第30話 姉さんのお弁当が食べたい
『……またお前たちか』
「やっぱり……!」
姿を見せたのはあの時のゴブリンの顔、ゴブリン召喚士だった。
エミリアは前に出る。
「貴方が南の集落をゴブリンに襲わせた元凶ですか?」
エミリアは怯むことなくゴブリン召喚士に問う。
『それを貴様らに言う必要があるか?
いい加減冒険者共に私の手下を減らされるのは困る。この場で始末させてもらおう』
召喚士は話をしながら少し腕を動かした。単なる身じろぎかもしれないが…。
(あれは……指輪か?)
ここからでは少し分かりづらいが、指に何か光るものを嵌めたように見えた。
とはいえ、今は僕も集中しないといけない。意識を切り替えよう。
「あれほど散々私たちをいたぶっておいてそれはないと思うのですか?」
『……なるほど、あの時邪魔をしたのは貴様らというわけか、なら余計逃すわけにはいかない』
そうして奴は手を上げようと――――
「させない!」
僕は召喚を阻止するために飛び出す。
「何っ!」
奴は咄嗟のことで驚いているが、直ぐ冷静になりこちらに指を向け――
『雑魚め――!
「こっちのセリフだ!
奴の魔法とこちらの魔法剣がぶつかり合い、相殺―――否、僅かにこちらが上回る。
名前を変えてあるが性能は同じだ。
ただし以前よりも発動速度が上がってて隙は少ない。
そのうえ、魔戦士のマントで攻撃力が大きく上昇している。
(おかげでなんとか相殺に持ち込めた…!)
『ちっ、小癪な』
奴はこちらとの距離を取ろうと後ろに下がりながら左手を上げるのだが、
「逃がすと思いますか!」
既にレベッカの手には弓と矢が掛けられていた。
ヒュッと風が切り裂く音と共に銀の矢が召喚士の左手を貫く。
『グッ……!!』
咄嗟のことで矢を躱すことが出来ずに左手を抑えてレベッカを睨む。
先ほどまでのエミリアとの会話はただの時間稼ぎだ。
僕たちは奴と対峙する前に作戦を立てていた。
『奴が出てきたときに私が時間を稼いでおきます。
その間にレイは強化魔法をレベッカさんに掛けてもらっておいてください』
『レイはとにかく全力で奴の召喚を阻止してください。
今までの情報を考えると奴は手を上げた時が
『ベルフラウさんは今覚えている防御魔法と奴の行動妨害をお願いします』
『この作戦で倒せればよし、無理ならば私が最後に
作戦通り間髪を入れずに僕が攻め込む。
今の僕はレベッカの強化魔法が複数掛かっており通常よりも能力が底上げされていた。
「くっ!」
奴は距離を取ろうとするのだが、突然足が動かなくなる。
姉さんの植物操作により奴の足には植物の蔦が絡まっている。
「くらえっ!
剣を振り下ろしながら初級雷魔法を発動する。
しかし、奴は右手を構えると――
「なっ!」
魔法かは分からないが右手の見えない壁に阻まれてしまう。
だが電撃は僅かに通っている。
「くっ!」
もう一度剣を構えて攻撃しようとするのだが――
『ちっ、舐めるな!』
そのまま奴は体の痺れを無視して再び攻撃魔法を発動する!
『もう容赦はせん!
単純な威力では最も攻撃力が高い雷撃魔法だ。
正面から受けるわけにはいかない。僕は奴と距離を取って後ろのマントで防御を行う。
「
同時に姉さんとエミリアの防御魔法が僕に付与される。
姉さんはババラさんの魔道具屋で購入した防御魔法の魔導書でいくつか魔法を覚えている。
エミリアは<守りの杖>によって疑似的に補助魔法が使用できるようになっていた。
「くっあぁぁぁぁぁ……!!!」
痛い痛い痛い!奴の強力な雷撃の魔法で全身痺れて気を失いそうになる。
だが、防御魔法と装備のお蔭でまだ動けそうだ。
『邪魔だ…
追撃が来るかと思って構えたのだが、奴は足元の蔦を燃やしただけのようだ。
「くっ!当たりません!」
レベッカは後ろから何度も矢を放っているのだが、奴の右手の壁が阻んで当たらない。
何かの魔法なのだろうか、それなら魔力を消耗しているはずだが…。
『貴様らがここまで出来るとは思わなかったぞ。
くそっ…!レベッカが与えたダメージが回復されてしまった。
僕は再び奴に攻撃を仕掛けようとするのだが、さっきの魔法の痺れのせいであまり早く動けない。
「私を忘れていませんか!?魔力強化
補助結界で増幅されたエミリアの中級攻撃魔法が召喚士を襲う。
――しかし奴の足元にはいつの間にか補助結界が展開されていた。
『魔力強化
エミリアの強力な魔法攻撃が奴の防御魔法で軽減されてしまう。
「強い……!」
こちらは不意打ちで仕掛けて召喚を封じているのに、これほどとは……!
『そこの女二人は邪魔だ、動かないで貰おう
聞いたことのない魔法で姉さんとレベッカに攻撃するが――――
『…っ!防御結界か』
ベルフラウ姉さんとレベッカは最初に奴と対峙した時から魔法陣の上から動いていない。
そのため、奴の魔法を無効化出来たようだ。
「はぁっ!」
何とか隙が出来ないか、僕は斬り込む…が、さっきのダメージが響いている。
(くそっ!ダメージのせいかまだあまり早く動けない!)
『スピードが落ちた貴様は敵では無い』
奴の言う通り、こちらは間髪無く斬り込むのだが、さっきから右手の見えない壁で全て防がれてしまう。
『
無造作に放った奴の風魔法に僕は吹き飛ばされて距離を離されてしまう。
そして―――
『遊びは終わりだ』
そう言いながら奴は手を上げた。
すると奴の後ろの空間が歪み、二体の大きなゴブリンが召喚されてしまう。
「あれが、ホブゴブリンですか……!?」
例のゴブリンの上位種か!?
「くそ……
今までどうにか封じていたのに、ここに来て……!!!
『ほう?この魔法を知っていたのか』
奴はくっくっくとゴブリンの顔で誇らしげに笑う。
「だが、これで終わりだ―――」
「まだですよ! 魔力強化
エミリアの魔法が展開される。この魔法は攻撃魔法ではなく相手の能力を見る魔法だ。
『……? 何のつもりだ?』
ここに来て攻撃魔法でも何でもない魔法を使われて困惑しているようだ。
「レイ!」
「うん!」
「お 弁 当 が 食 べ た い !!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『………は?』
奴が動揺している間に僕たちは全力で逃走を開始した。
◆
それから10分後………
「はぁはぁ……!!」
「エミリア……まだ逃げないとダメかな……!!!」
「は、走りながらでは<索敵>は使えないので……!」
僕たちは走りながら隠れそうな場所を探して一旦身を隠した。
「
エミリアの索敵魔法が発動する。
その間に僕は『心眼』を、レベッカは『鷹の目』を全力で使用して警戒する。
姉さんは今の間に僕に回復魔法を使ってくれている。
さっきの「お弁当が食べたい」は撤退の合図だ。
エミリアが能力透視を使ったら即座に合図を送って撤退するつもりでいた。
普通の合図よりは相手を困惑させた方が良いと思った僕のアイデアなのだが……。
「冷静に考えると、長すぎだよね……」
もし合図中に攻撃されたら間抜けすぎただろう。
「レイさま、そういう問題ではないかと」
「――――索敵完了です。
隅々まで探しましたが、奴は途中でこちらを追うのを中断したようです」
「………はあ、助かった」
「緊張したわ……本当に…」
「レベッカも死ぬかと思いました…」
「ふぅ、お疲れ様です……とりあえず帰りましょうか…」
僕たちはフラフラになりながらコソコソ見つからないようにゼロタウンに逃げ帰った。
<レイは大きく成長した>
<レイはLv16に上がった>
<初級攻撃魔法Lv5を獲得>
<魔法剣Lv2を獲得>
<心眼Lv4を獲得>
<守りの心得Lv4を獲得>
<技能 忍び足を習得>
<中級攻撃魔法を習得可能になった>
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