第27話 召喚術
喫茶店で浮気現場をエミリアに目撃されました(嘘)
偶然にも喫茶店で鉢合わせした僕たちは、折角なので色々訊いてみることにした。
「それで―――
お二人は付き合ってるんですか?」
「違います」
こっちが質問責めにされてますね。
「子供と付き合うのは犯罪って知ってます?」
「知ってます」
この世界での結婚は15歳を超えてかららしい。
「てっきり、レイはベルフラウさんと禁断の関係だと思っていたのですが…」
「それも違います」
ベルフラウ姉さんは女神で義理の姉だから禁断ではないと思う。
「ぶっちゃけお姉さんのこと好きなんですか?」
「聞かないで」
大好きだから答え辛いんだよ。
「たまに私の事をエッチな目で見てますよね」
「そ、そんなことは……」
我慢はしてたと思うんだけど…。
「この間の私への愛の告白は何だったんでしょうね」
「ごめんなさい土下座しますからこれ以上は勘弁してください」
もう僕の精神はボロボロだ……。
その後、色々言われた。
「まぁ冗談はこの辺にしときまして―」
「エミリアに対して、今初めて怒りを覚えたよ」
多分一生忘れないと思う。
「…それで、エミリアさまはレイさまをほったらかしで何をお調べになっていたのですか?」
レベッカの言葉だが、妙に棘がある。弁解中に怒らせてしまったのかもしれない。
「ほ、ほったらかし……?
い、いえ…私は、過去の召喚士の情報と魔法のことを色々と探っていたのですが……」
レベッカの剣幕で多少焦ったのか、口早く語るエミリアだった。
「過去の召喚士…?」
「はい、と言っても現存する召喚士の情報は私が見れる情報では一件しかありませんでした」
「名前は、ビヨンド・ノレージという男の召喚士です。
15年ほど前に消息を絶っており、それ以降この大陸に現れたことはありません」
ビヨンドノレージ?変わった名前だな。
「彼は優秀な魔法使いでもあり、
召喚魔法以前でも際立って優秀であったと言われています」
「同時に彼は魔法の研究者でもあり
失伝魔法である召喚魔法を独自の解釈で復活させたと書物には書かれています。
要するに本来の魔法からは既に変わってるものだったそうです」
「彼の召喚は呼び出す存在を自身の手の届く場所に閉じ込め、
自身が召喚する場所に赴いてゲートを開くために空間を歪ませるそうです」
話を聞いてても正直理解が及ばない。
そんな顔をしているのがエミリアにも分かったようで、こう解説してくれた。
「召喚対象を保管する場所をAと考えてください。
召喚魔法を使用するために召喚者はBの場所に行ってAとBの道を繋ぐことで成立します。
その方法が空間を歪めてAとBを行き来する道を作るという事です」
言ってることの理解は出来る。
だが現実的にそんなことが可能なのだろうか。
それこそ姉さん、女神のような存在にしか起こせないような現象だ。
「この空間を歪ませるという方法が相当負担が掛かるらしく、
この召喚方法を使用した時点でかなり疲弊をしてしまうと書いてありました。
ゲートを繋げるだけでも一苦労で、そこから長時間維持するのは膨大な魔力を消費するとか」
「それで従来の召喚魔法と差別化させるために、
彼の使う召喚魔法は
「……とまぁ、ここまでが私の調べた内容です」
「なんというか、想像以上にレベルの違う魔法なんだね」
僕が使用してる初歩魔法や攻撃魔法とはまるで別物のように感じた。
「わたくしの秘伝と似ていると言っていたのも今の説明で理解できました」
「レイ、今の説明で昨日見たゴブリンと似てることに気付きませんか?」
―――エミリアの言葉に思考を巡らせてみる
あの男は最初一人だったはずだ。しかしその後に二体のゴブリンを召喚していた。
召喚の瞬間は僕もエミリアも目撃はしていない。しかし―――
「召喚の後に、奴の後ろの空間が割れたように歪んでいたような…」
「そこです。奴の使った魔法は
「もしかして、その後に奴の姿が消えたのは…」
「おそらくですが、作ったゲートを通って逃走を図ったのではないでしょうか」
…
となるとあの男、『召喚士』と呼ぶが、
召喚士は
「私はこの事を改めてギルドに報告することにします。
何らかの対策が打てるかもしれません。それではお先に失礼します」
エミリアはそういって喫茶店を――
「あ、ネネさん、ショート二つテイクアウトお願いします」
――喫茶店を後にした。
その後、僕たち二人も喫茶店を出た。
◆
「レイさま、この後どうされますか?」
「今何か出来るわけじゃないけど、冒険者ギルドに行こうかと思う」
朝、宿での冒険者の会話を聞くに今ギルドではゴブリン関連の依頼が多く含まれている。
2人で依頼を受けて戦うには危険だが、戦いはしなくても何か情報が欲しい。
「そうであれば、わたくしもお供いたします」
「うん、それなら一緒にいこう」
そうして僕たちは冒険者ギルドへ向かう。
――冒険者ギルドにて
「話で聞いた通りだけど、確かにゴブリン討伐の依頼が増えてるね」
普段ならゴブリン討伐の依頼は一日に2~3件とそこまで多いわけではない。
今日は今残ってるものだけでも10件、しかも通常の報酬より倍の金額になっている。
特筆すべきはこの依頼
『南の集落を襲った元凶、
首を持ち帰った冒険者達には総額金貨六十枚と一年の間居住区一等地の住まいを貸し与える』
以前、南の集落を救った時の褒賞は総額金貨四十枚だった。
今回は実に1.5倍、かつ居住区一等地となれば冒険者たちも黙ってはいないだろう。
おそらく報酬の奪い合いになってもおかしく無いはず。
「報酬金貨六十枚とは、冒険者ギルドも本気のようでございますね…」
いつ南の集落のように襲撃に合ってもおかしくない。
召喚士の戦力は分からないがこの街を本気で攻めるつもりなら集落の比では無いだろう。
「それに、冒険者ギルドはここを戦場にはしたくないだろうしね…」
下手をすれば住民を巻き込んでしまう。間違いなく被害は甚大なものになる。
その時、ギルドの入り口の方が騒がしくなった。
「――どいてくれ!仲間の命が危ないんだ!!」
人が波のように引いて、大怪我を負った仲間を背負った冒険者と思われる一団が通っていく。
一人は頭から血を流して完全に意識を失っており、他の仲間も酷い火傷の後や鎧に大きな傷があるなど相当激しい戦いがあったことを物語っている。
皆、顔が青く沈んでいる。とてもじゃないが勝ち戦には思えない。
「一体何が…?」
「おや、二人ともこちらに来ていましたか」
後ろから声がして、振り返るとエミリアが立っていた。
「私も彼らのことが気になります。あれほどの怪我を負った理由を調べてきましょう」
彼ら一団はギルド職員に支えられ、下の医務室で治療を行っていた。
「今彼らは集中治療を受けています、他の方はご遠慮ください」
彼らの様子を見に行った僕たちはギルドの職員に引き止められ会わせてもらえなかった。
「仕方ない、一旦引き返そうか…」
「おや、こんなところでどうされたんですか?」
一度戻ろうとしたときに、後ろから声を掛けられた。
「ミライさん……」
「どうも、レイさんにエミリアさん、それにレベッカさん」
振り返ると眼鏡の美人なギルド職員のお姉さんだった。もはや顔なじみである。
「さっき怪我で運ばれてきた冒険者の人達の話を聞きたかったので」
「あぁなるほど、私も聞いていますよ。例の召喚士と遭遇してしまったようですね」
「!!」
「あの方たち、普通のゴブリン討伐の依頼を受けに行ったのに、
不運にも敵のボスような相手と鉢合わせして、かなりの大怪我みたいですね」
僕たちはミライさんと別れてギルド食堂の方で少し話すことにした。
「さっきのミライさんのお話、わたくし気になる点がございます」
レベッカの言葉だ。僕たちは頷いて続きを促す。
「何故、彼らは召喚士に出会ってしまったのか。
召喚士はそこで何をやっていたのか、あるいはたまたま召喚士の根城だったのか。
レイさまとエミリアさまはどう思われますか?」
「今回の討伐依頼というのは、
普段よりもギルドがゴブリンの生息地を詳細に調べ上げたものです。
その一つに召喚士が隠れ住んでいて、鉢合わせというのも無くはない、です」
エミリアの考えもあり得る話だとは思う。ただ…
「レイさまはどう思われますか?」
「もしかして、だけど戦力を集めていた、とか?」
召喚士の戦力は不明だけど不死身ではない限り有限だろう。
もしゼロタウンを攻め落とそうと目論むのであれば可能な限り数を揃えようとするはず。
「レイの推測も一理ありますね。
何故、召喚士と鉢合わせしたかですが、これは運が悪かったのでしょうね。
今ゴブリン退治の報酬が底上げされてて狙ってる冒険者も多いですから」
召喚士が『戦力の増強』か『潜んでいた』とするなら単純に試行回数が多ければ遭遇率も上がるだろう。そうなるとエミリアの通り運が悪かったという事になる。
◆
その後、レベッカとエミリアとは一旦別れ、
僕は結界の仕事を終えた姉さんと合流し、怪我をした冒険者たちの元へ向かった。
「
姉さんは今、彼らの中で最も重症だった意識不明の冒険者に回復魔法を使っている。
<完全回復>の名前の通り、傷を全回復する効果だ。
「ふぅ……終わりました…っと……!」
姉さんは魔法を終えると疲労の為か体がフラつき倒せそうになったので支えた。
「姉さん、大丈夫?」
「ありがとう、レイくん」
姉さんは結界魔法の手伝いと負傷者の傷の手当の為に相当な魔力を消費している。
それでも無茶を言って頼んでしまったのは僕だ。申し訳なく思う。
「ごめんね、姉さん。無茶言ってしまって…」
「いいのよ、レイくんの行動は何も間違いじゃないから、そんな顔しないで」
そういって姉さんは優しく微笑んでくれた。
「お姉ちゃん、眠くなったから部屋で横になるね」
「うん、お疲れさま」
そう言って姉さんは自分の宿の部屋へ戻った。
その後、姉さんのお蔭で傷が回復した冒険者の人と話すことが出来た。
「ありがとう、キミたちのお蔭で助かったよ。意識不明だった相棒も容態が回復してきている」
「いえそんな、お礼なら姉さんにお願いします、僕は頼んだだけなので」
最初見た時は必死だったのか切羽詰まった形相だったので、
怖い人かと思ったが、リーダーの冒険者さんは話してみるととても真面目な人だった。
「俺はカシムという、何かあったら言ってくれ」
「僕はレイと言います、早速ですが今回の事を聞かせてもらえないでしょうか…?」
そうして僕たちは彼らから話を聞いた。
彼らは情報通りゴブリン討伐に出かけたそうだ。
報酬は金貨4枚で10体以上のゴブリン討伐と、報酬額が倍になっている以外は僕たちが最初に受けた依頼と大差ない内容だった。ただ、違ったのは―――
「依頼にあったゴブリンは何処にも居なかった。居たのは噂に聞いていた召喚士と思われる化け物」
そいつはこちらを見ると、歪んだ顔で睨み付け、手をかざした。
「すると、奴の背後が突然歪み始めて、大きなゴブリンが突然現れた」
大きなゴブリン?上位種だろうか。疑問はあるが、話の続きを聞くことにする。
「俺たちは依頼書にあった召喚士だと気付き戦いを挑んだが、結果は見ての通りだ」
カシムは自分の仲間に視線を送る。彼らも姉さんに回復してもらったが本調子ではないようだ。
「その召喚士と、召喚されたゴブリンの特徴は?」
「召喚士はゴブリンの顔をしていたことは情報通りだが、あまりにも強すぎた。
中級魔法を連発してきて相棒が仲間を庇って落とされてしまいどうしようもなかった」
「もう一人のゴブリンの方は」
「多分ホブゴブリンだったんじゃないかと思う。
ゴブリンの上位種と聞いている。あくまで護衛に召喚したんじゃないかと感じた」
「他に何か、変わったこととかありますか?
召喚士が何か話していたとか……何故逃げることが出来たのか…とか」
「そうだな…『無駄な消耗は避けたい』と言ってた気がするな。
逃げられた理由は追ってこなかったからだな」
僕は一通り情報を聞き終えてから、彼らに挨拶をして別れた。
◆
――そしてその日の夜
「―――――ここまでがカシムさんから聞いた話だよ」
「攻撃魔法を使う召喚士に、ホブゴブリンを召喚、ですか……」
僕はカシムさんに教えてもらった話を皆に全て伝えた。
「エミリアさんの調べた召喚術の話も興味深いわ、何か共通点があるのでしょうか」
喫茶店で聞いたエミリアの話も姉さんに伝えてある。
「今後、ゴブリン退治の依頼を受けるなら私たちが遭遇する可能性もあります。
その場合の事を考えて何らかの対策を講じるべきでしょうね」
エミリアの言葉で一つ思いついたことがある。
倒せはしないまでも有効な手段ではあるかもしれない。
僕は三人にそのことを告げた。
「ふむ、妙案でございますね」
「……確かに、成功すれば弱体化させられる可能性はありますね、ただ…」
自分でも分かっている。エミリアの言いたいことは。
「召喚士に密着するレベルにまで近づく必要がある。
もし大量にモンスターを展開された場合、難しいでしょうね」
「うん、だからこれは選択肢の一つ考えておこう」
「分かりました。明日からそれらの情報を元に対策していくとしましょうか」
そうしてその日は解散となった。
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