第41話 地下三階その1
キメラ討伐から2日後、
ようやく準備が整った一行は地下三階を攻略を目指す。
「みんな準備できたー?」「「「はーい」」」
緊張感無いけど攻略の準備が出来たかどうか確認しているだけである。
装備を点検、必要となるアイテムを各自分配、各自の連携を再確認など必須事項は沢山ある。
「お弁当作ったから楽しみにしててねー」「「「わーい」」」
ピクニックか。姉さんのお弁当以外にも食べられる携帯食料なども持っていく。
数日ダンジョンに籠る可能性もあるので、多めに用意していく。
当然薬草や回復薬などはエミリアに用意してもらっている。
気を取り直して、僕たちは再びエニーアウトの村を出て森へ向かう。
「やぁあんたらか、また潜るのかい?」
以前にも見掛けた見張りの人だ。まさかずっとここにいるの?
「ちゃんと交代してるぞ。村の子供が間違えて入ることがあるから誰かが居ないといけないんだ」
僕たちは見張りの人に挨拶してからダンジョンに潜る。
「そう言えばこの扉にある台座、中にある台座にそっくりじゃない?」
姉さんの言う通り、確かにダンジョンの中にある扉の台座と全く同じだ。くぼみもある。
「……気になりますね、一度入れてみます?」
僕は以前に入手した『Ⅱ』を宝珠をくぼみに嵌めてみる。
ゴゴ……
「あ、開いた」
「それ以外特に何かあるわけではないのでしょうか?」
ここの扉はダンジョン内の扉と違って普通に手で開けることが出来たはずだ。ただ勝手に開くだけなんだろうか。
「よくわかんないし、ひとまず入ろうか」
僕たちはくぼみに入れた宝珠を回収し、ダンジョンの扉の先に入る。
(しかし、また地下一階から始めるのはかなり面倒だなぁ)
と、そう思っていたのだが―――
「え?」「あれ?」「おお……?」「すごいわ……」
普通に入ったつもりだったのに、以前訪れた地下二階最後の部屋の扉の前だった。
空間転移だろうか?このダンジョンはどれだけの技術で作られているのだろうか。
「不思議な現象ですね、わたくしたちがどこまで潜ったか記録されてるのでしょうか?」
「もしかして…」
さっき僕は置いたのは『Ⅱ』の宝珠だ。
もしかしてこれを入り口に置いたからここまでワープしたのだろうか。
「最初に選んだ宝珠がⅡだったからかな」
「それが本当なら凄いですけど、もし宝珠置き忘れたら大惨事ですね…」
「宝珠を回収しないと進めなくて困るわね…レイくんがマメな性格で良かったわ」
もし僕がそのまま置いて来たら先にも行けずに戻る必要が出てきて二度手間だ。
「では皆さま、参りましょうか」
僕たちは周囲を確認してから改めて目の前の扉を開けて地下三階へ向かう。
―――地下三階
階段を降りると小部屋に出た。
「いきなり左右に道が分かれていますね」
ジャックさんの話ではいくつかの部屋に分かれていてモンスターの種類も多いらしい。
加えてボスクラスの強敵も出るらしいのだが…。
「レベッカもお話は聞いておりますが、今回も中々大変そうでございます」
エミリアを周囲を見渡しながら言った。
「道が分かれていると言っても戦力分散は無謀ですね、一つ一つ回っていきましょうか」
「今回は結構歩き回る必要がありそう、大変ね…」
エミリアと姉さん肉体労働が得意じゃないからこういうのは苦手そう。
「レイさま、隊列はどうされますか?」
「え?僕が決めるの?リーダーが決めるんじゃなくて?」
特に相談したわけじゃないけど、僕はエミリアがリーダーだと思ってる。
「あー……私は別にそういうつもりでは」とエミリア
「それならレイくんがリーダーってことで決めて良いんじゃない?」
「レベッカはレイさまがリーダーという事でよろしいかと」
流れで僕がリーダーと決まってしまった。
「エミリアでも良かったんじゃ…」
「私はソロ活動が長かったんで、こういう役割は本来ガラではありませんし」
「頑張って、レイくん!」
「レイさま、ふぁいと!でございますよ」
女の子三人にこう言われるともう引けないか…。
僕たちは相談の結果、僕、姉さん、エミリア、レベッカの隊列で進むことにした。
以前の廃鉱山と違いダンジョン内はそれほど暗くないが、一応バックアタックを避けるために『心眼』持ちのレベッカが最後尾だ。
僕たちはまず右に進むことにした。
通路はやや暗くて敵と鉢合わせしないように警戒しながら進んでいく。
少し進むと少し開けた場所に出た。どうやら小部屋のようだ。
魔物が居ないことを確認し、周囲に罠がないか警戒しながら部屋に入ると宝箱らしき箱があった。
「お宝ですか!?」
宝箱を目にするとエミリアはいつも目を輝かせるなぁ…。
「もしかしたら罠かもしれないし、
<判別魔法>は罠などの有無を調べることが出来る。
僕は習得したばかりの<判別魔法>を目の前の宝箱に発動させた。
――宝箱は赤く光っている――
「赤色ってことは…」
「警戒の色ですね、要するに罠ってことかと思います」
やっぱりそうなるか……このダンジョン、本当に油断ならない。
「
これも<判別魔法>と同じく最近習得した魔法だ。どれも『探索魔法』という系統の魔法らしい。
「どうしようかな、まだ習得したばかりだからあんまり精度良くないんだよね」
魔法は習得して何度も使っていると少しずつ精度が上がっていき、詠唱速度が上がったり魔法攻撃なら威力が増したりする。<罠解除魔法>の場合は成功率、要するに初使用である僕たちの成功率はかなり低いということになる。
「最初は仕方がないかと、一度試してみてはいかがでしょうか」
レベッカに諭されて、僕は宝箱に向き直る。
「わかった……じゃあ試すよ?――
僕は魔法を発動させる。不慣れだが、そこまで難しい魔法ではない。
初歩魔法の
パキンッ! その瞬間、僕の手から青色に淡く輝く光の輪のようなものが出て来て宝箱の手前で止まった。そして次の瞬間、青白い光が消えて赤い輝きが消えた。
「成功しましたね」
「良かった……成功したみたいだね」
「凄いわ、レイくん!こんな短時間で新しい魔法を習得してしまうなんて」
「さすがレイさまです♪」
(リーダーになった途端褒め殺しにされてる気がする)
「ありがとう、それで中身は何かな」
宝箱には鍵穴が無く、どうやって開くのかわからなかった。
「あれ?開かない……」
「あ、この宝箱の開け方なら私分かりますよ?」
「エミリアが?ごめん、なら頼んでもいいかな?」
「はい、任せてください」
エミリアは宝箱の前に立つと、胸の前で手をかざして言った。
「開いてください!お願いします!」
「は?」「エミリアさま?」「???」
いきなり宝箱に話しかけ始めたエミリアに僕たちは動揺した。
すると―――
ガチャ
「開いた!?」
「だから任せてくれって言ったじゃないですか。この宝箱は喋るタイプなので、開けて欲しいと言えば勝手に開きますよ」
何だその宝箱。
「初めて聞きました、エミリアさま物知りでございます!」
「ふふん!そうでしょう、もっと尊敬してくれても良いんですよ?」
「はい、凄いでございます♪」
だれか突っ込んでよ。
心の内でそんなことを考えてたら、宝箱からやたら渋い声がした。
『嬢ちゃんの胸がもう少し大きければなぁ』
「焼き殺すぞ」
エミリアは宝箱に向かって炎魔法を唱えようとしている。
『ひぃぃ!ごめんなさい!中身あげますから許してー!』
エミリアが放つ殺気を感じ取った宝箱は慌てて謝罪した。
(エミリアに胸の話題は禁句だったのか……)
ちなみに僕から見てエミリアの胸は小さくはない。
年齢からみた場合平均以上だと思う。姉さんと比較すると流石にアレだけど…。
「(ギロッ)」
ヒィィィィィ!こっち見られた!心を読まれたのだろうか。
宝箱の中には1冊の古ぼけた本が入っていた。
「これは……魔導書かしら?」
姉さんはその古びた本を拾い上げて首を傾げた。
「自然干渉魔法理論―応用編……エミリアさん、これって?」
姉さんはエミリアに本を渡した。
「自然干渉魔法は私やレイが使用する魔法ですが、応用とは何でしょうか…
もしかしたらこの本にヒントが書かれているかもしれませんね」
「確かに……でも表紙の感じだとかなり古いみたいだし読めるか心配だなぁ」
「大丈夫ですよ、きっと読めます」
「そうだといいけど……」
ひとまず、その部屋にはそれ以上何も無かったため僕たちは一旦最初に来た入り口に戻り、反対の通路に向かった。先へ進むと突き当たりに部屋があった。
「おに……こほん、レイさま、この先に何者かの気配を感じます」
「うん、僕もそんな気がする」
レベッカと僕の技能『心眼』が何者かの気配を察知した。おそらく魔物だろう。
念のために僕はレベッカに強化魔法を掛けてもらい、僕が飛び込んだと同時にエミリアが即魔法を打てるように外で待機してもらう。
「よし、行くよ!」
僕は剣を抜いてドアを蹴破って突入する。
突入した瞬間に目に見えた情報を即座に仲間に伝達する。
「ゴブリン3体、スライム2体!」
僕はそのまま一番近い敵に飛びかかる。
「ギャッ!?」
先手必勝だ。
「はあああっ!!」
僕は勢いよく上段から剣を振り下ろし、敵の脳天を叩き割った。
「ギィッ!?」
仲間の死に気づいた残りのゴブリン2体がこちらを見た。
「
すかさず通路に待機していたエミリアの魔法がゴブリン二体を巻き込みそのまま焼き尽くす。
よし、あとはスライムだけだ。
こっちにも近づいてきたスライムが攻撃をしてきた。
鞭のように形を変えて飛んでくるのを回避しつつ近づくが、その最中に毒液を吹きかけてきた。
「うぉっと」
咄嵯に身を引き避けつつ接近する。
僕はすれ違いざまに横薙ぎで敵を切り裂いた。
これで残りはあと一体、しかし残ったスライムは近づいてこない。
「レイさま、おそらく詠唱するタイプのスライムです!」
レベッカの言う通り、そのスライムは何かの魔法を詠唱している。
「姉さん!」
「うん、
姉さんの魔法でスライムの周囲にクロスした鎖が巻き付いた。これで敵は魔法が使えない。
「あとは私が……ふっ!」
レベッカの弓がスライムの核を貫き、スライムは消滅した。
僕たちは魔物が落とした魔石を拾って先へ進む、部屋の奥にはまた通路があって今度は十字路に分岐していた。
「どこに進む?」
「お姉ちゃんに任せて」
そういって姉さんは十字路の真ん中に植物の種子を置いて<植物操作>を発動させた。
「えーっと、左かな?」姉さんは迷わず左に進んだ。
「ねぇ、なんで分かったの?」
「勘だよ?……うそうそ、私の力を加えて邪気が弱い方に傾くようにしたの」
「へぇ、じゃあ右はどうなってるの?」
「んー……行ってみないと分からないなぁ」
まぁ安全という事なのだろうか。僕たちは信じて左に向かうことにした。
少し歩くと小部屋に出た。
「おお、宝箱ですねぇ…」
今回は奥に宝箱が3つほどある。どうやら良い部屋を引き当てたようだ。
「それじゃあ取りに行く?」と言って姉さんは一歩踏み出そうとするが、僕は慌てて引き止めた。
「待って姉さん!また罠があるかもしれない!」
「あ、そ、そうよね…」
危ない危ない…。姉さんたまにうっかり行動するから気を付けないと…。
「しかし、それだとどうしましょうか?宝箱3つ全て罠を判別しないといけないことに」
レベッカが言う通りかなり面倒なことになりそうだ。
「うーん、…この
この魔法の消費量自体は少ないとはいえ、時間も掛かるし複数使ってたら消耗も大きくなる。
「ふむ…エミリアさま、<補助結界>でどうにかなりませんか?」
<補助結界>は魔法発動者の足元に魔法陣を設置することで魔法の効果量を底上げするものだ。
魔力の消耗は少ないが、設置に一手間置くため時間が無い時はすぐには使えない。
「レベッカ、良いアイデアです! ベルフラウさんも手伝ってください!」
「いいですよー」
姉さんがエミリアの周囲に魔法陣を描いてその上で魔法を発動させる。
何故姉さんが魔法陣でエミリアが魔法を使うかというと、姉さんの方が魔法陣が得意で魔法自体はエミリアの方が扱いが上手いからである。僕たちはその間に後ろから敵が来ないように警戒している。
「魔力強化
エミリアの魔法が発動すると3つの宝箱は全て青く光る。
更に小部屋全体が赤く光ると同時に、宝箱の手前の床が崩れ落ちた。
「うわっ! これって落とし穴!?」
「宝箱はどうやら安全みたいですが、落とし穴は古典的ですがえげつないですね…」
落とし穴を覗いてみると暗くてそこが見えない。
「この先って地下四階に通じてるのかな…?」
「お姉ちゃんとしては、このダンジョン自体まともな構造じゃない気がするのよね…
もしかしたらこの落とし穴に落ちると全く別の場所に移動させられる可能性もあるかも…」
ゾワッとした。つまり下手すると一生帰ってこれない可能性すらある。
僕たちは落とし穴に気を付けて宝箱を調べる。
今回は前回のようにおかしな宝箱ではなく普通に開けることが出来た。
「金貨四枚、魔法の霊薬三個、それにこれはナイフですね」
ナイフはルーン文字のような紋様が刻まれた紫の鞘に入っており、中身は普通の刃物のような感じだ。
「姉さん、武器持ってないでしょ?これ使ったら?」
「え?うーん、私刃物とか苦手で…」
姉さんは今まで一度も武器を装備したことが無い。
サポートが主な役割というのもあるのだろうが、物騒な武器が苦手なのだろう。
「一度鑑定してみましょうか
破邪のナイフ(R+) 攻撃力+10 魔力+15 魔法命中+5
このナイフで攻撃時に不死系の魔物に特効ダメージ三倍
補助具として使用可能、装備しているだけで効果がある
「さほどレアリティは髙くないですが、ベルフラウさんに丁度良さそうな武器ですね」
「そ、そう? それじゃあ貰うね」
エミリアからナイフを貰い、腰のポーチにナイフを仕舞い込んだ。
持っているだけで魔力が少し上がるみたいなので多分武器として使うことは無いだろう。
「それじゃあ一旦戻ろうか」
僕たちは小部屋からさっきの十字路に引き返した。
New 自然干渉魔法理論 応用編 -上巻- 1冊
New 魔法の霊薬 3個
New 金貨 4枚
New 魔石(極小・低)5個
New (R+)破邪のナイフ 1本
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