第52話 地下五階その4
―――地下五階
その時、森の何処かが大きく発光した。
「――――な、何…!?」
デーモンは光を見て極度に動揺している。
あの方向は……もしかしてレイ達が居た場所――?
「今の光―――いったい何が?」
ベルフラウさんの使う浄化の光に近い気がするが、レベッカは浄化を使えない。
仮にレベッカ達を襲っている敵が居たとしても魔物が使うのはあり得ない。
「分からないけど、今の間に逃げましょう!」
「そうですね、レイ達の元に!」
あのデーモンは光に動揺して詠唱すら忘れている。今が逃げるチャンスだ。
私たちは奴に背を向けて逃走を開始した。
しばらく走ってから、私たちは木の陰に隠れて息を整える。
「はぁ…はぁ…」「………ふう…」
数分くらい走ったつもりだけど、何とか撒くことが出来ただろうか…。
体を動かす担当ではない私たちにこの運動は相当堪える。
「一応、ベルフラウさんの目印を辿ってここまで来ましたけど…」
「そうね、でもまだ距離は結構あるんじゃないかしら…」
何とか二人と合流すればあいつと戦うことが出来るだろう。
「けどさっきの光は何だったのかしら…」
「分かりませんが…」
レベッカ達を襲った魔物の攻撃ではないだろう。
だが、どのみちあちらも危険に晒されている可能性がある。
早く急がないと――
「見つけたぞ」
―――声のする方は上だ。
「(迂闊!…奴は空を飛べるんだった!)」
私たちは咄嗟にその場から逃げるが、奴のスピードが速すぎてとても――
「死ね!」
私の目では追いつかないような速度で
私の前に立ち塞がったそいつは手の大きなツメを私に向けて、私の体を切り裂いた。
「う…あ………っ!」
胸から腹部の辺りを切り裂かれてしまった私は力が入らずその場で倒れそうになる。
「エミリアさんっ!」
倒れそうになる私をベルフラウさんに後ろから抱き止められる。
「あ、……私…は……」
駄目だ、このままだと……
「エミリアさん!しっかりして!今回復を!」
「……だ、…だめ…、逃げて……ベルフラウ……っ」
私を回復しているうちにベルフラウさんが襲われてしまう…。
「な、なんで…!」「お願い……逃げて……逃げて!!」
私は残った力を込めてベルフラウを突き飛ばす。
「に、逃げて………ベルフラウっ…!」
「っ……」
……これは私の責任だ。
私のせいでレイをレベッカを、ベルフラウを危ない目に遭わせてしまった。
そして今度は自分の命を落とそうとしている。
もし、ベルフラウが私を回復させようとするなら今度はベルフラウを襲うだろう。
そうはさせない……たとえ、私の命が無くなっても…
今にも倒れそうになるのを何とか足に力を入れて踏ん張って敵の姿を確認する。
「………と、通しません、よ」
お腹から血が大量に出ている。このままだと私はもうじき死んでしまう。
それでも、ベルフラウさんを逃がすまでは――――
「貴様、馬鹿だろう」
奴は無造作に腕を振り、私を横に殴り飛ばす。
「が………」
痛みで、もう立つことも出来ない……。
駄目だ、立ち上がって時間を稼がないと……!
「……え」
「……………!」
私とデーモンの間にベルフラウが―――
「……させないわ!」
「……何で、逃げないんですか……ベルフラウ!」
ベルフラウは敵から私を守るように腕を広げて立ち塞がっている。
「……ごめんなさいね、
あの子が好きな貴女を置いていくことなんて、私には出来なくて…」
そんな理由で……
「貴様から先に死にたいのか、それなら――」
「………誰か、誰か―――!!!」
このままだとベルフラウが――――!助けて、レイ―――――!!!
その瞬間、デーモンの腕が振りかぶられた剣によって両断された。
◆
『よし、空間転移終わったぞ』
僕たちは声の人にサポートして貰って『空間転移』でエミリア達の元へ向かった。
「え?」「あれ?」
向かったは良いのだが、何故か空中に居た。
『あ、すまん、座標がずれた。ほぼエミリア達の真上に出てしまった』
「「ええーっ!」」
重力に落下してまた僕達は落ちていく。
その中、敵らしい姿とベルフラウが対峙しているのと――
―――――その後ろに血だらけで倒れ伏しているエミリアを見た。
「エミリアーーーーー!!!!」
僕は落ちながら腰の剣を引き抜き、敵に目掛けて剣を振り下ろした。
「ぐああああああああああああああ!!!!」
デーモンは突然上から来た奇襲に対応できず、右手を肩から切り落とされた。
続いて、レイとレベッカが空から落ちてきた。
「ぐえっ」「きゃん!」
「ぐはっ…!!」
剣を振りかぶって相手の腕を斬り落としたのは良いものの、
受け身を取れずレイはそのまま地面に落ちてしまい、結構なダメージを受けてしまった。
その上にレベッカが背中に落ちてきて余計なダメージをもう一回食らってしまう。
「あ、いたたたたた……れ、レイさま、平気ですか!?」
レベッカはレイの背中に落ちたため平気だったようだが、僕はすぐ動けそうにない。
「れ、レイくん!」
後ろから姉さんの声が聞こえる。良かった、姉さんは無事みたいだ。
でも、エミリアは見たところ酷い怪我だった。
「ね、姉さん……僕は後で良いから、エミリアを!」
「う、うん、待っててね!!!」
後ろで姉さんが回復魔法を使う気配がした。これでエミリアも助かるだろう。
僕も落ちた割には平気だった…わけでもなく体がちょっと動かない。
「れ、レベッカ、回復薬持ってるなら飲ませてくれないかな…」
「あ、はい、どうぞ……」
僕はストローを使ってレベッカに回復役を飲ませてもらった。
「ふぅ…ありがとう、レベッカ」
「いえ、無事でよかったです」
回復役は傷の回復を癒すと同時に強い痛み止めの効果もある。
まだあちこち痛いけど、それで何とか立ち上がることが出来た。
……数か所骨が折れてる疑惑があるんだけど、後で姉さんに治してもらおう。
敵を見ると、先ほどのダメージが致命的だったのだろう。
肩口から大量の血が噴き出して敵が苦しんでいた。攻撃する余裕も無さそうだ。
それなら一旦こっちは放置だ。僕はエミリアの所へ向かう。
「エミリア、大丈夫!?」
姉さんに回復魔法を使ってもらっているが、エミリアはまだ辛そうだ。
「………あ、…レイ、無事だったんですね……よかった…」
かなり弱ってるが、何とか話すことは出来るみたいだ。
「うん、心配掛けたかも……姉さん、エミリアは大丈夫そう?」
「レイくんが駆けつけてくれたお陰で何とかなりそうよ、大丈夫」
そっか……良かった……。
「エミリアさまもベルフラウさまも無事でよかった…」
レベッカもホッと胸を撫で下ろす。
姉さんに任せておけば大丈夫だろう。
あとは、残った敵をどうにかしないといけない。
「ぐあああああ……き、貴様ら、いったい何処から…!」
さっき倒したデーモンとは少し姿は違うみたいだ、上位種だろうか。
「レイさま、戦えそうですか?」
「回復薬が効いてるから誤魔化して戦えるとは思う」
一応両手は動くし、背中の辺りが滅茶苦茶痛い気がするけど何とかなる…はず。
「それでは、二人でこの悪魔をどうにかしましょうか」
レベッカは弓を構えて、僕は
「………はぁ……はぁ……
少しは冷静さを取り戻したようで回復魔法を使うが、腕は戻っていない。
「
「
レベッカの魔法が次々と僕に掛かり強化されていく。
「エミリアによくも酷いことをしてくれたな」
僕はデーモンに斬りかかる。奴が瀕死だろうが許すつもりは無い。
「くっ!くそっ!」
デーモンは僕の攻撃を僅差で躱しながら後ろに下がっていく。
……随分手ごたえが無い。怪我のせいか防戦一方だ。
「
魔法剣による攻撃、デーモンは僕の剣を避けるものの魔法ダメージは食らってしまう。
「―――ふっ!」
直後にレベッカの追撃が入り横腹にダメージを受ける。
下手に僕の攻撃を躱そうとしても動きが遅いとレベッカの矢でけん制が入る。
こちらが圧倒的に有利な状況だ。
しかし、それは油断だったかもしれない。
「調子に乗るな!
ほぼ無詠唱の速度でくる風魔法に僕は対応できずに吹き飛ばされてしまう。
「レイさま、無事ですか!」
「大丈夫、ダメージは殆どない、けど…」
風魔法は攻撃力自体はあまりないが大きく吹き飛ばされるのが厄介だ。
奴は僕と距離を取り、羽で空を飛び始めた。
こちらが有利な状況過ぎて、敵の特殊な能力を考えていなかった。
「この暗闇で空を飛ばれるとヤバいかも」
『心眼』があると言っても距離が離れすぎると気配など感じ取れない。
「ではわたくしの弓で―――ーはっ!」
レベッカの銀の矢が空を飛ぶデーモンに向かって飛んでいくが――ー
「
相手の風魔法でレベッカの矢の勢いが落ちて届かない。
『少し厄介じゃの、あやつ距離を取って逃げる気か』
ここで逃がすわけにはいかない。何とか止める方法を考えないと。
「なら魔法で行きましょう。
急に空から降ってきた雷撃魔法にデーモンは対応できずまともに食らってしまって墜落する。
「え、エミリア!大丈夫!?」「エミリアさま、お陰は…!」
今魔法を放ったのはさっきまで酷い怪我をしていたエミリアだった。
「心配させてしまいましたね、ベルフラウのお陰で殆ど回復しましたよ」
エミリアの言葉通り、服は血で塗れたままだが傷はもう治ってるようだ。
「レイくーん!」「うおっ!」
僕は急に後ろから抱き着いてきた姉さんに押されてそのまま前に倒れてしまう。
「ちょっ、ベルフラウ!?」「ベルフラウさま!?」
そして抱き着かれたまま姉さんの回復魔法を受ける。
「レイくん、無事でよかったーーーーーーーーーーーーー!!!」
回復魔法で僕を回復しながら泣きついてくる姉さんを愛おしいと思ってしまった。
『あー、邪魔するのも悪いんじゃが、あの悪魔追わなくて良いのか?』
「「「「あ」」」」
僕達は急いで奴の居場所を探す。
「というかさっきの声は誰です?」「誰も居ないみたいだけど」
レベッカは答えていたようだが、
二人は漠然としか理解できておらず今は気にしないことにしたようだ。
デーモンが落ちた地点に向かうと、奴は木の陰に隠れて座り込んでいた。
「居ました!あそこです!」
僕達はエミリアの言葉でデーモンに近寄ろうとするのだが―――
「来るな!!!」と奴はこちらを威嚇し、こちらは足を止める。
すると奴は残った手を上に上げてこう言った。
「俺に近寄ろうとするなら、この魔法を使うぞ!!」
この魔法…?確かに奴は詠唱を終えて何かの魔法を溜めているようだが――
「っ…こいつ、
インフェルノって…召喚士戦でエミリアが敵をまとめて消し飛ばしたあの魔法か!
「ほう、何を使おうとしてるのか、分かるのか…
なら分かるだろう、俺の魔力でこいつを放てばお前たちは全滅するぞ!」
……っ!こいつ、僕たちを引かせてこの場から逃げるつもりか!
『随分卑怯な真似をする悪魔じゃな、それともそれが魔王のやり方ということか?』
「……ミリクのメスがいやがるのか、てことはそいつらはテメェの差し金だな!」
魔王、さっきも聞いたな。
『その魔法を放てば効果範囲内のお前も死ぬことになるぞ』
「馬鹿が、俺は魔法に対して耐性がある。ダメージはあるが死にはしない」
そこで姉さんの魔法が割って入る。
「
姉さんの魔法により奴の周囲に鎖が巻き付くが、瞬間に破壊されてしまう。
「き、効いてない…!」
「どうも奴はあの手の魔法が全く通じないみたいですね…!」
「じゃ、じゃあ姉さん!植物操作や束縛は…!?」
「それも、やったけど効かなかったわ……束縛も多分効かないと思う」
そんな…どうすればいいんだ。
「ならわたくしが――」とレベッカはそう言って弓に手を掛けるが、
「おっと、そいつを撃てば即座にこの魔法を発動させるぞ」
「……っ!」
デーモンに脅されてレベッカは弓を消す。
「さぁ、俺を逃がさないとお前たちは全滅するぞ!!」
「くっ…卑怯な…」
……こいつを逃がすわけにはいかない。
だが、どうやってこの状況を乗り切って倒す……!?
―――――いや、方法はある。もしかしたら切り抜けられるかも――
「……みんな、ここから離れてくれる?」
「レイ、どうする気です!?」
「ちょっとこいつの魔法を相殺してみるよ」
「レイさま、それは無茶では――!?」
「ううん、レベッカは一度出来てるところを見たと思うよ」
「…えっ?」
さっきのレッサーデーモンの時、
僕は奴の中級魔法を一つ下位の初級魔法の魔法剣で相殺した。
もし中級の魔法剣を使えれば、奴の魔法をある程度軽減まで持ち込める可能性がある。
「こういうと馬鹿っぽく見えるけど、
なんか僕今滅茶苦茶調子良いんだ、上手くやれば行けるかもしれない」
自分で言うのもアレだけどあまりにバカすぎて無謀だ。
「レイくん、そんなの無茶よ!」
「そうです!もっと他の方法が!」
ごめん、自分でも分かってるんだ…無茶なのは…。
「ミリクテリアさん、お願いしていいですか…?」
『……はぁ、無茶するの、お主は……本当に良いのか?』
「はい、お願いします」
『……そうか、だがそれこそ勇者に相応しいのう。
………少しだけわしの力を貸してやる、上手くやってみるのじゃ』
そう言ってミリクテリアさんは僕に力を貸してくれた。
「ありがとうございます…」
『では、後は任せたぞ。もし上手くいったら後で褒美をやろう』
そう言ってミリクテリアさんはとある能力を使った。
それは<空間転移>、僕と敵以外のみんなを魔法の効果範囲に逃がしたのだ。
一瞬にして僕とデーモン以外の姿がこの場から消え去った。
「な……!貴様!いったい何をした…!?」
「ミリクテリアさんに皆を避難させてもらった。ここに居るのはお前と僕だけだ」
万一失敗した場合、全滅だけは避けたい。危険を冒すのは僕だけでいい。
「馬鹿が、ここでお前を殺せばいいだけだろう!」
「ならやってみろよ」
最低限あと2つ魔法を使う分の魔力は残す。
残りは
僕は剣を抜いて限界近くまで魔力を込める。
「貴様、死ぬ気か!」
「違う!お前を倒して僕はみんなの元に戻る!」
そうして僕は奴目掛けて駆ける。
ミリクテリアさんの力により僕の全能力はレベッカの強化魔法を超える強化を受けている。
今の僕ならレベッカの『初速』よりも遥かに速い。
「馬鹿が―――
奴の上級魔法が発動する。あれを食らえば間違いなく僕は跡形も残らず消滅する。
そんなの分かっている。分かっててこの場に残ったんだ。
効果範囲は本来奴と僕を効果範囲に入れるところを僕に集中させている。
その威力はエミリアが放った時の威力の数倍では済まないだろう。
1秒後に僕の体は蒸発して消える。だが――――
――――その0.1秒前に奴の魔法を相殺する
「うあああああああああああああああああ!!!!」
僕は剣から<中級爆風魔法>を発動させる。
能力が跳ね上がった僕の魔法剣の一撃で敵の魔法は風によって一気に切り裂かれる!
しかし、まだ足りない!僕の魔法剣ではまだ―――!
「無駄だ!」
無駄ではない!僕はもう一度魔法を残している。
『例えばファイアボールは炎魔法と風魔法を組み合わせたり、
アイスランスは氷魔法の他に魔法の矢を同時に使用していたり、まぁ簡単に言えば二つ以上の魔法を同時に使って違う魔法を作ってるって感じですねえ』
そうだ、魔法の使い方は一つではない。
僕はエミリアのように自在に魔法は使えないけど。
『ここまで判れば後は発想の問題ですね』
あとは自分のやり方次第だ!こんな単純なやり方だけど、それが―ー!
「うおおおおおおおおお!!!
さっき使った爆風魔法に更に上乗せして爆風魔法+全力の魔力を込めた剣で効果範囲を極大化させる。
これが今の僕に残された最大の対抗手段だ。
そして――――――
「ば、馬鹿な―――――――!」
周りの森の木々は
僕の周囲だけは風魔法と魔法剣で殆ど燃えた様子は無かった。
「な、な、な―――――」
奴の体は僕の攻撃で胴体から真っ二つに切断されていた。
奴と僕は3メートル以上離れていたが、それを範囲極大化で補ったのだ。
奴の後ろの木も完全に切断されて、奴を巻き込んで地面に倒れる。
そして、奴の体は黒い煙を上げて完全に消滅した。
「レイくーん!!!」
後ろから僕を呼ぶ声が聞こえる――――姉さんだろう。
僕は後ろを見て、みんなの姿を確認してホッとして―――そこで気を失った。
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