第36話 お出かけタイム

 ―――次の日の朝


 準備を済ませた僕たちは、馬車で待ち合わせをしていた。


「姉さん、家の方は大丈夫かな?」

 次に戻るのは何時になるか分からないので少し心配だ。

「施錠も済ませたし留守にすることはギルドに報告しておいたから大丈夫ですよ」

 一応、僕たちはこの村で少し有名人になっている。

 家もギルドからの借家なので言っておかないと後々不味いらしい。

「ただ、ミライさんはここ暫く見掛けなくて会えなかったのよね…どこに行ったのかしら…」


 僕の方もお世話になった人に暫く村を離れることを伝えた。


 その一つのババラさんの魔道具屋で、

「ダンジョンに潜るならいくつか本を買っていきな、便利なモノもあるよ」

 とババラさんに言われたので何冊か買っておいた。

 それとエミリアに頼まれたいくつかの調合素材も調達したので大丈夫だろう。



「みなさま、お待たせしました」

「大丈夫、これで全員揃ったね。御者さんに頼もうか」

 最後に来たのはレベッカだ。全員忘れ物が無いか確認して比較的空いている馬車を探す。


「それじゃあ行きましょうか」

 僕たちはお金を支払って馬車に乗り込む。

 今回は荷馬車ではなく乗合馬車で目的地へ向かうことになる。


「レイくん、お姉ちゃんの隣に座る?」「うん」

 丁度四人くらい座れる馬車で僕とベルフラウ姉さんが隣同士、向かいにエミリアとレベッカが座る。


「今回向かう村はどういうところなの?」

「エニーサイドという名の村です。以前は特徴のない地味な村だったのですが

 ダンジョンが発見されてから大きく変わったようですね」

「そうなんだ?どんな感じの村なのか楽しみだね」

 最近はずっとゼロタウンから離れてなかったので、ちょっと楽しみになってきた。


「そういえば冒険者ギルドの方でも話題になっていましたね。

 どうもそのダンジョン、かなり特殊な場所でモンスターをどれだけ討伐しても無限に沸いてくるとか」


「それは、確かに特殊でございますね……」

 スライムやゴブリンのような特殊な環境で沸いたり繁殖力が高いモンスターなら分かる。

 でも通常のモンスターなら倒してそれで終わりだ。無限沸きなんてそれこそゲームのような話だ。


「そんな話題性抜群のダンジョンが見つかったことで、

 今エニーサイドは冒険者やレアハンターの間でかなり有名になりまして…

 今やダンジョンを村の名物として前面に押し出しているようですね」


「へぇー……そこまで人気なんだね」

 確かにそれだけ聞けば話題になるのは分かるんだけど、

 危険なだけでは?と思うのは僕が現代人だからだろうか。


「ちなみにそのダンジョンには何があるのですか?」

「話で聞くとかなりのレアアイテムが既にいくつも発見されてるらしいです、楽しみですねー」

「なるほど、エミリアさんがあれほど行きたがるわけね…」

 自称レアハンターのエミリアからすれば放っておけない話題ではあるのだろう。

「でも、モンスターが減らないって、村は大丈夫なの?外に出てくるんじゃ…?」

「それが、不思議なことにダンジョン内から出てこないんですよね」


 おかしな話だ。モンスターは人や野生の動物に危害を及ぼす存在のはず。

 それなのにダンジョンから出てこず、それなのに倒しても人間に報復もせずに無限に出現する…?

 以前のゴブリン召喚士の件を考えると余計に引っかかってしまう。


「まぁ、疑問は尽きないですが、あとは行ってのお楽しみということで」


 ◆


  その後、僕たちは馬車で約二日間、

  数度休憩と、近くの村で一泊してからようやく着いた。


「よ、ようやく着いた…」

「お姉ちゃんもずっと馬車に揺られて腰が痛くなっちゃった…」

 馬車内にはちゃんと柔らかい椅子が用意されていてそれなりに快適ではあったのだが流石に長すぎた。


「もう時間は遅いですし、村の様子は気になりますが、今日は宿を取って休みましょうか…」

 ゼロタウンを出るときは張り切っていたエミリアも今は流石にグロッキー状態だ。


「皆さま、あちらの方に宿と思わしき建物を発見いたしました、早速向かいましょう」

 唯一元気だったレベッカは先に宿を発見して案内してくれた。


「すみません、今からでも宿を取れますでしょうか?」

 レベッカが受付の店員に尋ねてくれると大丈夫とのことで僕らはその部屋へ荷物を置いていった。

 その後は、お腹が減ったということで夕食を取りに食堂へ向かうことにした。


「この村の料理は少し独特ですね。味は良いのですけど……食材に偏りがあるような気がします」

 そう言われても僕は料理人じゃないので詳しくは分からない。


「それにお肉が多いね。ゼロタウンと比べると結構違うんだね」

 ここ数日食べていたご飯は基本的に魚介系が多く肉を食べる機会は少なかった。


「ああ、元々ここは食肉の輸出が主産業の1つでもありましたのでその影響でしょう」

 僕は育ち盛りでお肉好きだからいいけど、ちょっと野菜が足りないかも。


 ◆


 次の日、僕たちはまず四人で村を回ることになった。


「ダンジョンで収益を立てているだけあって、冒険者の人が沢山居るみたいだ」

「あまり目を合わさないでくださいね。

 ここに居る人達はみんなダンジョンを巡って競い合うライバルです。

 血気盛んな連中も多いでしょうから、トラブルに巻き込まれないように心がけましょう」

 こわっ!あんまりジロジロ見ないようにしよう。


 と思っていたのに、後ろから高圧的なヤンキーみたいな声が飛んできた。

「おうおう、兄ちゃんよぉ!何女の子三人連れて良い度胸じゃねえか、あぁ!?」

 僕に言われてると思って振り返ると、赤い鎧を着たスキンヘッドで斧を持った男が睨んでいた。

「ヒィィ!ごめんなさい!」

 僕は特に悪くないけど謝った。


「レイ、ちょっと情けないですよ…」

 だっていかにも怖いんだもん、仕方ないじゃん。


「おいおい、情けねぇなぁ!そんな弱気やもやし男より俺とパーティ組もうぜぇ!

 おれはもうダンジョン四階まで到達してるベテランだぜ?」


「え、ダンジョン攻略済み……すごいですね」

 確かに僕たちがゼロタウンから来る前に見つかった場所だし攻略自体はされてたかもしれないが……。


「だろ!どうだいお嬢ちゃんたち?この筋肉おじさんと一緒に旅しないかい?」

 僕に話しかけて来た男は今度はレベッカ達へ勧誘を始めてきた。


「申し訳ありません、わたくしたちはまだまだ未熟者なので……」

「もし強くなりたいと思ったら遠慮なく声を掛けてくれや、その時はいつでも歓迎するぜ!」

 そういうとスキンヘッドの男は自分のパーティーの元へ戻り去っていった。


「あれ!?あっさり引き下がった!」

 見た目よりは良いやつなのかもしれない。


「恐らく私たちを引き抜いて人員確保と同時にライバル潰しといったところでしょう。

 昨日この村に着いたばかりですから、当然私たちはまだ初心者だと思われて侮られているのかも」

 なるほど……まぁでも目を付けられても仕方ないのかも。

「………?どうしました、レイさま?」

「ん、いや……」

 こんなかわいい子達が三人も居たらなぁ…。



 僕たちは気を取り直して村の中を再び回る。

 村だけあってゼロタウンに比べると規模はかなり小さい。

 それでも異様な賑わいを見せているのはすれ違う冒険者たちのせいだろう。


「レイさま、あれは一体なんでしょう?」

 レベッカに袖を引っ張られてそちらを振り返る。すると露店があった。


「お客さんかい?うちの魔石で作ったアクセサリはどうだい?後ろの子たちも喜ぶよ」

 魔石?は分からないが、どれもとても綺麗な宝石で可愛らしいアクセサリーだ。


「魔石ですと!?」

 魔石と聞いてエミリアが飛んできて思いっきり肩がぶつかった。痛い!


「おじさん!この魔石どこで手に入れたんですか!?」

「ダンジョンのモンスターを倒せば手に入るだろう?あ、お客さんは来たばっかりかな?」

「な、なんですって…?」

 エミリアがなんか滅茶苦茶驚いて……いや、何か喜んでる。


「エミリアさん、これそんなに珍しいの?」

「この大きさだとそこまで価値は無いでしょうけど、大きく純度の高い魔石はかなり希少ですよ」

 ほうほう、ダンジョンに行けばこれが手にに入ると。


 エミリアは魔石が手に入ると聞いて今すぐにでもダンジョンに行きたかったようだが、

 村を全て巡っていなかったので、まず見て回ることにした。


 冒険者を対象にしてる露店やお店が多く、

 武器屋や防具屋、魔物の皮や肉などと買い取るお店や薬などを売っている店もある。

 その中でもダンジョンで入手した魔道具を買い取って売り出すお店などがあり、エミリアが目を輝かせていた。他にもダンジョンで手に入った魔石を換金するお店もあるようだ。元々居た住民からすると急な環境の変化に戸惑ってる人も多く、村を捨てて出ていった住民や冒険者たちを煙たがっている人たちもいるようだ。冒険者の人達もそれに気付いてるのか、あまり関わる様子はない。


 いざこざが起きるのはあくまで冒険者同士、村の住人の大半は我関せずを貫いている。


「活気が溢れて喜んでる人もいるんでしょうけど」

 寂れた村だったのがダンジョンのお陰で一気に活性化して人が増えたのだ。仕事が増えたことで収益も出て村の知名度も上がり、これを機に村の改革を進めることは何も問題はない。


 ただ全員がそういう意見ではないというだけで、

「それらを好まない方々もおられるのは仕方のないことかもしれませんね」

 村の人からすると複雑な心境だろうな…。静かに暮らしたい人にとっては迷惑な話だろう。

 そもそもダンジョンなんていう危険な場所が村の傍にあることに危機感を抱くのが正常な反応だ。それに喜んで飛びつく冒険者と分かりあえる筈もない。村人からすればさぞ異質な存在に見えているだろう。


 異物なのは冒険者だけではない。

 それらを商売としている武器屋などは元々存在などしなかったのだろう。

 空いてるスペースを使って適当に店が後付けされた気配がある。


 考えても仕方ない。

 僕たちは元々ここに来た理由を思い出し、村から少し先にある例のダンジョンへ向かった。

 村の傍の森の岩場から地下に空洞があることを発見され、そこにダンジョンが広がっているらしい。


 ◆


「こんな何の変哲の無い場所にダンジョンが…?」

「発見されたのは本当に最近らしいのですが、まぁ行ってみましょうか」

 僕たちは後から舗装されたと思われる道を辿って歩くと、剣をもった冒険者らしき人が立っていた。

 こちらに気付いた冒険者と思われる男性はこちらに気付くと声を掛けてきた。


「キミたち、新しくダンジョンに挑戦する冒険者かい?」

「はい、そうです」

「そうか、ここに間違えて入ってくる人がいてね。そういう人が寄らないように見張っているんだ」

 どうもこの人は冒険者というよりは見張りの人らしい。


「僕たちは入って大丈夫ですか?」


「それは構わない。ただ気を付けて入った方がいいよ。

 中は既に沢山の冒険者が出入りしているが相応に危険な場所だ。

 五階までたどり着いた人も居るらしいが、普通の手段で引き返せないらしい」


 普通の手段では引き返せない?どういうことだろう


「通常の手段では無理ってどういうことかしら?」

「途中から階段らしいものが無くてね。もし戻るなら脱出手段を用意していないと戻れなくなる」

「それなら五階に行った人はどうやって戻ってきたのですか?」

 その見張りの人はかぶりをふってこう答えた。


「済まない、あまり人に教えてはいけないんだ。

 今分からないのであれば、一旦四階まで進んだら切り上げるといい」


「は、はあ…」

 そういって僕たちは見張りの人に見送られてダンジョンに入る。

 地下は薄暗い洞窟で一本道だったが、先に進むごとにぼんやり明るくなっていき、奥には少し大きな扉があった。


 扉の前には小さな台座もあった。


「何かしら、これ?」

 その台座は触っても何も起こらないので今は気にしないことにした。


 僕らは扉の前に立つ。


「どうも、ここから先が本当のダンジョンのようですね」

「そうみたいだね」

「レイくん、トイレは済ませた?大丈夫?」

 気にするのそこじゃないよ姉さん…。


「不思議な場所ですね、この先は一体なんでしょう?」

 エミリアはその先に何か感じるのか真剣に見つめる。確かにこの先は普通とはちょっと違う気がした。


 僕たちは覚悟を決めてその扉を開くことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る