第39話 地下二階その2
―――右の試練
レイとベルフラウが左の部屋に突入した頃とほぼ同時に
同じくエミリアとレベッカも右の部屋に入って大きなゴブリンと対峙していた。
「ゴブリンウォーリアーですね。ゴブリン族の戦士です」
「なるほど、ホブゴブリンより一回り以上の巨体です、手強そうですね」
レベッカが前衛、エミリアが後衛という組み合わせだ。
「(私たちが入ってきた通路は封鎖されてますね、撤退は出来ないと)」
『グウアァァァァァァッァ!』
ゴブリンウォーリアーは咆哮を上げながらこちらに迫ってくる。
見た目に反して中々に素早い。そして持つ斧の威力は中々では済まない破壊力だろう。
「盾よ―――」
レベッカは空間転移で目の前に大きな盾を呼び寄せる。
ゴブリンウォーリアーは目の前の盾など無意味とばかりに斧を振り下ろす。
だが――ガキィィン!とその一撃を見事に弾いた。
「(この盾はただ頑丈なだけではありません)」
以前のただ固いだけの盾とは別物で、後から入手した大盾だ。
レベッカの持つこの盾の効果は『盾が受けた衝撃の1/2を敵の武器に反射する』というもの。
つまり今の一撃の半分の衝撃は敵の斧に分散している。
『……!』
今の攻防で容易く崩せる盾ではないとゴブリンは判断したのか、
一歩下がって冷静に間合いを取りながらこちらの様子を見ているようだ。
「思ったよりも冷静ですね…ですが、貴方の相手はわたくしだけではありませんよ」
「その通りですね
エミリアが最も得意とする炎魔法だ。炎の渦が敵の中心に襲い掛かりゴブリンを焼き尽くす。
―――しかし、敵は斧を振り下ろすと炎の渦は真っ二つに割れて消えてしまった。
「なっ……今のは風魔法ですか!?」
レベッカには炎が風で吹き飛ばされたようにしか見えなかった、しかし…。
「いえ、今あいつは魔法は使っていませんね、おそらく持っている斧の効果でしょう」
強力な武器には切れ味だけではなく魔法効果まで付与されていることがある。さっき炎が二つに分かれたように見えた現象はそのせいだろう。
「とはいえ、今回も私の炎魔法は通じなさそうですね」
地下一階もそうだったが、私の炎魔法ばかり対策されているようで妙にイラつく。
「あちらも固そうな鎧を付けているようです。
魔法も効きづらいのであればどちらも攻め手に欠けると思われるのですが」
レベッカの言う通り、レベッカにはあいつの鎧を突破するだけの物理攻撃力は無いかもしれない。
ただ魔法が効き辛いというのは語弊がある。
「今の斧の効果はおそらく風魔法と同属性の効果のはず、それならこの魔法は通用するでしょう」
「
エミリアの雷撃魔法、単純な一撃の威力ならさっきの炎魔法より威力は上だ。
それにこれなら金属鎧も関係なくダメージを与えられるだろう。直撃すればだが。
ゴブリンウォーリアーは先ほどの斧を頭上に掲げる。
バシィィィン! 雷鳴とともに電撃の塊は空中にかき消される様にして霧散した。
「これも駄目なんですかね……どうにも相性の悪い相手が来ましたね……」
おそらく風魔法では無い。魔法自体を無効化している。
その理由はやはりあの斧だろう。さっきの炎魔法も雷魔法も全て斧で受け流している。
とはいえ、ゴブリンウォーリアーの攻撃手段の大斧はレベッカの盾による攻撃ダメージ半減効果のおかげであまりこちらには通用していない。反面こちらも敵に魔法が届かず、どちらにも決め手が存在しない。戦いは泥沼化していた。
本来なら消耗を避けるために一度撤退をしたいところだが、残念ながら逃げ場はない。
「と、するならば……」
レベッカは消耗戦を避けるために勝負に出る。
「
レベッカの強化魔法を自身に付与させる。
更にレベッカは一瞬目の前の盾を消失させる。空間転移で盾を消して自身の槍を取り出した。
「……武器破壊を狙います!」
突然盾が消えて大きな槍を構えた少女、
その少女の瞬間移動を彷彿とさせる踏み込みにゴブリンは即座に対応が出来なかった。
「(先ほどの大盾で何度も防いでるため斧もダメージが蓄積しているはず)」
更に一撃を加えることで武器破壊を狙う。速度と筋力が底上げされたレベッカの槍の刺突、容易く躱せるような一撃では無い。直撃させるのは敵の持つ大斧、それに加えて腕の破壊を狙う。
ガギィィン!!と大きな音が響き渡る。狙い通りの箇所への攻撃に成功したようだ。
(これで奴の武器は無力化した筈―――)
だが、攻撃成功による喜びはすぐに消えた。
なぜなら、斧の刃先は折れたがゴブリンウォーリアーの腕には大したのダメージは無かった。
「……っ!なんて防御力!」
通常のモンスターより間違いなく強化されている。
少なくともオーガや並の魔獣クラスの敵ならば今の攻撃は十分に通ったはずだ。
レベッカの筋力に魔法強化した程度ではかすり傷程度のダメージしか与えられない。
その事実に二人は驚愕したが、ゴブリンウオーリアーにはそんなものは関係ない。刃先が欠けていようが腕が怪我していようが無駄と言わんばかりにレベッカに攻撃を繰り出す。
盾を消していたため、レベッカは回避行動を取る。
「くっ!」
攻撃の軸を逸らすために槍で防御するが、僅かにずらしただけで弾かれてしまう。
同時にレベッカは横に大きく吹き飛んでしまう。このままレベッカの槍を主軸に攻撃を加えても撃破は難しいだろう。即座にレベッカは痛みをこらえて復帰するものの、長くは戦えないだろう。
「
レベッカは魔法で再びこちらに敵の注意を向かせる。
石の飛礫を弾丸のように投射する魔法だ。その性質は
この魔法は物理属性の攻撃なため被弾すればダメージは与えられるが致命傷には程遠い。
だが、それで問題ないのだ。
レベッカの役割は武器破壊だ。その武器は先の攻撃で破壊に成功している。
つまり―――
「(今です!)」
今まで奴に魔法が効かなかったのは斧の力が理由だ。
破壊してしまえばエミリアの魔法攻撃が問題なく通用する。
ゴブリンはこちらの意図に気付いて即座に回避行動に入る。
後ろのエミリアを警戒して大きく下がったが、それがまたとない好機だった。
「(このタイミングを待っていました!)」
敵が距離を取ったのは悪手。あちらが見た目より冷静なのがかえって助かった。
<中級凍結魔法>を放つ。エミリアは氷魔法は得意ではないため即座に発動が出来なかったためだ。
あちらが勝手に距離を取ってくれたおかげで詠唱時間を稼げてしまう。
そして、その読み通り相手は氷漬けになって足止め出来た。
「(ありがとうございますエミリア様、お陰で上手く行きそうです)」
今から使う魔法はレベッカも少し動けなくなるが、相手が動けないなら特に問題は無い。
「
レベッカが使用できる最強の攻撃魔法、敵の周囲の重力を十数倍にする魔法だ。
「この魔法は貴方のような巨体ほどダメージが大きいはずです!」
相手の身体が大きく重い程重くなっていく、それだけの効果ではあるが今はこれだけで十分だ。
凍り付いていた敵にさらに強力な重力が襲い掛かる。既に動けなくなっている所に強烈な重さが加わり潰れそうになるのだろう。必死の形相でなんとか踏み止まろうとしているように見える。
だがそれもここまで、そのまま地面にひれ伏し完全に倒れた所でトドメの魔法を唱えて終わりにする。
「
エミリアの追撃の攻撃魔法、敵に回避する術はない。
そして攻撃魔法の連発で遂にゴブリンウオーリアーは倒れ、肉体は消滅した。
「…………はぁ」
エミリアは戦闘の疲労で項垂れる。
今の戦闘では相当魔力を消費しているせいで残存魔力もかなり減ったはずだ。
しかし、それはエミリアに限った話ではない。
「ふぅふぅ……」
本来、そこまで前衛に出ないレベッカがあれほどの巨体相手に立ち向かうのは相当な疲労だろう。
加えて数回魔法を使用している。まだ地下2階というのに二人はかなり消耗していた。
立ち上がってゴブリンウオーリアーが消えた辺りを見回すと魔石が落ちていた。
「赤いスライムより大きな魔石ですが、この激戦を考えると割に合わないですねぇ…」
カチャッ―――と、扉から音がした。
「エミリアさま、どうも鍵が開いたようです。先に進みましょうか」
◆
「お、二人とも大丈夫ー?」
ようやく扉が空いたのを確認して部屋から出ると、レベッカとエミリアが先に待っていた。
「レイ、そっちも終わったようですね」
「お疲れ様でございます、ベルフラウさまも」
「うん、がんばったよー」
女の子3人は再開を嬉しそうにしてるが、僕が見る感じ二人ともかなり疲労しているようだった。
「レベッカちゃん、怪我してるじゃない!回復するからこっちにおいで」
「申し訳ありませんベルフラウさま、お願いできますか」
レベッカは背中の辺りに大きくダメージを受けていた。それをベルフラウが回復する。
(この状態で次の階層に向かうのは危険だ…)
おそらく地下一階のように、次の扉を開けるための宝珠がどこかにあるはず。
それを入手したら一度戻るべきだろう。
「さて、ここが最後の部屋だと思うのですが……」
「「……!!」」
僕とレベッカがこの部屋の変化を感じ取った。
「レベッカ…」
「はい、沢山の気配を感じますね」
僕とレベッカには共通する技能を持っている。
その技能の名前は『心眼』、周りの気配や音で敵の居場所や攻撃を察知する能力だ。
その能力でエミリアやベルフラウではまだ気付かない敵の接近を先んじて読むことが出来た。
「エミリアさま、索敵をお願いします」
「……!
エミリアの索敵魔法、周囲の敵の数と動きを正確に把握する魔法だ。
使用中は無防備になるため、僕たちはエミリアの周囲に気を配って警戒する。
「レイくん、今の間に防御魔法を掛けておくわね」
「姉さんお願い」
「任せて
姉さんが使用した魔法は一定範囲の仲間の物理防御力を底上げする魔法だ。
「索敵終了しました。数はおよそ20体、おそらく普通のゴブリンでしょうね」
索敵終了と同時に何処からか突然ゴブリン達が姿を現す。
僕たちはゴブリン達に周囲を囲まれているが、正直この状況はもう慣れている。
「今まで一体どこに隠れていたんだろうか」
「地下一階のスライムも唐突に出てきましたし、ここはそういう場所なんでしょうね」
「それじゃあ」
「はい」
「参りましょうか」
「みんな頑張ってね」
それぞれが声を掛け合ってゴブリンに攻撃を行う。
まずは一撃、近くに居る敵を攻撃する。
「
剣で近くの敵を薙ぎ払い、その奥に居たゴブリンも真空の刃で切断する。
「!」
『心眼』で背後の敵を察した僕は、振り返りながら剣を薙ぐ。
キィンー―
敵のナイフと剣がぶつかり合い、そのまま魔法に繋げる。
「……!
剣から急に飛び出した火の玉に対応できずゴブリンは火だるまになる。
燃えたゴブリンの悲鳴を聞いてゴブリン3体がこちらに気付いて襲ってきた。
「(中級魔法は…間に合わないか)」
一旦魔法を使うことを止めて、もう一本の剣を引き抜き一番前に居たゴブリンに投擲する。
「GYAA!」
こちらの投擲した武器を回避できず、ゴブリンは喉に剣が直撃して倒れる。
僕はそれで動揺した2体のゴブリンを見てもう一本の剣で斬りかかって更に一体撃破した。
しかしもう一体残ったゴブリンは果敢にこちらに斬りかかって――
――斬りかかろうとしたのだが、背後からの射撃に気付かずに背中に矢を受けて倒れた。
「ありがとうレベッカ」
「いえ、レイさまもこちらに気付いていたので、対応させてもらいました」
どうやら今倒した敵が最後だったようだ。
殆どエミリアとレベッカが倒したが2匹ほどは姉さんが<魔法の矢>で倒したらしい。
「お、中央に宝箱が出てきましたね」
「宝箱が5つあるね、というかさっきまで無かったと思うんだけど」
敵も宝箱も突然出てくるから本当に気が抜けない。
宝箱の中身は一つは『Ⅱ』と書かれた宝珠だった。
二つ目の大きな宝箱は魔法石の飾りが付いた少し大きい剣だ。
三つ目以降は綺麗な銀の指輪、銀のブレスレット、銀のペンダントだった。
(一階と同じだ…本当にアイテムもいくらでも入手できるのか?)
色々と疑問は尽きないが、今はそういう場所なのだろうという事で納得する。
「あちらをご覧ください、おそらくあれが次の階層の扉だと思われます」
レベッカの指を差す場所に確かに扉があった。そしてその傍に台座も置かれていた。
「それじゃあ、さっきの宝珠を置くよ」
台座のくぼみにさっきの『Ⅱ』の宝珠を置くと、地下一階と同じように扉が開いた。
僕は置いた宝珠を回収して、こう言った。
「みんな、ここで今回は一度撤退しない?結構疲れただろうし」
はっきり言って想像以上に難易度の高いダンジョンだった。今の状態で地下三階に行って無事に帰れるかなり怪しいだろう。そう思い僕は提案した。
「そうねぇ…魔力も結構使ったし、植物の種も取ってこないと…」
「賛成です…実は結構私もフラフラでして…」
「レベッカも…」
僕たちはゴブリンの残骸の魔石だけ集めて、一度地上に戻った。
入手アイテム
New (SSR)魔力食いの剣
New (SR)聖銀のペンダント
New (SR)聖銀の指輪
New (SR)聖銀のブレスレット
New 魔石(極小・低)25個
New 魔石(小・普通)1個
New 魔石(中・普通)2個
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