第25話 不審者
ゴブリン襲撃事件から数日が過ぎた。
事態はエミリアの攻撃魔法で集落ごと凍結させることで解決した。
しかし……
「エミリアさん、それ本当なの?」
「はい、私の見間違いで無ければ、ゴブリンは何者かに召喚されていました」
僕たちが避難する時、集落の奥に何もない空間からゴブリンが召喚されていた。
エミリアを含めて僕たちは既に満身創痍に近い状態、かつ無限に召喚されてくるゴブリン相手に対処の方法を見いだせなかったエミリアは切り札を投入した。
それにより、召喚されている空間ごと凍結、ゴブリンの進行を食い止めたという話だ。
「この事は世間には公表されてはいませんが、既に冒険者ギルドに報告しています」
「何で公表されてないんだろう?」
「今回の事件が人為的なものであるというものが理由なのだと思います」
普通に襲撃されたのであれば出所が分かり次第冒険者を派遣し討伐へ迎えるが、
もし、別の場所から術者に召喚されていたとするといつ何処から侵攻されるかも分からない。
公表しようものなら混乱も起こるだろう。
「もちろん冒険者ギルドの方も対応を急いでいます。
一部の冒険者にも事実が伝えられており、毎日集落の周りの調査をしているようです。
今の所、術者の足取りは掴めてはいませんが…」
「…ゴブリンが人間に召喚されたって部分は確実なんだろうか?」
と僕が呟くと、エミリアは言った。
「人間かどうかは分かりません。ですが、あれは何者かに召喚されていた。
私が見た歪んだ空間は私が知る限りでは召喚魔法以外の知識はありません」
以前にエミリアが言っていたものか。
『レベッカさんの魔法は私の知識では<召喚魔法>に似ていますが―――』
改めてレベッカの能力を見せてもらった時の言葉だ。
「エミリアは召喚魔法の実物を見たことあるの?」
「すいません……見たことはありません。
私が得た知識はそのような魔法があったのと、こういう特徴があると聞いただけなので」
普段自信家のエミリアにしては珍しく自信が無さそうだった。
「召喚魔法は失伝魔法と呼ばれているもので使用者は殆ど居ません。
そのため、今ギルドは現存している可能性のある
また聞きなれない言葉だ。
「失伝魔法って何?」
答えはレベッカから返ってきた。
「
大昔の魔法使いが作り出したとされる、今では使い手がほぼ居ない魔法の総称です」
「レベッカさんの言う通りです
そのため、ギルドが探している召喚術士も今どこにいるのか生きているのかも分かりません。言ってしまうと、現状は手詰まりということなんですよね」
そこまで言ってエミリアは一旦言葉を区切って、最後にこう言った。
「今の未熟な私たちパーティでは今すぐできることはありません。
この事は一旦胸にしまっておいて、今日からいつも通りの生活に戻りましょう」
僕たちの話し合いは一旦そこで終わった。
◆
――その日の夕方頃、街から少し離れた場所で
「こうかな…
「いや、全然だめですね、思いっきり手から出てます」
「ならもっと、剣からのイメージで
「剣の柄から火が出てますね……」
「む、難しい。
「おー、今の良い感じですよ、ただ剣先から出る筈が逸れていきましたけど」
僕とエミリアは街はずれで魔法の特訓をしていた。
やろうとしていることは、剣を持った状態で魔法を発動させることだ。
エミリアに昨日貰った剣の鑑定をしてもらったところ。
『この武器は柄の部分に魔法石が組み込まれていますね、これなら練習次第で使えるかも』
とのことだった。
なので自分の魔力が切れるギリギリまで繰り返して練習しているのだがこれが難しい。
「ステッキと違って、柄に魔法石があるからちょっと扱いにくいかもですね」
と言いながら、エミリアは僕に自分のステッキを手渡してくる。
「試しにこれでやってみてください」
これがエミリアが使ってるステッキか……と邪念が浮かびつつも受け取って試してみる。
「<初級炎魔法>《ファイア》」
今度はちゃんと先端から魔法が出た。
「基本は出来てますね、少しやり方を変えましょうか」
「やり方?というと…」
「今、レイは剣先を構えてそこから魔法を撃ちだすイメージですよね」
「うん」
「それを今度は剣を振りながら同時に魔法を使うようにしてしてみてください」
剣を振りながら?それって……
「魔法剣……みたいな?」
「……うーん、魔法剣って技術は私は知りませんので」
イマイチ伝わってなかった。RPGでは結構よくあるんだけどなぁ。
「じゃあ試しに…」と僕は剣を振り上げ、
「<初級炎魔法>《ファイア》」と振り下ろしながら魔法を発動した。
「おおー、何か今剣が炎に包まれてましたよ…」
「え、それって本当に魔法剣が出来たんじゃ?」
思わぬ収穫だった。
「ただ普通なら起こる前方に飛ばして着弾って部分がなくなってますね。
接敵してる相手ならともかく、距離が離れた相手にはやっぱり無手で使う方が良さそうです」
そっかぁ……でもこれなら剣の威力は上がりそうだよね。
僕は今の魔法の感覚を忘れないように、この「魔法剣」の練習を繰り返した。
◆
次の日の朝、僕たちは久しぶりに4人で依頼を受けることにした。
「ゴブリン退治……」
正直今はゴブリンの顔も見たくないんだけど…。
「今日はババラさまの依頼も来ていないようでございます」
レベッカはあれからババラさんの依頼には必ず付いてきてくれてる。
報酬は安いのだが難しい依頼ではないため、日銭を稼ぐだけなら十分だったからだ。
「ゴブリンくらいなら良いのですが、
私は今は反動で『鼓動する魔導書』を使えないので高難易度の依頼は勘弁してくださいね」
「えーと、それじゃあ……エミリアさん、これって?」
「え、何ですかベルフラウさん? ああ、最近この依頼はあんまりなかったですね」
何かと思い、僕とレベッカもエミリアが見ている依頼を確認する。
「ええと、お墓でゾンビ討伐………!?」
「ぞ、ゾンビでございますか…?」
ゾンビと言えば、死んだ人間が動き出して徘徊するっていうゾンビ映画お馴染みの奴だ。
死んでいるからか動きが鈍くて銃弾を撃っても死なない、光に弱いとかの特徴があったと思う。
思い返すと、以前アドレ―さんに師事を受けていた時に言われてた気もする。
「このゾンビっていうのは一体どうやって動いてるんだろう?」
「はっきりよく分かっていないです、時折お墓の下から遺体が這い出して住人を襲うとかはあったのですが、最近はご無沙汰でしたし」
姉さんが立ち上がって言った。
「この依頼受けましょう。
死んだ人が転生も出来ずに現世を彷徨うのはあまりにも悲しいです」
女神さまとして思うところがあったのだろうか。
◆
依頼書の情報によると墓地は街はずれの場所。
出現するのは夜だけらしい。そのため僕たちは夕方になって現地に向かうことにした。
「レイ、そこ思いっきり線歪んでます!」
「えー」
「レベッカちゃん、そこから少しずつ線を丸くしていってね」
「はい、ベルフラウさま」
今回の主導はエミリアとベルフラウ姉さんの二人だ。
僕たちは言われた通りに、墓場を中心に地面に円陣を描いている。
今回の作戦はいたってシンプルだ。
①墓場の周りに防御結界を敷く。
②結界内からゾンビたちを逃げられないようにする。
③姉さんの<浄化>でゾンビ達を一掃する。
そのため、今は防御結界のために地面に円陣を作っている。
夕方早めに来たのはこの作業にかなり時間が掛かるのが予想できたからである。
何度も線が歪んでいるのを指摘されては修正し、暗くなってからようやく円陣が完成した。
「それでは結界を発動しますからね」
エミリアは更に自分の真下に補助結界を展開して防御結界を発動させる。
墓地の周りに光の柱が立ち昇る。
「ふー、後はゾンビが現れるのを待つだけですね」
「お疲れ様です、エミリアさま。お水をどうぞ」
レベッカが甲斐甲斐しくエミリアを労わる。
「姉さん、浄化にはどれくらい時間が掛かりそう?」
「そうねぇ‥今回は殆ど消耗してないからそんなに時間は掛からないと思うわ」
それからしばらく待つこと1時間
「出てきましたね……」
暗闇なのでかなり分かりづらいが地面から手が這い出てきている。
しばらくすると、墓地内からお墓の下から手や顔などが地面から這い出てきた。
多分20体くらいはいると思う。
「姉さん、お願い」
「うん、それじゃあ行きますね…」
皆に見守られる中、姉さんはこちらに背を向けて手を虚空にかざす。
「――――私の声が聞こえますか――――」
「――――現世に縛られた者たちよ――――」
「―――彷徨える魂よ、今、輪廻の輪へ――――」
次の瞬間、墓地周辺が激しく光り輝いた…。
気が付けば光は止み、先ほど這い出ていた亡者は全て消えて灰になっていた。
「………これで死者の魂は無事に天へ導かれました」
「お疲れ様、姉さん」
「……」
「……姉さん?」
終わったのを確認してから僕は姉さんに声を掛ける。
しかし、姉さんは争い事には積極的では無かったが、今回は思うところがあったのだろうか。
既に浄化が終わったのに、姉さんは今でも祈り続けている。
「レイ、ベルフラウさんの気が済むまで見守っていましょう」
エミリアにそう言われ、僕たちは見守る。
そして、僕たちも姉さんに倣って祈りを捧げる。
「(どうか、無事に生まれ変わることができますよう…)」
それから僕たちは帰路に就いた。
◆
冒険者ギルドで依頼を終えたことを報告し、ギルドの食堂で食事を済ませた後のこと。
僕は今日もエミリアと魔法の練習をしていた。
昨日の剣を振りながらの魔法使用はそれなりに手ごたえがあった。
これを習得することが出来れば今よりも戦いの幅も広がるだろう。
僕は魔力を込めながら剣を横に薙ぐ。
「いっけえぇ!!
同時に魔法が発動し、風の刃は剣から離れて十数メートル先まで飛んで行った。
「やった、成功だ!」
他の初級攻撃魔法は近距離にまでしか届かないが、この魔法だけは遠くまで届くようだ。
「お見事です、貴方のいう魔法剣がようやく実用的になってきましたね」
「エミリアが何度もアドバイスしてくれたおかげだよ」
少しずつ成功率も上がってきている。この調子でやれば実戦でも使えるかもしれない。
―――ふと、周りに気配を感じた。
「………?」
今、誰かが居たような気がする。
「レイ、どうかしましたか?」
「誰かは分からないけど、何かが動いたような気配が……」
ここは街はずれだ。この時間帯でこの辺りに人が来ることはまずない。
「モンスターかもしれませんね。少し確認しましょう
エミリアの索敵魔法が発動する。
「索敵完了……確かに、こちらから遠ざかる気配が1体、追いますか?」
僕はエミリアに頷き、二人で走り出した。
そこから50mほど走って街から更に少し離れた場所に誰かが居た。
「そこの人、止まってください」
エミリアはステッキを構えて静止を呼びかける。
「こんな場所で何をやっているのですか?」
「………」
エミリアが強い口調で呼び掛けるのだが、反応が無い。
相手は黒いローブに黒頭巾を被っており顔を見ることも出来ない。
「……何で答えないんだ?」
少し強い口調で僕は呼び掛ける。
声を掛けてから念のため剣の柄に手を添えながらゆっくり近づく。
身長は150cmくらいで痩せ形だ。黒頭巾の耳の辺りが若干横に広がっている。
「………ははっ」っとそいつは笑った。声は男のものだった。
そして奴は左手を上げて――――
「何を――」「レイ!避けて!」
エミリアの声で僕は咄嗟に後ろにステップをして距離を取る。
すると――ー
「な、ゴブリン!?」
さっきまで誰も居なかった筈なのに、男の周りには二体のゴブリンが控えていた。
同時に、男の後ろの空間が不自然に歪んでいる。
「まさか、こいつが――」
『行け』
僕の思考を止めるかのように男がゴブリンに指示をする。
二体のゴブリンは奇声上げながら短剣をもって襲ってくる。
だが大丈夫、既に魔力は込められている。僕は鞘から剣を抜き魔法を発動する。
「
正面から来たゴブリンを剣で斬り倒し、その奥に居た男のローブの一部を風の刃で切り裂く。
「
もう一体のゴブリンは後方からのエミリアの魔法で倒した。
「レイ、おそらくこいつが集落を襲った召喚士です!」
「うん…!」
僕は油断なく剣を構えるが……。
さきほど切り裂いたローブで男の姿が露わになる。
「……ゴブリン?」
男は体こそ大きいがその顔はさきほど倒したゴブリンとそっくりだった。
『気を抜いている街の連中も襲ってやろうかと思っていたんだがなぁ』
くっくっく、と笑いながら不気味に笑うそいつはまさにゴブリンだった。
「同じように、だと?ここを集落みたいに襲う気か!」
ここをあの時みたいに襲わせるものか、僕は気合いを入れて奴を斬りつけるが、躱されてしまう。
『は、雑魚が』
そう言いながら奴はローブに手を掛ける。
「レイ、気を付けて!」とエミリアに言われて僕は半歩下がり警戒する。
「面倒だな、これでも食らっておけ」
ゴブリンの顔をした召喚士は、懐のビンを取り出しこちらに投げてきた。
僕は咄嗟に剣先でガードするのだが、それで中身が割れてしまい。
――――中身が光り輝いて爆発した。
「レイ!」
「だ、大丈夫!無事だよ!」
咄嗟に背を向けて近くに伏せたおかげだろうか。
閃光弾のようなものでもしかしたら目くらましの爆弾だったのかもしれない。
多少ビンの破片が刺さったが、鎧のお蔭で大した怪我をせずに済んだ。
爆発の範囲は広くなかったため助かったが、気付いた時には召喚士は何処にもいなかった。
「もう一度調べます!
しかし、索敵でも引っかからずに敵は既に遠くに離れてしまったようだ。
僕たちは仲間に知らせるために宿に戻ることにした。
<技能 魔法剣を獲得>
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