第38話 地下二階その1

 地下1階の扉を開くと下に続く階段に続いていた。

 階段の左右には蝋燭が灯っており、少し長い階段の様だ。


「この先が地下二階のようでございますね」

 扉が開いてからさっきの球を回収しても閉じることは無いようだ。

「特に問題ないなら回収しておこうか」

 僕は『Ⅰ』と刻まれた球を鞄に閉まった。


「準備は良いですか?」

「問題ないわ」「はい」「大丈夫」

 僕たちは全員の準備が出来てから扉の先の階段を降りていく。


 ―――地下二階


 僕たちは階段を降りながら話をする。

「1階の敵はスライムでしたが、次は何が待ち受けているのでしょうか?」

「最初がスライムとなると、次はゴブリン辺りかな」

 特に根拠は無い。最初から強力なモンスターではないだろうと高を括っているだけだ。


「分かりませんよ、もしかしたらゾンビとかかもしれません」

「ぞ、ゾンビはわたくし、あまり得意ではないというか……その」

 あれが得意な人とか居るのだろうか。レベッカが可愛いからとりあえず撫でておく。

「はぅ…」

「レイくん、階段降りてる時に撫でるとびっくりして危ないからダメよ」


 ―数分後

「……やけに長い階段だな」

 既に階段を降り始めてから数分は経っている。

「これほど長い階段とは、緩やかではありますがどれほど深いのでしょうか」

 階段は一段一段緩やかな段差ではあるが周囲をぐるぐる回っているように感じる。

「ここのダンジョンの情報をもう少し入手出来たら良かったのですが…」

「情報か…」


 情報と言えば、ここに来る前の見張りの人が気になることを言っていた。


「見張りの人が言っていたこと覚えてる?」

「何でしたっけ?」

「五階で階段が無くなるから脱出手段を用意していないと戻れなくなるって話」

 見張りの人は何故か教えてくれなかったけど。

「冒険者間で決めた取り決めなどがあるかもしれませんね」


「取り決め?」

 ここの冒険者は協調性の無さそうなイメージなので意外な言葉だ。


「実は昨日村に着いてから少し情報収集しようとしたのですが、

 誰もダンジョンの細かい内容を教えてくれる人は居なかったんですよ。

 そんなもの聞いても誰も答えないから諦めろ、と言われたりもしました」


「ダンジョンの情報を他の冒険者に教えてはいけないとか、そういうこと?」


「ライバルを蹴落とすためにやってる可能性もありますが、まぁ結果は同じかと」

 そうなると僕たちが五階に行ける段階まで来ても自力で手段を思いつかない限りどうしようもない。


 ゴゴ…


 今から考えるのには気が早いのかもしれないが、どうすれば…。

「ねぇレイくん。ババラさんの所に行ってきたんでしょう?何か聞いていない?」

「そう言われても……」


 ゴゴゴ…


 姉さんに言われてババラさんに言われたことを思い返す。

『ダンジョンに潜るならいくつか魔導書を買っていきな、便利なモノもあるよ』


 便利なモノ?

 そう言えばいくつかの魔導書はババラさんに薦められて購入したものだ。

 もしかしたらこの中の手助けになるものもあるかもしれない。


「もしかしてこの本の中に手掛かりが――」


 ゴゴゴゴ……


「って、さっきから何の音!?」

 人が考え事してるのに煩くて仕方ない!


「後ろから何かものすごい音が聞こえてきます!」

「嫌な予感がします! 皆さま、急いで階段を走り抜けましょう!」

「え、何!?」

「ま、待ってください!」

 僕たちは訳も分からず急いで階段を降りる。

 姉さんは反応が遅れたせいで僕たちより少し遅れてから駆け出すが…


 ゴゴゴゴゴゴ…!


「ちょっ!」

「後ろに大きな岩が転がってきたんですが!」

 振り返ると階段の幅に近いくらいの大岩が転がり落ちてきてる!

 このままだと僕たちは全員潰されて死んでしまう!


「姉さん急いでっ!!!」

「ま、待って…!」

 不味い、姉さんだけかなり遅れてる!このままだと…!


「お助けします! <速度強化Lv7>韋駄天の力を!」

 レベッカが姉さんに速度アップの魔法を掛けるが、それでもかなり際どいラインだ!


「姉さん、もっと全力で走って!」

「ま、待って……! これで全力なの……!」

 そう言えば姉さんはかなり運動オンチだった。パーティの中でも一番足が遅かった気がする。

 息を切らして必死に走っているのだが、このままだと追いつかれてしまう。


「何とか岩を壊せないかな!」

「あの大きさは無茶ですよ!上級魔法は詠唱してる時間なんてありませんし!」

「わ、わたくしが何とかやってみます!」

 そういってレベッカは振り向いて、詠唱を行う!


<石の壁>ストーンウォール!!」

 レベッカの魔法が発動し、大岩と姉さんの間に石の壁が立ち塞がる。


 そして、ものすごい轟音を立てて周囲が揺れた。


「きゃっ!」「危ない!」

 石の壁の近くに居た姉さんは転倒して転びそうになるのを僕が慌てて支えるが…。

「ぐえっ!」

 僕は姉さんを支えた時にバランスを崩して階段10段くらい転げ落ちてしまった。


「だ、大丈夫レイくん!? <応急処置>ファーストエイド

 姉さんに回復してもらい何とか立ち上がることが出来た。


「いたた……レベッカのお陰で何とか助かったね…」


 しかし、これでもう大丈夫―――――ー


 ビシッ――


 ―――そう思ったのだが、レベッカの石の壁に亀裂が入ってしまう。


「今の間に急いで落ちましょう!」

 僕たちはまた走って途中で石の壁が砕けた音を聞いたが、何とか階段を抜けることが出来た。

 そのまま横の壁伝いに逃げて、大岩が転がっていくのを待ってどうにか事なきを得た。


「死ぬかと思った……」

「本当に…私が足引っ張ってごめんね……はぁ、元女神なのに」

「ん?」


 今自分で余計なこと言わなかった?


「「女神??」」

「い、いえ、なんでもありませんよ! うふふふふ……」


 姉さんの発言は置いとくとして…

「階段が長かったのはあの大岩の仕掛けのためだったんだね」

「そのようですね、これからも罠には注意した方がよさそうです」


 僕たちは地下2階のダンジョンを進む、すると左斜め前と右斜め前に分岐する道があった。

 中央の壁にはさっきの大岩らしき岩の欠片が散乱していた。ここで砕け散ったようだ。


 その正面には石板が設置されており文字が書かれていた。


『二つの試練を同時に乗り越えよ』


「これはどういうことだろう?」

「……二つの試練とは左右の道のことでしょうね」

 道が二つあるからそういうことなのだろうが、同時にとなると…。

「パーティを分断しろ、と仰っているのでしょうね」

「試練ってことは、左右の道の先に何か障害があるということかしら?」


 僕たちは少し考えた末に、

 レイとベルフラウのペアは左、エミリアとレベッカのペアで右に進むことにした。

 敵に襲われた場合、最低限前衛が出来る人が必要だ。

 僕たちのペアは前衛は僕だが、レベッカも戦い方次第で前衛が出来るためこの割り振りとなった。


「それじゃあ僕たちは左に行くね」

「私たちは右に行きます。お互い気を付けましょうね」

 僕たちは、それぞれ分かれて進む。


 ――左の試練

 左の道は少し進むと少し広い部屋へと出た。

「ここで何かあるって事なのかな?」

「でも、特に何かあるわけではないようね」

 姉さんが言うように部屋に何か用意されているわけではない。

 先には扉があり、おそらくあの先で右の部屋と合流するようになっているのだろう。


「何も無さそうだし、扉の前まで進んでみようか」

 そう思い部屋の中央辺りに差し掛かった時に―――――


 ――ガシャン!


「「!!」」

 何かと思い後ろを振り向くと、先ほど僕たちが通った通路が牢屋のような柵が降りていた。

 どうも中央まで来ると自動で閉まり出られなくなる仕掛けの様だ。


 すると、急に部屋が暗くなった。

「ん?何だ?」

「レ、レイくん!? 上!上!」

 姉さんに言われて上を見ると、急に何かが上から降ってきた。

「うわっ!」「きゃあ!」

 僕たちは咄嗟に左右に避ける。さっき急に暗くなったのはこいつが上から降ってきたからか!


 そして振ってきたモノを確認すると、そいつは鎧を着たゴブリンだった。

「ホブゴブリン!?」

 以前に戦ったホブゴブリンより一回り大きい。

 いや、それ以上だ。ホブよりも上位種に近いように見える。


「姉さん、後ろに下がって援護して!」

「うん!」


 僕は剣を構えて、奴の動きを見極めようとする。

 ホブゴブリン(?)は大きな斧を持っているようだ。

 恐らく武器はそれだけだな……なら魔法を使ってこない限りはそれほど警戒する必要はないか。

「ハァッ!!」

 奴に向けて走り出し、横薙ぎに切り払う。よし決まった…… だが次の瞬間――

『ギシャ!!』

 僕が手に持っていた剣が奴の斧で弾き飛ばされてしまう。


「――――ッッ!!」

 何て馬鹿力だ!今の一撃で右手が痺れてしまった。

 僕は一旦距離を取り、サブで持っていたもう一本の鉄の剣を引き抜くが…。

(不味いな、こっちだと魔法剣を使えない)


「姉さん、回復お願い!」

「うん、<中級回復魔法>キュア!」

 姉さんの回復魔法で僕の腕の痺れは消えたものの、あの馬鹿力は厄介過ぎる。


「……姉さん、<魔法の矢>マジックアローで援護してくれる?」

「え?いいの?」

「うん、今は僕にさえ当たらなければ問題ないし」


 姉さんの攻撃魔法は命中率は低いけど威力に関して言えば僕の<魔法の矢>マジックアローより遥かに上だ。

 言ってみれば銃弾クラスの火力だ。おそらくあのくらいの鎧なら簡単にひしゃげるだろう。

 姉さんの魔法でけん制しつつ、奴の頭に直接魔法か剣を叩きこむ。

 それでいこう。


 ただ問題があるとすれば――


『キシャアアアッ!!』

(速いんだよコイツ!!動きが読めない!しかもパワーありすぎ!まともに打ち合ったら負けるぞこれ!何とかしないと……)

「レイくん!<魔法の矢>マジックアロー!……当たらないよー……」

 そう言われてもこっちは姉さんに近づけないようにしながら攻撃を避けるのに手一杯だ。

 大振りだから隙はあるんだけど、体格の差のせいでリーチが僕よりもずっと長い。

「困ったな、中級攻撃魔法を使う暇もないし、姉さん植物操作はここでも使える?」

「植物の種を持ってきてるから一応使えるけど、地面が土じゃないから拘束力はあまりないかも」

 となるとやっぱり……

「姉さん、それならとにかく<魔法の矢>マジックアローを連射!」

「分かった!」

 体格差はあると言ってもやはり大振りで単調な攻撃だ。威力があっても小回りは効かないはず。

 僕は全力で奴の攻撃を回避しつつ、斬り込む隙を伺う。

 姉さんの魔法が奴にラッキーヒットすればそれだけで大きな隙が出来る。

 そこで奴の頭に剣を直撃させれば倒しきれるだろう。

<魔法の矢>マジックアロー<魔法の矢>マジックアロー<魔法の矢>マジックアロー!」

 姉さんがとにかく魔法の矢を乱発する。姉さんの魔力は無尽蔵に近く当たれば非常に強力…なはずだ。

「な、何で当たらないのー!」

 ……まぁ、僕が動き回って避けてるからこのゴブリンも動き回ってるからね……。

「仕方ない!」

 僕は戦い方を変える。奴が斧を振りかぶった時に、外に逃げるのではなくあえて内に回避する!


「……っ!」

 一瞬、相手の斧を軌道を予測、そして振り下ろされる瞬間。

「今だっ!」

 地面に斧が叩きつけられる一瞬手前に僕は奴の斧の真横を飛んでギリギリ躱す。

 そして奴の足を目掛けて剣を薙いで傷を付けた。


『ガアアアアァ!』

 鎧を着けている以上、胴体に攻撃しても大したダメージは与えられない。

 ならば先に足の機動力を削ぐ。奴の左足は剣による傷を負い痛みで態勢を崩す。

 僕よりもずっと巨体で、重そうな斧と鎧を着込んでいる。当然足の負担も大きいはず。

 こうなってしまえば奴は以前ほど動くことは出来ない。そして―――

「姉さん!今だよ!」

 こうなってしまえば、姉さんでも十分当てられるはずだ。


「行くわよー<魔法の矢>マジックアロー!」

 魔法の矢の一撃がようやく敵を捉えて敵の鎧を貫通する。流石の高威力だ。

「加えて<植物操作・種子爆弾>!!」

 更に地面に落ちた大量の種の1つが弾け飛び――無数の種が一斉に爆発を起こす。

 その様子はまるで爆弾テロでもあったかのような有様だった。


「えっ?姉さん、そんな技あったの…?」

 いっつも足止めばっかりしてる印象だったんだけど…。

「あんまり攻撃が得意じゃないけど、一応こういう使い方も考えてはいたの…」

 姉さんに似つかわしくないレベルでエグイ攻撃力だ。


(……よし)

 今の姉さんの攻撃で敵の足は使い物にならなくて膝から崩れ落ちた。

 腕の方も相当なダメージを受けているようだ。斧を振りかぶるのも容易くはないだろう。


「じゃあ、悪いけど止め刺させてもらうよ」

 僕は斧を振りかぶられても届かないであろう場所から飛びかかりゴブリンの頭を剣で叩きつける。

 そしてようやく敵は完全に動きを止まり、そのまま幻影のように消え去った。


 僕はさっき吹き飛ばされた剣を回収する。

「こっちじゃないと魔法剣使えないから困るなぁ…」


「あら?また何か落ちてるわ」

 姉さんは先ほどのゴブリンを倒した場所から何かを見つけて拾い上げた。

「魔石だね」

 確認すると地下1階の赤スライムの魔石よりも大きい。それだけ価値があるということか。


「はぁ、何とか倒せたね」

「うん、頑張ってよかった」

 僕らは疲労でその場に少し座り込んでしまう。


「さて」

 倒したはいいけど、特に部屋の反応は無い。

 相変わらず入り口は閉じたままで、扉も閉じたままで開かない。

 おそらく右の試練も終わらないと開かないのだろう。


「となるとあっちを待つしかないか」

 それまで少し休憩としよう。あっちは僕らよりは大丈夫だろう。


「……大丈夫かな?」

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