いといて、レイはともかく何故レベッカまで何で倒れたんでしょうか?」


 それは大体想像が付く。

 あの時、僕とレベッカは<魔力共有>シェアリングという魔法で魔法力を共有していた。僕がデーモンを倒すときに全魔力を使ってしまったせいでレベッカの魔力も使ってしまい影響が出てしまったのだろう。言ってしまえばレベッカが倒れたのは僕のせいだ。


 僕はその事をエミリアと姉さんに伝える。


「そんな魔法が…その人、凄い魔法使えるのね…」

<魔力共有>シェアリング?……聞いたことの無い魔法ですね」


「エミリアさまもご存じ無いのですか?」

「その魔法は私も知りません。

 記憶が正しければその人の名はレベッカの信仰している神様と同じですよね?」

「はい、間違いございません」


 レベッカの話では僕の意識が戻ったのはミリクテリアさんのお陰らしい。

 何故かその話の時にレベッカは顔を赤くして僕から目を逸らした。何故だ。


「そんなことも出来るなんて…まるで<死者蘇生>レイズデッドですね」

「レイズデッド?」

「簡単に言えば、死者を蘇生する魔法。<失伝魔法>ロストミスティックの一つです」

 死者蘇生!?そんな凄い魔法もあったのか…?


 しかし、そのミリクテリアさんの声は今は聞こえない。


「ミリクテリアさんは何処に行ったの?」

「私たちを転移させた後から声が聞こえなくなりました、何処かに行ったのでしょうか?」


 一旦、そこで話を終えて、

 僕たちはまだ完全に回復していなかったので暫くまだ休むように言われてエミリアと姉さんは部屋から出ていった。レベッカも自分の部屋に戻って休むそうだ。


 結局、ミリクテリアさんは何で僕たちに協力してくれたんだろう?

 魔物との会話を聞いていると、どうもミリクテリアさんはあのダンジョンを運営していたような言い方をしていたが、どうもそれを魔物に乗っ取られたという感じだ。


 結局悩んでも何も分からなかったので僕は大人しく寝ることにした。


 ◆


 ―――その日の夕方のこと


 トントントン―――

 いつの間にか眠っていたらしい。

 自分の部屋がノックされる音で目を覚ました。


(誰だろう…?姉さんかな?日の傾きからすると夕食の時間が近そうだけど…)

 普段ならそろそろ食事の時間だ。姉さん辺りが夕食に誘いに来たのかもしれない。


「はーい、今開けるよ」と、そう言って部屋の扉を開ける。


「よっ、元気そうじゃの!」

 扉を開けたら全然知らない人が立っていた。


「……え?どちら様ですか?」

 見た目は茶髪で褐色肌の女性で綺麗な人だけど…

 服装はどことなくレベッカに似ているが、レベッカの服は白に対して目の前の人は全体的に黒の多い衣装だ。歳は見た目20くらいだろうか、身長は姉さんよりも少し高いくらい。

 服装こそレベッカに似ているが身長も高くてスタイルも良いため印象はかなり違う。


 自分の記憶を探ってみるが僕の知り合いでは無い。


「何じゃー冷たいのう、せっかく来てやったのに」

「あの、部屋を間違えているんじゃ…」

 多分僕を誰かと勘違いしているのだろうと思ったのだが、

(なんかこの口調と声に聞き覚えがあるんだけど…)


「レイ、じゃろ?……わしの口調と声で誰だか分からんか?」


 ………まさか


「ミリクテリア……さん?」

 僕の回答に満足したのか、目の前の女性はニンマリと笑って言った。


「正解じゃ!神である儂が遊びに来てやったぞ!」


 神様なミリクテリアさんは僕の部屋にズカズカと上がり込んできた。

「せまいのー、冒険者はこんな所に住んどるのか?」

「今は宿ですが、元々は宿舎だったのを少し改築して使ってるみたいです」

 というか、この人は一体何をしに来たのだろう?


「あのー、ミリクテリアさん、一体何の――」「ちょっと待て」

 何か以前に姉さんにされたような遮られ方したんだけど。


「儂のことはミリクと呼べ」

「でも、レベッカはそう呼んでましたよ?」


「あやつの村では儂の名前が間違って伝わっておるのじゃ!

 本来の名前はミリク、ミリクテリアでは無い」


 姉さんが女神だった頃に名前の呼び方を気にしてたことがあったっけ。

 間違えて呼ばれてるのがどう問題なのか分からないけど、神様すれば違うのだろう。


「分かりました、じゃあミリクさんで」

「様付けじゃないのは気になるが…まぁよかろう」


「それで、ミリクさんは何故ここに?」

「うむ、お主たちに色々と話したいことがあったんじゃが…

 その前に、個人的にお主に会いに行こうと思っての」


 そう言ってミリクさんは何故か僕の後ろの扉を閉めて鍵を掛けた。


「え?僕に?」

 というか何で今鍵閉めたの?

「うむ…お主、前に話した時、最後に儂が何を言ったか覚えておるか…?」

「前に最後に言ったこと?えーっと……」


『では、後は任せたぞ。もし上手くいったら後で褒美をやろう』


「確か、上手くいったら褒美をやろうって……」


「ふふふ、覚えておったか」

 ミリクさんはそう言って、僕にじりじりと迫ってきた。


「え、え、え?な、何…?」

 ちょっと身の危険を感じるんだけど、やだ怖い。


「そおい!」「うおわっ!」

 ミリクさんは僕をベッドに突き飛ばした。


「ふふふ………じゅるり」

「ひぃっ…!」

 何かミリクさんに襲われそうなんだけど!性的に!


 そしてそんな僕を見てミリクさんは、

<束縛>バインド」と言って僕に魔法を掛けた。

「ちょっ!ミリクさん!?」


 僕の手と足だけ魔法でベッドに繋がれたんだけど!


「ふふ、お主の奮闘ぶり……儂はしっかり見ておったぞ……!」

「な、何の話ですか…!?」

「お前を倒して僕はみんなの元に戻る!…中々格好の良い啖呵じゃった」

 それは確か僕がデーモン相手に言った言葉だけど…


「本当はお主らに注目してたのは、儂の信者であるレベッカが居たからだったのじゃが…」

 そう言いつつ、ミリクさんは服の肩部分の紐を取って胸元をはだけ始めた。


「ちょっ―――」

 僕は見ないように手で顔を覆うつもりだったのだが、縛られて身動きが取れなかった。


「昨日のお主を見ていたら…いやはや、中々男らしいではないか……!」

 ミリクさんはそのまま僕のベッドに乗り込み、僕のお腹の辺りに跨った。


「み、ミリクさん―ー?」

「最初はお主のこと侮っておったが、儂もあの姿を見て胸の高鳴りを感じてのぅ…!

 神とはいえ、自分が女であることを思い出したわ………♪」


 この人、本当に僕を性的に襲う気だ―――!?


 その時、コンコンコンと僕の部屋の扉を叩く音が聞こえた。


「レイくん、何か大きな声が聞こえたんだけど――?」


 姉さんだ!良かった、叫んで助けてもらおう!


「姉さん!助けて!今僕襲われ――むぐっ」

「こ、こら!今良いところなんじゃから静かにせんか!」

 そう言ってミリクさんは、僕の口を塞ごうとする。


「え!?レイくん!本当にどうしたの!?」

 ガチャガチャと姉さんはドアノブに手を掛けるが、ミリクさんが鍵を掛けてしまっている!

(や、ヤバい!マジで襲われる!)


「フフフ、どうやら邪魔は入らぬようじゃな…なら始めようか―――♪」

 そう言ってミリクさんは僕のズボンを脱がし始め、パンツに手を掛けたところで――


 ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ガッシャーン!!


 ―――扉から銃弾が当たったかのような破壊音がさく裂し、扉が倒れた。


「なっ……何事じゃ……!?」


「……レイくんを襲おうとしているのは――――――――誰?」


 そこには<魔法の矢>マジックアローで扉を破壊して、

 こちらに指を突き付けて威嚇してる、眼の光を無くしたお姉ちゃんベルフラウ様が立っていた。


 姉さんは僕が<束縛>で縛られてパンツ一丁にされているのと、

 ミリクさんが上をはだけて半裸になっているのを観察してから言った。


「レイくん―――――その女、誰―――――?」


(姉さん、ブチギレてる―――!)


「お、おい!儂はお主の弟に危害を加えるつもりは――」ドゴッ!「ヒィッ!」

 ミリクさんが喋ってる最中に姉さんの<魔法の矢>がミリク様を掠める。


 神であるミリクさんも怖いものがあるのか、

 姉さんの剣幕と魔法の威力に怯えて、身動きが取れなくなった。

 僕もさっきとは別の意味で恐怖を感じてます。


「誰も貴女に喋って良いなんて言ってないよ―――? ねぇ、レイくん?」

「は、はい…」


 今は姉さんが一番怖いです。


 すると、廊下を走る音が聞こえてきて――


「今、こっちから物凄い音が―――って、何、この状況……?」

「お兄様!ご無事ですか――――!………………??????」


 音に駆け付けたエミリアとレベッカによって姉さんをなだめるのに小一時間掛かった。

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