第三章 ダンジョン編(前編)
第35話 三ヶ月後
――ゴブリン召喚士の戦いから三か月後の話
僕たち4人はしばらくは平穏な冒険者生活を送っていた。
冒険者が平穏って何だそれ?って思うかもしれないけど、要するにこれと言った事件が起きてなかったということだ。相変わらずババラさんの採取依頼は続けてるし、ゴブリン退治や他の討伐依頼も時々やってる。
異世界に来たばかりの頃はホームシックになってベルフラウ姉さんに泣きついたり、魔物との戦いに怖がったりとか色々あったけど、最近は少しずつ慣れてきた。
流石にこの世界で体を鈍ると困るから今でも剣や魔法の練習はほぼ毎日やってる。
だから以前に比べてもいくらかマシになってるとは思う。
召喚士討伐の褒賞として一年貸し与えて貰っている家にも随分慣れてきている。
以前の狭い冒険者の宿と比べて広くて日当たりがよくて歩くたびにギシギシ音もしないし、下の階から冒険者のいざこざの喧嘩の声も聞こえなくて最高だと思う。あれはストレス凄かった。
特に嫌だったのは周りの男が姉さんに向ける視線だ。
召喚士対策に、と姉さんが着けてた装備は肩が露出していて胸元も少し開いてて嫌らしい視線が集中して時々イライラしていたのだ。表彰式にそれが爆発してしまって後で姉さんに滅茶苦茶怒られた。
こんなモノローグしてるけど僕はシスコンじゃないよ、本当だよ?
それに姉さんは元々女神さまだから本当の姉弟じゃないから特に問題はないよ。
……え?お前誰って?僕だよ、レイだよ。
異世界転生の最初の方は気持ちの方が折れていたり、周りの環境に付いていこうと必死だったからかなり弱気になってたけどね。モノローグでこれくらい色々話せるくらいには元気になった。
「レイ、朝から長いモノローグですね」
「おはようエミリア、人のモノローグ読まないでくれる?」
今話しかけてきたのは同居人のエミリアだ。
この世界で出会った初めての人で湖の村の頃からの付き合いだ。
年齢は14歳で黒髪黒目、髪はセミロングくらいの女の子で意識してしまうと滅茶苦茶可愛い。
大体いつも丁寧口調なんだけど、それは癖らしくて姉や家族に対してもそういう喋り方をしていたら直らなくなったとか。面倒見が良くて優しいけど少しお金にがめつい部分がある。
冒険者ギルド所属の魔法使いでレアなアイテムを収集するのが趣味で、冒険者になったのは姉に憧れたのもあるらしいけど元の目的はアイテム収集の為だとか。
……実はちょっと気になっていたりする。
今住んでる街に来たときはどうやってパーティに誘おうか悩んでたんだけど、
間違えて告白まがいの事を言ってしまって酷いことになった。
今でもたまにエミリアからその事で揶揄われており
「レイ~!あの時私に告白して今は一緒に住んでるのに夜這いとかしないんですかー!」とか酔っ払いながら言ってくる時がある。人の黒歴史を掘り起こさないで欲しいかな。
ちなみにエミリアは平気で飲酒してたりする。この世界はアルコール飲むのに年齢制限とかない。アルコールは<全治療>って回復魔法で除去できるらしくてよほど度数が無ければ治療は可能らしい。
「おはようございます、お兄様」
「おはようレベッカ、貸した小説はどうだった?」
「本当に良かったです!特にラストシーンの男性主人公の告白シーンはわたくし、胸がときめいてしまいました…♪」
「そ、そっか……」
今話をしたのは同じく同居人のレベッカだ。
ゼロタウンに来る途中に出会った女の子で銀髪と赤い宝石のような綺麗な目をしている女の子。
髪を結っており、それがネコミミみたいになっててとても可愛らしい。
12歳の女の子で故郷に仕送りをしている優しい女の子だ。少し古風な喋り方をする女の子でどうも育ての親の長老の話し方が移ってしまったらしい。
さっきの話はここ最近、話題になっていた『恋愛小説』だ。別に恋愛小説が好きというわけじゃないんだけど、異世界に来てこういうものがあるのが珍しかったのでつい買ってしまった。レベッカは気に入ったようだ。時々二人で遊びに行ったり一緒に採取依頼を受けに行ったりするようになって打ち解けていって、今ではレベッカのことを妹のように思っていたりする。
時々、凄く熱っぽい表情で見つめてくるんだよね。自分もレベッカに見つめられると時々変な気分になるから間違いを犯さないように気を付けないと。
ちなみに何故お兄様と呼ばれているかと言うと――
『レイさまの事、二人の時だけで良いのでお兄様と呼んでいいでしょうか?』
故郷を離れて寂しかったレベッカは僕を兄のように慕ってくれていた。
最初にそう言われた時は驚いたけど、僕は嬉しかったので拒否せず承諾した。
ただ、人前で言うとちょっと恥ずかしい。
特に姉さんはエミリアに聞かれると色々まずい気がする。
「ところでレベッカ、二人がいる時は……」
「あ、はい、申し訳ありません…つい」
知られるのが嫌というわけではないが、二人だけの秘密ということになっている。
「おはようレイくん!昨日は一人で勉強捗った?」
「あ、おはよう姉さん、勉強は…うーん、この世界の字がまだ難しくてあんまり…」
「そうなの?じゃあまた二人で文字の勉強もしましょうね」
今話した女性はこの世界に僕を連れてきた張本人。
そして元々は女神さまだった僕の義理の姉だ。名前をベルフラウという。
『死者の橋渡し』という死んだ人を面接してその人をどのように転生させるかを決める役割の神様だった。元というのはこの世界に来てから女神と言う立場を捨てて人間になったから、らしい‥。僕にもどういう原理かは分からないのだが、とにかく今は一人の人間になっている。
僕が異世界に来たばかりの頃からずっと支えになってくれた人だ。転生以前から僕のことを知ってて、僕の境遇を知っていたから寂しがりの僕を姉のように親身に接してくれていた。
僕と同じく銀髪で胸が大きくて包容力のある人だ。ただ、人との距離感を掴むのが苦手らしく、最初の頃はやたらベタベタしてきた覚えがある。その後、僕がホームシックになって泣き出してしまい、その時に僕の家族になってくれると約束してくれた。
ちなみに僕はこの世界の文字があまり読めない。一応転生特典か何かで頭の中で翻訳して読めるのだが、機械翻訳かと言いたくなるほどガバガバなので、ちゃんと自分で読めるように勉強してる。
『恋愛小説』を買ったのはその勉強の為でもある。
そんな感じで今は4人で生活している。
自分以外全員女の子だから色々気を付けてるけど、姉さんとレベッカはその辺が割と寛容だし、エミリアは最近だと一人で依頼を受けに行ったりして家に居ないことが結構多い。だから意外と気を遣わないで済んでる。
「さぁ皆さん、今日の朝食ですよー」
朝の始まりは姉さんが作ってくれた朝食から始まる。
と言ってもそこまで豪華なモノではない。普通にパンとクリームシチューに野菜サラダとかそういった簡単な料理だけだ。時折レベッカや僕が手伝ったりしている。昼食や夕食は今でも大体外食だ。
「エミリアは昨日帰り遅かったけど、仕事の依頼?」
「遠くの村でレアな魔道具が見つかったとの情報が冒険者ギルドで噂になっていたので行っていたのですが、まぁ無駄足でした」
要するにガセだったらしい。エミリアは最近はこうやってレアなアイテムの情報があるとよく一人でどこかに行くことが多くなった。少し前は大体どこの依頼でも4人で受けていたのだが…
『3人ともまだ未熟でしたからね、私が居ないと危ないと思ったんです』とのことだ。
元々エミリアはソロで冒険者活動をしていたようなので慣れっこなのだろうが、自分としては頼ってもらえなくてちょっと寂しい。
「今度行こうとしている場所はみんなに来てもらおうかと思ってます」
「みんなで?討伐依頼とか?」
「いえ、そういうのではないのですが、どっちかというと私の趣味の話ですね」
趣味の話?エミリアの趣味と言うと……
「エミリアさま、どこに行かれるおつもりなのです?」
レベッカが訊くとちょっと得意げになってエミリアは話し始めた。
「実はですねぇ。ここから少し遠い村なのですが、その近くにダンジョンが見つかりまして」
「ダンジョンって…あの地下迷宮で宝箱とかあるやつ?」
「それです!まだあまり調査の進んでないダンジョンなので一緒に攻略しませんか!」
なるほど、レアハンター名乗ってるエミリアなら確かに喰い付く話だ。
「僕は、構わないけど、二人はどう?」
「レベッカも構いません、色々手に入るなら仕送りが増やせそうですし」
「私も構わないけど、ダンジョンとなると色々準備が必要そうね」
ここ最近は危なげなく依頼を達成出来るようになったので気持ちに余裕があった。
ダンジョン攻略というのも興味があるし4人で冒険はとても楽しそうだ。
「良かったぁ、それじゃあ早速明日から行きましょう!」
「はやっ!いきなりだね」
「何を言ってるのですか!新しいダンジョンですよ!調査が進んだらお宝だって他の人に取られてしまうじゃないですか!本当は今から行きたいくらいなんですから!」
「わかったわかった!二人もそれでいい?」
「ふふふ、エミリアさまが張り切っていて楽しそうです…♪ 勿論レベッカも構いませんよ」
「それだとギルドの人に挨拶していかないとですねー、お姉ちゃんオッケーですよ」
僕たちは明日からダンジョン攻略のために一時的にゼロタウンとは別の拠点に移すことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます