第42話 地下三階その2
―――地下三階
僕たちはさっきの小部屋から引き返し、十字路の通路に戻ってきた。
こちらから見て右の通路は元来た道に戻ってしまう。行ってない道は真っすぐか左だ。
「今度はレベッカにお任せください」
レベッカは僕たちの前に出て、膝をついて手を合わせてから両手を上に突き上げる。
「我らがあるじ、ミリクテリア様、正しき道をお示しください――――」
ミリクテリアとはレベッカの故郷で伝わっている古い神様らしい。レベッカが使用する『空間転移』や一部の魔法はミリクテリアの力を借りて使用しているという話だ。
「――ふむふむ、なるほど」
レベッカは祈り始めて数分何かぶつぶつ呟いている。
「みなさま、こちらでございます」
レベッカに先導され、僕たちは左の道へ進む。
さっきのレベッカの異様な光景は誰も突っ込まなかった。
(元の世界だとアレな行動だけど、異世界だからね)
レベッカに案内された道を進んでいく。
すると今までより少し大きな部屋に出た。更に先にはこの部屋よりも大きそうな部屋がある。
僕たちは罠を警戒してエミリアに一度補助結界を併用した<判別魔法>を使ってもらう。
部屋は全体が青く光り、罠らしいものが無いことを確認して部屋に入る。
しかし―――
数歩進んでから目の前にうっすらと何か影が見えた。
目の錯覚かと思い目を擦るのだが、それは次第に実体を帯びて僕たちに立ち塞がった。
「くっ!? 敵か、罠だった!?」
「わ、私の魔法が失敗した可能性も無くはないですが……」
エミリアは自分の魔法が失敗したのかと少し焦っていたが、レベッカが訂正する。
「いえ、レイさま、エミリアさま。
地下二階で突然ゴブリン達に襲われた時と同じでしょう」
思い出すと、地下二階の最後の部屋で突然ゴブリン達が出現した。
その時は僕とレベッカが事前に気付いていたのだが……
「その時よりも気配も薄かったので、申し訳ありません」
「ううん、僕もだよ」
レベッカは謝るが気付かなかったのは僕も同じだ。
「あれは一階の大きなスライムの……色違いかしら?
それと、ホブゴブリンね、地下二階の敵よりは小さいと思うの」
ホブゴブリンの後ろに居るのは地下二階の大きなスライムを黄色にしたような敵だった。
前に居るのは武装を固めたホブゴブリンが二体、通常の個体よりは強敵だろう。
「地下二階の時も思いましたが、一部の敵は武装や能力が強化されてますね!」
僕たちは武器を持って敵と対峙する。
強力な前衛が二体、後衛はおそらく中級魔法を使用するスライムだ。
となると、まずは後衛の魔法を封じるのが定石だろう。
「
姉さんは戦闘開直後にスライムに<魔法妨害>の魔法を使用。
これであの敵は魔法を使用できない。そうなれば後は動きに注意すればいいはずだ。
そう思っていたのだが―――
『
スライムが姉さんの魔法と同時に初めて聞く魔法を使用した。
姉さんの<魔法妨害>の鎖がスライムに届く前に砕かれてしまった。
「うそっ!打ち消された!?」
「何という!」
不味い、そうなるとあのスライムの魔法を封じることが出来なくなる。
地下一階の赤いスライムはおそらく『中級火炎魔法』以上の攻撃魔法を使用してきたはずだ。
となると黄色いスライムは……!
「レイさま!
僕の考えが伝わったのか、レベッカの補助魔法が僕に飛んでくる。
前衛を倒すのに時間を掛けていられない。最速で目の前のゴブリン二体を撃破してスライムを倒す。
僕は今まで温存していた『魔力食いの剣』を鞘から解き放つ。
黄色いスライムは既に何らかの詠唱を始めている。
エミリアが応戦するべく詠唱を開始しているが、完全に止められるかは分からない。
僕はレベッカの補助魔法を加えた速度で目の前のホブゴブリンの一体目掛けて走る。
「てやぁぁぁぁ!」
剣を振りかぶると同時に剣に魔力を込める。
その魔力を吸収し、
『GAAAAA!』
こちらよりも反応が少し遅れたが僕の攻撃に合わせるようにホブゴブリンも剣を振るう。
両方の剣がぶつかり合う――しかし、僕の攻撃はゴブリンの剣を斬り飛ばし、そのままホブゴブリンの右肩から左の腰までを両断した。
「……っ!」
自分でやったことなのにあまりにも威力が高すぎて驚愕した。
剣を打ち合ってから隙を見て魔法剣を叩きこむつもりだったが、一撃で剣と体を斬り飛ばすとは思わなかった。自身の持つ剣の恐ろしさを感じ取りながらも僕はそのままスライムに一直線に向かう。
一方もう一体のホブゴブリンは―ーー
「はぁっ!」
レベッカもレイに一歩遅れて別のホブゴブリンに駆け出す。
自身に<筋力強化>は掛けているが、速度強化は無い。それでもレイと遜色ない速度でゴブリンに先手を取って攻撃を加える。
敵に攻撃する隙を与えるつもりは無い。
レベッカはレイ程の攻撃力を持ち合わせていないが、それでも別の戦い方はある。
『ガッ……!』
転移で呼び出した新しい槍でレベッカは絶え間なく攻撃を繰り出す。
レベッカにとって槍の戦いは負担が掛かるものの、魔法の強化があれば一〇秒程度なら一切のペナルティなく全力で扱うことが出来る。槍と剣ではリーチの差がある。一度距離が離れてしまえば剣のゴブリンは反撃に転じることは出来ない。それに、後方ではベルフラウが構えている。
「
リーチで距離を取っているお陰か、レベッカにベルフラウの魔法が当たることはない。
ベルフラウも少しは慣れたのか、それとも装備のお陰か以前よりも命中率が底上げされていた。
ガキンッと、ベルフラウの<魔法の矢>はホブゴブリンの剣を命中し剣を弾いた。
「好機!」
レベッカはトドメの一撃で無防備になったホブゴブリンの喉を貫いて絶命させる。
レイは全速力でスライムを目指すが、その前に敵の魔法が発動する。
「
僕の頭上に雷鳴とともに雷撃が降り注ぐ、一撃は耐えられるだろうが―――――
僕は強烈な衝撃と痛みに耐えるために身構える。しかし、
「魔力強化
ほぼ同時に発動したエミリアの魔法によって雷撃が僕に当たる寸前に打ち消される。
全くダメージが無いわけではなく僅かに僕は電撃のダメージを受けたため一瞬動けない。
「……からの、魔力強化
その僅か2秒後にエミリアの中級魔法が発動する。無理な連続発動でエミリアは少しふらついたが黄色いスライムは完全に凍り付いた。
硬直が解けた僕は剣に魔力を込めながら上段に構え、
凍り付いたスライム目掛けて剣を振り下ろす。そしてスライムは粉々に砕け散った。
「ふぅ……お疲れ様」
ひとまず危険が去ったことを確認した僕たちは集まって状態を確認する。
「お疲れ様でございます、レイさま、見事な威力でしたね」
レベッカと姉さんはぱちぱちぱち…と拍手して僕をたたえてくれるのだが…。
「いやいや止めてよ、これ完全に武器のお陰だからさ」
全力で斬りかかったけど、あの威力は完全に<魔力食いの剣>のお陰だ。
魔力はコントロールしていたはずだが、それでももう一本の<マジックソード>で魔法剣を使った時を超える威力だった。今回は魔法剣こそ使っていなかったが、どれだけ威力が上がるのか想像も付かない。
「ところで、レイとレベッカはこの先に敵がいるか確認できますか?」
言われて、僕たち二人は『心眼』でこの先の部屋に何か居ないか気配を探る。
直ぐには分からなかったので少しずつ前に歩きながら探っていくと何かの気配を感じた。
「何かいる…」
おそらくジャックさんが言っていたこの階層のボスだろう。
「確認しますが、皆さん直ぐに戦えますか?特にレイ、結構消耗してません?」
「大丈夫、魔力は使ったけど体感まだ半分以上はあるよ」
入手してから何度か練習したおかげだろう。もし練習してなければ魔力を使い切った可能性がある。
「エミリアさまは大丈夫ですか?訊き慣れない魔法と、連続で攻撃魔法を使っていたようですが」
「大丈夫です、魔力自体はまだまだありますよ。
ああやって初めての魔法を使ったり、詠唱を極力短縮して打つと負担がありますけど…」
エミリアの今回使った魔法は<魔力相殺>
本来はエミリアが使用する系統の魔法ではないが、
敵の魔法攻撃に合わせて使用することで魔法を打ち消すことが出来る。
今回はそもそも得意分野の魔法ではないため、補助結界を併用しても完全に打ち消すことが出来ずダメージを少し受けてしまったが、まともに受けるよりは全然マシだった。
僕の魔力食いの剣もそうだが、一度に
以前、限界を大きく超えた魔法を使ったエミリアは数日間まともに動けず寝たきりになってしまったこともあった。
その時に使った魔法で集落は完全に凍結してしまったが、その後エミリアを含めた魔法使い総出で氷を溶かして集落を復旧させたらしい。その時のエミリアも結構な魔力を使い、高額の回復アイテム『魔法の霊水』を大量に消費してせっかくの褒賞金を消費してしまった。
「それじゃあ、戦闘準備ということで」
「うん」
僕たちは準備を整えてボスの待つ部屋へと入った。
New 魔石(小・普通) 3個
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